ロウきゅーぶ 下級生あふたー!   作:赤眼兎

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 お待たせして申し訳ない。。。
一万字近くあるので時間あるときにお読みください。


■第二十二話 落ち着きのないブレイクタイム

 第二クォーターが終了し、十分のハーフタイムに突入したため、両チームの選手はそれぞれのベンチへと戻った。慧心は美星の発案で前半五分はトイレなり水分補給をするなり各自自由行動、後半五分は作戦会議という時間の使い方をすることにした。十分という時間は長いようで意外と短い。有効に使わないとあっという間に過ぎてしまう。何にどのくらい時間を使うか、あらかじめ決めておくことが肝心だ。

 

 俺は、とりあえずトイレにいって一旦頭を冷やすことにした。

 

「第一クォーターは思う様に試合を運べたが、第二クォーターは苦戦させられちまったな。さすがは強豪、簡単に勝たせちゃくれねーか……」

 

 洗面台で顔を洗い、今までの試合展開を振り返る。緩急をつけて相手のペースを乱すつもりが、逆に落ち着かせてしまったような印象を受けた。五色中央のポイントガードに考える時間を与えちまった。完全に俺の作戦ミスだ。

 

「つっても、一々引きずってる暇はねー。次どうするか考えねーと」

 

 思い通りに進まなかった試合なんて、自分でいくらでも経験済みだ。頭使うのは顧問の先生に任せっきりだったが、メンタル的には慣れている。逆にあいつらは、少なくとも俺よりは慣れてねーハズだ。

 

「だからこそ、俺が冷静になんねーとな」

 

 鏡での中の自分を睨みつけ、一人呟く。ある程度頭をクールダウンすることができたので、トイレから出てきた道を引き返す。次どうするか、あいつらになんて声をかけるか、いろいろ考え事をしながら歩いていると——、

 

「うわっ!?」

 

「!」

 

 前方不注意だった。

 

 角を曲がろうとしたところで誰かとぶつかってしまう。後ろに軽くよろけつつ、慌てて衝突した相手に声をかける。

 

「す、すんません!! ちょっとぼーっとしちゃってて………って、雅美?」

 

 不幸中の幸いというべきか、ぶつかった相手は顔見知りだった。よく知らない他人ではなかったことにホッと胸を撫でおろした——のも束の間、

 

「……っ!」

 

「お、おい、待てよ!!」

 

 俺の顔を見るなり、顔を背けて逃げ出そうとする雅美。不可解なリアクションに動揺しつつも条件反射的に肩掴んで引き止める。

 

「………放してください!」

 

「いや、放してっつーか、何も逃げることはねーだろ………」

 

 身じろぎする雅美に、半ば呆れつつ、声をかける。まあ、こっちとしても別に引き止める理由はねーけどな。

 

「………」

 

「………! お前——」

 

 観念して、俺に向き直った雅美の顔を見て思わず言葉に詰まる。

 

 雅美は、泣いていた。目を真っ赤に腫らして、涙を流しながら顔を歪めていた。俺が何も言えず黙っていると、雅美はそのまま崩れ落ち、体育座りの状態でうずくまった。

 

 何か言わねば、と思い体をかがめて雅美に近づく。

 

「あー……あのよ。ここだと人来るかも知んねーから、一旦あっちいこうぜ、な?」

 

 やや遠慮がちにそう声をかけると、雅美は顔を膝に埋めたまま、コクンと頷いた。

 

 

 

***

 

 

 

 場所は少し移動して校舎の二階の空き教室。休日だし、ここであれば人が来ることはないだろう。

 

 雅美は先ほどと同じ、体育座りで顔をうずめたままだ。どうやら、頑なに俺と顔を合わせることを拒んでいるようだった。

 

「あー………落ち着いたか?」

 

「………まあ、少し」

 

 やや鼻声のまま、か細い声で応える雅美。いつもの調子とは程遠い。ただ、声は震えていなかったので、あながち強がりというわけでもなさそうだ。

 

「えーっと、その、だな………」

 

 掛ける言葉が見つからず、口ごもる。なんで泣いていたのか、なんて聞くだけ野暮だし、追い打ちにしかならねーよな………。言うまでもなく、さっきの試合でのことだろうし。

 

 気まずい沈黙が訪れる。

 

 ………ダメだ、このままじゃマズイ。コーチとして、兄貴分として、雅美をあの状態のまま放っておくのは良くないと直感的に判断して引き止めたものの、どう接したら良いか全然分かんねえ。かといってわざわざ意味ありげに連れ出したからには何もしねーってのも微妙過ぎる。一体、どうしたら………。

