ロウきゅーぶ 下級生あふたー!   作:赤眼兎

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 前回から二か月近くたってしまった………。
 二十三話となります。この辺からようやくミミにスポットが戻るかな……。


■第二十三話 コート上の怪物

 第三クォーターは五色中央ボールで始まった。例のごとく、セットオフェンスの陣形を取る相手チームに対し、こちらはゾーンディフェンスで迎え撃つ。前半戦で散々見慣れた光景だ。こちらと同じく、相手も得意戦法を曲げる気はないようだ。しかし──、

 

「うぅ、身動き、とれないっ……!」

 

「…………メグ! 一旦こっちにボール戻して!」

 

 茅原から東山へとボールが戻る。先ほどと同じく、茅原のミドルシュートを起点にディフェンスを切り崩すつもりだったようだが、攻めあぐねていた。

 既にこちらも茅原のミドルシュートの間合いにも慣れた頃だ。内側にスペースを作らないことを意識し、最低限の圧力のみかけることで、ゾーンに隙を作らせていない。

 

 とりあえず、先ほどのミミの言葉はいい方向に転がったようだった。ディフェンスが第二クォーターに比べて目に見えてよくなっている。一瞬、チーム内の雰囲気が険悪になったように見えたから、もしかしたらプレーに悪影響が出るんじゃないか? と心配していたのだが杞憂だったようだ。

 

「クソ、ディフェンスのこと、ホントなら俺が気付いて言わないといけなかったってのに…………」

 

「まあそう気を落とすなってー、竹中コーチ」

 

「逆にお前は気楽過ぎだろ……。ってか、俺じゃなくて別に顧問のお前が言ってくれても良かったわけだがな?」

 

「にゃふふ、お前が気が付かなかったことに、私が気付けるわけないだろー」

 

 そんな風に美星と軽口を言い合っている内、状況に変化が起きた。

 

「いただきますっ!」

 

「!? ご、ごめんなさいっ!」

 

「ナイススティール、かげつ!」

 

 相手のパスを事前に読み、手足の長さと反射神経を活かしてカットするかげつの得意技だ。仕掛けられた茅原はバツが悪そうな表情で硬直していた。このプレーが有るのと無いのとでは、うちのチームは防御力も攻撃力も段違いだ。

 

「椿、行って!」

 

「ナイスパス、げったん!」

 

 かげつから椿へとパスが渡る。クロエが追いすがるも、そのまま流れるように柊、ミミへとパスが渡り、最後はミミのレイアップがゴールネットを揺らした。

 

 ───伝家の宝刀、三線速攻。

 

 やはり現状、これが俺たちの最強戦術だ。第二クォーターでは体力温存を理由に一旦封印したが、目的を果たした今最早出し惜しみする理由はない。

 

 続く五色中央のオフェンスは成功。再び点差を六点に戻される。続くこちらのオフェンスは、相手のディフェンスが全員戻りきる前に素早く攻撃を仕掛け、これも成功。数的有利を活かし、フリーとなった椿がシュートを決めた。

 

 これで点数状況は慧心が三十点、五色中央は二十二点の八点差。出来ることならばこのままリードを保ちたいところだが…………。

 

「……! 隙あり!」

 

「く……!」

 

 再び始まった五色中央のオフェンスは、パス先を読んだかげつのスティールにより終了した。これで、早くも二回目のターンオーバー。いいぞかげつ、絶好調じゃねえか! 

