モモンガさんはナザリックでスローライフをおくるようです 作:名無しちゃん
今日も朝早くから日課の肥料運びをする。アンデッドの身体には睡眠は不要だが、だからこそ日々の過ごし方を細かく決めている。
だからこうして朝の日の出と共にナザリックから魔獣の糞等を入れた桶を肩に担いでトブの大森林に運ぶ。
糞は熟成させる為の肥溜めに入れ、代わりに桶に出来上がった肥料を入れる。
ドロイドであるマーレに頼めば魔法で一瞬にして終わってしまうだろう。だからこそ時間と手間暇をかける事にこだわりたいのだ。
それにどうやら俺はこうして泥まみれになって働くのが好きらしい。
「……お……お疲れ様で……す……」
猫娘隊が遠巻きに挨拶してくる。俺はニコニコしながら片手を振って応えると、彼女達はホッとしたようだった。
彼女達にはトブの大森林を見回って人間がいたら保護して事情を聞き、必要なら敷地の外に連れていくように命じている。
本当はアルチェルのように王国に帰したかったのだが、本人達が是非ともシャルティア様の下で働かせて欲しい、と聞き入れなかった。
まあ、そのお陰でトブの大森林の周辺国家の様子について詳しい情報が得られたのだけどね。
「ザワザワザワザワ……」
俺が水と肥料をそれぞれ満たした桶を天秤棒で担いでくるのを察知してたちしょんの木が嬉しそうに葉音をたてる。
ちなみに水は俺の手作りの井戸から汲み上げたものだ。こういう時に魔法は便利だね。
「……よしよし」
魔樹とはいえ、なついてくるのは可愛い。
満足するまで水と肥料を根本にまいてやる。
「これはご主人様でごさらんか?」
巨大なハムスターソックリの魔獣が姿を現した。彼女は魔獣ながら会話が出来る為、結構重宝している。皮を剥ごうとしていたアウラを止めて良かった。ちなみに名前は『トットコ』にした。
最初『トットコ』にするか『ハム●郎』にするか悩んだが、『ハム太●』にしなくて良かった。メスだったというのもあるが『●ム太郎』は版権的にいろいろ不味い。
「……ご主人様にそれがし、お願いがあってござるのだが……」
トットコは大きな身体を小さくさせながらモジモジする。
「……それがし伴侶が欲しいのでござるが……」
うん。でかくともハムスターだ。
「……つまりオスのハムスターを捕まえてくれば良いんだな。わかった。……しかし……」
俺は少し逡巡する。たしかハムスターってねずみ算的に増えるんじゃなかったっけ? 大丈夫かな?
スキップしながら帰っていくトットコを眺めながらボンヤリ考える。……まあ、大丈夫だろう。
「……さて、次は……」
アンデッドのシモベ達が沸かしてくれたドラム缶風呂に入る。ドラム缶は鉄板を曲げて自作した。
服を脱いで白骨体の身体を晒す。このなんとも言えない開放感と自然と一体になった心地よさ、それにちょっぴりの背徳感……まさに最高だ。
性器が残っていたら躊躇しただろうが、今の俺にはそんなものは無いのだ。うん。別に強がっているわけではない。決してな。
不意に空間が大きく割れる。すぐに何事も無かったようになったが……たぶん何か魔法が発動したみたいだな。よくわからないが、まあ、少々の事には気にしないでいこう。そもそも俺はいまだに何も思い出せない記憶喪失なんだからな。
気にせずにドラム缶風呂から顔だけ出してノンビリとしているとナザリックの方からアルベドとシャルティアが慌てて駆けつけてきた。
「モモンガ様! 何者かが監視しようと試みたようですが?」
「……これは……モモンガさまぁ! わらわも一緒に……」
「……シャルティア。狭いから二人は無理だよ。……で、アルベドさん、監視って?」
ノンビリした口調で尋ねると、なぜかアルベドではなくシャルティアが答えた。
「至高の御方の玉のような美しい身体を何者かが盗み見したのでありんす。よりにもよってモモンガ様の入浴を覗くなど言語道断でありんす」
「……ふーん。じゃあ、さっきのなんか割れるようなのがそうだったんだ」
「おそらく監視阻害の結界をモモンガ様はお使いだったのと思われます」
よくわからないがまあいいや。俺はドラム缶風呂で心地よくなってどうでも良くなっていた。些細な事は気にならないのだよ、今の俺は。
「……おそれながらモモンガ様。入浴ならばナザリックにもリゾートスパがございます。かような場所で入浴せずとも……」
アルベドが苦言をのべる。ちなみに顔を両手でおおいながら身をくねらせてチラチラ俺を見るシャルティアとは異なりアルベドはいつもと変わらない様子だ。
「………リゾートスパもいいんだけどね……」
俺は小さな声で呟いた。
「……俺、これ位のほうが落ち着くんだ……」
──貧乏性なんかじゃないぞ? リゾートスパの豪華さに身が縮こまる気分になるんじゃないからな? 本当だからね。
◆
スレイン法国ではトブの大森林を監視していた巫女姫の部屋が突然爆発するという事態が起きた。
かろうじて一命をとりとめた彼女の言葉は実に不可解なものだった。
「………大鍋でガイコツ茹でる……」