小説の書き方を忘れたり思い出したりでとてつもなく難産でした。
かなり長くなりましたが、どうしても1話に収めたくてこうなりました。。。
オニンギョウサン、と呼ばれるようになったのは一体いつからだったデショウか。
プラチナブロンドの髪に、青いヒトミ。
とても目立つ外見デス。道を歩いている時、十人中八人に二度見されマス。
日本ならともかく、フランスなら割とフツウなのでは? と思うかもしれマセンが、生まれながらのブロンドヘアーというのは実はヨーロッパでも結構メズラシイのデス。雑誌や映画ナドで見るブロンドはヘアカラーによるものがほとんどだったりシマス。フランス人にとってもブロンドヘアーというのはアコガレのマトのなのデス。
話を戻しマショウ。ワタシは幼いころから、家族やシンセキなどの周りの大人たちからオニンギョウサンみたいだと言われて育ってきマシタ。
なぜそのように呼ばれているのか初めは全く分からなかったのデスが、物心着くころには自分のメズラシイ見た目が人形のように見えるからだと理解することが出来マシタ。
正直、そう呼ばれて悪い気はしなかったデス。むしろ、ちょっと得意気だったかもしれマセン。自分はトクベツなんだと思うことができたからデショウ。
しかし、小学校に上がってしばらくして、ワタシにとってそのあだ名の持つ意味は全く別のものに変わっていったのデシタ。
学校でのある日のこと、移動教室から自分のクラスへ向かう帰りの道。渡り廊下のはじっこの方で、さっきの授業で同じ班だった子たちが、立ち話しているのをグウゼン耳にしてしまったのデス。
『ミミちゃんって、何考えているか分かんないよねー』
『分かるー。いっつも無表情だし、ちょっと怖いよね』
『ね、なんだか、おんなじ人間じゃないみたい』
『あり得るかも。もしかして、実はホントに「オニンギョウサン」なんじゃない?』
そう言って、クスクスとおかしそうに笑うクラスメイト達。ワタシはいてもたっても居られなくなり、逃げるように一人でその場を立ち去りマシタ。
人気のない校舎の隅の方までたどり着き、そこでようやく一息つきマス。そして——、
「……『オニンギョウサン』デスか」
頭の中に強く残ったその言葉が、自分の口から零れ落ちマス。
他人が自分の陰口を言っているのを聞く、というのは生まれて初めての経験デシタ。とても心細い気持ちになったのをよく覚えていマス。
——しかし同時に、そう思われても仕方ない、とも思っていマシタ。
『いつも無表情で何を考えているか分からない』ということについては、正直なところ自分でもジカクがあったからデス。
昔からカンジョウ表現は苦手で、他の子たちみたいにいっぱい笑ったり、大きな声で泣いたり、激しく怒ったりということをワタシはほとんどしたことがありませんデシタ。
周りの大人たちからは『ミミちゃんは大人しくていい子だね』なんてほめられることもありマシタが、裏を返せば『子供らしくなくて不気味』ということなのデショウ。
元々クラスにあまり馴染めていなかったワタシは人付き合いにニガテ意識持つようになり、をその日以来ますます一人でいることが多くなりマシタ。
バスケと出会ったのは、それから一年ぐらいたった後のことデシタ。
きっかけは、パパが手に入れたナショナルリーグの試合のチケット。なんでも、パパの好きなチームと強豪チームが準決勝進出をかけて戦う大一番とのことで、なんとしても現地で応援したいから購入したようデシタ。
『三人分買ったノデ、家族みんなで見に行きマショウ!!!」
興奮した様子でそう言うパパに押し切られ、シブシブついてきたワタシとママ。
二人ともバスケに全くキョウミがないうえ、サワガシイ所がキライだったので正直行きたくなかったのデスガ、ハナイキ荒くいかにバスケが面白いかをネツベンするパパの姿を見ていると断るに断りづらかったので、いっしょに行くより他なかったのデス。
(セッカクの休みの日なノニ、なんでわざわざヒトの多いトコロに行かないといけないのデショウ)
そんな風に、内心で恨み言を言いながら、パパの運転する車に乗って試合が行われる体育館へと向かいマシタ。
——しかし、いざ試合が始まると、そんな不満などあっという間に消し飛んでしまいマシタ。
息もつかせないほど素早く回るパス。
オフェンスとディフェンスの間で繰り広げられる手に汗握る駆け引きの数々。
ロングシュートが決まるときの、一瞬の沈黙と直後の大歓声。
気が付けばワタシは、ルールすらまともによく知らないバスケットボールというスポーツに夢中になっていマシタ。
試合の展開も非常に見ごたえがありマシタ。
最初の方はリードを許す苦しい展開が続きマシタ。しかし、後半が始まると同時に試合の流れが一変。チームのエースが立て続けにスーパープレイを連発したのを皮切りに他のチームメイトたちの活躍も目立つようになり、同点に追いつくことに成功。そして最後の最後で大逆転、という映画のような展開に、思わず声を上げてしまったのをよく覚えていマス。
………隣で泣きながら大声で叫ぶパパさえいなかったら、きっと文句なしに良い思い出だといえたのでショウガ。
(こんな……こんな気持ちになったのは、初めてデス。)
試合が終わった後、帰りの車の中でもドキドキは収まりませんデシタ。
(スポーツ観戦って、タイクツなものだとばかり思っていマシタ)
テレビ中継されている他のスポーツの試合はそんな印象デシタ。
しかし今日初めて見たバスケットボールというスポーツは試合の展開が早く、目まぐるしく攻守が代わり次に何が起こるか分からないワクワク感があると感じマシタ。
そして何より、心の底から感情をむき出しにしてプレーする選手の姿が、その時のワタシの心を大いに惹きつけたのデス。
(ワタシも——、)
そして、思いマシタ。
(ワタシも、あんなふうになれるのデショウカ?)