 

 これで、再び得意な三線速攻に持ち込める。このままさらに追加点を奪えれば、こっちのペースに──、

 

「行かせないカシラ!」

 

「……っ!?」

 

「な!?」

 

 クロエに行く手を防がれ、ボールを受け取った椿の足が止まる。パスを出したかげつの顔が驚きに染まる。

 

「こっちデス、ツバキ」

 

「……! ミミ、任せたよ!」

 

 ミミが機転を利かせ、クロエに防がれない位置に移動してパスをもらう。しかし、相手がディフェンスに戻る時間を稼がれてしまった。

 

「ちっ、一筋縄じゃいかねーか、やっぱ」

 

「ターンオーバーからのこのパターンの速攻、マトモに止められんの初めてじゃないか? 相手もうちのテンポに慣れてきたってことなのか」

 

「…………それも、あるかもしんねー。けど──」

 

 妙だ。慣れるにしたっていくら何でも急すぎる。第一クォーターでは一切攻略の糸口を掴めていないように見えたし、第二クォーターではそもそも一回も速攻を仕掛けていない。慣れたから、の一言で済ませていい話ではないように思える。

 

「……つーか、寧ろ」

 

「?」

 

「…………何か、相手に仕掛けられている、っていう方が近いかもしんねー。上手く言えねーけど。試合が始まってから、微妙に違和感がある気がする、というか…………」

 

 ぼんやりとしか感じねーし、ハッキリと言語化することも出来ない。ひょっとしたら、単なる俺の気のせいかもしれない。しかし、本能が早く対応しないとマズイことになると告げていた。

 そんな風に思案している間も試合は動く。こちらのセットオフェンスは相手にリバウンドを取られ、既に失敗していた。

 

 ───五色中央のオフェンスが始まる。

 

 俺は、わずかな違和感も見逃さないように、目を凝らして相手チームの動きを見ることにした。

 

「つっても、ぱっと見さっきと何も変わんねーんだよな…………」

 

 東山、クロエ、茅原がアウトサイドからゴールを狙い、荒巻と勅使河原の二人がインサイドに陣取る五色中央得意のスタイル。まるで再放送を見ているように、先ほどからずっと同じ。一見、違和感を覚える余地がないように見える、けど。

 

「…………真琴っ!」

 

「あいよっ!」

 

 東山から荒巻へパスが通り、荒巻がそのままゴール下からシュートを決めた。上手いことパスコースを潰していたかげつだったが、東山に一瞬のスキを突かれてしまった。

 

「ごめんっ!」

 

「きにすんなげったん!」

 

「速攻行くよ!」

 

 間髪入れず走り出す椿と柊。それに呼応するように、雅美も即座にコート外からパスを出す。相手にシュートを決められた場合でも速攻を仕掛けに行く姿勢は見事だ。しかし──、

 

「くそっ、邪魔すんな! このクロワッサン!!」

 

「ふふん。三線速攻破れたり……カシラ!」

 

 クロエに阻まれ、鬱陶しそうに歯噛みする柊。やむを得ず後ろのミミにパスしてやり過ごすも、速攻は失敗。再びセットオフェンスを仕掛けざるを得なくなった。…………まただ。さすがにこれは偶然とは思えない。

 

 考えろ。さっき起こったことと、今起こったことの共通点はなんだ? 

 

 必死に頭を回し、二つのシーンを照らし合わせて考える。

 速攻を防ぎに行ったのはどちらもクロエ。クロエに足を止められたのは椿と柊。後は…………二人が足を止められたタイミングも同じ。どちらも、ボールを受け取った直後にクロエにマークされ、ドリブルもパスも自由にできなくなってしまっていた。

 

 多分、パスを受け取った直後、というのがポイントな気がする。クロエに追いつかれる前に素早くパスを回してゴールまでもっていくというのが三線速攻のコンセプトだ。にもかかわらず追い付かれてしまっている、というのが今の状況。こんなの、パスが出る先をあらかじめ予想して待ち構えられている、としか思えな──。

 

「──! いや、そうか。案外、そう言うことなのか……?」

 

 ある可能性に思い至り、ハッとする。

 

 再び五色中央にリバウンドを取られ、ディフェンスに戻る慧心の五人。先ほどの考えが間違っていないことを確かめるため、クロエの様子を──もっと具体的に言うなら、立ち位置をしっかりと確認する。…………そして、自分の考えが間違っていないことを確信した。

 