 

 必死に思考を巡らし、頭の中の引き出しを片っ端から開く。たった十二年しか生きてねーが、なんか役に立ちそーな経験の一つや二つくらい——、

 

 

 

 ………………………………一つ、あった。

 

 

 

 妹たちを泣き止ませるときによく使っていた方法。その効果はテキメンで、使うと大概機嫌が直すことが出来る。

 

 ………いや、だが、いいのかこれ? 家族以外の、しかも女子にするのは大分ハズい。下手したら嫌がられるんじゃねーか、これ。しかし、他にいい案がある訳でもないし、時間もないので四の五の言ってられない。クソ、こうなったらヤケだ。

 

 半ば自暴自棄になりつつ、決意を固め、雅美の隣にしゃがみ込む。そして、恐る恐る右手を伸ばし、うずくまったままの雅美の頭に手のひらを置き、心を込めてゆっくりと前後に動かし始めた。これが、竹中家式ご機嫌取りメソッドだ!

 

 

 

 ………………………………いやまあ要はただ単に頭撫でるだけなんだがな?

 

 

 

 ビクリ! と驚いたように一瞬硬直する雅美。俺は気にせず、緊張しながらも手を動かし続けた。少しの間沈黙していた雅美だったが、数秒後、むくり、と顔を上げると、

 

「………………何してるんですか」

 

 やや頬を膨らませ、ジトっとした上目遣いで咎めるような目でこちらを睨んできやがった。先ほどまで泣いていたからか、やや頬が紅潮して目が赤くなっている。即座に右手をひっこめる俺。やべえ、あんまり見たことない表情だから、すげーを圧力を感じる……!

 

「な、泣き止んでくれればいいなーって思って………」

 

「へー。………ところで、女の子の頭気安く触るのって、法律で禁止されてるの知ってました?」

 

「し、知りませんでした………」

 

「そうですか。知りませんでした、で済んだら警察は要らないっていうのも追加で覚えておいていただけると助かります」

 

「はい、すみませんでした………」

 

 チクチクと追及してくる雅美に圧倒されつつ平謝りする。さながら取り調べ室の警察と犯人の構図だ。クソ、椿と柊相手に通用したからって安易に実行したのが間違いだったか……。

 

 しゅん、としている俺を見て雅美はため息をつき、

 

「………なんか、落ち込んでるのがアホらしくなってきちゃいました」

 

 びくびくしつつもちらり、と表情を伺うと、呆れつつもその口元にはわずかに笑みが浮かんでいた。意図していた効果とはだいぶ違う気がするが、いつもの調子に雅美を戻すことに成功したようだ。

 

「………くそ、微妙に複雑な気分だ」

 

「竹中さんって、バスケのこと考えてる時はそこそこ賢いのに、日常生活だと結構バカですよね」

 

「せ、先輩に向かってバカとはなんだバカとは………!」

 

「だって、事実ですし?」

 

 くっ……やらかしてしまった後なので何も言い返せねえ………。どうも雅美相手の言い合いはしてやられることが多い気がする。もしかして地頭の差が出ちまってるのか………。

 

 打ちひしがれる俺。そして、そんな俺を見てクスクスと笑う雅美。

 

………………ま、何はともあれ、こいつの気分が晴れたなら良しとするか。

 

 とりあえず、雅美の先輩としてのメンタル面でのフォローはなんとかできたみたいだ。次はコーチとして、技術面でもフォローしてやるべきだ、と判断し、少し真剣な表情を作って雅美に向き直る。

 

「あー……。あのよ、雅美」

 

「? なんですか?」

 

 不思議そうに首をかしげる雅美。

 

「さっきの試合のことだけど………」

 

「……!」

 

 その言葉を聞いて、ギクリとしたような表情を浮かべる雅美。俺は気にせず、言葉を続ける。

 

「最初から上手くできるような、そんな簡単な役目だって思ったんなら、わざわざお前に頼んで任せたりしねーからな」

 

「………」

 

「他のなんでもそうだっただろ。ドリブルも、パスも。………お前の得意なシュートだってそうだ。何もせず、初めから上手くできたことなんて、一つも無かっただろ」

 

 雅美は、黙ったまま真剣な表情で真っ直ぐ俺の顔を見ていた。

 

