今回はちょっと長めです。
「よーし! よくやったぞお前ら!」
インターバルに突入し、ベンチに戻ってくる五人に労いの言葉をかける。テンションが上がったせいか、やや声は上ずってしまっていた。
第一クォーターの結果は18-6。まさに慧心の持つ攻撃力が爆発した結果といえるだろう。五人の表情も得意気だった。
「へへーん、十二点差もつけてやったよ!」
「にーたん、僕たち凄く頑張ったよ!! えらい? えらい?」
「ああ! 最高の仕事をしてくれたぜ!」
そう言って、わしゃわしゃと椿、柊の二人の頭をこれでもかってくらい撫でてやる。それはもう全力で。
「「えへへ~~」」
撫でられて、満足そうににへら~~、ととろける様な笑みを浮かべる二人。くうぅ、俺の妹は本当に可愛いなあ!! 今ならなんでも好きなもの買ってやりたい気分だぜ!
「竹中さんってシスコンだったんですね~。ドン引きです~」
「これがニッポンのHENTAIというヤツデスカ。まさか身近に居たとは驚きデス」
後ろからミミと雅美のやたら平坦な声が聞こえてくるがそんなこと気にしていられない。今日ばっかりは手放しで褒めてやりたい気分なのだ。二人の努力を間近で見てきたからこそ、ジーンとくるものがあったのだ。てか、そもそも妹と仲が良くて何がわりーんだって話だ!
「おーいお前ら、仮にも試合中だぞ。インターバルは二分しかないんだからそろそろ真面目にやれよー」
「………コホン、それもそうだな」
美星の言葉で我に返り、二人を撫でていた手を止める。雅美とミミが白けた視線を向けてきているがガンスルーを決め込む。
「事前の打ち合わせの通り、第二クォーターでは速攻は使わない方向で行くんですよね?」
「ああ、ポイントガードの雅美を機軸としたセットオフェンス中心で行く。主な目的は体力の温存と——、」
「相手を速攻に慣れさせないこと、デスね」
「そうだ。現に第一クォーターの最後の方は相手もうちの速攻に少しずつ慣れて戻るの早くなってただろ。だから第二クォーターは敢えて速度を落として緩急をつける」
「分かりました。荒巻さんも多分まだ本調子じゃないので、セットオフェンスでも十分戦えると思います」
そう言って頷くかげつ。第一クォーターで荒巻へのパスコースを徹底して潰していた影の功労者だ。かげつが言うのであれば荒巻がまだ本調子ではないというのも信用できる。
「とはいえ相手は強豪・五色中央学園だ。生半可なオフェンスしてたんじゃ合宿の時の二の舞になっちまう。チェンジ・オブ・ペースを心がけて相手のディフェンスを徹底的に掻き回せ!!」
「「「「「了解!」」」」」
そう威勢よく返事をして、再びコートに戻るため席を立つ五人。俺はその背中を見送ろう——としたところで、
「あー。雅美」
「? なんですか」
俺に呼び止められ、振り返って小首を傾げる雅美。他の四人は既にコートに向かってしまっている中、一人だけ取り残されるような形になる。いかんいかん、時間ねーから早く済ませねーと。
「えーと。ポイントガード慣れてないのに、すげー重要な役割任せちまってすまん。でも、お前ならきっと出来るって信じてる。だから——、」
すんなりと言葉が出てこない。コーチらしく、キーマンである雅美を激励しようと思ったのだが、こういうのはいざ言葉に出そうとするとなんか恥ずかしくなっちまう。
口ごもる俺を見て、雅美は笑みを浮かべると、
「今更何言ってるんですか、竹中さん。もう三週間以上前から決まってたことじゃないですか」
「あ、ああ。まあ、そうだな……」
「あ、でもその代わり——、」
そう言って、雅美は悪戯っぽく笑って、
「ちゃんとできたら、私のこともつばひーみたいに褒めてくださいね?」
***
<五色中央側ベンチ>
「いやー。こっぴどくやられたねえ」
「やられたねえ………じゃないカシラ、イヌヤマ! 笑ってないで監督として何かアドバイスの一つでもしやがれナノヨ!」
「あっはっは、ごめんごめん」
「ムキー! コイツ、全くシンケンミが感じられないノヨ!」
「く、クロちゃん。先生に向かってその口の利き方はさすがにまずいんじゃ………」
「でもまさか第一クォーターで十点差以上つけられちまうなんてな。合宿の九重戦でもここまではやられなかった気がするんだが」
