ロウきゅーぶ 下級生あふたー!   作:赤眼兎

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■第二十話 三線速攻

<第1クォーター>

 

「——よし、作戦は以上だ。相手の出方次第で変えるかも知んねーが、基本的にはガンガン強気で攻めてもらってかまわねぇ」

 

「了解です!」

 

「りょーかい!」

 

「分かった!」

 

「相手は強豪校で、一度負けている相手だ。確実に楽な試合にはならないと思う。……でも負けるつもりはねーだろ?」

 

「とーぜん!」

 

「ウィ、もちろんです」

 

「よし。……ここまで来たら後は自分たちが信じてやってきたことを出し切るしかねえ。思う存分暴れてこい!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 五人は気合の入った声で返事をして、勢いよくコートへと飛び出していく。その背中を見送り、ふう、と息を吐いて用意された慧心側ベンチのパイプ椅子に腰かける。ふと視線を感じて隣を見ると、同じくパイプ椅子に腰かけた美星がニヤニヤ笑いながら話しかけてきた。

 

「にゃふふ~、様になってんじゃん。試合前に選手に闘魂注入! ってヤツ? よっ、流石竹中コーチ!」

 

「くっ………。うっせー、茶化すんじゃねーよ。これでも緊張してんだっつーの」

 

「そーなのか? 慣れてるもんだと思ってたけどな。男バスでも似たようなことやってたんだろ?」

 

「一応な。でもコーチとキャプテンとじゃなんか感覚違うんだよ。上手く説明できねーけど」

 

「ふーん。そういうもんなのか」

 

「そういうモンなんだよ」

 

 そんな風に美星を適当にあしらって、再びコート上に視線を移す。見ると、かげつと荒巻がセンターサークルに入り、残りの八人がそれを取り囲む様子が目に入った。ジャンプボールの準備だ。

 

二人の間に立つ審判の手から放たれたボールが高々と宙に舞う。そして、最高到達点に達した——と思った次の瞬間。

 

「………っ!」

 

「ナイスなのヨ! さすがマッキー!!」

 

 高くジャンプした荒巻が空中でボールをタップする。ほぼほぼ最高到達点に近い所でボールに触れやがった。………反則だろ、あの高さ。

 

 弾かれたボールをキャッチしたのは、背番号八番、クロエ・ランベール。相も変わらず金髪をクロワッサンのようにドリル上にカールさせたそいつは、悔しそうに顔を歪ませるかげつを勝ち誇ったように眺め、左手でビシッ! っとかげつを指さすと、

 

「ふふん、高さでうちのチームに勝とうと思ったのがそもそものマチガ——」

 

「隙アリ、デス」

 

「な!?」

 

 そう宣言し、体勢を低くした状態で音もなく接近したミミが、一瞬にしてクロエからボールを奪い取る。そのまま敵陣まで矢のように走り、ゴール下からレイアップシュートを決めた。ジャンプボールを取るために全員センターサークルに集まっていたため、敵陣はがら空きだった。………さてはミミのヤツ、狙ってやがったな。

 

「ナイスミミ! さっすがー!」

 

「へっへーん、クロワッサンのヤツ、あっさりスティールされてやんのー」

 

「グ、グヌヌヌヌ」

 

 椿と柊に煽られ、悔しそうに地団太を踏むクロエ。荒巻をはじめとした味方からも冷ややかな視線を向けられている。余裕ぶっこいてるからそうなるんだっつーの。

 

 敵陣から軽やかな足取りで戻って来たミミに、かげつが申し訳なさそうに、

 

「あ、ありがとう、ミミ。………ジャンプボール負けちゃってごめん」

 

「相手が相手なので、気にすることはないデス。その代わり、リバウンドは任せマシタ」

 

 さらり、となんでもないように言って自陣に戻り、ディフェンスの体勢を整えるミミ。いいぞ! なんか今日はいつになく頼りがいがあるくねーか?

