ロウきゅーぶ 下級生あふたー!   作:赤眼兎

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夏陽の地の文、原作と少しテイスト違うかもです。
中学生になってちょっと大人になったってことで許してください………


第1章 お人形じゃないデスよ?
■第一話 すばらしき腐れ縁


 俺———竹中夏陽が中学生になって一か月近くが経過した。

 

 俺の通う私立慧心学園は初等部から大学までのエスカレーター式の学校であるため、進学といっても正直今まで初等部で散々やってきた進級と何が違うんだ? という感じだったのだが、実際に中学に上がってみると思いのほか環境の変化が大きかったように思う。

 

 まず新しいクラス。なんと、クラスメイトの殆どが俺の知らない奴ばかりなのだ。俺の所属しているバスケ部の部員を初め、去年クラスでそれなりに仲良くしていた奴らは皆別クラスへ行ってしまった。

 

 さっき説明した通り、慧心学園はエスカレーター式の学校だ。初等部にいた連中は八割以上中等部へと進学することとなる。そのため、まあクラスに最低2、3人くらいは顔見知りがいるだろう、と高をくくっていたのだが……。

 

「よりによって編入生中心クラスになっちまうなんて………」

 

 そう、俺の入れられた一年G組は中学から編入してきた奴らばかりのクラスだったのだ。

慧心学園は県内じゃそれなりに人気のある進学校だ。特に制服がかわいいだとかで女子人気が高いらしい。そのため中学受験を経て入学してくる生徒は多く、その数は生徒全体の三割以上にものぼる。

 

 当然、きちんと勉強に力を入れ、中学受験を経て入学した編入組と、何もしなくてもそのまま中等部へ進学できるエスカレーター組の生徒の間には学力にかなりの差が生まれる。その学力差を面白く思わないエスカレーター組の生徒の数は例年多く、配慮としてエスカレーター組と編入組は通常、別々のクラスに入れられる。

 

 ただ、これは後からバスケ部の先輩に聞いた話なのだが、流石にエスカレーター組と編入組の生徒を完全に別々のクラスにしてしまうのも、両者の対立が深まるばかりでよろしくない、という意見が何年か前の職員会議で出たらしい。そのため、エスカレーター組の中で社交的と判断された生徒を何人か編入生中心クラスに入れる、ということをここ数年行っている。結果的に編入組とエスカレーター組の関係はある程度改善されたらしく、数年前と比べると学校全体に対立ムードはないようだ。

 

 まあ成果自体はあったわけで、有効な策と言われれば否定はできないのだが、いきなり知らない奴らばかりの所に投げ込まれる身としてはたまったものではない。

 

 バスケ部のキャプテンということで一目置かれていたこともあったためか、自分で言うのもなんだが去年はクラスの中心人物と言われればまあ否定できないポジションにいたことは事実だ。

 

 だが正直、俺はそこまで社交的な性格ではない。

 

 去年もクラスでは顔見知りだったやつら以外とは会話しなかったし、それ以前も幼馴染の二人とばかりつるんでいたため、自分から初対面の人間に話しかけるということは正直な話、得意ではなかった。自分と同じくバスケをやっている奴であれば気楽に話しかけられるのだが、そうでない奴に対しては何を話したらいいかわからない。

 

 ………まあ、俺がこれまで殆どバスケしかやってこなかったことも原因なのだろうが。

 

 その結果として、情けないことに俺は新しいクラスで新しい友人を未だ一人として作れていなかった。まあ平日なんかは殆ど部活だし、友達を作ったとしても放課後に遊ぶ時間などないのだが。

 ただクラスで話し相手に現状困っているか、と聞かれれば実際のところそういうことはなく————。

 

「おーいナツヒ、さっきの試合の動画の続き、早く見よーぜ!」

「ちょっと真帆。あんたさっきの授業、居眠りしてノート取ってなかったでしょ。バスケの動画なんて見て大丈夫なの?」

 

 不意に、隣の席から大声で呼びかけられ、顔をそちらに向ける。

 見ると、栗色の髪の女子と眼鏡の女子がこちらを眺めていた。

 

