ロウきゅーぶ 下級生あふたー!   作:赤眼兎

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 お久しぶりです。
 やや推敲し過ぎてしまった……。
 
 ぼざろ面白くて全巻買ってしまいました。何か二次創作も書いてみたいなあと(願望)


■第二十四話 たった一人の戦争

 

 ──一人で戦い抜くと、そう宣言した直後。

 

 ミミは、個人技で相手のディフェンスを単独突破して見事得点を決めてみせた。

 まさに有言実行。ここにきて、さらに一段階ギアが上がったかのように、プレーには恐ろしいほどにキレが増していた。

 

 しかし、反比例するかのようにチームメイト四人の動きはどこか重い。

 

 荒巻にダンクシュートを決められたことに加え、ミミから結構キツイこと言われちまったことによる動揺がプレーに出てしまっていた。

 

 だが、不幸中の幸い──というべきか。

 

 対する五色中央も、何とか荒巻にパスを回してシュートを決めに行く、以外の攻撃パターンを見出せずにいた。慧心の速攻を防ぐためクロエをディフェンスに専念させた結果生じた数的不利という枷は、向こうの想定より足を引っ張っているようだった。

 

 結果、両チームの選手のうち、突出した能力を持つ二人の選手──ミミと荒巻による点の取り合いによって両チームの均衡は保たれていた。

 

「この展開は、割と不本意ではあるけどな…………」

 

 何とか点差を維持できているとはいえ、こちらが戦いたい形で戦うことが出来ていないのが現状。タイムアウトを取って落ち着かせることも考えたが、ミミの集中力を切らしてしまうリスクを考えてグッとこらえる。

 

 第三クォーターも残り二分を切った。せめて残り時間は、あいつらの力だけで乗り切って貰いたい。

 

 荒巻がゴール下からシュートを決め、迎えたこちらのセットオフェンス。

 

 ポイントガードの雅美は敵陣までボールを運んでパスを出す。相変わらずロングシュートは警戒されており、簡単に打たせてはもらえないみたいだ。かといって、相手のディフェンスは堅く、素早くボールを回してかき乱そうとするも、なかなか突破口を見出せない。

 

「──回してクダサイ」

 

「──! …………っ」

 

 そんな様子に痺れを切らしたのか、静観していたミミがボールをもらいに動き出す。雅美は一瞬ためらったものの、やむを得ないと判断したのかパスをだした。…………負けず嫌いなあいつのことだし、ミミの力を借りずに得点したかったのだろうが、チームの勝利と天秤にかけ、最終的に大人な判断をしたようだ。

 

『…………!』

 

 ──五色中央ディフェンス陣に緊張が走る。

 

 それもそのハズ、先ほどからの慧心の得点は全てミミによるものだ。警戒されて当然だ。

 

 相手にもプライドというものがある。いくらミミがバスケ選手として優れているとはいえ、たった一人の敵これ以上好き放題攻めさせるわけにはいかない。相手の表情からは、そんな気迫が感じられた。

 

「──」

 

 しかし、ミミは──そんな相手の警戒をあざ笑うかのように、

 

「え…………」

 

 

 

 次の瞬間、敵陣のど真ん中を突っ切って、ふわり、と宙に舞った。

 

 

 

「な──」

 

 その動きに気付き、阻止しようと慌ててディフェンスに向かうも時すでに遅し。ミミのレイアップによってゴール下から放たれたボールは、引き寄せられるかのようにゴールに吸い込まれていった。

 

『………………………………』

 

 ふぁさ、とボールがゴールネットをくぐる音と、ミミが地面に着地する音だけがしん、と静まり返った体育館に響く。

 

 

 

 まるで、ミミ以外の全員の時間が止まったかのようだった。

 

 

 

「く、そ…………マジかよ」

 

「い、意味わかんないんだけど…………」

 

 荒巻と勅使河原の口から呻き声が漏れる。これ以上ないほど警戒していたにもかかわらず、あっさり得点を許したことが信じられないのだろう。

 

「い、今何が起こったんだ…………?」

 

「ミミのいつもの得意技、ってことなんだろーけど…………」

 

「得意技、って──」

 

 そんな簡単な言葉じゃ納得できない、とでも言いたげな目でこちらを見る美星。

 

 しかし、それも無理のないことだ。

 

 ミミの十八番──予備動作ゼロで繰り出されるドライブ──は、今まで一対一で対峙している相手を抜き去るときのみ効果を発揮していたハズだ。

 あんな──相手ディフェンス五人全員を出し抜く、なんてのは見たことがない。ハッキリ言ってデタラメだ。

 

