日本金めでたいですね!
女子バスケも決勝進みましたね。女子バスケの話書いている身としてはめちゃくちゃ嬉しい!
オリキャラ書いた後に書く本編キャラの絡みはとても楽しかったです。久々の一万字オーバーなのでお時間があるときにでもゆっくり読んでください。
——五色中央との再戦は五月最終週の日曜日に決まった。
クロエと荒巻が帰った後、俺たちが練習している間に美星がぱっぱと向こうの顧問と連絡を取って日程調整をしてくれていたらしく、部活終了後のミーティング時点ではもう詳細まで決まっていた。
仕事の早い美星GJ! と一瞬思ったが、そう言えばクロエと荒巻に絡まれていた時静観決め込んだまま何もしてくれなかったんだよな、あいつ。
そのことを本人に問いただしたところ、『にゃふふ~だってほっといた方が面白そうだったじゃん?』とのことだった。本当に教師か、おい。
俺が非難の視線を向けると、『ま、こーいう子供同士の揉め事は可能な限り大人が余計な口を出さずに自分たちで何とかさせるのが良いんだよ。ホントにやばくなりそうになった時止めるのが私らの仕事なのさ』と、ウインクしながら笑ってそう言った。………正直上手く丸め込まれた感しかしなかったが、あながち分からんでもないと思ったのでそれ以上は特に追及しなかった。
「あのクロエってやつはミミとなんか複雑そうな関係っぽかったけどな………」
「竹中さん? 何か言いました?」
「あ、すまん。こっちの話だ」
「………? ならいいですけど。ちゃんと真面目に話聞いてくださいね。今から対五色中央戦に向けた対策練るんですから」
雅美の言葉で空想の世界に飛びかけた意識が現実へと引き戻される。
今いる場所は俺ん家のダイニングルーム。
テレビには五色中央とうちの試合のビデオ映像が映し出されている。六人掛けのテーブルには俺と、女バスの六年五人がそれぞれ腰かけていた。
——五色中央に宣戦布告された後、興奮冷めやらぬ椿と柊の提案で部活後俺ん家に集まって作戦会議をすることになった。
リベンジに燃える他の三人も二つ返事でそれに同意。
しかも今日は母さん仕事で夜遅くまで帰ってこねーしな。リビングを占領しても文句を言われずに済む。
俺としてももっと詳細に東京での試合についてこいつらに聞いておきたかったし、反対する理由はなかった。
特に、五色中央の選手については実際に戦ったこいつらにもっと聞いておきたかった。
目線はテレビに向けつつ、話を進める。
「ざっくり言うと、高さとパワーのチームって感じだよな。身長のある選手をインサイドに固めてゴール下からシュートを狙ってくる感じの」
「はい、概ねその認識で間違いないと思います。今日の振り返りで竹中さんも言ってましたけど、平均身長の高いチームです。170cmある荒巻はもちろん、他の選手も160cm以上ある選手ばかり。スタメンの五人のうち、160cm切ってそうな小柄な選手はクロエだけですね」
「センターの荒巻以外もリバウンド強い選手が豊富ってことだな」
「そうですね。ただやっぱり五色中央のインサイドの要はなんだかんだ荒巻だと思います。データに出てると思いますけど、リバウンドもシュートもチームで一番貢献してた印象でした」
俺の問いに対し、雅美は慣れた様子で相手チームの特徴についてスラスラと回答を述べた。
——ちなみに、俺ん家に集まってこういうバスケの勉強会チックなことをやるのはこれが初めてではない。去年東京に全国大会の決勝を見に行って以来、割としょっちゅう行っている。ちゃんとしたコーチがいないから、選手一人一人がきちんと自分で考えてプレーできるようにならなければいけない、という意識が浸透しているためか、勉強嫌いな椿と柊も含め選手全員のモチベーションはかなり高い。
とりわけ頭もよく真面目な雅美は話を回してくれることが多く、結構頼もしかった。
「かげつ、荒巻の特徴について聞かせてくんねーか?」
話題が五色中央のセンター、荒巻に移ったので実際にマッチアップしたかげつに話を振る。かげつは数秒思案した後、話し始めた。