 ———三沢真帆と永塚紗季。

 

 この二人は、俺が小学校五年生の頃ぐらいまでつるんでいた幼馴染だ。

 何の因果か、この二人とは小学校一年の時から数えて七年連続で同じクラスだった。

どんな確率だよ………と最初は呆れもしたが、今年に限っては正直ありがたかった。

 

 周囲が知らない編入生ばかりで埋め尽くされているこのクラスの中で、この二人だけが唯一俺と同じく初等部からのエスカレーター組だった。席が、真帆が俺の左隣、紗季が俺の前と近いこともあり、クラスにいる時間はこの二人とつるんでいることが多い。

 

 三人ともバスケ部に所属しているということもあってか、昼休みはもっぱら三人でバスケの試合の動画をケータイで見たり、体育館に行って動画で学んだテクニックを実際に試してみたりしている。真帆だけやたら覚えが早いのはムカついたが、正直いい刺激になっていることは確かだった。

 

 ちなみに、女バスの他の連中とは過ごさないのか? と思って一度試しに紗季に聞いてみたのだが、「トモ達はトモ達で新しいクラスでの付き合いがあるから」とすまし顔でやたらと大人びたことを言われた。ケンカでもしたのか、とも思ったが、放課後は常に一緒に遊んだり部活したりしているようだった。女子のユージョ―はよくわからん。

 

 真帆と二人で紗季に勉強を教えてもらうことも多かった。

 

 元々算数は苦手だったのだが、中学に入って数学へと進化を遂げてからは全くついていけなくなっていた。出された宿題が全く分からず真帆と二人で困っていると、大体紗季が「しょうがないわねー」と言ってやたらと機嫌がよさそうな顔で、頼んでもいないのに俺たち二人に向けて講義を始める。後に部活が控えていてもお構いなしに続行するため、正直勘弁してほしい、と思うこともあったが、授業よりわかりやすく教えてくれるのでかなり助かっている部分もあった。

 

 もう一つ、英語も苦手だった。日本語と文章の組み立て方が違う、というのがどうも理解できない。

 腹立たしいことになんと、真帆は英語が得意だった。理由を聞くと、父親にくっついてよく海外に行っていたからそれなりに話せるらしい。

 ついこの前、英語の小テストでボロ負けした時なんか、「あれーナツヒくん? キミキミ、もっとちゃんとベンキョーした方がいいんじゃないのかね? にししっ」とか言われておもっくそ煽られた。クソムカつく。

 

 まあそんなこんなで、環境の変化に戸惑ったり、メンドくせーと思うことはありつつも、二人の幼馴染のおかげで、なんとかクラスで一人寂しく過ごさずすんでいた。

 

「ちぇーサキ、カタいこと言うなってー。五時間目って、一番眠くなる時間帯なんだからしょうがないじゃんかー」

 

「言っておきますけど、後で頼まれても私は絶対写させてあげませんからね」

 

「いいもーん、そん時はナツヒに写さして貰うから」

 

 そう言って真帆は気楽そうにヘラヘラと笑った。別に俺もタダでは見せる気ないからな。

 その真帆の様子を見て、紗季は呆れたようにため息をついた。

 

 ………………………。まあ、なんというか、

 

「お前らは変わんねえなあ」

 

 進学してからあった環境の変化についてぼんやり考えていたせいだろうか。低学年のころからちっとも変わらないこいつらのやり取りを見て俺は思わず感心半分、呆れ半分な感想を口に出した。

 それを聞いて紗季は怪訝な顔をして、

 

「突然何よ、夏陽」

 

「いやなんつーかさ、中等部上がって色々俺らの周りでも変化あったわけじゃん? そんな中でも、変わらねえものもあるんだなーと、ふと思ってな」

 

 何も考えずそう言ってから、しまった、と後悔した。真帆と紗季の二人の口の端がにやーーっと吊り上がり、空気感が一気にからかいモードへとシフトしたからだ。今まで同じことを何百回と繰り返してきたからわかる。クソっ、いつまでたっても学習しねえのは俺もじゃねーか!