「………クロ、合宿の時みたいにオールコートディフェンスで速攻止めることはできないの?」
「うーん……ムズカシイと思うノヨ。追いついたと思った次の瞬間にパスだされちゃうカラ……」
「あー。クロが見事に振り回されてたやつか。よくできてるよな、あの速攻」
「最終的に何とか追いついても待っているのはラスボス、ミミちゃんとの1on1だもんねぇ。合宿で初めて見たけど、クロがタイマンで止められないなんて何の悪夢かと思ったよ、あたしゃ」
「グヌヌヌ………テッシー、余計なコト言わなくていいノヨ………。ソノキになれば、ソノキになればワタシが負けるわけないノヨ………」
「なら早くその気になってもらえると助かる!」
「多分、クロが手こずってるのはそれだけじゃないと思うよ」
「………どういうことですか? 先生」
「気付かなかった? ターンオーバー直後のサイドラインへのパス、クロが右サイドに居るときは左へ、左サイドにいるときは右へ出てるんだよ。出来るだけクロとの距離を稼ぐことを意識しているんじゃないかな」
「あー、だから右からだったり左からだったりバラバラだったんだ、あの速攻。初動でクロにさえ追いつかれなきゃいいって考え方なわけっすね!」
「正解だよ、茜。………多分だけど、右から行くか、左から行くかの判断はあの双子ちゃんがどっちの方向に走り出すかで決まってるんじゃない? お互いの判断がかみ合わなかったらぐちゃぐちゃになりそうだけど、そこは阿吽の呼吸ってやつなんだろうね。ミミちゃんが目立っているように見えて、あの三線速攻のキーマンは実は双子ちゃんだと思うんだよね」
「………先生、そこまで分かっているならタイムアウト取るなりして教えて欲しかった」
「タシカニ! イヌヤマは意地悪ナノヨ!」
「このくらいでタイムアウト取ってたらキリないよー、つばめ。コート上では君が指揮官なんだから、自分で考えて自分で気付いて欲しいなぁ」
「………う」
「それにこれは君たちが望んでた試合なわけじゃん? 希望があってわざわざ組んだんだから、自分でなんとかするくらいの気概を見せてくれるって期待してたんだけどなー」
「まーキャプテンは頭いいけどアドリブに弱いとこあるっすからねー。大方ハイペースな試合展開で考えをまとめる余裕がなかったんでしょう。やればできる子ではあるんで、大目に見てあげて欲しいっす!」
「………茜、うるさい。茶化さないで」
「ひゃー、おっかねー。黙っときまーす」
「だ、ダメだよ茜ちゃん。今真面目な話してるんだからちゃんと聞かないと。………つ、つばめちゃん。私たちも協力するから一緒にがんばろ……? さっきはシュート止められちゃってごめんね……?」
「そうなノヨ、ツバメ! ワタシたちが付いてるカシラ!」
「………ありがと、メグ、クロ。………まだキャプテンって正直慣れないけど、精一杯頑張る」
「うん、その意気だ。………さて、ヒントは十分に与えたつもりだけど、具体的にどう攻略する?」
「………速攻をどう防ぐか、よりそもそも速攻を打たせない、というのが良いと思う。うちがきちんとシュートを決めればターンオーバーが発生しないから相手は速攻を出しづらくなる。そのためにはちゃんとシュートを打つところまで持ち込むのが大事、なんじゃないかなと」
「うんうん、それで?」
「………無理やりインサイドに持ち込むんじゃなくて、第二クォーターからはメグのアウトサイドシュートを積極的に使ってに攻めるのがいいんじゃないかな、と思う。………もちろん、インサイドからの攻撃の手を緩めるつもりはないけど。内と外から攻撃を仕掛けて、相手ディフェンスを揺さぶってみようと思う」
「なるほど、面白そうだね。………皆はどう思う?」
「ツバメが頑張って考えた作戦なら、ワタシはそれに従うノヨ!」
「右に同じっすー! メグは?」
「そ、そうだね………あんまり自身ないけど、それが皆のためになるなら、がんばるね」
「私も、スロースタータ―とか言ってないでそろそろ本気出すわ………」
「「「「それは本当にそうしてほしい(ノヨ)」」」」
***
「さあここからが本当の勝負ナノヨ!」
