非常に難産でした。
切りどころが分からず、結果1万7千字近くとなりました。
余裕で過去最長です。
正直反省してます………。
椿と柊への説明を終えた後、俺は一人自室へと戻った。
ミミの両親は午後三時頃に来るとのことだった。
本当ならすぐにでも訪問したかったらしいが、お客様を招く用意をさせて欲しい、という母さんの要望でこの時間となった。
現在時刻が午前十一時半頃なので、訪問まではかなり時間に余裕がある。
そのため、俺は女バスの合同練習会の試合をチェックして時間をつぶすことにした。(データは椿経由で美星から受け取った。)
次回以降のコーチングに活かすため、長谷川や小笠原先生から教わったやり方で試合のデータ分析等も行った。教わったころはつまんなそう、と思っていたのだが実際にやってみると色々なことが分かって結構面白い。今後どういう戦術をあいつらに試させるか、そのためにはどんな練習が必要か、考えねばならないことは尽きない。
試合に出ていなかった下級生と美星に頼んで基本的な情報(例えばオフェンスが成功、失敗した時のパターンは何か、シュートは誰がどういうパス回しをして最終的にだれが決めたか等)については予め纏めてもらっていた。そのため俺の仕事は補足となる情報がないか探すことと、データから分かる今の女バスチームの弱点と強みについて考えることだ。
ちょっと前までは自分がこんなデータキャラみたいなことするなんて微塵も思わなかったけどな。県大会で負けたのと、長谷川に影響されてこういうことも考えてプレイする必要があるってことを気付かされてからは積極的に取り組むようになった。指揮官みたいでちょっとカッコよくね? とも思うし。
それに何より、才能にあふれるあいつらがバスケ選手として、チームとしてどのように育っていくか、考えるだけでワクワクした。
「対戦相手は………………九重、八千代、六花、五色中央……どこも名前聞いたことあるとこばっかだな……。でも、そんな強豪相手にあいつらがどう戦ったのか、見せてもらおうじゃねーか」
俺は期待に胸を膨らませながら、再生ボタンを押した。
結局、昼ご飯に呼ばれるまでの約二時間、俺はずっと試合の観戦とデータ分析に没頭してしまっていた。
***
「タケナカ、お昼ゴハンの支度が出来マシタ」
「ああ、分かった」
俺はテレビの画面に体を向けたまま、ミミの方を見ずに返事をした。本当は試合のキリのいい所まで見たい気分だったのだが、夢中になって下手したら忘れてしまいそうだったので無理やり意識を画面から引きはがすことにする。
そう言えば、昨日晩飯も食ってねーし、朝飯もなんやかんやあって食い逃したから腹に何も入れていなかった気がするな。自覚したら腹減ってきたぜ………。
立ち上がり、部屋の出口へと足を向ける。
そして、ミミの姿を見て、俺は思わず固まった。
「………なんだその恰好」
「ウィ。お手伝いをシタイ、と言ったらオカアサマが貸してくださいマシタ」
ミミは嬉しそうに言って、その場でくるりと一回転した。
なんと言ったらいいのか、ミミは家庭科の調理実習の時にするような恰好をしていた。
豊かな髪をポニーテールに束ね、頭に三角巾を被り、エプロンを装着。そしてなぜか右手にはフライ返し、左手にはお玉を装備していた。完全に家事モード、といった出で立ちだ。
「母さんの手伝いしてたのか?」
「ウィ、オソウジにオセンタク、オリョウリ……主婦はやることがイッパイで大変デスネ」
そう言ってミミは一仕事終えた、とでも言いたげな達成感のある表情で額の汗を拭った。
そもそも、なんで母さんじゃなくミミが呼びに来るんだ? と少し疑問に思っていたのだが、なるほどな。
俺が試合を見ている間ミミの姿が見当たらなかったので、てっきり椿と柊の部屋に居るのかと思っていたのだが、どうやら今の今まで母さんを手伝って家事をしていたらしい。
居候をさせてもらうことへの恩を少しでも返したい、というミミなりの誠意の表れなのだろう。正直母さん楽しんでそうだし、そんな気にしなくてもいいのでは、とも思ったがそれでこいつが納得するなら、まあそれでもいいか。
しかし、まあ、なんつーか………。
ミミの姿をしげしげと眺める。
ついこの間の合宿で、同じバスケ部の同学年の和久井(最近好みの女子トークがめちゃうるさい)が言っていた「タケ! 女子のエプロン姿ってなんかよくね? 家庭的って感じでグッとくるよなー」というセリフがふと脳裏に浮かんだ。
「? なんデスカ」
「……な、なんでもねえよ……」
ジロジロ見られたことを訝しく思ったのか、ミミが怪訝な表情でこちらを見てきた。