得点を決めた時には喜びを、ラフプレーをされた時には怒りを、敗北が決まった時には哀しみを。そして、バスケットボールというスポーツを心の底から楽しむ気持ちを、選手たちだけではなくあの空間に居たすべての人たちが分かち合っていマシタ。
——そんなの無理に決まってるじゃん。だってあなたは「オニンギョウサン」だもん。
心の中で、クスクス笑いながら誰かがそう言いマシタ。あの時と同じ、胸を締め付けられるほどの心細さに胸が詰まりマス。
あれから、しばしばあの時のことを思い出す様になりマシタ。ワタシが前向きに物事を考えようとすると、その『誰か』は決まっていつもワタシの耳元で囁くのデス。「オニンギョウサン」という言葉は、あの時からワタシにとって呪いの言葉に変わったのデス。
しかし——、
(もう、終わりにシマショウ)
この時は、違いマシタ。
(オニンギョウサン、という言葉に縛られるのは、終わりにシマショウ)
未だかつてないほど強い「憧れ」の気持ちが、ワタシの背中を強く押してくれたのデス。
「………パパ、ママ。お願いがありマス」
「ん? どうかしマシタか、ミミ」
運転席から返事を返すパパと、助手席で首だけこちらを振り返るママ。改まった調子で切り出したカラか、あまりワタシが二人にお願いをしたことがなかったからなのかゲンインはよくは分かりマセンデシタが、二人ともちょっと驚いた様子デシタ。
そんなパパとママに、意を決してワタシは思いの丈を口に出しマス。
「ワタシ………ワタシも、バスケ、やってみたい………デス」
***
ワタシがバスケを始めることについて、パパとママは大いに歓迎してくれマシタ。特にパパの喜びようはすさまじく、翌日すぐにスポーツショップへ行ってボールなどの道具などを買い揃え、ワタシにプレゼントしてくれマシタ。……すごく嬉しかったのデスが、突然庭に練習用のバスケットゴールが設置されているのを見たときはさすがに引きマシタ。まだまともに一度もプレイしたことがないというのに、さすがに気が早するのではないデショウカ?
しかしそんなパパの行動力のおかげもあってか瞬く間に話は進み、翌週末にはクラブチームへ入ることが決まりマシタ。最上位にはプロチームを抱えるクラブの下部組織デス。初心者のワタシが入るにしてはいくらなんでもハードル高すぎデハ、とパパに言ったのデスガ、『初めは誰でも初心者デス! それにちゃんとしたチームに入る方が絶対言いに決まってマス!』と強引に説得され、とりあえずやってみようの精神で初めての練習に参加したのをよく覚えていマス。
マトモにスポーツをやることはおろか、習い事をするという経験がなかったのでとても不安だったのデスガ、自分でプレイするバスケは想像以上に楽しく、気が付けばワタシはどんどんバスケにのめりこんでいきマシタ。
そして、ワタシがバスケを始めてから2年が経ちマシタ。
相変わらず、学校ではあまり友達は出来ませんデシタ。でも、クラブチームでは同い年の子たちと話せるようになりマシタ。それだけで今までのことがウソのように毎日が楽しかったデス。クラス替え等もあり、あの子たちと離れたカラ、というのも大分大きかった気がしマス。
そして、寝ても覚めてもバスケのことを考えていマシタ。
朝起きたら庭でアサレン、学校の休み時間ではバスケの本を読み、帰ったらすぐに練習に行って、終わったらその日の練習の反省点を振り返りつつ眠りにつく、というまさにバスケ漬けの日々。………今思えばちょっとやり過ぎだったような気もするのデスガ、この時のワタシはバスケに触れている時が一番幸せだったノデ、仕方ないのデス。
そのおかげもあってか、気が付くとワタシはU11のカテゴリではチームで一番上手くなっていマシタ。一番上の学年ではないのにも関わらず、デス。公式試合のスタメンにも選ばれるようになりマシタ。まさに、今までのドリョクが報われたといっていいデショウ。上級生を差し置いて試合に出ることに対して引け目がなかったわけではないのデスガ、ワタシが出た方がチームが勝てるのダカラ、モンクがあるのなら実力でショウメイすればいい、と思っている自分がいるのも事実デシタ。
そんなある日のこと、クラブチームに同学年の新メンバーが参加することになった、というニュースがコーチからワタシ達のもとへ伝えられマシタ。
別にメズラシイことではなかったのデスガ、その参加することになったメンバーを見てワタシは少し驚きマシタ。