「………単に高いだけじゃなくて、フィジカルも強かったです。リバウンド勝負になった時、押し負けてリバウンドのポジションを奪われてしまうことが多かったですね」
苦々し気な口調でかげつは続ける。
「後、反射神経も結構よかったです。ボールがイレギュラーな軌道で飛んだ時も即座に反応してましたし。………正直言って、試合中はセンターとしてつけ入る隙が無い、と思ってしまいました。………すみません」
項垂れたかげつを見て、椿と柊は憤慨した様子で立ち上がると、
「なんだよゲッタン! 一回負けたくらいであきらめるのかよ!」
「そうだよ! ゲッタンがセンターとしてはサイキョーなんだって次こそマッキーに分からせてやらないと!」
「う………べ、別に諦めてるわけじゃないよ! ………ただ、次戦うことを冷静に考えたときに、どう対処したらいいか見えてこなかったってだけで」
かげつはそう言って悩まし気に顔をしかめた。
次こそはリベンジする、と荒巻に面と向かって言っていたし、部活が終わってから今まで考え込むような素振りが多かったし、恐らくかげつの言っていることは偽りではない本心なのだろう。ただ考えれば考えるほど荒巻の難攻不落さにどうしてよいか分からなくなってしまっている、という感じに見えた。
俺は再びテレビに顔を向け、思案する。
………そう言えば、とふと気づく。
「なあ、リバウンドだけどさ、前半はそこそこ拮抗してなかったか? 荒巻以外にはミスマッチ突かれてリバウンド負けしてたけど、荒巻対かげつのリバウンド勝負に限った勝負で言えば互角………というか寧ろ割と優勢だった気がするんだが」
「あ、確かにそうだったね!」
「さすがにーたん! 目の付け所が違う!」
俺の発言を受けて、かげつは一瞬考えた後、
「確かに、そうですね。そう言えば、第二Qまでは彼女、リバウンドのポジション取りが遅かった気がします。早めにポジションを取れてたおかげでそこそこ有利にリバウンド勝負ができてたからなんじゃないかと思いました」
「あ、それは多分、アラマキがスロースターターだからだと思いマス」
かげつの言葉を聞いて、今まで黙って話を聞いていたミミが口を挟んだ。
「スロースターター?」
「ハイ。同じチームのクロエが、『マッキーはいっつもスロースターターで困るノヨ!』と言っていたから間違いないカト」
ミミは神妙にうなずいて答える。
「スロースターター………スロースターターなあ………」
イマイチピンと来なくてそう呟く。そんな俺の様子を見てミミが補足する。
「オソラク、アラマキがまだバスケを始めて日が浅いのが原因カト」
「なんでそんなこと知ってるんだ?」
「ウィ、試合後クロエに聞いたらベラベラ喋ってくれマシタ。『マッキーはまだバスケ初めて三か月なのに既にサイキョーナノダワ! 天才カシラ!』とのことデス」
「お、おう………」
なんてうちにとって都合のいいヤツなんだ。……後どーでもいいけどクロエのモノマネ似てんな。
てか、いくら高身長とはいえ三か月であれって脅威だな。恐らくそもそもの運動神経が良いタイプなんだとは思うが。
だが、少し分かった気がする。試合中、恐らく荒巻はリバウンドのポジションを取りに行く感覚を掴むまでに時間がかかるのだろう。
リバウンドに入る際、シュートの軌道を見てボールが落ちる位置を予想し、有利な位置を相手に先んじて確保しに行く必要がある。位置の予測については、一応こういうシュートはこういう位置に落ちやすい、みたいなきちんとしたデータがあるにはあるが、やはり最終的には経験がモノをいう。ここからは完全に推測だが、恐らく荒巻は放たれたシュートがどういう位置に落ちるか、というカンを第一、第二Qにかけて掴もうとしているのではないだろうか。
「………相手チームのリバウンドの要の荒巻がそんな感じなら、第二Qまではセットオフェンスでもなんとか対抗できるかもしれませんね」
しばしの沈黙の後、雅美がぽつり、と呟いた。