「すみません、次、タイムアウトお願いします」

 

 

 

 ***

 

 

 

「「クロエがディフェンスに専念してる?」」

 

「ああ、そうだ」

 

 椿と柊の問いかけに、頷きつつ答える。ミニバスのタイムアウトはわずか45秒。手短に伝えなきゃなんねーから、早口で話す。

 

「オフェンスの時のあいつの立ち位置を見て気付いたんだが、常にスリーポイントラインの外で様子を伺ってるみたいな感じで攻撃に参加してねーみたいだった」

 

「何のためにそんなことを…………」

 

「多分、こっちの速攻潰しに専念するためだ。攻守が切り替わった時、すぐに椿と柊を抑えられるようにするためにコートの浅い所で待ち構えてるんじゃねーかと思う」

 

「な、なるほど…………。それでさっきから止められちゃってたんですね……。ということは、私たちに速攻のパターンが二人から始まるのはバレてるってコト、ですよね……?」

 

「ああ、ピンポイントで椿と柊を狙いに来てるわけだし、そう言うことになるな」

 

 かげつの言葉に同意する。恐らく、インターバルのタイミングで相手のコーチに入れ知恵されたのだろう。外から見ているとうちの速攻のパターンは案外分かりやすいし、気付かれたとしてもおかしくない。

 

「でも、舐められたものね。速攻を潰すためとはいえ、攻撃の枚数を一枚減らしても大丈夫って判断したってワケでしょ?」

 

 面白くなさそうに顔をしかめる雅美。確かにそうだ。こんなの、うちのディフェンスくらい四人でもなんとかなると暗に言っているようなものだ。まあとにかく──、

 

「時間ねーから手短に言うぞ。ディフェンスの時、こっちは人数有利になるわけだからそれを活かす。多少ゾーンが乱れるのはこの際構わねー。ガンガンダブルチーム仕掛けて相手の攻撃を抑え込んで行け。椿と柊はオフェンスの時はクロエを常に警戒して取り付かせねーようにしろ」

 

 

 

 ***

 

 

 

 …………結果的に気言えば、俺の予想は的中していた。

 

 

 

 タイムアウト明け直後の相手の攻撃。人数が一枚少ないという相手の弱点を突き、ダブルチームを東山に仕掛けた結果抑え込むことに成功し、二十四秒経過で相手オフェンスは時間切れとなった。答えが分かってから見れば、クロエの動きは実に露骨で分かりやすかった。パスをもらいに行く素振りが見えないし、ことあるごとに椿と柊をチラチラ気にしていた。駆け引きがあまり得意ではない、というミミの評価は的を射ていたようだ。

 

 続くこちらのセットオフェンスは苦戦を強いられるも、ミミが相手ディフェンスを個人技で単独突破し得点を奪うことに成功。第二クォーターから今まで、イマイチ通用していなかったセットオフェンスでも得点を奪うことができた、というのはいい兆候だ。

 

「…………クロの動き、バレてるっぽいね」

 

「まあ、遅かれ早かれだとは思ってたけど、流石に早すぎだな」

 

「ぐぬぬ、メンボクナイノヨ…………」

 

 再び始まった五色中央の攻撃。フォーメーションはさっきと同じ。クロエはスリーポイントラインの外で、オフェンスに参加する様子がない。…………さっきの会話から考えて、こちらに作戦がバレていることには向こうも勘づいているハズだ。にもかかわらず、特に何もしてくる様子はない。…………嫌なカンジだ。

 

「つば、行くよ!」

 

「うん、ひー!」

 

「…………」

 

 東山にダブルチームを仕掛ける椿と柊。しかし完成する直前、自分の方に向かってくる柊の一瞬のスキをついて、東山はパスを出すことに成功していた。

 

「ノータイムパス回しっ!」

 

 そして、それに連動するようにパスの出た地点にすかさず移動した勅使河原が空中でパスを受け取り、一瞬も手元でキープすることなく流れるようにボールを横流しした。それを受け取ったのは──センター、荒巻だ。