彼女はワタシと同じ学校に通う生徒デシタ。人の顔を覚えるのはそんなに得意ではないのデスガ、そんなワタシでも覚えているくらい彼女は校内では有名人デシタ。
加えて、彼女はとてもインパクトの強い容姿をしていマシタ。
やや吊り上がった赤茶味のかかったヒトミ。縦にロールした金髪の長い髪とそれをまとめる大きなリボン。いかにもお嬢様と言ったフリルのついた高そうな服。………今は練習に参加するということでスポーツウェアを来ていマスが、記憶の中の彼女はいつもそんな感じの服を着ていマシタ。
コーチから紹介された彼女は挨拶もそこそこに、紹介のために集められたワタシやチームメイトをキョロキョロと見まわし始めマシタ。………? なんデショウか。気のせいでなければ、誰かを探しているような……?
そう思ったのもツカノマ、何かに気が付いたように大きく目を見開き、不敵な笑みを浮かべてビシッ!! と、誰かに向けて指を差しマシタ。その指が示す方向に居たのは——、
「ここであったがヒャクネンメ、カシラ!! ミミ・バルゲリー!!」
「……っ!?」
驚きで思わず硬直するワタシ。そして、名前を高々と呼ばれたことでその場の全員の視線がワタシへ向けられマス。い、一体何が始まったのデショウカ……?
「あなたをこのワタシ——クロエ・ランベールのライバルにニンメイしてあげるカシラ!! コウエイに思うといいノヨ!!」
そう、こちらがリアクションする間もなく堂々とセンゲン。それに対して、ラ、ライバル……? と首をひねるワタシ。何を言っているのかまるで理解できマセン。同じクラスとは言え、ワタシとアナタはまともに口をきいたことすらなかったではないデスカ。
彼女は言うだけ言って満足したのか再び不敵に笑みを浮かべると、何事もなかったかのようにさっさと一人でボールを持って自主練をスタートさせたのデシタ。周囲はコンワクに包まれていたのデスガ彼女はお構いなし、と言った様子デス。
これが、ワタシと彼女、クロエ・ランベールの本当の意味での出会いデシタ。——そして同時にそれは、ワタシのフランスでのバスケ生活の終わりの始まりでもありマシタ。
***
「グヌヌ………納得いかないノヨ!!!」
バスケットゴールの真下に仰向けに倒れ、不満げに叫ぶクロエ。そしてワタシはそんな彼女に特に言葉を掛けることなく立ち去りマス。
「だから無理だって言ってるじゃんかー」
「そうそう。始めたばっかのクロエがミミに勝てるわけないじゃん」
背中越しにチームメイトたちのそんな声が聞こえてくるのを、タオルで汗を拭きつつ聞き流しマス。
これはいつものことデス。練習開始前にワタシに勝負を挑んでくるクロエ。それを実力でねじ伏せるワタシ。そして負けて憤慨するクロエに声をかけるチームメイトたち。
「そんなのやってみないと分からないノヨ!!!」
「いやあ、でも、ねえ?」
「クロエの頑張りは認めるけどさー。いくら何でも相手が悪いよ」
呆れたように笑うチームメイト。その声色は知り合って2か月も経たない人に向けるものにしてはとても親しげなものを含んでいマシタ。——多分、ワタシに話しかけるときよりずっと。
それは彼女とワタシのキャラクターの差という理由もあるのデショウ。常にムヒョウジョウで口数の少ないワタシと、喜怒哀楽が激しくいつでもよく喋るクロエ。どちらがより声を掛けやすいかは明らかデス。
それに加えて、彼女はとても練習熱心でもありマシタ。
決して練習効率がいいわけではないのデスガ、誰よりも早く練習に来て誰よりも遅くまで練習し、コーチにアドバイスをもらってがむしゃらに努力する彼女のことを、チームメイトもコーチもどこか温かい目で見守っているように見えマシタ。
——そんなクロエを中心とした輪の中に、ワタシは入ることが出来マセンデシタ。
一方的に彼女のライバル認定されているのだから当然デス。しかも彼女はワタシと同じポジション狙っており、いつかスタメンを奪い取って見せると公言してはばかりませんデシタ。そう言った事情もあり、ワタシは彼女に対し親しく接する気になれませんデシタ。
そして、彼女がチームメイトたちに好かれれば好かれるほど、ワタシは疎外感を覚えるようになっていきマシタ。
「ミミ!!!! こっちを見るカシラ!!!」
背後から大声でワタシに声をかけるクロエ。ため息をつき、ゆっくりと振り返ると、彼女はいつの間にか立ち上がっていマシタ。
「いつかゼッタイ認めさせてみせるノヨ!!! 覚悟しておくといいカシラ!!!」