「ウーム。シカシ、アラマキには対抗できてもやはりチームとしてのリバウンド力はワレワレがフリ。セッキョクテキに取っていい策デハないと思いマス」
………………………………。となると。
「やっぱ、速攻中心でいくしかねーか」
ミミの言う通り、チームとしてのリバウンド力で五色中央に挑むのはちと難しい。仮に今から必死こいて五月末までに五色中央と張り合えるだけのリバウンド力は身につかないだろう。相手にディフェンスリバウンドの体勢を取らせる前にカタをつける速攻に勝機があるとみるのが妥当な気がする。
俺の言葉に、ミミ、椿、柊は待ってましたとばかりに頷く。かげつもしばらく迷った後、『悔しいけどそれが現実的かもしれませんね』と同意した。残る雅美はしばらく考えて、
「でも、残念ながら今の私たちには四クォーター全て全力のラン&ガンをするだけのスタミナがないんです。この間の試合でもスタミナ切れで最終的に速攻の成功率はかなり落ちてました」
「ああ。まあそれでも昔に比べたらお前らも体力付いたし、ペース配分さえちゃんとすれば四Qあるうち三Qは速攻狙いに行って問題ないと思ってる。………雅美が言いてーのは残りの一Qのことだよな」
「はい。荒巻の調子が上がりきらない一Qか二Qは速攻主体じゃなく、遅攻で体力温存するのもありかなって」
「なるほど、一理あるな。とりあえずその方向で考えてみるか」
「はい!」
雅美は自分の案が採用されたことが嬉しいのか、ニコニコと上機嫌に微笑んだ。………普段は割と大人びた雰囲気のある奴だが、こーいうとこは年相応だな。
「んじゃあ次の選手行くか。八番パワーフォワード、クロエ・ランベール。身長は140cmいくかいかないかくらいの、五色中央スタメン唯一の小柄な選手だな。こいつはどうだ?」
「うーん……。なんというかちっこくてすばしっこい奴だったよ。スタミナが半端なくて、結構走り回ってた割に全然疲れてなかったね」
「後試合中ずっとあの調子でベラベラ喋っててうるさかったね。六年生なんだし、もう少し落ち着きを持てって感じだよ、まったく」
やれやれ、と呆れた調子で顔を見合わせる椿と柊。
分かるけど。お前らも全然人のこと言えねーだろ……。
「俺たちが勝てなかったのは地味にコイツの働きが大きかったんじゃねーかと思うんだよな。うちらの速攻がつぶれたのって、コイツが後半から仕掛けてきたオールコートディフェンスのせいだろ?」
「うん。あいつ、こっちの攻撃になった瞬間にパス出されたとこに寄ってってベタ付きでディフェンスしてくんの。もうしつこいのなんのって」
「そのせいで、他の選手が自陣に戻る時間稼がれちゃうんだよね」
椿、柊はそろって面倒くさそうな口調でそう言った。
「前半みたくミミに固執してくれれば楽だったんだがな」
「あ、そう言えば気になってたんだけど、ミミ、あの子とどういう関係なのよ? 東京遠征の時は深く突っ込まなかったけど、再戦するってなったんだし、気になるんだけど」
雅美はジロリ、とミミに視線を向けた。
自然と、全員の視線がミミに集まる。
………それ聞いちまうのか。いや俺も含め皆気になってたけど、なんか聞いちゃいけない雰囲気出てたからあえてスルーしてたんだがな。そこを先陣切ってツッコミ入れるのはさすが雅美、というかなんというか。
質問を振られたミミは視線を落としてはいたが、無表情だった。少し、沈黙した後口を開く。
「フランスのクラブチームに居た頃のチームメイトデス。……それ以上でもそれ以下でもないデス」
「………その割にはなんか因縁つけられてたみたいだったけど」
「同じポジションで、ワタシにずっとスタメン取られてたので、向こうからしたら思うところがあるだけなのでショウ」
淡々と、ミミはそう答えた。まるであらかじめ答えを用意していたかのような口ぶりだった。
雅美も諦めたのか、嘆息した後『そう……』とだけ呟いてそれ以上追及することはしなかった。
——数秒、微妙に気まずい空気が流れる。
「で、でもあの子、凄い行動力だよね! わざわざミミを追って日本まで来るなんて」