………クソ、和久井の奴に言われた時は「何訳の分かんねーこと言ってんだお前」という感じで一蹴してやったのだが、いざ目の前にするとちょっと分かる、と思ってしまった。初等部の頃の調理実習でクラスの女子(ひなた以外)のエプロン姿を見ても特になんとも思わなかったっつーのに……。
ミミはしばらくよく分からない、といった様子で首をかしげていたが、ふと何かに気付いたような表情を浮かべた。
「モシカシテ、この格好、カワイイと思ってくれマシタ?」
「うっ……お、思ってねーし」
俺はそう言って顔を逸らした。
くそ、直視できねえ、なんだこれ。
なんか女子の恰好がどうとか、そーいうの気にするのって変態っぽくね? スポーツマンとしてあるまじき、な感じがしてしまう。まさか俺ともあろうものが、和久井や長谷川に影響されて徐々に変態化してきちまってんのか……? すげえ屈辱的だ……。
「そうデスカ……残念デス」
ミミは期待を裏切られた、とでも言いたげな表情でシュン、として肩を落とした。
う、なんかすげー罪悪感……。
俺は慌ててミミをフォローした。
「ま、まあでも、似合ってるんじゃねーの? ポニーテールとかお前普段しないからなんか新鮮な感じしたし。エプロン姿がグッとくる男子もいるらしいからウケると思うぞ! お、俺は微塵も気持ち分かんねーけどな!」
あくまで、俺は違うぞ、というスタンスを取りつつ、格好については褒める。
ミミの様子をチラ、とみると、ふむ、と少し考え込むような素振りを見せていた。
ミミは口を開き、言葉を発した。
「タケナカ、なんか必死。ウソついている気がシマス」
「ぐっ……」
「やっぱり、カワイイと思ってくれてマスよね?」
「思ってねーから!」
「………………コレカラ、家事するときはなるべくこのカッコでしまショウカ?」
「だからちげーって言ってんだろ!!」
結局、昼飯食っている間もそんな感じでずっとしつこく聞かれ続けた。
母さんは生暖かい目で見てくるし、椿と柊はそれ見て機嫌悪くなるし、マジ勘弁してくれ………。
***
「ミミ! ミミっ! 心配しましたデスよ~!」
午後三時丁度、ミミの両親が到着した。
慧心対硯谷の試合を観戦している時、ミミの応援に来ている姿を見かけたことはあったが、直接対面するのはこれが初めてになる。ただ、やたらハイテンションで応援している姿がとても印象的だったため、容貌についてはしっかりと記憶に残っていた。
ミミの親父さんは銀色の髪をセンター分けにした、長身で細身の優男風のフランス人男性だ。顔立ちはミミに似ているもののコロコロと表情豊かな点は娘とは対照的な印象を受ける。
その後ろを静かについてきている金髪碧眼の長い髪の女の人はミミのおふくろさんだ。顔立ちはミミとはあまり似ていない感じがするものの、ポーカーフェイス気味なところと、オーラ? みたいなのがミミに似ている感じがした。多分ミミに似てマイペースな気がする。直接話したことねーから完全にイメージでしかねーけど。
ミミの親父さんは玄関で簡単に母さんと挨拶を交わした後、俺の後ろからついてきたミミの姿を見るなり、表情をパッと明るくし、駆け寄って抱き着こうとした。
しかしミミがひらりと身を翻し、俺の後ろに即座に隠れたため抱擁は空振りに終わった。愛娘からハグを拒否され、ミミの親父さんはガーン、ととてつもなくショックを受けたような表情を浮かべた。
ミミはつーん、とそっぽを向いてしまっている。どうやら、まだご立腹のようだ。
それを見て母さんは気まずそうに笑い、遠慮がちに言葉を発した。
「え、ええと、立ち話もなんですし、中でゆっくりお話ししましょうか。色々積もるお話もあるかと思いますし………」
「ウウ………お心遣い、感謝しマス……」
そう言ってミミの親父さんは落ち込んだようにガックリと肩を落としたまま、トボトボと家の中へと入っていった。
「では、お邪魔させていただきマス」
その後を、終始無表情でミミのおふくろさんが静かに付いて行った。………なんつーか、静と動というか対照的な夫婦だな……。
ミミの両親を招き入れたのはうちのダイニングルーム——まあ端的に言うと俺たち家族がいつも食事をするスペースだ。家族五人が揃って食事できるよう、六人掛けのものを購入したためテーブルは結構でかい。
いつもは地味なテーブルクロスがかけられているのだが、今日は来客用の豪華なテーブルクロスを身にまとい、テーブルの中央には見慣れない花が飾られており、完全におもてなし仕様となっている。……つーかこの花はわざわざ買ってきたのか?