ビシッ!! と初めて会った時と同じようにこちらを指さし、そう宣言すると、満足げな様子でその場を立ち去っていきマシタ。
***
「さて、ついにこの日が来たな」
練習後、体育館で開かれる定例ミーティング。
床に体育座りをするワタシたちに、ニヤリと不敵な笑みを浮かべたヘッドコーチがそんな風に切り出しマス。対照的に、チームメイトたちの表情には緊張感がありマシタ。
——理由は単純メイカイ。U11カテゴリの公式戦が近づいてきたからデス。そして、今日はその公式戦のベンチ入りメンバーが発表される日デシタ。
公式戦のベンチ入りメンバーはたったの15人。ウチのクラブチームにはU11カテゴリに属するメンバーは30人以上居マス。メンバーに選ばれる子はそのうちの半分にも満たないのデス。
「では、ベンチ入りメンバーを発表する。ユニフォームを渡すので、名前を呼ばれたものは前に来るように」
監督はシンミョウにそう言って手元の紙に目を向けマシタ。同時に、何人かのチームメイトがごくりと唾を飲み込むのが分かりマス。
「1番。ミミ・バルゲリー」
真っ先に呼ばれたのはワタシの名前デシタ。特にオドロキはありマセン。去年ですらワタシは上級生を差し置いて最終的にはスタメンに選ばれていたので、こうなることは正直分かっていマシタ。
周りのチームメイトもそう思っていたのデショウ。別段誰も驚いた様子もなく、予想通りと言った様子で逆に緊張が少し緩んだようにすら感じマシタ。
ユニフォームを受け取り、元居た場所に再び座りマス。想定通りとはいえ、少し感慨深いものがありマシタ。一番若い番号のユニフォームに袖を通す、ということは実質的にチームで一番の選手と認められるようなものだと思うからデス。頑張って練習してきてよかった、と心からそう思いマシタ。
そんな風に私が浸っているうちに、次々にメンバーは決まっていきマシタ。名前を呼ばれた子は皆一様に安心した表情でユニフォームを受け取り、満足げな表情でこちらに戻ってきマス。反対に、いつまでも名前を呼ばれない子の表情には徐々に焦りの色が濃くなってきマス。そして、いよいよ最後のメンバーが呼ばれる、というシュンカンになりマシタ。緊張感がピークに達しマス。何人かは両手を合わせて自分の名前が呼ばれることを切実に祈っているようデシタ。
「15番。——クロエ・ランベール」
——そして、最後のメンバーとして選ばれた彼女の名前を聞いたシュンカン、ワタシは心の底から驚いたのをよく覚えていマス。
周りのチームメイトも同じ感想を抱いたようで、さざ波のようにざわめきが広がっていきマシタ。
「や、やった!選ばれたノヨ!!!!」
ぴょんと嬉しそうに立ちあがり、ユニフォームを受け取りに行くクロエ。ワタシはどこか現実感がないような感覚でそれを見ていマシタ。
率直に、あり得ない、と思いマシタ。
彼女はバスケを始めて2か月もたっていないのデス。いくらクロエの成長が著しい、と言っても、力量としてはベンチ入りメンバーに選ばれるほどではない、と感じていマシタ。
そんなワタシ達の反応を知ってか知らずか、得意げな様子でユニフォームを受け取るクロエ。そして引き返すためにその場で踊るようにくるりとターン。しかし、勢いが付き過ぎたのかバランスを崩し、その場で盛大にずっこけマシタ。
「い、痛いノヨ………」
よろよろと床に打ち付けたところを手で押さえながら元居た場所に戻ろうとするクロエ。そんな彼女を見て緊張感が解けたのか、どこか和んだ様子のチームメイトたち。
「何やってんのさークロエ」
「そんな調子で試合大丈夫なのー?」
「コーチー、今からでもメンバーあたしに変えた方がよくないですかー?」
「よ、余計なお世話カシラ!!!」
憤慨する彼女を見て愉快そうに笑うチームメイトたち。それを見て、ワタシは心がささくれ立つのを感じマシタ。
『ワタシがベンチ入りメンバーに選ばれた時とはすごい違いデスね』
自分が去年、上級生を差し置いてメンバーに選ばれた時のことを思い出しマシタ。最終的にスタメンの座まで勝ち取ったということもあり、去年のワタシに対する風当たりは強いものデシタ。ひとえにクロエの方がワタシより人当たりが良いから、ということも頭では理解していましたが、余りの空気感の違いにワタシの心はモヤモヤしマシタ。そんな風に、クロエを中心にどこか和んだ様子のチームメイトたちを見て、ワタシはどこか置いて行かれた様な気持ちを抱いたのデシタ。