居心地の悪さに耐えかねたのか、かげつがやや上ずった声で沈黙を破る。俺も何と言っていいか分からなかったので、正直助かったぜ。
っていうか………。
「え? あいつってミミのこと追っかけて日本まで転校してきたのか?」
「あ、はい。東京遠征で初めて会った時に知ったんです。本人はお父さんの仕事の都合って言ってたけど、荒巻さんに即バラされてましたね………」
「最早ストーカーの域デス。こっちとしては、ケーサツに通報したい気分デス」
口を尖らせてミミはそう愚痴る。まあ、確かに外国の学校に転校してまで追っかけてくるのは恐怖だわな………。
てか、話聞いてるとやっぱただのチームメイトってだけじゃなさそうなんだが……。
微妙に好奇心が湧いてきたものの、これ以上の詮索はミミの気を悪くさせちまいそうだし、そもそも答える気はなさそうなので控えることにする。
「なあミミ。せめて選手としてどういうやつなのかだけでも教えてくんねーか?元チーム
メイトだってんなら俺たちよりよく知ってるはずだろ?」
俺の質問に対し、ミミは少し躊躇った後、渋々といった様子で答える。
「………不器用な子デス。素直過ぎるとイウカ、駆け引きが苦手なので昔からオフェンスはあまり得意じゃなかったデスね。この前の試合でも得点は殆ど決めてなかったはずデス。……正直、バスケ向きの性格ではないと思ってマス」
………なるほどな、まあ割とイメージ通りって感じか。駆け引きが苦手ってのは割とキーポイントになりそうだが。
「ディフェンスはとにかくしつこくて諦めが悪いタイプデス。動きがすばしっこくて反射神経もいいノデ、割と厄介デス。フェイクには割と簡単に引っかかるのデスガ、一度抜き去ったと思っても、すぐに追いついてきマス。一々相手にしているとキリない思いマスね」
「確かにね。悔しいけど、ミミ以外はあいつのディフェンス単独突破できなかったし」
ミミの発言に、椿が頷く。
「………アト、個人的に一番厄介だと思ってるのはメンタルの強さデショウカ。どんだけこっぴどく負かしても、全然へこたれないのは脅威だと思ってマス」
「………それは、厄介だな」
実感がこもってそうな口調でつぶやいたミミに、俺は呻き声で答えた。
確かにオフェンス向きではないかもしれねーが、話を聞いているとディフェンスプレイヤーに必要な要素は全てそろっているような印象を受けた。
あいつのしつこいディフェンスを突破しねー限り、速攻を成功させることは難しい。一番の武器である速攻が使えないとなると、試合の結果がどうなるかは火を見るより明らか。東京での敗戦がまさにそれだ。
「現状のオフェンス始まったら闇雲に敵陣に突っ込むだけの速攻じゃイマイチ通用しねーから、アップデートの必要があるな」
「というと?」
「まあ、それは練習ん時にでも話すわ。それより他の選手の情報も整理しちまおーぜ」
「やけに勿体ぶりますね」
雅美は興味をそそられた様な表情を浮かべる。俺は肩を竦めて、
「実際に練習しながらやった方がはえーと思っただけで、別に勿体ぶってるつもりはねーよ」
「ふーん………。まあ、いいですけど」
雅美はやや不満そうだったが、それ以上食い下がることなく引き下がった。いや、別にホントに勿体ぶってるつもりねーからな。
「んじゃあ、次の選手行くぞ。四番、ポイントガードの——」
——そんな感じで、来る五色中央戦に向けて対策を話し合ううち、あっという間に時間は過ぎていった。
***
「あ、もうこんな時間……。ごめんなさい竹中先輩、私そろそろ帰らないと………」
遠慮がちにそう言ったかげつの言葉で、俺たちは一旦話を中断した。
時計を確認すると、時刻は既に午後七時半前。確かにもう帰らねーと親御さんが心配するくらいの時間だな。
「思ったより長くなっちまったな、今日はお開きにするか。雅美もそろそろ帰らねーとまずいんじゃねーの?」
「うーん、そうですね。まだ話しておかないといけないこと結構ありますけど、続きは明日以降にしましょうか」