しかも今ミミの両親に出された紅茶はいざという時のためにとっておいた高級品の茶葉を使ったものだ。母さん、本気モードだな………。
席順としてはテーブルの玄関側の列には俺、ミミ、母さんが座り、奥側にはミミの両親が腰かけるような構図となっている。椿と柊はダイニングルームのすぐ隣にあるリビングのソファーに座り、背もたれからひょっこり頭だけ出してこちらの様子をうかがっていた。………まあ、あいつら意外と初対面の大人に対しては人見知りするところあるしな。
ミミの両親に紅茶を出し終わった母さんが席に着き、会話が始まる。
最初に口火を切ったのはミミの親父さんだった。
「ミ、ミミ、こちらのお宅にホームステイをさせていただく、という話は本当なのデスカ……? 私たちと一緒にフランスに帰る気はナイと……?」
「ウィ、本当デス。ワタシ、フランスに帰る気はありまセン」
慌てた様子でそう尋ねた親父さんに対して、ミミはツーン、とそっぽを向いたまま親父さんに返事をした。
それを見て親父さんは頭を抱え、ガックリと肩を落とした。
ミミのおふくろさんはため息をつくと、
「アナタ、それを聞く前にまず言わねばならないコトがあるハズデス」
そう、冷静に言い放って姿勢を正し、俺と母さんの方に向き直る。
「竹中サマ、この度は、娘がご迷惑をおかけして申し訳ございませんデシタ。しかも一宿一飯のオンギにまで預かるなんて、本来であればハラキリにてお詫びせねばならないところデス」
そう言ってミミのおふくろさんは母さんと、俺と、椿と柊にも順番に座ったまま深々とお辞儀をした。いや、礼儀正しいけど、一宿一飯のオンギ? ハラキリ? なんか、現代日本じゃ聞き慣れないワードがちらほら聞こえた気がしたんだが………。
「い、いえ、ご迷惑だなんてとんでもないです。ミミちゃん、家事まで手伝ってくれて大助かりだったんですよ? うちの息子と娘なんていつもちっとも手伝ってくれないのに………ホント、爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいですわー」
そう言って母さんはおほほ、と笑った後、一瞬俺と椿と柊をギロリと一瞥した。俺の背筋にゾクリ、と冷たいものが走る。これまでこの身に受けてきたお仕置きの数々が脳裏にフラッシュバックする。背もたれから頭だけ出ている椿と柊も同じことを思ったのか、ブルブルと震えているのが目の端に映った。くそ、まさかこのタイミングで俺らに飛び火するとは……。
ミミのおふくろさんは母さんに向けて軽く会釈し、
「娘が少しでもお役に立っていたのならば光栄のイタリ。モッタイナイお言葉、デス。………………トコロデ、爪の垢を煎じて飲ませる、というのは一体どういう儀式なのデショウカ。ニホンの伝統行事デショウカ。アンマリ美味しくなさそうデスガ」
そう言って無表情ながらも興味津々、といった感じで瞳を輝かせた。
ミミのおふくろさんの頓珍漢な質問に対し、母さんは一瞬困惑したような表情を浮かべるも気遣わし気に返答を返す。
「え、ええと、息子や娘たちにミミちゃんのことを見習わせてやりたい、という意味の日本の慣用句です。……すみません、耳慣れない言葉でしたよね」
母さんの言葉を受けて、ミミのおふくろさんは納得した様子で何度も頷いた。
「イエ、ニホンのコトワザ、また一つ知れて嬉しいデス。こちらこそフベンキョウで申し訳ないデス。後でワタシも竹中サマの爪の垢でも煎じて飲んでおきマス」
「え、ええと……」
「す、すみまセン、ツマは時代劇を見て日本語を学んだクチでして……。その上世間知らずなところがあって、少々語彙がその、なんというか、変な方向にねじ曲がってしまっているのデス……。お恥ずかしい限りデス……聞き流してやってくれると助かりマス……」
そう言ってミミの親父さんは申し訳なさそうに頭を下げた。
ま、間違いねえ……ミミの時々飛び出す残念な言動の原因はこの人だ……。なんか謎が一つ解けた気分だぜ……。
俺がミミとミミのおふくろさんの顔を愕然とした表情で交互に眺めていると、二人とも「???」みたいな表情を俺に向けてきた。………というか、このマイペース二人に常に挟まれている親父さんはなかなか大変なんじゃねーか?。改めてみると、なんか若干苦労人みたいなオーラがにじみ出ている気がするし。
「と、トニカク、お礼が遅れて申し訳ないデス。これ、つまらないものデスガ、皆さんで食べてクダサイ」
「あら、これはどうもご丁寧に……」
ミミの親父さんが慌てて出してきたのは、デパートによく売っている高そうなクッキーの詰め合わせだった。それを見て椿と柊は二人そろって期待に目をキラキラと輝かせた。
「え、ええと、では話を戻しましょうか。ミミちゃんのホームステイについては、本人とご両親が納得されているなら、竹中家としては異論無いですし、私個人としてはそうさせてあげたいと思っています………ね、夏陽?」
「え、俺!?」
ここで俺に振んのかよ!
母さんは頑張れ! とでも言いたげな表情を浮かべ、両手でこぶしを作りガッツポーズをした。な、何を頑張れってんだ………………。
母さんが俺に振ったことでバルゲリー夫妻も俺の方に視線を向ける。気が付けばミミも、椿も柊も俺を注視していた。なんだこれ……な、なんつーか、初対面の大人に注目されるってすげー緊張すんな……。
目を白黒させる俺に対し、ミミの親父さんは遠慮がちに俺に対し質問を飛ばしてきた。
「そう言えば、先ほどから気になって居たのデスが、そちらの少年はミミとどういったご関係で……? 椿サン、柊サンはオトモダチだという話はうかがっているのデスが……」
………………………さて、なんと答えるべきか。
ミミとの事前の打ち合わせでは、ボーイフレンドとして紹介される手はずになっていた。
しかし、もしここで俺が、ミミのボーイフレンドです、とでも答えようものならかなり面倒くさいことになる気がする。親父さん、ミミのことを溺愛しているみたいだし、最悪俺に向かってキレ散らかしてきてもおかしくはない。そうなったらホームステイどころの騒ぎじゃねー気がするんだよな……。
俺はチラリ、と母さんの方を盗み見る。
「……!」
母さんは先ほどと変わらず、俺に期待の視線を向けていた。………何を期待しているかは言うまでもない。でも、まあ、母さんは後でなんとでも説得できそうじゃね? と思う。親の前で言うのは恥ずかしかった、とか。親父さんに恨まれたくなかった、とかいくらでも理由はあるしな。………というか、普通に両親の前で俺は娘さんの彼氏です、とか宣言するの恥ずかしいわ! ぶっちゃけそれが一番大きな理由だった。
………よし、母さんからは多少反感買うだろうが、その路線で行くか……。
「え、えーっと、俺はミミの単なる学校の先ぱ——」
「ウィ、彼はワタシのボーイフレンドです。………………デスよね、タケナカ?」
意を決して言葉を発した俺。
しかしその言葉を遮るかのようにミミが横から口を挟んだ。
お、おい……。
俺はミミに抗議の視線を向ける。
対するミミは半目でジトーっとした目を俺に向けてきた。その眼光は鋭かった。1on1でエグイ攻め方をしてくる時の瞳の色に酷似している。「お前あんだけ打合せしたのに今更逃げるとかいい度胸だな?」と言っているように見えた。怖っ!