 だが、俺がそれ以上に驚いたのは寧ろ──ー抜き去った後。

 

 寒気がするほど静かで、そして綺麗なレイアップだった。

 

 恐らく、無駄な動きや余計な体の力を徹底的に省いているからそう見えるのだろう。ステップを踏んでからシュートを打つまでの一連の動きが澱みなく流れていく様だった。

 

 無駄がないからこそ速く、速いからこそ初動を読ませなかったことによるアドバンテージを最大限活かすことができる。このレイアップの技術の高さも先ほどのプレーに一役買っているハズだ。

 

 

 

 そして、同時に想像してしまう。──そのレイアップを得るためだけに、一体どれだけの努力を積み重ねたのだろうか、と。

 

 

 

 今のプレーを見て、改めて実感させられた。生まれ持った才能と、その才能に驕らずに日々地道な練習を繰り返したことによって得た技術を兼ね備えたバスケ選手。それが慧心のエース、ミミ・バルゲリーという奴なのだ、と。

 

「………………やっぱ、めちゃかっこいいな、お前のバスケ」

 

「ん? 今なんか言ったか? 竹中」

 

 俺の呟きに反応した美星に対し、なんでもねー、とだけ返す。

 

「…………悔しいけど、やっぱり別格だね。あのミミって子」

 

「ふふん、それでこそ、倒し甲斐があるってものナノヨ!」

 

「なんでクロがちょっと自慢げなのさ?」

 

「まあそう言ってやるな。あの子に勝つためにクロはわざわざ日本まで追いかけて来たわけだしな」

 

 和気藹々とした雰囲気の五色中央チーム。ミミのプレーに驚きはしたものの、上手く気持ちを切り替えられているようだった。

 

 続く五色中央のオフェンスはゴール下から荒巻がシュートを決めてあっさり終了。身体能力の差を活かした強引な突破だったが、単純な高さとパワーという武器はシンプルであるがゆえに対応が難しい。

 …………やはり現状、荒巻を止めるのは一筋縄ではいかねーな。とは言え、相手もミミの個人技をどうにか出来る手立てはなさそうだ。このまま今の状況が続いて点差を維持できれば一応試合に勝てるっちゃ勝てる。

 

 第三クォーターも残りわずか。試合もそろそろ終盤戦に差し掛かるといっていい。

 

 こちらがあらかじめ用意していたカードは全て出し切った。戦法を変えてこないところを見るに、恐らく相手もそれは同じ。後はどちらのチームが先に突破口を見出すことがができるかの勝負。ミミの攻撃が通用しているうちに、荒巻を何とかする手立てを考える必要がある。

 

 俺は、そんな風に思っていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 すさまじく調子がいい、と思いマシタ。

 

 

 

 体は羽のようにに軽く、思った通りに動いてくれマス。

 思考は研ぎ澄まされていて、相手が何をしてくるか手に取るように分かりマシタ。

 

 明らかに、ツウジョウではない状態。

 しかし、この状態は寧ろ、ワタシにとってはナツカシさすら感じるものデシタ。ナゼなら、フランスのクラブチームに居た頃、私はしょっちゅうこの状態になっていたからデス。

 

 そして、ワタシがこうなるのは決まって、『この試合は自分一人で何とかしないといけない』と感じた時デシタ。

 悪いクセだという自覚はあったのデスが、人一倍負けず嫌いで、そして独りよがりだったワタシは、こうなると全て自分一人で解決しようとしてしまっていマシタ。

 

 しかし日本に来てから、ワタシがこうなるのは初めてのこと。

 

 こうならなくなった理由は恐らく、チームメイトに頼ることを覚えたから。──カゲツたちが、一人で戦わなくても良いということを教えてくれたから。

 

 そんなカゲツたちの前で、またワタシは昔と同じ過ちを繰り返してしまいマシタ。

 

 頭ではだめだと分かっているのに、体が言うことを聞いてくれマセン。──何故なら、この試合で負けたら、きっとワタシは全てを失ってしまうから。そのことに対する恐れが、ワタシの心と体を支配していたのデス。

 

「──」

 

「……! ちょ、ちょっと、ミミ!」

 

「おい! 僕のボール取るなよ!!」

 