 

「あーあー。折角私がジャンプボール取ってやったのに、全部無駄にしてくれちゃってまあ」

 

「ウッ、ご、ごめんナノヨ……マッキー……」

 

「………なら次からは取った後すぐに私にパスして。オフェンス行くよ」

 

 しゅん、と項垂れるクロエをピシャリと叱責し、エンドラインからパスを受けて慧心側ゴールに進んでくるのは相手チームの4番、ポイントガード——確か名前は東山つばめ、だったはず。癖毛と眠そうな垂れ目が印象的で、ぱっと見だとぼーっとしてそうな印象があったんだが、割とはっきり言うタイプなのな。

 

 東山がボールを運んでいる間に、他のチームメイトが次々とオフェンスのポジションに付いていく。インサイドに二人、アウトサウドに三人。五色中央得意の高さを活かしたセットオフェンスの陣形だ。それに対してこちらのディフェンスの陣形は——2-3のゾーンディフェンス。

 

 前方の右と左のハイポスト付近にそれぞれ一名ずつ、後方の右と左のローポストに1名ずつ、そして中央のゴール下にセンターのかげつを配置するようなポジショニングだ。狙いとしては——。

 

「確か、一番インサイドを守りやすい陣形なんだっけか?」

 

「ああ。五色中央のスタメンはインサイドからの攻撃が得意な奴ばっかだから、そっちの対処に比重を置いたってわけだ」

 

 五色中央と戦う上で一番の課題となるのが、身長差によるミスマッチだ。オフェンス一人に対してディフェンス一人がマッチアップするマンツーマンディフェンスの場合、どうしてもミスマッチが生じてしまう。しかし、相手オフェンスに対し組織的に対処することができるゾーンディフェンスであれば、インサイドでも対抗できるようになる、というワケだ。

 

「なーるほど。それで四月からずーっとディフェンス重視で練習させてたんだな。弱点であるインサイドの克服のために」

 

「……それだけじゃねーけどな」

 

「ほー。というと?」

 

「速攻決めるうえでディフェンスは必要不可欠だからだよ」

 

「ん? なんで速攻がディフェンスに関係あるんだ?」

 

「それは——。………ま、見てれば分かるさ」

 

 そう言って、再びコートに目を向けるよう美星を促す。

 

 状況は未だ五色中央がオフェンスを続けている。パス回し等、アクションを起こしてこちらのゾーンディフェンスの穴を探っているようだ。迂闊に攻めてくる様子はない。最初だし、様子見に徹しているというのもあるのだろう。

 

「……! 真琴っ!」

 

 隙を見つけたのか、スリーポイントラインの頂点付近に居る東山から、ハイポストとローポストの中間付近に居る荒巻に今までよりも鋭いパスが出される。しかし——、

 

「さっきのお返しです!」

 

「うおっ」

 

「ナイススティール、ゲッタン!」

 

 ボールが荒巻に届く前に、かげつの右手がパスを阻む。わざと荒巻の所をフリーにして、あえてパスを出させるよう誘導していたようだ。手足が長くて反射神経がいいから、練習の時からパスカットが上手かったけど、本番でも決めてくれるのは非常に頼もしい。

 

「トレビアン、カゲツ。——いきマスヨ」

 

「……っ。速攻、来るノヨ!」

 

 ——攻守が切り替わる。

 

 ハイポスト付近に居た椿がコートの左サイドを走り、すかさずかげつがパスを出す。ボールを受け取った椿はそのままドリブルしてゴールを目指す。

 

「させないカシラ!」

 

 その椿をクロエが追いかける。………相変わらず、オフェンスからディフェンスへのトランジションが恐ろしく速い。実際、こいつ一人のディフェンスで時間を稼がれ、速攻を潰されたことは前回の敗因の一つだった。しかしこちらもそれは既に対策済みだ。

 

「ひー、任せた!」

 

「ナイスパス、つば!」

 

「ム!?」

 

 クロエが椿に追いつく直前で、コートの中央を走る柊にパスが渡る。椿が走り出すのとほぼ同時に動き出し、パスを待つような形で並走していたのだ。

 

「くっ……逃がさないノヨ!」

 

 瞬時に標的を椿から柊に変え、尚も追いすがるクロエ。すさまじい執念だ。だが——、

 