五色中央ボールで第二クォーターが始まる。相手オフェンスの陣形はさっきまでと同じ。あくまで自分たちの得意な戦術で攻める気のようだ。しかし、攻撃パターンが多彩になっていた。
「ほいっと!」
「……!」
東山が仕掛けたドライブに対してディフェンスをする椿。しかしローポストからハイポストまで上がって来た相手の5番、勅使河原茜がついたてのように椿の行く手を阻み、東山を追わせないようにする。見事なスクリーンプレーだ。
「行かせないわ!」
「ナイススイッチ、ましゃみ!」
椿に代わり、ローポストに居た雅美が東山の行く手を阻む。——結果、若干こちらのゾーンディフェンスの陣形に綻びが生じる。
「………メグ!」
東山からパスが回る。雅美がフォローに回ったことで空いたスペースに茅原が入り、パスを受け取る。ディフェンスが外れ、フリーになった茅原はゆったりとしたモーションでそのままシュートを決めた。
「ナイッシューメグ! ……フフン、第二クォーターの先取点はいただいたカシラ!」
「………クロ。速攻来るから即戻って」
「オットット、そうだったノヨ! ………ってアレ?」
即ディフェンスに戻る五色中央面々の警戒を裏切るかの様に、緩いペースで焦らす様にじわじわと距離を詰める雅美。リアクションを見るに、とりあえず相手の想定からは外れられたみてーだな。
「………仕掛けてこない?」
雅美に続き、他の四人もそれぞれセットオフェンスのポジションに付く。かげつのみ内側、他四人は外側に居座るような形だ。
この陣形は葵さんのアドバイスで練習していたかげつを司令塔とするオフェンススタイルの亜種にあたる。違いとしては司令塔を雅美に変え、かげつをインサイドの争いに注力させることが出来るようになったという点。その代償として雅美のリソースが割かれちまうが、残り三人の持つ個性的な得点力は健在だ。雅美が司令塔として成長すれば、リソース面の課題も解決するだろうしな。
しかし、この陣形の主目的は体力の温存だ。ディフェンスを振り切る必要があるとはいえ、かげつ司令塔時代のように常時全員が全力で動き過ぎると第四クォーターでヘロヘロになってしまう。それ故に、
「ああもうじれったい! いつになったら攻めてくるノヨ!?」
ターンオーバーされない様細心の注意を払いつつ、緩慢な動きでドリブルやパスを繰り返し、時間を目いっぱい使う。そして、二十四秒タイマーが残り十秒を切った瞬間——、
「っ!?」
一斉に全員が動きを加速させる。先ほどまでのゆったりした動きはこのための目くらましだ。ディフェンスを振り切るのに常に全力で動く必要はない。大事なのは緩急をつけること。直前のスローペースでの仕掛けがあるからこそ、スピードという武器は最大限効果を発揮するのだ。
「椿!」
「ひー!」
「ナイスパス、つば! ………ゲッタン、行くよ!」
「うん! きて、柊!」
かげつの仕掛けたスクリーンを駆使し、ディフェンスを振り切ってフリーになった柊がゴール下からレイアップを決める。
「へへーん、さっきのお返しー!」
「グヌヌヌ………コシャクなりタケナカツインズ………」
「………いちいち相手してたらキリない。次いくよ」
続いて五色中央のオフェンス。茅原の打ったアウトサードシュートはリングに弾かれたものの、リバウンドを荒巻に取られ、そのままシュートを決められてしまった。
再びボールは慧心へ。さっきと同じように、じっくりと攻撃の機会を伺う様にパスを回していく。一方の五色中央メンバーは警戒態勢。うかつに隙を作らない様、慎重にオフェンスとの距離感を図っているようだった。
「………。それなら——」
「………!?」
何かをひらめいたように、スリーポイントラインの内側から外側へとバックステップする雅美。マッチアップ相手である茅原は想定外だったのか、チェックに行くことができない。緩いリズムのままシュートフォームに入り、伝家の宝刀、スリーポイントライン外からのロングシュートを解き放つ。リリースされたボールは綺麗な弧を描き、ゴールネットを通過した。
急加速を警戒する相手ディフェンスを裏切る見事なプレーだ。やるじゃねーか、雅美のやつ!
「スナイパー、藤井雅美。——仕事完了」
でもそのキメ台詞はすげー腹立つ! てかまだ試合中なのに仕事完了もクソもあるか!