***
メンバー発表から約2か月が経過しマシタ。
公式戦はリーグ戦の形式で実施され、その地区で最も勝利数の多いチームが優勝というシンプルな形式デス。去年惜しくも地区優勝を逃したワタシ達のチームは、今年こそは優勝に向けて、ということでとても気合が入っていマシタ。
かく言うワタシもその一人デス。去年のワタシは下級生だったということもあり、序盤はそこまで出場機会に恵まれては居ませんデシタ。しかし今年はチームのエースに選ばれたということもあり、自分の力で——自分の培ってきたバスケでチームを勝たせたいという気持ちが高まっていマシタ。そのおかげもあってか、ワタシはチーム内でエースとして大活躍し、結果としてチームはジュンチョウに勝利を積み重ねていくことができマシタ。
しかし、そんなワタシの喜びに水を差す様に、あの子は——クロエは毎日私に絡んできマシタ。
「………」
「今日こそ……今日こそ勝ってみせるカシラ!」
練習開始前のコートで、ワタシとクロエはスリーポイントラインを挟んで向き合いマス。ラインの外側にオフェンスのワタシ、内側にディフェンスのクロエという構図デス。
ワタシはゆっくりと右手でドリブルを開始し、スリーポイントラインの内側に弧を描くように切り込みマス。
「行かせないカシラ!!」
ぴったりとついてくるクロエ。そんな彼女を見て、ワタシは『上手くなったな』と思いマシタ。
無茶苦茶だった体の使い方は軸のブレが少なくなり、ボールばかり見ていた視線は相手の体全体をとらえるようになりマシタ。元々の身体能力の高さも相まって、しっかりとしたディフェンスデス。並の選手であれば彼女を抜き去るのはそれなりに苦労するデショウ。しかし——、
「その辺のプレイヤーと一緒にされては困りマス」
「!?」
大きく踏み出した右足を即座に引き、ボールを左手に持ち替えてそのまま左から彼女を抜き去りマス。フェイントに引っかかった彼女は体勢を崩し、ワタシについていくのが一瞬遅れマス。その隙をついてワタシは左手でレイアップシュートを決めることに成功しマシタ。
——ジャブステップ。最近身に着けたワタシの必殺技デス。
これを身に着けたことでワタシの1on1の勝率は劇的に上がったように感じマシタ。恐らくワタシ自身の性質にこの技は非常にフィットしているのデショウ。シンプルな技術であるにも関わらず恐ろしく効果的デシタ。
………ちなみにこの技は彼女との1on1を通じて得たものデス。まことにフホンイではありマスが、彼女との対戦はワタシのためになっているのも事実デシタ。
「やるじゃんクロエ!!」
「すごい!! めちゃくちゃうまくなってる!!」
そんな風にワタシが勝利のヨインに浸っていると、試合を見物していた二人のチームメイトたちがクロエのもとへ駆け寄りマス。
「いやー、まさか2か月でここまで上手くなるなんてねー」
「最初は何の冗談かと思ったけど、ベンチ入りメンバーに選ばれたの、今なら納得かな」
まるで自分のことのように喜ぶ彼女たちは、よくスタメンとして試合に出場している二人デシタ。………普段一緒にプレーするワタシではなく、クロエに声をかけるのデスね。と、心の中で冷ややかな声が聞こえマシタ。
「ムムム、でも今日も結局一回も止められなかったカシラ。アンマリ上手くなった気がしないノヨ………」
「いやいや、めっちゃディフェンスのキレ良くなってたって!」
「動きかなり良くなったよねえ。実はミミも内心あんまり余裕なかったんじゃない?」
「……?」
急に話を振られて少し驚きマス。特にコミュニケーションを取るつもりはなく、さっさと帰ろうと思っていたからデス。
「………そんなことはありマセン」
彼女たちと目を合わせないまま口を開き、素っ気なく、そうひとことだけ返しマス。あまり多く言葉を交わしたくない気分デシタ。
「いや、でも最初ドライブしようとして止められてたじゃん。いつもなら一回であっさり抜いてるのに」
「しかも例のジャブステップ使わされてたじゃん! あれ出すってことは結構苦戦してたってことじゃない?」
「………たまたまそう言う気分だっただけデスよ」
「またまたー、そんな強がっちゃって」
「ミミもうかうかしてらんないねえ。そのうちクロエにポジション取られちゃうんじゃない?」
「——」