「ヒイラギ、こっちデス」

 

「……! ミミ、任せたっ!」

 

 今度は中央の柊から右サイドラインを走るミミへパスが渡る。そのままフロントコートに単独で突撃し、先ほど先制シュートを決めたときと同じように、ノーマーク状態でゴール下からレイアップを決めた。

 

「ナイッシュー!」

 

「へへーん、作戦通り!」

 

「ウィ、練習通りに出来マシタ」

 

 パチン! と笑顔でハイタッチを交わす三人。うし、この分だと安心して見ていられそうだな。

 

「グヌヌヌ、ミミのヤツ。三対一とはヒキョウなり………」

 

「すまんクロ、戻りが遅くなって一人にしちまった」

 

「………相手は速攻主体のチームだから、ターンオーバー直後はすぐディフェンスに戻るようにしよう。………私も、今出来てなかったから気を付ける」

 

 冷静にチームメイトへ呼びかけを行う東山。すぐに対策を講じてチームメイトに呼びかけを行えるのは、流石強豪チームのキャプテンって感じだな。

 

 再び五色中央のオフェンスが始まる。陣形はお互い先ほどと同じだが、敵チームの動きが先ほどよりあまり良くないように感じた。………ディフェンスへの切り替えを意識し過ぎているせいで、オフェンスが固くなっちまってんのか? なんにせよチャンスだ。積極的にディフェンスしていけ!

 

「ツバメ、後七秒しかないノヨ! なんでもいいから早く回すカシラ!」

 

「………言われなくても、分かってる」

 

 バスケには、ボールを保持するオフェンスチームは二十四秒以内に攻撃を終わらせる必要がある、というルールがある。オーバーすると相手ボールとなってしまうため、制限時間以内にシュートを仕掛けるということもオフェンス時には意識しなくてはならない。特に時間をかけて攻撃するセットオフェンスの時は重要なのだ。

 

「………メグ!」

 

 東山から敵チームの六番、茅原恵美にパスが通る。眼鏡を掛けた気弱そうなやつだがアウトサイドからのシュートが得意だったはず。といっても雅美のような3Pライン外からではなく、あくまでミドルレンジからのシュートだが。

 

 制限時間がない、ということもあってすぐにシュート体勢に入る茅原。シュートフォームも綺麗だし、上背もある。これは流石に決められちまうか? と思った刹那、

 

「甘い!」

 

「……っ!?」

 

 茅原の手からボールが離れた直後、雅美の手がそれを叩き落とす。シューターはシューターを知る、とでもいうのか、ブロックのためのジャンプのタイミングが完璧だった。

 

「「ルーズボール!!」」

 

 床に転がったボールに両チームの意識が向く。結果ボールをキープしたのは——かげつ。再び慧心ボールだ。

 

「………また速攻来る! 急いでディフェンス戻るよ!」

 

 椿、柊、ミミ、クロエが一瞬で駆け出す。少し遅れて東山、さらに遅れて残りの五色中央の三人と雅美が駆けだした。

 

「柊!」

 

 今度は先ほどとは逆サイド。右のサイドライン沿いを走る柊にパスが通る。今度は東山が柊に追いすがるもすかさず中央の椿、そして左サイドのミミへとパスが回る。

 

「そう何度も決めさせないカシラ!」

 

 見事というかなんと言うか。クロエはミミに追いついていた。行く手を阻まれミミの足が止まる。しかし——、

 

「1on1なら、ワタシがアナタに負ける道理はありマセン」

 

 体をコマのようにその場で一回転。一瞬にしてクロエを抜き去り、ゴール下からシュートを決めてしまった。ミミの得意技の一つ、ロールターンだ。

 

「ぐんぬぬぬぬぬぬ!! ミミのヤツぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 あっさりと抜かれ、その場で地団太を踏むクロエ。相当悔しかったのだろう。目にはうっすらと涙を浮かべていた。

 

「ナイス三連続! やるじゃない、ミミ!」

 

「むー。なんだかミミばっかシュート決めててずるくない?」

 

「そろそろ僕たちもシュートしたいよ」

 