ミミを挟んで一つとなりに座る母さんも、ハア……と失望のため息を漏らして顔に手を当ててかぶりを振った。く、クソ……これじゃあ余計に二人の不興を買っただけじゃねえか……。
ミミの言葉を聞いて、愕然とした様子で声を震わせるミミの親父さん。
「ミ、ミミにボーイフレンド………………う、ウソデスよね……そ、そんなバカな……」
ごめんなさい、嘘です、と言える空気ではない。………なんというか、予想通りの反応過ぎて泣きたくなるぜ、ちきしょう。
「ノン、ウソじゃないデス……ね、タケナカ?」
「あ、あはははは………そ、そうだな……」
そう言って俺の腕をとったミミに対し、俺はやけくそ気味に同意を返した。も、もう……どうにでもなれってんだ………………………。
「み、ミミ………ミミにボーイフレンドはまだ早いと思いマス。いい子ダカラ、パパと一緒にフランスに帰りマショウ……なんでも好きなもの買ってアゲマスから……」
「ノン、ワタシにとって、ニホンで知り合ったヒトタチと一緒に居るコト以上に欲しいものなんて無いデス。それを引きはがそうとするパパなんてキライデス」
ミミに手を伸ばし、訴えかけた親父さんに対し、ミミはキッとした視線を向け、明確に拒絶の意思を示す。ミミから敵意を向けられた親父さんは傷ついたような表情を浮かべ、後ずさった。目には涙を浮かべているように見えた。
………な、なんつーか、流石に気の毒かも知んねーな……。
部外者が介入するのは良くない、と思い遠慮していたのだが、俺は割って入ることに決めた。
「な、なあ、ミミ。そんなにきつく言ってやらなくてもいいんじゃねーか? 親父さんだって帰りたくて帰るわけじゃねーんだろ? 元々日本に来たがってたって前言ってたじゃねーか。仕事の都合で仕方なくなんだろ?」
「ノン、ママと話してるの聞いちゃいマシタ。パパはフランスでのオシゴトを断ることもデキタ。でも自分から引き受けたと。ワタシ、ニホンに居たかった。ナノニパパはワタシに一言も相談してくれナカッタ。パパなんてキライデス」
そう言ってミミは三度つーん、とした表情でそっぽを向いた。
ミミの証言を受けて、親父さんはバツが悪そうに頭を掻いて、肩を落とした。
「ウウ、仕方がなかったのデス……。フランスでワタシの恩師にあたる教授が倒れ、大学の授業をするにあたってその代役が必要だと言われマシタ。恩返しができるいい機会だと思い、自分から立候補してしまいマシタ。昔からやってみたいと思っていた授業だったのもありマス……ミミのことを考えてやれなかったのは、本当に申し訳なかったと思っていマス………」
親父さんはそんな風に、ぽつり、ぽつりと語り出した。
………………まあ、そう言うことなら仕方ねーんじゃねーかな。俺だって、俺にバスケを教えてくれた誰かがピンチになったら自分が真っ先に助けに行きてーと思うし、それときっと同じことだ。
俺はミミをチラリ、と見る。ミミは複雑そうな表情を浮かべていた。親父さんの言っていることが微塵も理解できない、という表情ではないように見えた。二つの感情がせめぎあっているような、そんな表情に見える。
ミミは躊躇いがちに口を開く。
「………………パパが、大切なししょーのためにオシゴトを引き受けたのは分かりマシタ。デモ、パパにも、大切なししょーが居るように、ワタシにも、ニホンで出来た大切な人たちが居るのデス。なのに、何の相談もなくハナレバナレにしようとしマシタ。………………ワタシには、それがどうしても許せマセン」
そう言って、ミミは顔を俯かせた。
ミミの親父さんも、返す言葉もないのか、押し黙ったまま何も言わない。
………………さすがに、割って入れる空気じゃなかった。母さんもどうしたらよいかわからずオロオロしてるし。
しばらく、重苦しい沈黙が流れる。
——沈黙を破ったのは、意外にも、今までずっと黙って二人のやり取りを見守っていたミミのおふくろさんだった。
「………とりあえず、お互いに言いたいことは言い合えたと思いマス」
ミミのおふくろさんは、手のひらををパン、と叩いて冷静にそう言った。
「後は、当人たちの心の問題かと思いマス。………さて、竹中サマ」
そう言って、ミミのおふくろさんは母さんに向き直った。