だがここでロングシュートを成功させたことの意味は大きい。次回からのオフェンスで相手に『ロングシュートが来るかもしれない』という警戒感を与えることができる。そうなればより雅美が動きやすくなるハズだ。
続く五色中央のオフェンスは未ゴールで終了。茅原へのパスを読んだミミが機敏なディフェンスでスティールを成功させた。このクォーターになって初めてのターンオーバーだ。
「ディフェンス! すぐ戻るカシラ!」
これはさすがに速攻を仕掛けてくる、と思ったのか、一目散に自陣ゴールへと戻る五色中央メンバー。しかしそれを裏切るかのように、こちらは緩いペースで相手陣地へと進軍する。
それを見て東山は訝し気な表情を浮かべ、
「………結局、ターンオーバーになっても速攻は仕掛けてこないんだね」
「ムー、なんなのヨ! 第一クォーターではあんなに激しく攻めてきたって言うノニ!」
「………藤井、前回の戦った時はポイントガードやってなかったのに。合宿の後から今までで練習してきたってことなのかな」
「知らないノヨ! でも前はハカマダが司令塔みたいな感じだったカシラ!」
「………。なるほど」
相手がそんなやり取りをしているうちに、慧心のオフェンスが始まる。
先ほどと同じように、バックステップをしてシュートフォームに入る雅美。二度も同じことはさせない! と言わんばかりに、今度はしっかりチェックを掛けに行く茅原。しかし——、
「そう来ると思った……!」
「!? しまっ——」
シュートはフェイク。ディフェンスに来た茅原の脇をすり抜けるような形でハイポストに来ていたかげつにパスが回る。そのままくるりとその場でターンしてゴールに向き直り、放ったシュートはゴールネットをくぐった。
「ナイスシュート! かげつ」
「ちゃ、ちゃんと決まって安心したよ………」
雅美の賞賛の言葉にホッと胸を撫でおろすかげつ。もし外していたら十中八九リバウンドを拾われてしまっていただろうから、気持ちは分かる。
「………メグ、ちょっといい?」
「ひゃいっ!? ごめんなさいっ!」
「………謝られると傷つくんだけど。ちょっと耳貸して」
「つ、つばめちゃん……? どうしたの?」
東山に声を掛けられ、驚いたような声を漏らす茅原。雅美に出し抜かれた直後だし、怒られるとでも思ったのだろうか。
一言二言茅原に耳打ちした後、茅原がコクンと頷いたのを見届け、ボールを受け取ってオフェンスを再開する東山。内容は気になるが、試合に集中しねーと。
そんな風に気を引き締めたものの、東山は巧みなパスワークを用い、得点を奪ってみせた。
アウトサイドシュートを持つ茅原を陽動に使い、インサイドにスペースを作ってからセンター荒巻のポストプレーで仕留める、という一連の流れはセットオフェンスのお手本のようだった。第一クォーターの時のように攻めあぐねる様子はない。
まるで自分たちのリズムを取り戻した、とでも言いたげな感じだ。速攻の対策をしっかり練って来たであろうタイミングで出鼻をくじいてやったつもりだったんだが、アテが外れちまったか……?
「つっても、セットオフェンスでも上手く行っているし、スタミナを考えるとここで速攻に戻すのはちとはえーしな………」
「一応、控えの五年生の誰かと交代って手もあるぞ。メンバーチェンジありのルールにしてもらったし」
「うーん……」
ちらり、と下級生五人の方を見る。一応、交代要員として準備はしてもらっているが、本当に万が一の時の備えだ。基礎が身に付きつつあるとはいえ、誰と交代するとしても大幅な戦力ダウンは避けられない。
「相手が相手だし、今のところ最後まで上級生五人で戦い抜く想定で考えてる。あいつらもこの前の借りを返してーと思ってるだろうしな」
「ま、確かにそだな」
下級生たちには折角準備してもらってるとこ悪いけどな。一応、この試合の後相手の五年生チームと戦う機会は与えてもらっているので、その時に活躍してもらうとしよう。
意識を再び試合に戻す。丁度全員がオフェンスのポジション取りを完成させたタイミングだった。
ふと、違和感を覚える。見慣れた形のはずなのに、微妙に記憶と違うようなそんな感覚。その原因は——、
「マッチアップが入れ替わった……?」
五色中央のディフェンスはマンツーマンだ。各々が各々の担当領域を守るゾーンディフェンスとは異なり、相手オフェンスに対し、一対一でディフェンスするのが特徴だ。誰が誰を担当するか決めてマッチアップする、というわけだ。
先ほどまでは、ミミにはクロエ、かげつには荒巻、椿には東山、柊には勅使河原、雅美には茅原がマッチアップしていたのだが、今は東山と茅原が入れ替わるような形となっている。狙いは何だ……?