ぷつん、と。ワタシの中で何かが切れる音が聞こえマシタ。それは、いつもなら軽く聞き流せるレベルの軽口デシタ。——しかし、どこか気が立っていたこの時のワタシには、それを無視できるほど心に余裕がありませんデシタ。
帰り支度を中断し、笑っているチームメイトたち向き直りマス。
「——ヒトのプレーにどうこう言える立場デスカ?」
「え?」
きょとん、と何を言われたのか分からずチームメイトたち。
「ワタシとクロエのプレーにどうこう意見する前に、まずは自分のプレーを見直してみたらいかがデショウカ」
ワタシの雰囲気が変わったのを感じ取ったのデショウカ。ぽかんとした様子でこちらを見るチームメイトとクロエに対し、言葉を突きつけマス。
「アナタ、前から言おうと思ってマシタが、パスが上手くないデス。ポイントガードなのに、昨日の試合で一体何回パスミスしマシタか?」
「な、なによ急に」
「ちょ、ちょっと。いったいどうしたの?」
困惑した様子のチームメイトたち。
ダメだ、と頭の中で声がしマシタ。これ以上続けたら取り返しがつかなくなると、ワタシの中の冷静な部分はきっとわかっていたのデショウ。
「アナタはオフェンスで困ったらすぐロングシュートに逃げマスよね。そんなに精度高くないノニ、ハッキリ言って迷惑デス。自分でディフェンスを突破できる力がないなら、大人しくしておいてクダサイ」
「は、はあ!?」
「ちょ、ミミ。そんな言い方——」
「ワタシは——!」
彼女たちの反論を遮る様に、大きな声を出しマス。
「ワタシは、このチームの勝利に一番貢献していマス。 一番点を取っているし、ディフェンスも一番上手いデス。なので、誰にもワタシのプレーに文句は言わせマセン!!」
クロエが来てからここ数か月の間、たまりにたまっていたフラストレーションを全て出し切る様に、ワタシはそう宣言しマシタ。
困惑しつつも怒りを露わにするチームメイトたちと、オロオロした様子でワタシとチームメイトを交互に見るクロエに背を向け、今度こそ私はその場を後にしマシタ。
***
それから時が流れ、シーズンも最終盤に差し掛かっていマシタ。中盤まで2位と大きく差を付けて首位を走っていたハズのワタシたちはチームワークに悩まされ、ゲーム差を大きく縮められていマシタ。
原因は言うまでもなくあの日の口論が原因デシタ。——ワタシが一方的に怒っただけなので、口論という言い方がと言っていいのかすらわかりマセンが。
とにかく、関係性にヒビが入ったことが原因で上手く連携が取れなくなり、ムキになったワタシが個人プレーに走るといった展開が増えマシタ。そうなるとチームメイトたちはますますワタシに対し不信感を抱くようになりマス。そんな負のスパイラルが原因で、気が付くとワタシとチームメイトたちの間柄は修復不可能になっていったのデシタ。
………多分、ちゃんと謝ってさえいればこんなことにはならなかったのデショウ。しかし、人付き合いに慣れていない上意地になっていたあの時のワタシは素直になることができまセンデシタ。
そして、地区優勝を懸けた最後の試合がやってきマシタ。いつも通りスタメンに選ばれたワタシ。結局一度もスタメンで起用されなかったクロエは全身で悔しさを表していマシタ。そしてそれを周りのチームメイトたちがなだめたり、からかったりしマス。
……あれから半年、孤立を深めるワタシとは対照的に彼女はすっかりチームの人気者になっていマシタ。バスケの腕もメキメキ成長し、今では彼女がベンチ入りメンバーであることを疑問に思うチームメイトは誰一人としていなくなっていマシタ。——かく言うワタシも、彼女の実力をはっきりと否定することはできなくなっていマシタ。
『ミミじゃなくて、クロがスタメンだったらよかったのに』
「……っ!!」
脳内で聞こえたそんな声を振り払いマス。動揺で、心臓の音が早くなるのが分かりマシタ。『クロエの方が良い』とハッキリと口にされたわけではありマセン。しかし、態度を見れば皆がそう思っているというのは伝わってきマシタ。
「………ショウメイ、してみせマス」
ぽつり、と一人呟きマス。
「………ワタシの、ワタシのバスケの方が価値があるって、ショウメイしてみせマス」
***
「白1番、チャージング!」
「——」
審判の声と、相手ベンチの歓声がやけに遠く聞こえマス。ワタシとマッチアップしていた相手ディフェンスはしてやったりといった表情で床から勢いよく起き上がりマシタ。
「ミミ!! 何やってるのさ!!」
「さっさとこっちにパスしてよ!!」