 

 真帆はふざけた調子で右手を挙げて、

 

「センセー、なんかナツヒ君がセンチメンタルなこと言ってまーす。どう反応してあげたらいいですか?」

 

「そっとしておいてあげなさい真帆。男子にはちょっと詩的なことを言いたくなってしまう時期があるの。所謂中二病ってやつよ」

 

「アハハ、ナツヒのやつ、中一のクセに中二病っておっかしいでやんのー」

 

 そう言って真帆は机をバンバン叩いてゲラゲラと笑った。マジで覚えてろよこいつ。絶対ノート写さしてやんねーからな。

 

「まあ夏陽が私たちとの変わらない友情に感激しているのはひとまず置いといて」

 

「おい、変なまとめ方すんなよ。ちげーからな。お前らがいつまでたっても成長しねーことに思わず呆れちまっただけだから」

 

「はいはい。ところで、夏陽に一つ聞きたかったんだけど」

 

「……? なんだよ」

 

 紗季はそう前置きすると、少し躊躇う素振りを見せてから、やや声を落として顔を近づけてきた。なんだ? 急に改まって。

 

「……ミミのことって、夏陽は聞いてる?」

 

 ミミ、というのは俺たちの一学年下の女子バスケ部員、ミミ・バルゲリーのことだ。

名前を見てわかる通り、日本人ではなく生粋のフランス人である。俺的には、いつもマイペースで妹達と一緒になってその場を引っ掻き回すトラブルメーカー、という印象の奴なのだが………。

 

「ミミがどうかしたのか?」

 

「………うーん、その様子じゃ詳しくは知らないみたいね。ゴメン、迷ったんだけど、私の口から言うのもなんか違う気がするから、やっぱり聞かなかったことにしてくれる?」

 

 そう言うと紗季はすまなそうに両手を合わせた。なんだよ、そういう言い方されると気になるじゃねーか。

 

「まあとにかく、ミミが元気なさそうにしてたら相談に乗ってあげてくれると助かるわ」

 

「俺がぁ? 言っとくけど、別に特別ミミと仲がいいわけじゃねーぞ。部活ない日に女バスの練習見に行ってやってるってだけで」

 

「それでも、お願い」

 

 そう言って、紗季は再び両手を合わせて、軽く頭を下げてお願いをしてきた。うーん、こいつがここまで言うのも珍しいな。

 

 ………まあ、腐れ縁の頼みだし、普段勉強で世話になってる身だし、別に断る理由もねーか。

 

「正直よく分かんねーけど、お前の頼みは分かったよ。でもあんま期待すんなよ。こっちから詮索するようなことはしたくねーから、様子おかしくないか注意して見とくくらいしかできねーぞ」

 

「うん、それで十分よ。ありがと、夏陽」

 

 そう言って紗季は安心したように優しく微笑んだ。

 

 う………なんつーか、元々年齢より大人びた奴だと思っていたが、そうやって笑うと大人のミリョクってやつを感じないこともない、と不覚にも思ってしまった。ガキの頃から散々見慣れている紗季の面だというのに、もしかしてこれが中学生になるってことなのだろうか……。

 

 などと幼馴染の成長をしみじみと実感していた矢先、席に戻って机の整理をしていた紗季が突然立ち上がり、真帆と怒鳴り合いのケンカを始めた。真帆の奴、おとなしいと思ったら紗季のノートを勝手に拝借して今の今までせっせと自分のノートに写していたらしい。油断も隙もない奴だ。

 

 結局、六時間目開始のチャイムが鳴るまで、俺の左隣では聞き慣れた不毛な言い争いが繰り広げられることとなった。

 

 

 ………うんやっぱこいつら微塵も成長してねーわ。

 




元五年生たちメイン、と言いつつしょっぱなは登場しないという……
次の話から登場予定です。

初執筆、初投稿なのでめちゃくちゃ緊張してます。
分量このくらいでいいのか?どのくらい改行したらいいのか?とかめちゃくちゃ手探りでやってます。

感想いただけたら筆者は泣いて喜びます。嬉しいです。

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