「文句なら、配役を決めたタケナカに言ってクダサイ。ワタシはチュウジツに仕事をこなしているだけに過ぎマセン」

 

 ぶー垂れる椿と柊に、シレっとした表情で言い返すミミ。ちなみに文句言われようと変える気はねーからな。この役割分担が最善だ。

 

「おおー。なんか圧倒してね? 五色中央相手でも通用するんだな、あの速攻」

 

「とーぜん。うちのメイン戦法にする予定だからな。この『三線速攻』は」

 

 ——『三線速攻』。

 

読んで字のごとく、左右のサイドラインと中央の三つのラインをそれぞれ選手が走ってパスを順番に回し、ラストパスを受け取った選手がシュートを決める速攻のことだ。素早く息の合ったパス回しのできる椿、柊、ミミの三人にはこの戦法が最適、と思って採用したが、正直想像以上だった。へへ、毎朝一緒に練習してる三人が活躍してんのを見ると鼻が高いぜ。

 

 そう思っていたのが顔に出ていたのか、美星が隣でニヤニヤとイヤ~な笑みを浮かべて、

 

「にゃふふ~、自分の好きな戦術を妹たちが使いこなしててご満悦、ってカンジだなぁ。竹中?」

 

「は? い、いや別に好きとかじゃ——」

 

「とぼけんなってー。前からどっかで見たことあるなーって思ってたんだが、確かこれ竹中の代の六年男バスの得意戦術だろ? 去年の公式戦でもよく使ってたヤツ。妹たちに必殺技をプレゼント! って可愛いとこあるなーお前」

 

「んな!? ち、ちげーし! 別にそう言う意図で教えたわけじゃねーから! 単純にこれが一番チームのためになると思っただけであってだな……!」

 

 ニヤけヅラでからかってくる美星に対し、全力で抗議するが、『はいはい、分かった分かった』と軽くあしらわれた。くそ、試合中だってのに何度も茶々入れてくるんじゃねーよ……!

 

「あ、そう言えば。さっき言ってたディフェンスが必要不可欠ってのは結局なんでなんだ? 見ててもイマイチピンとこなかったんだが」

 

「………今の二つの速攻は両方ともディフェンスから始まってただろ」

 

「ん? ……あー言われてみればそうだな! スティールでうちがオフェンスになった瞬間に全員走り出してたっけか」

 

 合点がいったような顔で頷く美星。

 

「まあそう言うこった。速攻するにはまず相手からオフェンス権を奪取しなきゃなんねー。オフェンス権を奪取するには相応のディフェンス力が必要。だから意外とディフェンスありきの戦術なんだよ、速攻って」

 

 相手にシュートを決められちまったらすぐディフェンスに戻られちまうからな、と最後に補足する。

 

「とりあえず、この分だと第一クォーターは何とかなりそうか?」

 

「多分な。見てる感じ、こっちの速攻にイマイチ対応できてねーみたいだし。向こうのベンチが何も動いてこないのが若干不穏ではあるが………」

 

 相手の監督が居る五色中央側ベンチをちらり、と見る。タイムアウトや選手の交代をしてくる様子はない。なんなら、指示すら出していないように見える。

 

「まあ、考えていても仕方ねーか……」

 

 そっちが何もしかけてこないなら、とりあえず今は稼げるだけ得点を稼がせてもらうとしよう。

 

 そんな風に胸中にはわずかに不安があったが試合は終始慧心ペースで進み、第一クォーターが終わるころには十点以上の差を付けることができていた。

 

                            慧心 18—6 五色中央

 




試合シーン難しかったです。
バスケにわかなので知識間違ってないかなーってびくびくしながら書いてました。間違ってたら優しく指摘していただけると嬉しいです。

ゾーンディフェンスは15歳以下は禁止されているらしいのですが、本編でガンガン使ってたので拙作でも使って問題ないことにしました。恐らく本編が出ていたころはまだ禁止されていなかったとかそういう事情があるのかなあと。

今週末くらいに次の話投稿しようと思ってますので、そちらも見て頂ければと思います。
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