やや名残惜しそうな様子だったが、雅美は立ち上がって帰り支度を始めた。………時間が時間だしな。送ってった方がいいだろーし、俺も準備するか。
「椿、柊、ミミ。俺一応こいつら送ってくわ。お前らは練習で疲れてるだろうから家で休んでていいぞ」
「わー竹中さん紳士ー♪ わざわざ送ってくれるなんてちゃんと女の子の扱いが分かってますねー………って——」
雅美は両手を左頬の前で合わせ、からかうような口調でそう言った後、怪訝な表情を浮かべて、
「何言ってるんですか竹中さん。ミミも家に帰らなきゃいけないんだから、竹中さん家でゆっくりしてちゃだめでしょ?」
雅美に指摘され、俺はギクリ、と思わず支度を進める手を止める。
………やべえ、そう言えば対策会議に夢中でミミのこと話すの完全に忘れてたわ。どうする……。今から説明するのは心の準備っつーか気力が残ってねーぞ………。
クソッ仕方ねえ……。こうなりゃミミにも着いてきてもらって送るフリだけするしかねーか……。
「わ、わはは、それもそうだな! さ、さあミミ、お前も帰り支度を早く進めて——」
「にーたん? またそうやって誤魔化すの?」
「カッコ悪いにーたんはボクたち、これ以上あんま見たくないかなー」
——ピシャリ、と。
笑って誤魔化そうとした俺のセリフを、椿と柊が平坦な声で遮る。
妹二人からの圧を受けて、笑顔のまま硬直する
どうしてよいか分からず狼狽えていると、かげつは訝し気な視線を、雅美はジトーっとした視線をそれぞれ向けてきた。背筋に緊張が走る。
「竹中さん? 私たちになんか隠してます?」
「くっ………べ、別に何も隠してなんか——」
「ウソですね。目が泳いでますし、声も震えてます。何より椿と柊の態度を見れば一目瞭然です」
雅美はそう言って探るような視線のまま俺に詰め寄る。
「あ、あの。話したくないことなら無理に話してくれなくてもいいですけど、そこまで意味深な態度をとられるとさすがに私も気になるというか……」
唯一味方になってくれる可能性のあったのかげつも興味をそそられたようで、困ったような表情でこちらをチラチラと伺っていた。クッ………万事休すか——。
「ウィ。ワタシ、センジツからタケナカの家でホームステイさせてもらってるノデ、帰る必要はないノデス」
「え?」
「……はい?」
俺が回答に窮していると、座ったままのミミが何でもないように淡々と言葉を発した。
「パパがオシゴトのツゴウで、フランスに帰国しなくてはいけなくなったのデス。住むところが無くなって困ってたワタシに、タケナカがホームステイを進めてくれマシタ。ワタシはニホンに残りたかったので」
「えっ……き、帰国? ホームステイ? そ、それはまた、随分と急な話だね………」
「ウィ、ワタシも急な話で驚きマシタ。デスガ、タケナカのお陰で帰国しなくてダイジョウブになったので、今まで通りよろしくデス」
そう言ってミミはピースサインを掲げた。
「そ、そっか………。まあミミがフランスに帰るってなっちゃったら寂しいし、これまで通り一緒に部活出来るんならそれはそれでよかっ——」
「ちょっと待って、整理させて」
安心した様子で胸を撫でおろしたかげつとは対照的に、額に手のひらをあてて何やら考え込むような素振りを見せる雅美。
「………フランスに帰る必要はなくなったのよね? これまで通りミミは慧心の生徒で、私たちと一緒に部活ができる……でいいのよね?」
「ウィ、その通りデス」
「そう………じゃあひとまずそれはよしとして、もう一個の方だけど——」
雅美は額に当てていた手を下ろし、ミミと俺を交互に見て、
「ホームステイって………一緒に住んでるってこと? 竹中さんと、椿、柊と、竹中さんのご家族と」
「ウィ、お世話になってマス」
「………いつからホームステイしてるの?」
「東京遠征から帰ってきてからなノデ、今日で三日目デスね」
「むー………。別に、竹中さん家じゃなくて、私とか、かげつとかに相談してくれてもよかった気がするけど。………なんで最初に竹中さんに相談したの?」
「ウィ、それは——」
ミミは答えようとして口を開き、制止する。