突然呼ばれた母さんは慌てた様子で「は、はいっ、なんでしょう」と返事をした。
ミミのおふくろさんは言葉を続ける。
「ホームステイのお話、ありがとうございマス。娘がご迷惑をお掛けするかもしれまセンが、その提案、ありがたく受けさせていただきたいと思いマス」
おふくろさんの言葉を聞いて、ミミは驚いたように目を見開いた。
ミミのおふくろさんは、そんなミミの方を見て頷く。
「ワタシも、ミミにきちんと相談できなかったことについて負い目がありマス。ミミと離れ離れになるのは悲しいデスが、ミミのトモダチやコイビトを思う気持ちは十分伝わりマシタ。………………いつの間にか、こんなに立派に成長していたのデスネ」
そう言ってミミのおふくろさんは穏やかに微笑んだ。ポーカーフェイスが崩れ、笑った時の雰囲気がミミにとてもよく似ていた。
「カワイイ子には旅をさせよ、というニホンのコトワザの通り、ニホンに居ることで娘はさらに立派に成長すると思いマス。………アナタも、それで良いデスね?」
そう言って、ミミのおふくろさんは隣に座る親父さんの肩にポン、と手を置いた。親父さんは、「ウィ、分かりマシタ………」と蚊の鳴くような声で言った。訪問時の元気は何処へやら、今は見ていて痛々しいほど元気がない。
「あ、この人のコトは心配しなくて大丈夫デスよ、テキトウに慰めておきますノデ。………………アト、大変ブシツケとは思うのデスが、もう一つダケ、お願いさせてもらってもよろしいデショウカ」
「な、なんでしょうか」
申し訳なさそうに言うミミのおふくろさんに対し、畏まったような調子で母さんは返した。
「恐らく、二人がそれぞれナットクするには時間が必要だと思うのデス。お互いが側にいたままでは、変に意識してしまって冷静に考えることが出来まセン。そこで、なのデスガ——」
ミミのおふくろさんは一旦区切って、
「ワタシたちがフランスに帰るまでのシバラクの間、ミミを竹中サマのお宅に居させてあげてはくれまセンカ? 二人がお互いに向き合えるマデ、デスガ」
そう、母さんの顔を真っ直ぐ見て言った。
「は、はあ……うちとしては構いませんけど……。でも、本当にいいんですか?」
母さんがためらうのも無理はない。
ミミの両親にとって、帰国までの時間はミミと一緒に暮らせる最後の時間のはずだ。帰国までの時間うちにミミを置く、となるとその最後の時間すら手放してしまうことになるのではないか。
そんな風に俺と母さんの心配のまなざしを受けてなお、ミミのおふくろさんは力強く頷いた。
「お心遣いありがとうございマス。………………デスガ、このまま最後まで一緒に居てもわだかまりが残ったまま別れることになると思うのデス。それだけは、絶対に嫌ナノデ」
そう、力強い口調でキッパリと言い放った。
俺と母さんは、その眼差しを受けて、首肯するよりほかなかった。
ミミのおふくろさんは俺たちに頷き返し、立ち上がると親父さんの肩にポンと手を置いた。
「サア、帰りマスよ、アナタ。アマリ長居してしまうと竹中サマのゴメイワクになりマス」
「………………ウィ、分かりマシタ。竹中サマ、ミミのこと、くれぐれもよろしくお願いしマス。後、ワタシたち家族トラブルに巻き込んでしまって申し訳なかったデス。………タイヘン、お見苦しいものを見せてしまいマシタ」
そう言って、ミミの親父さんは立ち上がると母さん、俺、椿と柊の順に頭を下げた。
そして、躊躇いがちにミミの方を見て口を開きかける。
ミミは、一瞬表情を歪めたものの、すぐさま表情を消して顔を背けた。
それを見て、ミミの親父さんは何か話そうと開いた口を閉じ、トボトボと玄関の方へと向かっていった。母さんが見送りをするべく慌てて親父さんの後についていく。
………………俺は、なんと言うかいたたまれない気持ちに包まれていた。
この家族の別れは、そもそも俺がミミにホームステイを持ち掛けた結果発生してしまったものだ。
ミミの両親を間接的に傷つけてしまったのは俺だ。今更ミミをフランスへ返す、なんて言う気は毛頭ない。だが、本当にこれでよかったのか? という疑問が浮かぶ。
そんな風に、俺が後ろ暗い思いに駆られていると、ミミのおふくろさんに見つめられていることに気付いた。なんだ……?