「でも今は前に比べたら全然できるようになってるだろ。………俺はお前のそう言う、ひたむきに頑張れるとこ見て、こいつなら出来るって思って任せたんだ。………だからまあ、その、苦労させちまって申し訳ねーけど、頑張って続けてくれると助かるっつーか………」

 

 後頭部を右手で掻きつつ、必死に言葉を紡ぐ。よくよく考えたら、俺がポイントガードをやらせちまったことが原因で雅美はつらい思いをする羽目になったんじゃね? という後ろめたさが頭をよぎった結果、最後の方は若干しどろもどろになっちまった。出来ればもう少しカッコよく決めたかったところだが、この際形とか気にしていられない。

 

 ちらり、と様子を伺うと、雅美は何やら少し考えこむような素振りを見せていた。な、なんだ? なんか想定していたリアクションと大分違うような………。

 

「竹中さん」

 

「ん?」

 

「………よく考えたら、竹中さんは私にお願いをしているわけですよね」

 

「は?」

 

「だって、お願いだからポイントガードやって欲しいって、私に頼んできたじゃないですか」

 

「ん? ま、まあ、そうだな………」

 

「つまり私は竹中さんのお願い事を聞いてあげている立場ということになりますよね?」

 

「んん? ………ま、まあ、そういうことになる、のか?」

 

 言い方が微妙に気になるが、概ね間違っていないように思えたので、頷く。な、なんだ? なんか、逃げ道を一つ一つ潰されているような気がして微妙に嫌な予感が——、

 

「つまり、竹中さんも私のお願い事をなんでも一つ、聞いてくれないとフェアじゃなくないですか?」

 

「は!? い、いや、ちょっと待て!!」

 

 な、なんでもってなんだ!? 一体何やらされるんだ!? ってか明らかにこっちのお願いと釣り合い取れてねーだろ!! クソ、やっぱロクなことじゃなかったじゃねーか……!

 

「反論があるなら聞きましょう」

 

 神妙な調子で、ウム、と頷く雅美。くっ、相手が理屈で攻めてきたからにはこちらも理屈で返さねーと効果がねえ……。なんとか雅美の主張の穴を見つけて指摘しねーと……!

 

 頭の中で言いたいことを一通り整理して、コホン、と一つ咳ばらいをして口を開く。

 

「きょ、今日の出来を見る限りだと、雅美はまだ十分にポイントガードをこなせているわけじゃないだろ」

 

「ふむ」

 

「つ、つまりだ……! 雅美は俺の頼んだ、『女バスのポイントガードをやって欲しい』という頼みをこなせてないんじゃねーか?」

 

「なるほど、確かにその通りですね」

 

「だ、だろ? だから、結局俺の頼み事はその………ケーヤクフリコーってやつになる訳で、俺がお前の頼みを聞く必要もないっつーわけだ!!」

 

 どうだこの完璧なロジック………! 即席で考えたにしては上出来だ! 俺の頭も案外捨てたもんじゃねーんじゃねーか!?

 

「ふむふむ、なるほどなるほど………」

 

 俺の主張を頭の中で反芻するように、何度も頷く雅美。よ、よし、これで何とか雅美を引き下がらせることが出来——、

 

 

 

「つまり、私がポイントガードを十分にできるようになったら、竹中さんはなんでも一つお願い事を聞いてくれるってわけですね」

 

 

 

「は!?」

 

「だって、竹中さんはいつまでに出来るようになって欲しいって、具体的な期限は言わなかったじゃないですか? 今後私がポイントガードできるようになったら頼みごとを聞いたことになりませんか?」

 

「んぐ………そ、それは………」

 

 思わず言葉に詰まる。………頑張って続けてくれ! と言った手前、今更そこを否定するのも気が引けてしまう。クソ、やっぱり雅美に口で勝つのは無理だったか……!

 

「あは。じゃ、そろそろ時間ですし、皆んところに戻りましょうか。………さっきの約束、くれぐれも忘れないでくださいね♪」

 

 そう言って、くるりと背を向け、俺を置いてさっさと速足で先へ進んでいく雅美。こ、コイツ、俺がこれ以上反論できないように話切り上げる気なんじゃ………!