「………そう言えば、なんでデショウ」
「なんででしょう………って」
自身の質問に、首をかしげて逆に聞き返してきたミミに対し、雅美は困ったような表情を浮かべる。いや、まあその辺は話の流れでそうなっただけな気がする。ミミからは微妙に言いづらい気がするし、ここは俺から言っといた方が良いか……。
「あー………。俺がミミに、困ったことあったら遠慮せず相談しろって結構キツく言ってたからだな」
「………え?」
横から口を挟んだ俺に対し、雅美は驚いたような表情を浮かべた後、面白くなさそうに口を尖らせて、
「………………なんでミミにだけ? 私は言われてないんですケド」
「いやその前に割と色々あって………。この辺は話すと長くなるんで出来れば割愛させて貰いてーんだが」
頭を掻きつつ返答を返す。………まあこの辺は紗季に事前にミミを気にかけてやってくれ的なこと言われてたみたいな話があるんだが、いかんせん雅美相手にこの辺話すとややこしくなりそうな気がする。
雅美はしばらく納得がいかないような、ふてくされたような様子だったが、突然何か思いついたような表情を浮かべた後、ニヤリと何やら意味ありげな笑みを浮かべてこちらに近づいてきた。イヤな予感がする。
「竹中さーん♪」
「な、なんだよ……」
猫撫で声で呼びかけてくる雅美。経験上、雅美がこういう態度の時はロクなこと言い出さないことを知っていたので、警戒の姿勢をとる。雅美はお構いなしに俺の腕を取ると、
「私、やっぱり今日はもう疲れちゃってて、帰りたくないかなって。私も一緒にホームステイさせてもらうわけにはいきませんか?」
「………なんでド近所のすずらん通りに住んでるやつが俺ん家にホームステイする必要あるんだよ」
「むー。なんでミミは良くて私はダメなんですか? 差別ですか?」
「お前は特にホームステイする理由ないだろ……ほら、聞きたいことは聞けただろ。もうこれ以上隠してること特にねーから、さっさと帰りの支度しろよ」
案の定ロクな話ではなかった。紗季の影響かなんか知らんが、コイツは最近年下のクセにやたらと俺をからかうような言動が多い。よく分かんねーけどどうせこれもその一環なのだろう。これ以上雅美の悪ふざけに付き合っていると日が暮れちまう。いい加減さっきから待たせちまってるかげつにもわりーし。
「ふーん……。隠してることないって、ホントですか? 後一個くらいデカい隠し事あるって、私のカンは言ってるんですが」
俺の腕を解放し、張り付けていた笑みを引っこめると探るような視線を向けてきた。
「はっ、じゃあお前のそのカンとやらは的外れだよ。おら、さっきからずっとかげつ待たしちまってるだろ。いい加減さっさと行くぞ」
そう言ってシッシッと追い払うようなしぐさで帰りを促した。
俺の態度が不服だったのか、雅美はムッとした表情を浮かべた後、べーっと俺に舌を突き出して不満をあらわにする。そして不機嫌そうな様子のまま勢いよくカバンを肩に担ぎ、玄関の方へと足を向けた。その後をかげつがペコリと一礼した後、慌ててついていく。ったく、帰らせるだけで一苦労だな………。
俺はため息をついて、そんまま雅美とかげつの後に着いて玄関の方に向かおう………としたところで視線を感じて振り向く。見ると、ミミ、椿、柊の三人が何やら呆れたような、残念なものを見るかの視線で俺のことを見ていた。
「な、なんだよ……。ってかなんでさっきからお前ら何もしゃべんねーの?」
「「べっつにー」」
口を揃えてそっけなく言い放つ椿と柊。一方ミミは一言も発することなく、プイっと顔を背けた。
なんか知らんが自宅待機組からの対応が冷てえ。………ていうか最近椿と柊から塩対応されることが増えた気がする。あれか、これが反抗期ってやつか。
「と、とりあえずさっきも言った通り俺あいつら送ってくるからよ。母さんが作りおいてくれたカレーあるから、遠慮せず先食っててくれ」
「別に言われなくても遠慮せず先食べるよ」
「今のボクらの関心はにーたんじゃなくカレーに向いてるから」
冷てえ!