 

「──っ!!」

 

 苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべるかげつ。東山─荒巻ラインのパスを警戒していた彼女にとって、勅使河原という中継地点を利用して荒巻にボールが渡るのは想定外だったのだろう。

 

 ───荒巻とかげつの1on1が始まる。

 

 即座にドライブでゴール下へと切り込む荒巻に対し、ゴールを背にしてついていくかげつ。バスケを始めて日が浅いというだけあってドリブルはややぎこちないが、ボールを奪われない様もう片方の手でしっかりガード出来ているところを見るに、基本は出来ているのだろう。ゴール下の──それこそ荒巻が少しでも背伸びをすれば届くぐらいのところまで難なく到達していた。

 

「よっ…………と!」

 

「──っ! させないッ!!」

 

 急停止し、シュート体勢に入る荒巻。しかし荒巻とゴールの間に体をねじ込ませたかげつがシュートブロックに入るため高く飛んでいた。いいぞ、完璧なタイミングだ! と思ったのも束の間──、

 

「───」

 

「な!?」

 

 ──シュートはフェイク。

 

 掲げたボールを一度胸元まで下げ、再びシュート体勢に入る荒巻。タイミングを外されたかげつのブロックは不発に終わり、荒巻のシュートがゴールネットを揺らした。そして──、

 

「ファール!! 慧心(しろ)五番、イリーガルユースオブハンズ! バスケットカウント、ワンスロー!」

 

「──!? しまった……!」

 

「うっし! バスカンゲットだぜ」

 

「ナイスナノヨ、マッキー!!」

 

 ホイッスルの甲高い音が鳴り響き、審判がファールを宣言する。五色中央にフリースローが与えられちまった。クソ、シュートブロックに飛んだ時に、かげつの手が荒巻の腕にわずかに当たっちまってたのか……! 

 

「ご、ごめん…………私がフェイクに引っかかっちゃったばっかりに…………」

 

「…………仕方ないわ。今のは初見だし、強気にディフェンスに行った結果よ」

 

「そ、そーだよ、げったん!」

 

「どーせアラマキのヤツ、フリースロー決まんないだろーし!」

 

 謝るかげつと、フォローする慧心の面々。確かに、今まで力技一辺倒だったように見えら荒巻が、そんなテクニカルなことをしてくるというのがそもそも意外過ぎる。それにしても──、

 

「さっきのって、ポンプフェイクってやつ…………だよな?」

 

「ああ。…………くそ、意外に器用な真似しやがるな」

 

 ──ポンプフェイク。

 

 その名の通りボールを水を汲み上げるポンプのように上下に動かして、シュートに行くと見せかけるバスケの技の一種だ。ブロックのタイミングを外し、相手ディフェンスの意表を突いてシュートを決めたい時に多用される。…………ゴール下での活動を生業とする荒巻にとって、これ以上ないくらい相性のいい技だ。練習試合の時は見なかったし、この短期間で覚えてきて実戦で使えるレベルにまで仕上げて来たってことなのか? 末恐ろしいな…………。

 

 再度ホイッスルが鳴り響き、五色中央フリースローが始まる。

 

 バスケのルール上、フリースロー時にペイントエリアの両側に陣取ることを許されているのはオフェンスが二人、ディフェンスが三人と決まっている。五色中央は勅使河原と茅原の二人。対する慧心はかげつ、雅美、椿の三人でリバウンドを狙う形となる。人数的にもディフェンス側が有利なうえ、ポジションもゴール下に近くリバウンドしやすいのはディフェンス側なのだが──、

 

「こうしてみると、やっぱ身長差が気になるな……」

 

「ああ。…………荒巻ばっかに目が行きがちだが、あの二人も160cm以上あんだよな」

 

 高身長ってのはバスケ選手にとってはなんだかんだ強烈なアドバンテージだ。かげつはともかく、雅美と椿ではたとえ二人掛かりでも制空権を奪うのは厳しいだろう。頼む、せめてかげつのいるサイドにバウンドしてくれ…………! 