チームメイトの声で、ワタシは急速に意識が引き戻されるような感覚を覚えマス。脳内を支配していた高い集中力が霧散し、自分の呼吸音がやけに大きく聞こえマシタ。
ぼんやりとした頭で、あからさまな不満を浮かべるチームメイトたちの顔を見つめマス。
『あれ………』
心の中で首をひねりマス。
『ワタシはいったい、何をしてしまったのでショウカ』
自分が思い描いていた理想と、目の前の現実のあまりにも大きなヘダタリに脳の処理が付いていきませんデシタ。
集中力が高まり、周りが見えなくなった結果個人プレーに走るというのはワタシの悪い癖デシタ。そのたびにチームメイトは不満そうにしていマシタが、何とか勝つことが出来ていたので面と向かって文句を言われることはあまりありませんデシタ。しかし、今日は相手チームへのワタシへのマークが強く、いつものように一人で相手ディフェンスを突破するということができませんデシタ。
「いつまでそんなプレーを続けるの? いい加減にしてよ」
「今までちゃんと言わなかったけど、あんたのバスケ、最悪だよ」
「もうミミと一緒にプレーしたくない!!!」
「——っ」
グサリ、と。
チームメイトたちが乱暴に吐き捨てたその言葉は、ワタシの心の一番深い所を抉るように突き刺さりマシタ。今まで必死に積み上げてきた大事なものがガラガラと音を立てて崩れていくような感覚を覚えマス。そして——、
「ミミ」
背後からワタシの名前を呼ぶ声が聞こえマス。振り返ると、ヘッドコーチがキビシイ表情を浮かべてこちらを見ていマシタ。
そして、試合が止まっていることにヨウヤク気が付きマシタ。まだ第2クォーターが始まったばかりデス。恐らくコーチがタイムアウトをとったのデショウ。
——落ち着け、ということなのデショウカ。
ほんの少し胸を撫でおろしマス。自分の状況が普通でないということは明らかデシタ。このタイムアウトの間に少しでもいつもの状態に戻すことが出来れば——。
「選手交代だ」
「——」
しかし、告げられたのはワタシを見限る判断デシタ。言葉を失って立ち尽くすワタシを監督はじっと見つめていマス。『理由は言われなくても分かるよな?』とその目は物語っていマシタ。
「ま、まだ………まだ、ワタシは………」
口からこぼれ出たのはそんなアイマイな否定の言葉だけ。明らかに自分に非がある、と分かっていたせいでハッキリと自分の意思を伝えることが出来マセンデシタ。
そんなワタシの様子には特に反応を示さず、コーチは言葉を続けマス。
「1番、ミミに代えて——15番、クロエ」
「——」
——ドクン、と。
心臓がひと際大きく脈打つのがハッキリと分かりマシタ。コーチに欠けられた言葉がリフレインするように頭の中で繰り返されマス。1番、ミミに代えて、15番、クロエ、ミミに代えて、クロエ。ミミに代えて、クロエ。ミミに代えて——。
ワタシが呆然としている間に、クロエはジャージを脱ぎ、シューズのひもを結んで意気揚々とコートに飛び出していきマシタ。ワタシの方には目もくれず、一直線に相手チームを見据えていマス。待ち望んでいた公式戦に出られることが嬉しくて仕方がない、という気持ちが漏れ出ていマシタ。
そんな彼女とはタイショウテキに、ポンポンとコーチに肩を叩かれながらおぼつかない足取りでワタシはベンチへと戻りマシタ。控えのチームメイトたちが、スポーツドリンクやタオルを差し出してマシタが、どこか腫れ物に触るような態度デシタ。
「ま、こういうこともあるさ。後はクロエに任せてお前は今日の自分のプレーについてしっかり考えろ」
横でコーチに何か言われた気がしますが、頭に入ってきマセン。
『どうして………どうして、ワタシの代わりにあの子なのデショウ』
ナットクが行きませんデシタ。
ぼんやりとした頭でコートの方に目を向けマス。
——ワタシの抜けた穴をあの子で防ぐことが出来るハズありマセン。
ある種祈るような気持ちで試合を観戦しマス。………自分のチームが上手く行かないことを願う、なんて性格が悪いにもほどがあることだと思いマシタが、この時のワタシには誰かを気遣う余裕など全くありませんデシタ。
「あ、間違えたカシラ!!」
「何やってんのさクロエ!』
案の定、即席でチームに参加したクロエは上手く周りと連携が取れていないようで、早速オフェンスのフォーメーションを間違えてボールを奪われてしまいマシタ。
「取り返すノヨ!!」