***
——すずらん通りへと向かうバスの中で、俺は猛烈な居心地の悪さを感じていた。
バス内にはかげつの姿はない。雅美んちの最寄りであるすずらん商店街前と、俺ん家の最寄りである慧心学園前の途中のバス停が袴田邸の最寄りであるため、既に下車していた。一応家までついていってやろうかといったのだが、歩いて一分かからないくらいの距離なので大丈夫です、と断られた。てか心なしか『じゃ、じゃあ私はこれで失礼します……』と遠慮がちに言ったときのかげつの表情は若干ホッとしていた気がする。この空間から解放されるのがそんなに嬉しいか。
その居心地の悪さの原因——不機嫌な表情で俺の隣に座る雅美は、どうやら先ほどのやり取りで完全にヘソを曲げてしまったらしく、肘掛けに肘をついてそっぽを向いてしまっている。なんつーか、話しかけんなオーラが全開だった。その割には迷うことなく隣の席に座ってきたりと、イマイチ考えていることが掴めねえ。
『女の子の機嫌が悪い時はとりあえず男の方からアクションを掛けた方が良いわよ!』と俺は長年母さんから受けてきた英才教育の一環で骨身にしみて認識していた。しかし、いかんせんヘソを曲げている原因がイマイチピンと来ていないためなんつって切り出したらいいかが全然分からない。
とりあえずこの無言の空間が辛すぎるので、なんか適当に話題振ってみるか………。
「あー………そう言えば、ポイントガード引き受けてくれてサンキュな。お前最近バスケの戦術結構勉強してて多分あいつらん中だと一番詳しいし、頼もしく思ってるぜ」
「………」
「こういうバスケの勉強の集まりの時もいい意見めっちゃ出してくれるしな。あ、あれか! もしかして寿し藤の看板娘として培ったコミュ力の賜物ってやつなのか!?」
「………」
「に、にしてもお前最近めっちゃ上手くなってるよな! ドリブルもパスも、去年とはレベチだし、すっかり一人前のバスケ選手だな!」
「………別に、普通です。ミミに比べたら全然下手ですよ」
………………………………。
ダメだ、取り付く島もねえ。
再び訪れる沈黙。
とりあえず褒めて機嫌を取る作戦はあっさり失敗に終わっちまった。
いや、おだてているつもりはなく割と本心で言っているのだが、どうやらあまり雅美には刺さらなかったらしい。痛恨のミスだ。
だが雅美の言った、ミミと比べたら、という言葉でちょっとピンときた。
恐らく、俺がミミにだけ『なんかあったら相談しろ』みたいなこと言って気を遣ったのが、雅美的に面白くなかったのではないだろうか。
昔椿が似たような理由でヘソを曲げていたことを思い出す。『ひーだけにーたんと遊んでもらっててずるい!』と言われて二、三日機嫌が悪かったことがあった。たまたま椿が不在だったので、柊とだけ遊んでやっていただけなのだが、椿からしたら自分だけ放っておかれたように感じたのだろう。
こっちとしては平等に接しているつもりでも、相手からしたら差別されているように感じる、というのは割とよくあることだ。その辺、平等感を与えてやることが大事なのよ、というのを母さんに教えてもらったので、なんとなく理解していた。
つまり雅美に対し、別にミミと比べてどうでもよく思っているわけではない、と理解してもらう必要があるってことなんじゃないだろうか。
必死こいて頭を捻って言葉を探す。
「………あー………えっとさ。さっきは邪険にしちまって悪かった。別にミミと比べてお前のことを気にかけてねーわけじゃないんだ。俺がミミに『困ったことがあったら相談しろ』つったのはさ、とある奴に、ミミのことを気にかけてやって欲しい、って言われてたからなんだよな。フランスに帰っちまうって話で悩んでると思ってたからなんだろーが」
「………」
雅美は黙ったまま何も言わない。だが先ほどまでとは違い、拒絶されてる感みたいなオーラは感じなかった。
俺は言葉を続ける。
「だからもし、お前がなんか悩んでることがあるなら俺は相談乗ってやりてーし、俺に出来る範囲のことならしてやりてーと思ってる。………そこをミミと比べてお前を差別してるわけじゃねーってのは、分かってて欲しいっつーか……」