「夏陽サン……でしたっけ? ミミのボーイフレンドの」
「う、うっす」
突然話しかけられ、思わず畏まったような返事をしてしまう。ボーイフレンド、と呼ばれるのはすごくむず痒いけどな。
「ミミのこと、よろしくお願いしマス。………アナタのことを、娘がスゴク好きでいることが伝わってきマシタ。………こんなコトはハジメテで、オヤとして嬉しく思っていマス」
「ノ、ノン、ママ……! 恥ずかしいデス……!」
笑顔でそう言ったおふくろさんに対し、先ほど親父さんに対して見せたポーカーフェイスは何処へやら、ミミがやや顔を赤くして慌てたように腕をバタバタと顔の前で振った。
いや、まあ、ボーイフレンドって紹介のされ方したからそういう先入観が混じるのは分かるが、フリとはいえそういうこと言われんのは俺も恥ずいので気持ちは分かった。
「ミミはあまり人付き合いが得意じゃないデス。色々至らないブブンがあると思いマスが、補ってあげて欲しいデス。………夏陽サンや、バスケ部のオトモダチとイッショに居るコトで、娘はもっと成長できると思うのデス」
………………それは、言われるまでもねーけどな。でもまあ親として、そこに関しては絶対に約束して欲しい、ということなのだろう。なら、その気持ちは絶対に汲んでやるべきだ。
俺はミミのおふくろさんの目を真っ直ぐ見て頷いた。
俺の反応を見て、おふくろさんは安心したように笑うと、今度はミミの方に向き直った。
「ミミ、アナタの大切に思っている人達は、きっとアナタのコトを助けてくれるいい人たちばかりなのだと思いマス。………デモ、助けられてばかりじゃダメデス。アナタ自身もアナタが大切に思っている人を助けられるくらい、強くなって欲しいデス」
そう、ミミのおふくろさんは強い眼差しで、先ほどより少し厳しめの口調でそう言った。
ミミは目を真っ直ぐ見て頷き、
「ウィ、そのために、ワタシはニホンに残りたいのデス」
そう、今まで聞いたことがないような、固い決意を秘めたような、強い口調で返した。
おふくろさんはそれを聞くと優しく微笑み、ゆっくりと頷くと、母さんと、親父さんの後について玄関へと向かった。
俺はそんなおふくろさんを見て、思う。
天然だと思ってたけど、この人は、強い。
先ほど俺とミミにかけた言葉は、俺とミミの背中を押すためのものだ。
俺も、恐らくミミも、一瞬自分のした選択が本当に正しかったのか、自信がなくなってしまった。
きっとミミのおふくろさんはそれに気づいて、俺たちを勇気づけるため、激励してくれたのだ。
自分だって、娘と離れて暮らすのはきっと辛くて仕方がないハズだ。なのに、ミミはともかく、娘と別れる原因を作った俺に対して気遣いを見せる、というのはなかなかできることではないように思えた。
親父さんにしたってそうだ。
これまでの会話で、親父さんがミミのことを本当に大切に思っている、ということは嫌というほど伝わってきた。本当なら、ミミを残して帰国するなど考えられないほど辛いはずだ。
でも、自分の気持ちより、最終的にはミミの日本に居たいという気持ちを優先した。
それはミミのわがままを聞いてやった、という単純な話ではなく、その方がミミのためになる、と冷静に判断したからだなのだろう。
………大人って、スゲーな。
子供ながらに、そう思った。
———そんな風に、心を砕いてカッコいい所を見せた二人に対し、俺は何か一つでも返せただろうか。
自分が蒔いた種なのに、ただ押し黙って、全部大人に任せて、成り行きに身を任せて、人に気を使わせて、でもミミだけはうちに置いてけって。
………………………そんな、都合のいい話、あるわけねーよな。
———気付くと俺は、二人の背中を追って駆け出していた。
「タケナカ……!?」
突然走り出した俺に対し、ミミが驚いたような声を上げたが、いちいち構ってられなかった。
廊下を走り抜け、玄関を出る。
途中で驚いた顔をした母さんとすれ違ったような気がしたが、無視して進む。
ミミの両親は、家を出て少し右に曲がったところに居た。この先にはバス停がある。バスに乗ってしまう前に追いつくことができてよかった、と安堵した。
二人は急に家から飛び出してきた俺を見て、少し驚いたように目を見開いていた。
俺は二人を真っ直ぐに見つめる。
………………何か、言わなければならない気がした。
全然頭ん中纏まってねーし、正直単なる自己満足に過ぎねーかも知んねーけど、このまま何も言わず、二人を帰す、ということだけはあり得ねーと思った。
俺は二人に向かって、半ば衝動的に、勢いよく頭を下げた。
「すみませんでした!!!」
大声で、二人に謝罪する。
顔は見えないが、突然謝られて二人が困惑しているのがなんとなく伝わってきた。謝られる理由が分からない、という反応に思えた。
「ミミにホームステイしないかって話を持ち掛けたのは俺だ。俺に唆されるまで、ミミは二人と一緒にフランスに帰るつもりだった。他に選択肢がねーからってのももちろんあるだろうけど、多分、親父さんやおふくろさんと別れるのが嫌だったから、ていう思いも本当はあったんだと思う」
ミミの両親は、黙ったまま俺の話を聞いていた。
俺は話を続ける。
「そんなあいつに対して、頼むから日本に居てくれねーかって頼んだのは俺なんだ。妹達や部活の仲間が悲しむとか、お前が抜けたら全国狙えねーとか、色々それっぽい理屈並べて納得させた。でも………本当は、本当は——」
そうだ。
こうやって自分を追い込んで、頭を回して、ようやく自分で気付くことができた。
「——本当は、単純に俺が、ミミと離れ離れになるのが嫌だっただけなんだ……!」
***
『タケナカは………なんでワタシにそこまでしてくれるんデスか?』
ホームステイを持ち掛けた夜、ミミが俺に対して投げかけた質問が再び脳裏に浮かぶ。
あの時は確か、コーチとしてチームの戦力ダウンを防ぐのは当然、だとか口に出した気がするが、今思えば、その場しのぎに過ぎない、自分でもしっくり来ない回答だったように思う。
コーチとしてどうの、じゃない。
妹のためでもない。女バスの連中のため、という話でもない。
………………俺はそんなに、誰かのためだけ思って動けるような良い人間じゃない。
ミミとは半年と少し前ぐらいに出会ったばかりだったが、俺が結成当初からミミ達元五年チームのアシスタントコーチをやっていてずっと練習に付き合っていたため、付き合いの密度はそこそこあった。
初めはマイペースで、何を考えているか分からない自分勝手な奴、という印象でしかなかったのだが、一緒にバスケをするうちに、気が付くと俺はコイツのプレイに魅了されていた。
初動ゼロから繰り出される、流れるようなジャブステップ。スピンムーブをはじめとする、曲芸のような観客を思わず湧かせてしまうドリブルの数々。
そして、1on1を繰り返すうちに気付いた、ポーカーフェイスの裏に隠した蒼く、燃えるような闘志。
全て俺が持っていないもの、もしくは足りないもので、正直言って、選手として尊敬していた。そして、それと同じくらい、嫉妬した。
バスケ選手として、だけではない。
こいつと一緒に居る時、俺がどういう気持ちだったか?