 ましゃみからツバキにでたパスを強引にカットし、ボールを奪いマス。ツバキとましゃみから抗議の声が上がりマシタが、耳に入りマセン。…………ゲンミツに言うと、耳には入っていマシタが、脳が聞き入れようとしマセンでした。

 

「…………これ以上、好き勝手させないから──!」

 

 一人ドリブルで敵陣に進み、ハーフコートラインをに差し掛かるところで相手ディフェンス──ヒガシヤマが行く手を阻んできマス。わざわざこんな手前でディフェンスをしてくるとこを見るに、意地でも止めようとしているように見えマシタ。しかし──、

 

「スキだらけ、デス」

 

「──っ!! くっ──」

 

 ほんの一瞬だけ急停止し、軽くフェイントをかけて沈み込むように体勢を低くして再加速。表情と重心の位置で、左をつけば簡単に抜けるとすぐに分かリマシタ。

 

「い、いかせないっ……!」

 

「今度こそ止めるよ──!」

 

 お次はカヤハラとテシガワラ。ダブルチームで無理やりにでも抑えにかかろうというつもりなのデショウ。デスガ二人掛かりで来ても何の意味もありマセン。

 

「っ!?」

 

「──な」

 

 ドリブルのリズムを不規則に変えて相手の予測を狂わせ、左右に大きくステップを踏んで二人の間を縫うようにして突破。真っ直ぐ向かってきていたノデ、急な左右の動きに対応できないのデス。スリーポイントラインを越え、相手コートに突入することに成功シマシタ。

 

 残すはアラマキとクロエの二人。しかしアラマキはゴール下にどっしり構えており、こっちに向かってくるつもりが無いようデシタ。リバウンドを取るのが自分の仕事とハンダンしたのか、あるいは自分では止められないとアキラメたのか、そのどちらかデショウ。手間が省けマシタ。最後の一人であるクロエと向き合いマス。

 

「…………」

 

 こうしてクロエと向き合うのは、これで何回目になるデショウカ。

 

 恐らく、数えるのも馬鹿らしくなるほどデショウ。

 ある日突然クラブチームに入ってきて、開口一番にワタシに1on1を申し込んできたクロエ。それ以来、毎日のようにショウブを挑まれてきマシタが、結果は毎回同じデス。

 

 そんな彼女に対するインショウは、初めて出会った日から今に至るまで全く変わりありマセン。

 

 しつこさとスタミナだけが取り柄の、不器用な子。

 

 ──そして、いつだって人の笑顔の中心にいる子。

 

(…………まあそんなコト、今この場では全くカンケイありまセンが)

 

 今この場で大事なのは、バスケ選手としての力のみデス。

 

 その点で言うと、ハッキリ言って全く脅威ではありマセン。負けることはおろか、負けそうになることすら一度だってありマセンデシタ。

 こちらを真剣な眼差しで見つめる彼女を、ワタシはどこか冷めた目で観察シマス。

 

「…………」

 

「──」

 

「…………」

 

「──」

 

「……。……?」

 

「──」

 

 ──あれ? と違和感を覚えマシタ。

 

 どういうワケか、先ほどまで湯水のように湧いてきていた抜き去るためのアイディアが一切浮かんできマセン。どうしてデショウカ。右から仕掛けても、左から仕掛けても、キレイに相手のディフェンスを崩すイメージが出てこないような、そんな予感がありマシタ。

 

 改めて彼女の顔や動きをまじまじと見つめマス。

 

「──」

 

 さっきから一切言葉を発していマセン。試合中にも関わらず、あれだけ無駄口を叩いていたノニ。コロコロと変わっていた表情も、今は引き締まっていマス。その様子は、なんと言うか、まるで──、

 

 

 

 まるで、ワタシを止めるというただ一点のみに全神経を集中させているかのような。

 

 

 

「────ッッッッ!!!!」

 

 カッ! と頭に血が上るのが分かりマシタ。

 

 そんな──そんな風に、ちょっと集中したくらいで、ワタシを止められると本気で信じているその顔が、本気で心の底から気に食わないと感じマシタ。そんな簡単に埋められるほど、ワタシとアナタの差は小さくありマセン。ワタシが一人で必死に積み重ねてきたものは、そんな軽いものではないノデス。

 

 プレーのギアを大幅に上げて、ホンカク的に仕掛けにかかりマス。小刻みにステップを繰り出し、フェイントで揺さぶりをかけて崩しにかかりマス。しかし、目の前の彼女は全くと言っていいほど無反応デシタ。その様子は最早不気味だとすら感じるほどデス。

 

(…………フェイントだと見破っている?) 