ダメだ、やっぱこーいうのは苦手だ。口下手なせいで、上手く言いたいことがまとまらない。
雅美はやはり黙ったまま何も言わない。
再び沈黙が訪れる。
そうこうしているうちに、バスがすずらん通り前に停車する。雅美は何も言わないまま、カバンを担いで立ち上がる。雅美の家——『寿し藤』がバス停からちょっと離れた距離(といってもせいぜい五分くらいだが)にあることは知っていたので、送ってやるため俺も慌てて一緒にバスを降りる。
バスを降りると、肌が冷気に撫でられるのを感じ、身を竦めた。半袖のまま出てきちまったのは間違いだったな………。
そのまま先行する雅美の後を着いて、雅美の家へと向かう。
お互い無言のまま歩き続け、ついに『寿し藤』の勝手口の前へとたどり着いてしまった。………やっぱダメか。次の練習であった時に機嫌が直ってるか分かんねーけど、何かしらの形でフォローしてくしかねーな……。
「あー………じゃあ雅美、俺帰るわ。また明後日の練習でな。今日は遅くまで付き合ってくれてありが——」
「——埋め合わせ!」
遮るように、俺に背を向けたままま雅美が言う。
そして、くるりと振り返ると、
「埋め合わせ、してください。………私のこと、ちゃんと気にしててくれてるって言うなら」
真っ直ぐと俺に人差し指を向け、そう言った。
その表情は、何と言ったらいいのだろうか。頬がやや紅潮していて一見怒っているような、真剣なような表情にも見えるのだがなんつーか無理やり感があって、気のせいでなければ何かしらの感情を覆い隠しているように見えた。
「埋め合わせ、って………。具体的に何すりゃいいんだよ。そりゃ出来ることはしてやるっつったけどよ……」
「む。それは自分で考えて欲しいですけど………。確かに竹中さんにそんな女の子を喜ばせられるだけの甲斐性を期待するのも酷な話ですね」
「おい」
憎まれ口をたたく雅美に抗議の声を上げる。………でもまあ、なんかいつもの雅美に戻った感がして安心感があるのも確かだったので、それ以上は何も言わないでおく。
俺の呆れの表情を見て、雅美はいつもの揶揄うような笑みを浮かべて、
「じゃあ、今週末の日曜日どっか連れてってください。それでとりあえずは許してあげます♪」
「とりあえずって………。他にもなんかさせる気かよ」
「当たり前じゃないですか。ミミはホームステイさせてもらってるんだし、一回付き合ってもらうだけで釣り合うわけないでしょ?」
そう、当たり前のことを言い聞かせるように言い放つ。まあ、気を悪くさせてしまったのは俺の方なので、正直分が悪い。ここはもう諦めて言うとおりにするより他ない気がする。
「はいはい。………で? どこ連れてきゃいいんだよ」
「それは自分で考えてくださいよ。竹中さんのセンスにお任せします。………楽しみにしてるんで、ちゃんとエスコートしてくださいね?」
そう言って雅美は何が可笑しいのかクスクスと機嫌よさそうに笑って見せた。………まあ、とにかく、機嫌直ったみたいでよかったわ。
「わーったよ。とりあえず適当になんか考えとくわ。………とりあえず今日はもう帰るから、また部活でな」
「はーい♪ おやすみなさい」
そう言って手を振って家の中へと入っていく雅美。それを見届けて俺も帰路へ着く。なんつーか、振り回された感が半端ない。これからは、下手に雅美を怒らせねー方が賢明かもしれねーな……。
………ってか、さっきまであんな怒ってたのに、いくらなんでも機嫌直るの早すぎじゃね? もしかして俺から譲歩を引き出すためにわざとあんな態度取ってたんじゃ………。
「いやまさかな………でも雅美ならありうる気も……うーむ……」
そんな風に、悶々としながらバスに揺られている間に、気が付くと自宅に着いていた。
というわけで十五話でした。
雅美はもっと動かしたいなーとずっと思ってたので、今回そこそこ動かせて満足です。微妙にキャラ固まりきってなくて手こずりました。
思ったよりめんどくさい子になっちゃいましたが、めんどくさい女の子って可愛いと思う(主観)
ちなみに十五話書き始めたときはデートする予定は微塵もなかったのですが、どうしたら雅美の気が収まるだろうか?と考えて気が付いたらこうなってました。……雅美ちゃん、恐ろしい子!