 

 静寂が訪れ、荒巻がシュート体勢に入る。ミドルシュートは苦手なのか、動きはかなりぎこちない。そして──、

 

「よっ…………と!」

 

「──! 外れるっ……! 雅美、椿、リバウンド!!」

 

 俺の祈りもむなしく、荒巻の放ったボールはリングにあたって外れ、椿と雅美、そして勅使河原のいるサイドへ跳ねた。そうなるとリバウンドを奪取するのは当然──、

 

「っし、いただき! ごめんね~~。おちびちゃんたちっ!」

 

「くっ──!」

 

「こ、この……!」

 

 余裕綽々といった調子で手にしたボールを掲げる勅使河原。ボールを奪われた上、身長差をからかわれた椿と雅美は怒りを露わにしていた。

 

「さーて、このままアタシがシュート決めちゃおっかな~~。───ってうおわっっ!!」

 

「…………。外しマシタか」

 

 突然背後から襲い掛かって来たミミに驚く勅使河原。リバウンド勝負に負けることを見越して、初めから勅使河原を狙っていたようだった。直前で気付いて避けられたから結果的には失敗したものの、紙一重だった。ミミのヤツ、なんつーか、気迫が凄い。殺し屋みてーな目してなかったか? 

 

「…………茜。遊んでないでさっさとボール渡して」

 

「わ、分かってるって、キャプテン!! うー…………。や、やっぱミミちゃんめっちゃこわ~…………」

 

 怯えつつも、東山にボールを渡す勅使河原。受け取った東山はセットオフェンスのポジションに付いた。慧心の五人も迎え撃つべくディフェンスの陣形を整える。

 

 相手は、こちらのスキを伺う様にぐるぐるとパスを回し続けていた。迂闊に攻めてはこないようだ。対して慧心は先ほどの仕掛けを警戒して、徹底して荒巻へのパスコースを潰す様にポジショニングしていた。そのおかげか、さっきからどうやら攻めあぐねているようだ。

 

「……そうか、クロエが抜けることで発生する攻撃の時の数的不利をどーすんのか疑問だったんだが、荒巻の高さとパワーでムリヤリ突破するつもりだったのか」

 

「まじ? 結構リスク高くないか、それ」

 

「確かにそうだが、荒巻が後半に調子上がってくることを踏まえると行けるって判断したのかもな」

 

 結果的に、その判断が正しいか間違っているかは蓋を開けてみないと分からない。だが、これはむしろ付け入るスキだ。こんなの、そうでもしねーとうちの速攻を潰せないと白状しているようなモンだ。結果的に相手に無理をさせることが出来ている以上、今の状況はこちらにとって決して不利ではないハズだ。

 

 ───いける。このまま荒巻さえに仕事させねーよう上手くディフェンスし続ければ、勝てる。

 

「………………。ふう」

 

 緊張で胸が高鳴り、握ったこぶしに思わず力が入る。手のひらには、汗がじんわりと滲んでいた。本能が、ここが勝負どころだと告げている。

 

 五色中央は突破口を見いだせていないのか未だ仕掛けてこない。が、そうしている間にも時間は過ぎていく。そして、24秒タイマーが残り五秒を切った。この土壇場で、東山がでパスを出したのは──、

 

「な──」

 

「ナイスパス、カシラ」

 

 

 

 ───スリーポイントラインの外にいる、クロエ。

 

 

 

「ここでクロエ使ってくんのかよ……!?」

 

 思わず驚きの声が漏れる。慧心の五人も、予想外の事態に対応が遅れてしまう。

 その隙をついて、クロエはノーマークの状態でスリーポイントラインの外からシュートを放った。

 

「クソ、まさか、ロングシュートまで覚えてきてるなんて完全に想定が──」

 

 ───ゴン! 