 

「お、おい待てこら! ………い、言っとくけど、なんでもは無理だからな!! 俺が出来ることで、そんでもってあくまでジョーシキ的なことしか受け付けてねーぞ! おい、聞いてんのか雅美!」

 

 ………そんな風に、必死で後ろから呼びかけるも、雅美にちゃんと届いていたかどうかは定かではない。

 

 

 

***

 

 

 

<五色中央側ベンチ>

「大分点差縮められたノヨ! フフン、ケーシンの奴ら、ワタシたちの攻撃に手も足も出ない、と言った感じカシラ! ね、イヌヤマ!」

 

「言うほど一方的でもなかったけどねー。まあでも、つばめの機転のおかげで大分うちのペースに戻せたのは事実だね」

 

「にししー、さっすがキャプテン。メグがうちのディフェンスの穴になってることを見抜いたテキカクな采配だったッスね!」

 

「あうっ……! ご、ごめんなさい。私、鈍くさくて………」

 

「………茜、余計なこと言わなくていい。………メグ、気にしないで。次のクォーターでも、貴女のミドルシュート、頼りにさせてもらうから」

 

「う、うん……! 精一杯がんばりますっ」

 

「ジッサイ、メグが原因ってより、ポイントガードのネンキの差がニョジツに出た結果だと思うノヨ! クフフ、フジイのヤツ、めちゃめちゃホンロウされてたカシラ……!」

 

「まあ確かに。でも珍しいよな、つばめがあんなトラッシュトーク使うなんて」

 

「………なんのこと? 荒巻」

 

「ん? 藤井を挑発するようなこと言ってなかったっけか。お前なんて微塵も怖くない、とかなんとか」

 

「あー! あたしも思った! 相手のポイントガードを怒らせてペース乱すとか、キャプテンマジ容赦ねーなーってびっくりした!」

 

「あの生真面目だったつばめが勝つためとはいえあんなダーティーな戦法使うなんて……って、教え子の成長が嬉しいよーな悲しいよーな、そんな複雑な気持ちになったよ、あたしゃ」

 

「………別に挑発したつもりはなかった」

 

「マジ? 無意識でやったってこと? それはそれで大分怖いっスキャプテン……」

 

「ツバメ、ナチュラルに畜生ナノヨ」

 

「………それはいくら何でも人聞きが悪い」

 

「で、でも珍しいよね。つばめちゃんが試合中、対戦相手にあんな風に話しかけるなんて」

 

「そうだな。なんか、思うことでもあったのか?」

 

「………。実は、少し」

 

「へ~、一体どんなこと?」

 

「………ポイントガードは、コート上の司令塔。チーム内で一番重要な、責任が重いポジションだから」

 

「「「「?」」」」

 

 

 

「………たった一か月練習したくらいで出来るようになるポジションじゃないって、分からせてやりたくなっただけ」

 

 

 

「「「「「お、おー……」」」」」

 

「………。みんな、なんでちょっと引いてるの? 先生も」

 

「え!? い、いや~。そんなこと考えてプレイしてるなんて思ってなかったからさ」

 

「それだけであんなムゴイ仕打ちをしたと……。理由聞いてマスマス恐ろしくなったカシラ……」

 

「キャプテンを怒らせるのはやめた方が良いって改めて思ったわ……」

 

 

 

***

 

 

 

<慧心学園側ベンチ>

 

「よし、全員集まったな」

 

 五分間の自由時間が終了し、作戦会議が始まる。途中インターバルを挟んだことで集中力が切れてしまうのではないかと若干心配していたが、五人の闘争心溢れる表情を見ると杞憂だったようだ。先ほど泣いたり笑ったりと色々落ち着かない感じだった雅美も、今は真剣な表情を浮かべている。

 ………どちらかというと若干気が散っているのは俺の方で、雅美には先ほどの件で色々と追及したいのだが、それは試合が終わってからだ。まあ、はぐらかされるだけかも知んねーけど………。

 

 両頬を手のひらで叩いて気持ちを切り替え、口を開く。

 

「結構点差は詰められちまったが、まあ第二クォーターはもともと体力温存予定だったからな。雅美は慣れねー仕事をよく頑張ってくれたと思う」

 

「自分では、あまり納得できてないですけどね」

 

 目を逸らし、人差し指に自分の髪の毛をくるくると巻きつけつつ、自嘲気味にそう呟く雅美。

 

 そんな彼女を見てかげつは慌てたように、

 

「ま、雅美は頑張ってたと思う。私も全然リバウンド取れなかったし、雅美のこと全然サポートできなかったから……。」

 

「………ん、ありがと、かげつ」

 

 やや照れ臭そうに礼を言う雅美。

 

「ま、その辺は後々の課題だな。………とにかく、今は先のことを考えるぞ。こっからの戦い方についてだが——」

 

「待ってました!」

 

「ソッコー解禁! だね、にーたん!」

 