 

 嫌な想像が頭をよぎりマシタが、駆け引きがニガテな彼女に限ってそれは無いと否定しマス。

 

 あまりグズグズして一度抜いた三人にまたディフェンスに戻ってこられるとメンドウ、とハンダンし、強引な仕掛けに踏み切りマス。

 

「──!」

 

 今度は相手も反応アリ。こちらが右から抜こうとして仕掛けたドリブルに対し、回り込むようにディフェンスしてきマシタ。しかし──、

 

「狙い通り、デス」

 

「──!?」

 

 カットインを中断し、ロールターンを仕掛けにかかりマス。ボールを右手でホールドした状態でその場でクロエを背にしてくるりと一回転。左手に持ち替えて、逆を突いて本命の左サイドからクロエを抜き去りに──、

 

 

 

「──ッッ! 逃がさないカシラ!!」

 

 

 

「──っ!?」

 

 ──ボールを突くハズだった左手が、空を切りマス。

 

 予想外の事態に上体がよろけ、バランスを崩して転倒しそうになりマス。

 

(…………一体、何が…………)

 

 ぼんやりと、現実感が薄れていくような、夢の中にいる様な、そんな浮遊感を覚えマス。そんな状態で、ワタシの頭は奇妙なほど冷静に上手く行かなかったゲンインを探り始めマシタ。

 

 きっと、右手から左手への持ち替えに失敗してしまったのだ。

 

 きっと、回転するときの勢いでボールがすっぽ抜けてしまったのだ。

 

 きっと、どこか変なところにボールが当たってしまったのだ。

 

 三つのうちどれかパッとすぐには分かりマセンが、恐らくそんなところデショウ。ワタシとしたことが、ウッカリしてしまいマシタ。全く、カンジンな時にそんなショホ的なミスなんて、ワタシもまだまだ練習が足りな──、

 

 

 

「や、やった! やった! み、ミミに…………初めてミミに勝てたカシラ!!!!」

 

 

 

「──」

 

 突然耳に飛び込んできたその声に、メマイのような感覚に襲われマス。

 

 歓喜の声を上げるクロエの手にはさっきまでワタシが持っていたボールがありマシタ。ワタシが、アナタを抜いてゴールまで持っていくハズだったボールデス。なんで、アナタがそれを持って──、

 

「ナイス! やるじゃねーかクロ!!」

 

「ミミちゃん止めるなんてやばっ!」

 

「クロちゃん……! ミミちゃんに勝つんだってずっと練習してたもんね……」

 

「…………クロ、ナイスだけど時間無いから早くボール寄越して!」

 

 クロエから最前線のヒガシヤマにボールが渡りマス。そして、ボールがゴールネットをくぐると同時に第三クォーター終了のホイッスルが響き渡りマシタ。

 

 ワッと五色中央ベンチから歓声が聞こえてきマス。今のシュートでようやく同点に追いつくことができたからデショウ。スタメンはもちろん、控えのメンバーの表情にも興奮が見られマシタ。

 

 そして、笑顔の彼女たちの中心には、あの子が。──信頼できる仲間に囲まれて、慕われて、心から満足そうな表情を浮かべるクロエが居マシタ。

 

(…………。ああ……………………)

 

 その光景を見て、ようやくワタシは理解できマシタ。

 

 (人としても、バスケ選手としても、ワタシはあの子に負けてしまったのデスね)

 

 そう感じた瞬間、世界にたった一人だけ取り残されてしまったかのようなソガイ感と、自分のすべてが否定されてしまったかのようなゼツボウ感で息が苦しくなりマス。

 

 あの時と同じだ、と思いマシタ。

 

 

 

 試合中なのに、バカみたいに大声で騒ぎながらプレーするクロエ。

 

 そんな彼女をたしなめながらも笑顔で見守るコーチ。

 

 そして──、一度も見たことがないような表情でイキイキとプレーするチームメイトたち。

 

 

 

 選ばれたのはあの子で、選ばれなかったのはワタシ。ワタシのバスケにはワタシしかいないと気付かされたあの時と、今のこの光景は皮肉なほどよく似ていマシタ。

 

 

 

慧心 36-36 五色中央

 




 第二十四話でした。
 ミミの地の文難しかった……。
 心理描写とか試合の描写とか、表現したかったことが上手く表現できているか不安。

 後1話か2話くらいで試合終わる予定。最後までお付き合いいただけると幸いです…!
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