マイペースでツッコミどころ満載なコイツの言葉を聞くのも。頼られて、しょうがねーなと言いつつ世話を焼いてやるのも。たまに、バスケの話で意気投合して二人で楽しく話すのも。
全部全部、楽しくて仕方がなかったのだ
「俺、あいつと一緒に居るのが好きなんです。下らねー話したり、先輩として面倒見てやったり、あいつが妹達と遊んでいるの見たり、そして何より一緒にバスケするのが。フランスに帰るって話聞かされた時、なんも考えられなくなっちまった。………初めは単に実感わいてねーだけだと思ってたんす。けど、そうじゃなかった。あいつと離れ離れになるってことについて、考えたくなかっただけだったんだ……!」
結論を言ってしまえば、実に簡単な話だった。
俺はいつの間にか、バスケ選手として、友達として、そしてそれ以前に一人間として、コイツのことが、——ミミ・バルゲリーのことが、たまらなく好きになってしまっていたのだ。
「もちろん、親父さんとおふくろさんがミミのことが大好きなのはわかってて、離れ離れになりたくないって思ってることもわかってる。ミミが生まれてからずっと一緒に居たんだ。それなのに、知り合って一年もたってない子供が何言ってんだって思うかも知れねー、けど———」
俺はそこで頭を上げ、二人の目を真っ直ぐ見る。
「けど! ぜってー、フランスに帰るより、日本にいた方がミミは幸せになれる、と思う。………いや、俺が、必ず幸せにしてみせる! こっちには、ミミのことを俺と同じくらい大切に思っている友達がたくさんいるし、ぜってー楽しいはず……っす。………………だから、わりーけど、ミミを帰すつもりは毛頭ないっす。ミミのこと、大事にするんで、安心して娘さんを預けてくれないか?」
そう言って、俺は再び頭を下げた。
………正直、自分の中で言いたいことを整理出来ていない感が満載で、自分でも支離滅裂というか、イマイチ何を言っているか分からなかったのだが、本音で思いの丈をぶつけたつもりだ。
俺が内心震えながらリアクションを待っていると、頭上からおふくろさんの笑い声が聞こえてきた。俺は思わず顔を上げる。見ると、おふくろさんは口に手を当てて上品に笑っていた。
「す、スミマセン、デス。笑ってシマッテ。アナタのような人にそこまで思って貰えて、娘は幸せ者だなと思い、安心シマシタ。………シカシ、そもそもミミが日本に残ることに対して、ワタシは反対した覚えはありまセンよ。先ほど伝えたつもりデシたが、上手く伝わってナカッタデスか?」
そう言って、おふくろさんはクスクスと笑った。
う……やばい、そう言う反応をされると、なんか急に恥ずかしくなってきた……。てか、俺さっきなに口走ったっけ? あんま覚えてねーけど、やたらとこっぱずかしいことを言ったのだけは覚えてるぞ………。
「ホラ、アナタも何か言ってあげてクダサイ」
俺が羞恥で顔を赤らめていると、おふくろさんは親父さんの肩にポン、と手を置いて発言を促した。う、どっちかって言うとおふくろさんより親父さんのリアクションの方がこえーな………。
俺がチラリ、と親父さんの様子をうかがうと、親父さんはまたもやバツが悪そうな表情を浮かべて俺の顔を眺めていた。
「あの………えっと」
とりあえず、間をつなごうと口を開くが、肝心の言葉が何も出てこない。
俺が目を泳がせながら言葉を探しているうちに、親父さんの方が先に言葉を発した。
「ワタシの方こそ、先ほどは何も考えず頭ごなしに否定してシマッテ、申し訳なかったデス」
そう言って、ミミの親父さんは俺に対し、頭を下げた。大の大人に頭下げれると、こちらが畏まってしまいそうになる。
「正直、トモダチの家とはイエ、今日初めて会った方に娘を預けるのは不安シカなかったのデスが……夏陽サンの言葉を聞いて、少し安心できマシタ。娘は、いい人たちに囲まれているのデスネ」
そう言って、親父さんは穏やかに笑った。
「ミミのホームステイ、ワタシからもお願いしマス。娘が色々ゴメイワクをお掛けするかと思いマスガ、よろしくお願いしマス」
そう言って、親父さんは俺に向けて手を差し出してきた。
俺は、迷うことなくその手を掴み、握手した。
………………どうやら、親父さんと険悪な関係にならずに済んだみたいだな。
俺は胸を撫でおろす。緊張の糸が切れ、全身から力が抜けた。
「………………………………デスガ——」
………だがそれもつかの間、ミミの親父さんはクワッ! と目を見開いて俺に詰め寄ってきた。
な、なんだ………!?