 勢いよく身を乗り出す椿と柊。その瞳は『今すぐにでもあいつらをぶっ飛ばしてやりたい!!』と訴えかける様にメラメラと燃え上っていた。その勢いに若干押されつつ、俺は二人に頷くと、

 

「ま、まあ……平たく言うとそうだな。そのための体力温存だったわけだし」

 

「やった! 僕たちの出番だね!」

 

「クロワッサンのヤツ、目にモノ見せてやる……!」

 

 そう言って、激しく闘志を燃やす二人。………恐らく、さっきのクォーターで相手に好き放題やられたフラストレーションが溜まっているのだろう。頼もしい半面、空回りしそうで若干心配でならない。

 

「後注意しなきゃなんねーのは………やっぱ荒巻だな」

 

 俺の言葉に、苦虫を嚙み潰したような表情になるかげつ。反応を見るに、対荒巻の感触はあまり良くはなさそうだ。

 

 俺の言葉を聞いて雅美は首肯すると、

 

「そうですね……。次のクォーターから荒巻は本調子になってくるでしょうし」

 

「彼女、さっきの時点ですでに手強かったですけどね………」

 

「こっからさらにエンジンかかってくること考えると、正直まともに相手しても無駄だと思います」

 

 難しい顔でそう見解を述べる雅美とかげつ。その意見には概ね賛成だ。俺は頷きつつ、

 

「だな。かげつは、荒巻になるべくパスが出されないよう意識してディフェンスしてくれ。リバウンド持ってかれんのは、ある程度は仕方ないと割り切るしかねえ」

 

「わ、分かりました……!」

 

「げったん、ファイトだよ!」

 

「アラマキなんかに負けるな!」

 

「う、うん………頑張るよ」

 

 仲間の励ましを受けて顔を引き締めるかげつ。………よしよし、チームの雰囲気は悪くない。このままいって問題なさそうだ。

 

 俺はコホン、と咳払いをして、作戦会議を締めにかかることにした。

 

「よし、結論まとめるぞ。想定外なこともあったが、戦況は概ね想定内だ。体力はかなり温存できたし、ここからはガンガン速攻仕掛けてもお前らのスタミナなら十分持つ。さっきまでと同じような感じで戦えれば十分勝機は——」

 

「タケナカ」

 

 ——ピシャリ、と。

 

「気休めはやめてクダサイ」

 

 俺の言葉は、ミミの冷ややかな一言で、突如として遮られた。

 

 一瞬、何を言われたのか分からず、硬直する。他の四人も同じだったのか、驚いたように目を丸くしてミミを見つめていた。………そう言えばミミのヤツ、作戦会議の間一言も言葉を発さなかったな。

 

「気休め………って、」

 

 ようやく思考が動き出し、俺は口を開く。

 

「気休めって、なんだよ。俺はそんなつもりは——」

 

「タケナカ」

 

 再度、鋭い口調で名前を呼ばれる。

 

「先ほどのクォーター、五色中央のターンオーバーは何回だったデショウか」

 

「は? 急に何言って——」

 

「タケナカ、答えてクダサイ」

 

 俺の目を見て、真っ直ぐと問いかけるミミ。有無を言わせない口調から察するに、どうやら大人しく答えないと埒が明かないようだ。

 

「………二回だ。両方とも、ミミが相手のパスをスティールした時だな」

 

「その通りでデス。ツマリ、こちらは相手オフェンスを二回しか止められていないということになりマス。………先ほどと同じように戦えば勝てるとはトウテイ思えマセン」

 

 淡々と、その事実を口にするミミ。

 

「リバウンドで勝てない分、ワタシ達が相手オフェンスを止めるにはディフェンスでアツリョクを掛けて相手のボールを奪うことが必要フカケツ。だからこそ、この一か月間、一番力を入れてディフェンスの練習をしてきたハズデス。それナノニ——」

 

 ミミは、視線を俺から視線を外し、椿と柊に鋭い視線を向けると、

 

「ツバキ、ヒイラギ。さっきのクォーターのディフェンス……アレはなんデスカ? 中途半端にもほどがありマス。あれデハ、相手オフェンスに抜いてくれと言っているようなものデス」

 

「ちゅ、中途半端って、なんだよ……!」

 

「そ、そーだよ! 僕たちなりに全力でやってたのに!」

 

 ミミの言葉に憤慨する二人。しかしミミは一歩も怯まず言葉を続ける。

 