自身の目の前に立ちふさがる東山を見た雅美は得意気な表情を浮かべ、
「あら、アンタが直々に相手してくれるの? あのメガネの子じゃ、私のオフェンスを止められないって思ったわけね」
「………そんなつもりはなかった」
「ふーん、じゃあ、一体どういうつもりなのかしら?」
「………別に。単に、司令塔としての心得を、私は先生から教えてもらって理解しているだけ」
「?」
東山は、意味が分からない、と小首を傾げる雅美の目を真っ直ぐ見て、
「………相手チームの弱点を見つけたら徹底的に叩くのが、勝利への近道だって」
「………ッッ! 上等じゃない!!」
挑発を受け、強い視線で東山を睨みつける雅美。左から東山の肩越しに一瞬パスを出すふりをした後、右方向からドライブで敵陣へ切り込んでいこうとする。しかし——、
「………ドリブルは苦手みたいだね」
「くっ……!」
瞬時に雅美の前に体を滑り込ませた東山が左手で雅美からボールを奪う。そもそも動きを読まれていたように感じる。フェイクにも全然釣られていなかった。
「ツバメ! こっちにボール寄越すノヨ!」
「………ナイス判断、クロ」
「なっ……!?」
「速攻!? 五色中央が……!?」
完全に思考の外。
フロントコートにへといつの間にか走り出していたクロエに、東山からのロングパスが通る。クロエはそのままノンストップで進み、ゴール下までたどり着いてレイアップシュートを成功させた。
「ここで速攻しかけてくんのかよ……」
思わず歯噛みする。クロエとしては単にその場の思いつきだったのかもしれねーが、五色中央はセットオフェンスオンリー、と思い込んでいた俺たちの意表を突く攻撃だ。今の一撃はメンタル面にも作用しかねない。
そう思い、立ちあがって大声で、
「落ち着け雅美、今のは仕方ない!! さっきまで通用してたんだ。お前の思うとおりにオフェンスすれば勝てる!!」
「………わ、分かってます!」
雅美にボールが渡る。マッチアップは先ほどと同じ、東山が雅美をマークする形だ。東山は雅美と絶妙な距離を保ち、プレッシャーをかける。雅美はそのせいでドリブルもパスも出来ずにいた。
「………どうしたの、制限時間きちゃうけど」
「……っ! そんなの、言われなくてもわかってるっての!!」
五秒バイオレーションを恐れ、苦し紛れにドリブル開始と同時にバックステップをする雅美。先ほどと同じシチュエーションだ。しかし——、
「………ロングシュート、打ちたいなら打てばいい」
「そう、なら………後悔しないことねっ!!」
吐き捨て、シュートを放つ雅美。東山はシュートブロックには行かず、プレッシャーだけ掛けに行くような距離感でディフェンスを継続する。恐らくパスを出されないようにするためだ。
「お願い、入って……!」
祈りもむなしく、雅美の放ったシュートはリングに阻まれ、大きくバウンドして宙に舞う。
「………スリーポイントラインからのシュートなんて、プロでも試合中三本に一本決まればいい方」
リバウンドを確保した荒巻を見つつ、東山がそう呟く。シュートを外した雅美と、リバウンドを確保できなかったかげつは悔しそうに顔をしかめる。
「………自分でドライブして切り込むことができないポイントガードなんて、微塵も怖くない」
「……ッッ!!」
以降は似た展開の繰り返しになった。
五色中央は茅原のミドルシュートを交えた内と外からの攻めで着々と得点を積み重ねていった。仮にミドルシュートを外したとしても、荒巻と勅使河原の二枚看板でオフェンスリバウンドを確保し、セカンドチャンスにつなげることができていた。
一方慧心は攻撃の起点である雅美が東山のディフェンスに抑え込まれてしまったのが痛く、思う様に攻撃を展開できずにいた。時折雅美がロングシュートを放つも、いつものように鮮やかに決めることができていなかった。恐らく外したらリバウンドを取られてしまう、というプレッシャーの影響があったのだろう。ロングシュートというのは、インサイドとの連携ありきである、ということを痛感させられた。
結果として、第二クォーターは点差を大きく縮められることとなってしまった。
慧心 26-20 五色中央
第二十一話でした。
雅美がぐぬぬってなる回。
感想とか評価とかいただけたら筆者のモチベ上がって投稿早くなったりするので、何卒よろしくお願いします(土下座)