くるりと踵を返し、自陣に戻ってディフェンスに専念しマス。マークにつくのは先ほどまで私がマッチアップしていた相手チームのエース。パスをもらって敵陣に攻め入ろうとしていた彼女の前にクロエが立ちふさがりマス。
「行かせないカシラ!!」
「このっ……! しつっこい!!」
抜き去ろうとしてもどこまでもしつこくついてくるクロエに、苛立った様子の相手エース。時間ギリギリで苦し紛れに出したパスをカットされ、再びこちらの攻撃になりマス。
「くっ……!」
「クロエ、ナイスディフェンス!!」
「ほらさっさとオフェンスいくよ!!」
「こ、今度はしくじらないカシラ!!」
チームメイトたちは素早くパスを回し、相手ディフェンスが戻る前に人数で押し切りシュートが決まりマス。それを見てこちらのベンチからわっと歓声が上がりマシタ。
「………」
その後も似たような展開が続きマシタ。
ワタシからクロエに変わったことによって、チームとしてのオフェンス力は目に見えて下がりマシタ。単体としての技術はもちろん、フォーメーションプレイも覚えきれていないのかミスが多く、コーチやチームメイトたちからヒンパンに注意されていマシタ。
一方で得意なディフェンスでの貢献は大きく、クロエがマッチアップしてから相手エースは思う様に動くことが出来ず、明らかに精彩を欠いていマシタ。
——しかし、一番目立ったのはそんな表面的な変化ではありませんデシタ。
クロエ以外の他のチームメイト4人——普段スタメンとして出場している他の4人の動きが、ワタシと一緒にプレーしていた時と明らかに変質していマシタ。
型どおりのプレーしかしてこなかったPGは、創造的にゲームメイクするようになりマシタ。
リバウンドに徹するだけだったCは長身を活かしてゴール下で力強いプレーをするようになりマシタ。
無難なシュートしか打たなかったSGは、積極的に長距離からの攻撃に挑戦するようになりマシタ。
ワタシのサポートをするだったPFは、チームの攻撃力の要として機能していマシタ。
これまで、うちのチームはワタシの個人技を中心とした戦術がメインだったため、他のメンバーはサポートに徹することが主な仕事デシタ。しかしワタシが抜けて代わりにクロエが入ったことで役割のシュウセイを余儀なくされたからデショウカ。彼女たちはまるで自身こそが主役だといわんばかりに生き生きとしたプレーを見せるようになりマシタ。
——その姿は、これまで溜まりに溜まっていた鬱憤を晴らすかのようデシタ。
「……っ」
半年間プレー一緒にプレーしてきたハズの彼女たちの初めて見るプレーに、そしてプレーが物語る彼女たちの本音に、ワタシは未だかつてないほどに打ちのめされていマシタ。
ピィィィィーーーー!!!
「——!」
そんなことを考えている間に、試合終了を告げるブザーの音が高らかに鳴り響きマス。そして、ほぼ同時にこちらのベンチからこれまでで最も大きい歓声が鳴り響きマシタ。
試合は、ワタシ達のチームの勝利で幕を閉じマシタ。最後はクロエが相手エースをタイムアップまで抑え込んでの勝利。わずか2点差ではありマシタが、相手チームは最後までこちらのチームの劇的な変化に上手く対応できていない様デシタ。
そしてこの瞬間、ワタシ達のチームのリーグ優勝が決まりマシタ。………あれほど強く望んでいたハズの優勝なのに、ワタシは全くジッカンがありませんデシタ。
しかしチームメイトや観客たちはコート上に駆け寄り、最後まで戦い抜いた選手たちを称えていマシタ。そしてその中心には、本日の勝利の立役者となったクロエの姿がありマシタ。
ワタシはその様子を、ベンチでただ一人見つめていマシタ。
『ああ………』
今更ながらに、自分のしてきたことが間違いだったことに気が付きマス。
大好きだったバスケ。上手くなりたくて、これまでと違う自分になりたくて、その一心で今まで一生懸命に積み上げてきたワタシのバスケ。
多くのチームメイトたちに囲まれ、頭をめちゃくちゃに撫でられるクロエを見てワタシは思い知りマス。
ワタシにとってのたった一つの宝物は、他の人からは見向きもされない石ころ同然のガラクタだったのだと。
二十五話でした。(やっと投稿できた。。。)
ミミの過去変、地の文までカタコトなのはどうなん?と思いましたが、ミミらしさが損なわれるのを避けたかったのでこうなりました。
時間かけた割にあまり推敲せず手癖で書いた部分あるので過去の話と矛盾あるかも(こわい)
なるはやで次を投稿したいと思ってますが目途が立ってない模様。。