「ノン、第一クォーターに比べて全然ボールを奪う気が感じられなかったデス。最低限のディフェンスしかしていないように見えマシタ」

 

「うぐ………。だ、だって……ボール奪ってもソッコーに行けないってカンジだったから、なんかこう………」

 

「じゃ、若干控えめだったフシは、無きにしもあらずだったような気はしなくもない……かも」

 

 語調を弱め、顔を見合わせる妹達。言葉から察するに、どうやら思い当たることがあったようだ。ミミはそんな二人に構うことなく、今度はかげつに向き直ると、

 

「カゲツ、アナタはディフェンスの時アラマキに気を取られ過ぎデス。リバウンドで劣勢なのは仕方ないデスが、周りにも気を配って欲しいデス。本来ならスティールを狙いに行けていたバメンは結構あったハズデス」

 

「う………ご、ごめん、ミミ」

 

 ミミの指摘に対し、こちらも思い当たることがあったのか気まずそうに俯くかげつ。

 

「お、おい、ミミ。どうしたんだよ。確かに、言ってることは間違っちゃいねーが、言い方ってもんがあるだろ」

 

 ミミの剣幕に押され、少しの間フリーズしていたが我に返り割って入る。ここまで感情をむき出しにして仲間に食って掛かるなんて、いつものミミらしくないとしか言いようがない。

 

 ミミはそんな俺を真正面からじっと見つめた後顔を俯かせ、呟くように、

 

「………タケナカもタケナカデス。ワタシたちに気を使って、甘いコトバしか言ってくれないのはどうかと思いマス」

 

「んぐ……」

 

「………相手は強いデス。さっきのクォーターのようなチョウシで戦っていては、ゼッタイに勝てないと思ったノデ、ハッキリと言わせていただきマシタ」

 

 ミミは、俯いていた顔を上げると、

 

「………ワタシは、この試合だけはゼッタイに負けたくないのデス」

 

 静かに、しかし確かな思いを秘めた口調でそう言った。

 

 その言葉からは、最早執念のようなものすら感じられるほどだった。やはり、ミミにとって五色中央は——もっと具体的に言うなら、クロエは何かしら思うことのある相手なのだろう。

 

「取り込み中のとこ悪いんだけどさ、お前たち」

 

 そんな俺たちの後ろから、今までやり取りを静かに眺めているだけだった美星が言葉を投げかけてくる。

 

「そろそろお喋りはやめて、コートに戻らねーと時間やばくね?」

 

 そう言って、コート脇に設置されているタイマーの方をあごでしゃくった。時間を確認すると、ハーフタイムの残り時間は既に三十秒を切っていた。ちょっと長話し過ぎちまったか………。

 

 時間が時間なので、俺は焦りながらもなんとか二言三言だけ激励の言葉をなげ、五人をコート上に送り出し、座席についた。一息ついて頭に浮かんでくるのは、先ほどミミに言われた言葉だ。

 

「くそ、甘い言葉しか言ってくれない、か。………割とへこむな」

 

「にゃふふ~。苦労してんなあ、竹中コーチ」

 

 隣の席に腰かけ、こちらの顔を覗き込みつつニヤニヤと笑みを浮かべている美星。クソ、なんでコイツこんな楽しそうなんだよ………。

 

「………どこぞの顧問がなんも仲裁してくんねーからな。こっちは大変で仕方ねーよ」

 

「にゃはは、折角の教え子たちの成長のチャンスを、教師が割って入って潰すわけにはいかねーからな」

 

 俺の皮肉も意に介さず、相変わらずヘラヘラとした態度のままの美星。くそ、そういう逃げ方されると何も言えない。こういうとこやっぱり大人はズルいと思う。

 

「ま、子供じゃどうしようもねーことが起きたときは、私たち大人が解決してやるさ」

 

 そんな、頼りになるんだかならないんだかよく分からん言葉を吐く美星。いちいち相手にしていても仕方ねーと判断し、試合の方に意識を移す。

 

 

 

 そんなこんなで、様子のおかしいミミ、色々あって落ち着かない気分の俺、心配でどこか浮足立つ残り四人と、諸々不安要素を抱えつつ、後半戦の幕が上がった。

 

 

 




 二十二話でした。後半のミミちゃんが荒れてるパートが難産でやたら時間がかかってしまった……。ギスギスってかくの難しいね。
 
 五色中央戦もいよいよ後半戦へ突入。と同時に第一章も終盤となります。
なるべくテンポよく進められるよう投稿頻度を上げたい。。
(これ毎回言ってますが……)
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