 

「ごめん、やっぱりエンキョリは無理ナノヨ!」

 

 ………………………………。

 

 ボールはリングに当たりはしたものの、ゴールネットをくぐることなく鈍い音を立てて見当違いの方向へとバウンドしていった。外すのかよ! ビビらせやがって! 

 

「───いや、それで十分だぜ、クロ」

 

「……!? 何を──」

 

 安堵したのも束の間、フリースローライン付近から走りこんできた荒巻が高く飛んでリバウンドを手にし──、

 

 

 

 ───そのまま直接、激しい音を立てて両手でボールをリングへと叩きこんだ。

 

 

 

「………………………………。は?」

 

 

 

 ───あまりの出来事に、思わず絶句する。

 

 眩暈のような感覚に襲われ、思考が正常に働かない。目の前で起きていることに対する現実味が薄れていくような、そんな錯覚すら覚えるほどだ。

 

 リングが反動で大きく軋む音と、五色中央ベンチの歓声が、やたらと遠く聞こえる。

 

 

 

 …………何が起きたのか、理解できなかったわけではない。

 

 

 

 まるで、画面の中の出来事のような──。それこそ、俺の憧れたNBAプレーヤーたちのようなビックプレーを、今この瞬間、対戦相手がやってみせたという事実を受け入れることを脳が拒んだだけだ。

 

「空中でリバウンド拾ってそのまま直ダンクシュートって……、そんなんありかよ…………」

 

 絞り出すように声を漏らす美星。常に飄々としていて掴みどころのないこいつですら、今はいつものような余裕を感じられない。

 

 あんなもん見せられたら誰だってビビる。ミニバスの高さとは言え、ボースハンドのダンクシュートを決められたのだ。

 

 ダンクには、観客を惹きつけ、チームメイトを鼓舞し、そして対戦相手には力の差を見せつけることができるというとんでもなく強い効果がある。見た目の豪快さに加え、身体的な才能を持つ選ばれた一握りの人間にしか真似できないという特別感がそのような印象を与えるのだろう。

 

 コートの外にいる俺たちですらこの有様なのだ。まして、対戦相手として対峙しているあいつらの精神的ダメージは計り知れない。

 

 表情を見れば、試合の流れはどちらにあるのか一目瞭然だ。一様に高揚した表情を浮かべる五色中央陣に対し、こちらは五人とも──、

 

 

 

「───怖気づきマシタか?」

 

 

 

「───」

 

 凛、とした声に、思わず視線が引き寄せられる。

 

 一様に暗い表情を浮かべるチームメイトの中で、いっそ超然とした態度で、何事もなかったかのように全く動揺を見せていない奴が、一人。

 

「あんなものは、ただの見掛け倒しに過ぎマセン」

 

 

 

 ───ピシャリ、と。

 

 

 

 なんでもないことのように、先ほどの荒巻のプレーを一言で切り捨てるミミ。

 

 その言葉に、膝をつき、項垂れていたかげつが顔を上げる。荒巻をまたしても止められなかった上、明確に実力差を見せつけられたことがショックだったのか、今にも泣きだしそうだった。

 他の三人も、かげつ程ではないにしても動揺を隠しきれておらず、皆一様に戸惑いを見せていた。

 

 

 

 そんな四人を見たミミは───、明らかに失望したような表情を浮かべていた。

 

 

 

「戦う気が無いのナラ、もうそれで構いマセン」

 

 顔を俯かせ、温度を失ったような声で一言言った後、くるりと背を向け、

 

 

 

「後は、ワタシが一人で何とかして見せマス」

 

 

 

 そう、ハッキリと決別の言葉を叩きつけた。

 




 第二十三話でした。試合描写とシリアスばかりで疲れ気味の筆者。そろそろコメディが書きたい……!
 でも話の都合上この辺は飛ばせないというジレンマ。
 1章も終わり見えて来たんで、早いとこ書き上げられるようにがんばります。
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