「デスが、ミミとの交際を認めるかどうかは話が別デス!! ミミはまだ十一歳、ボーイフレンドを作るのは後十年……イヤ、二十年は早いデス!!」
………………………………………。
いや三十歳まで彼氏作らせない気かよ。と思わず突っ込みそうになったが、親父さんの勢いがあまりにもすごく、これ以上刺激したら破裂しそうだったので、やめておいた。
そう言えば、その問題が残っていたんだったわ………。クソ、めんどくせえ……。てか、こんなことならボーイフレンドのフリとかしない方が話早かった気がするんだが!
「ましてや一つ屋根の下で暮らすナド………ああ、考えただけでゾッとシマス……! ………………………………………………さて、夏陽サン」
親父さんはこれまでのハイテンションは何処へやら、急に低く平坦な声で俺の名前を呼ぶと、俺の肩をガシッと掴んだ。
思わず、親父さんの目を直視する。その目は据わっており、目からハイライトが消えていた。怖っ!! 成人男性の圧力、怖っ!!
「百歩……いや、一万歩譲ってミミのボーイフレンドを名乗るコトは認めまショウ。デスガ、あくまでプラトニックな関係でいて欲しいのデス。………モシ、一つ屋根の下で住んでいるのをいいことにミミに手を出したら………その時はどうなるか、お分かりデスネ」
そう言って親父さんは肩を掴んでいる手に力を籠め、ニッコリと笑顔を浮かべた。………………但しその目は全く笑っていなかった。
俺はコクコク! とヘッドバンキングしそうな勢いで全力で頷く。
プラトニック? だとか手を出すとかについては何を言っているのかわからねーが、要は恋人らしいことをするってことだろ? そもそもフリだからそんなもんしねーよ!
俺が頷いたのを見て、親父さんは満足したのか俺の肩からパッと手を放し、全身から発していた負の圧力をひっこめた。
「オウ、分かっていただけマシタか! デハデハ夏陽サン、そういうコトでヨロシクオネガイシマス! あ、ワタシとも仲良くしてくれると嬉しいデス!」
そう言って親父さんはハッハッハ! と快活に笑って見せた。な、なんつーかテンションがジェットコースター過ぎてついていけねえ………。
「デハ、そろそろ本格的にワタシたちはこれでオイトマさせてイタダキマス! 後日、ミミの荷物をお渡ししたり色々お手数をお掛けして利すると思いマスが、その時はよろしくお願いしマス!」
そう、上機嫌に挨拶すると、親父さんは俺に背を向けて歩き出した。
隣のおふくろさんは俺に笑って会釈した後、親父さんと連れ立って帰路についた。………………そう言えばこの人、親父さんが俺に詰め寄った時、止めてくんなかったな………。
な、なんかめちゃくちゃ疲れた気がするぜ………。昨日は肉体的に、そして今日は精神面の疲労が半端ねえ。明日から学校だってのに、全然疲れ取れた気がしねえぞ………。
さっさと家に戻ろう、と思いくるりと振り向くと、家の扉の前付近に母さん、椿、柊、ミミの四人が突っ立って俺の方を見ていた。
………………………………。
も、もしかして今までのやり取り、見られてたのか………?
背筋を嫌な汗が伝う。
………恐る恐る、四人の顔をうかがう。
その表情は四者四様だった。
母さんは瞳をキラキラと輝かせ、感激したような表情を浮かべていた。俺と視線が合うと、サムズアップを返して何度もうなずいた。
椿と柊は対照的にイライラとした不機嫌そうな表情を浮かべていた。俺が二人の目を見ると、「にーたんのバカ!」とだけ言ってそっぽを向いた。な、なんなんだよ………。
そしてミミは………なんつーか、のぼせたような、ぽーっとした表情で俺を真っ直ぐ見ていた。よく見るとほんのりと頬を赤らめているように見えた。
………………な、なんだ!? 何が起こった!?
恐らく俺とバルゲリー夫妻のやりとりが関係しているんだとは思うのだが、いかんせんなに口走ったかなんとなくしか覚えていないせいで、イマイチ四人のリアクションの原因を掴めずにいた。
なんだか奇妙な様子の四人近づくのが嫌で、家に入ることができない。
俺が所在なさげに突っ立っていると、ミミが依然として同じ表情のままややうつむき気味に一歩、二歩、近づいてくる。俺は恐怖から半歩後ずさる。
ミミが口を開き、顔を上げ、俺の目を見て言葉を発する。
「シアワセに………してクダサイね?」
ミミの言葉を聞いて、母さんは「キャー!! キャー!!」と嬌声を発した。
椿、柊は声を合わせ「にーたんのバカーー!!」と先ほどより大きな声をだした。
わ、分けわかんねえ………数分前の俺、一体何を口走りやがったんだ………。
はい、以上、ミミの両親の説得回でした。
………いや、ほんとはもっとさらっと済ませる予定だったんですが、色々詰め込み過ぎた感あります。
正直中盤とか後半は特に雑になってしまった部分かな―りある……正直余裕が出来たら書き直したい……。
ミミパパミミママ動かすのムズイね!
ミミママに至っては原作に名前しか出ないので完全想像です。
原作読んだ感じだとミミは見た目は父親似らしいので、中身を似せるイメージで書いてみました。
とりあえず無駄に長かったゴールデンウィークがようやく終わり。
ようやく学校パートが書けます。
真帆紗季とか雅美とかげったんとかようやく出せるぞ、やったね!
ただ、書き溜めが尽きたので次話投稿まで若干間が空きそう。
一週間以上はあかないと思いますが。
めどが立ったらツイッターで呟くので気が向いたらフォローしてやってください……。