ロウきゅーぶ 下級生あふたー!   作:赤眼兎

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励みになります。

6000字ちょいくらいなんで少し長め。
どのくらいの文字数がよみやすいんですかね……
まあ話の切れ目考えると文字数とか考慮してられない感あるので、なかなか難しいですが


■第四話 グッドコミュニケーション?

「お疲れー。今日も頑張ったなー」

 

 練習後、俺と美星と女バスの部員たちは体育館の中央に集まって練習後の定例ミーティングを行っていた。去年は別に毎回は行っていなかったようだが、色々今後の予定とか全員がいる場で伝えてしまいたいという美星の発案で実施することとなった。

 

 いつもは大きな連絡もなく、次の練習の予定と美星の労いの言葉だけで終わるのだが、本日は毛色が違っていた。その理由とは。

 

「明日からGWだな。先週連絡した通り、あたしらは明後日から東京へ三泊四日の合同練習会へ向かうぞ。当日は校門前に七時に集合だからなー。遅れるなよ」

 

 美星の言葉を聞いて、心なしか部員たちの顔に緊張が走ったように見えた。

 

 

 ———東京での合同練習会。

 

 

 関東の強豪チームが新チーム始動直後のこの時期に、何校かで合同で行っている泊りがけでの練習会。

 

 なんと、その会に是非慧心さんも、と主催の東京の学校から招待をもらったのだ。参加する学校は男子の俺でも見たことのあるような全国常連の強豪校ばかり。

 

 正直、初めに話を聞いた時は何の冗談かと思った。

こう言っては何だが、慧心女バスは去年結成されたばかりで、公式大会も硯谷と好試合を繰り広げたとはいえ地区大会で初戦敗退に終わっており、他の招待チームと比べて実績があるとはいい難い。はっきり言って呼ばれること自体に違和感があった。

 

 しかし、招待してきた学校名と、その経緯を聞いて合点がいった。

 

 去年の東京都代表、私立九重学園。

 

 激戦区の東京を制し、全国へ駒を進めた全国有数の名門校。

 去年の全国大会でのリーグ戦では硯谷と優勝争いを行い、僅差で敗れたものの成績はリーグ準優勝。

 

 向こうの顧問が言うには対戦相手の硯谷について調べているうちに、地区予選一回戦の慧心戦のビデオを入手してうちに興味を持ってぜひ一緒に練習したいと思った、という話だった。

 

 ………というのは恐らく建前で、全国大会で再び戦うことになった場合強敵になりそうな硯谷の情報を得るためそのライバル校とのパイプが欲しい、というのが本音なのでは? というのが俺と美星の見解だった。言葉通りに受け取った場合、いくら何でもこちらに都合が良すぎる。

 

 とは言え、仮にそうだったとしてもこちらとしては願ってもない話だ。

全国の強豪チーム相手に、今の慧心のバスケがどの程度通用するのか確かめるには絶好の機会だ。それに、他のチームの練習や戦い方を見て学ぶことは絶対に部員たちにとってプラスになるハズ。こちらにとってはメリットしかない。

 美星は、即座に二つ返事でその誘いを了承した。

 

 九重から誘いを受けた日の翌日。

 

 部活後のミーティングで合同練習会について部員たちに伝えたところ、予想通り皆大喜びだった。公式戦がしばらくなく、手近な目標がないという不満の声がちらほらと上がっていた矢先だったからな。その日以降、皆大分気合が入った様子で練習に励んでいた。

 

 ちなみに、俺は練習会には参加できない。男バスは男バスでGWに合宿があるので、俺はそちらに参加する。試合を実際に観戦できないのは正直残念だが、美星が試合のビデオを撮ってくれるそうなので、終わった後に見て今後の練習に活かすこととしよう。

 

 後俺が参加できないとなると、試合中の指示ができる人間が美星しかいない、という問題が発生するのだが、対戦相手ごとに試してみてほしい戦術は伝えてあるし、六年部員にはある程度自分で考えて動けるよう、色々と教えてきたつもりだ。相手はどこも全国常連の強豪校なので厳しい戦いにはなると思うが、モチベーションの高いこいつらのことだ。きっと何かしらを得て帰ってくるに違いない。GW明けの練習でそれを見せてくれるのが今から楽しみだ。

 

「詳しいことはさっき渡したプリントに書いておいたから、よく読んで各自忘れ物とかないようにしておくこと。特に椿と柊はちゃんと確認しとけよー」

 

 美星がそう言うと、部員たちから軽く笑い声が漏れた。名指しで注意された椿と柊は二人そろって頬を不満げに膨らませていた。

 

 ………すげーな、膨らませ方までそっくりだ。兄貴なのに思わず感心しちまったよ。

 俺はそんな椿と柊の頭に手をポン、と置いて、

 

「まあ、こいつらの荷物は俺がちゃんと確認しとくから心配すんなよ。当日も朝五時にたたき起こすからさ」

 

「あ、ひどいよにーたん!」

 

「ボクたちのことをもっと信じてよにーたん!」

 

 椿と柊は裏切られた! とでも言いたげな表情で抗議の声を挙げた。……いや、新しいクラスでもお前らが忘れ物しまくってる話は散々聞いてるからな。そう思うなら普段からもうちょっと頑張れよ。

 

「にゃふふ~、まあ竹中がそういうなら二人については心配しなくてよさそうだな。………じゃあ、ちっと早いけど今日はもう解散! 明後日から四日間ハードだから、今日明日は無理せずしっかり体を休めておけよー」

 

 そう言って美星は今日のミーティングを締めくくった。

部活が終わり、部員たちはぞろぞろとシャワールームへと足を向ける。結果、体育館には俺一人が取り残される。

 

 ………毎回思うんだが、女子連中がシャワー浴びているこの時間はなんか居心地が悪い。この中に男子が自分しかいないことを嫌でも意識せざるを得ないからだ。割と今更だが、正直場違い感が半端ない。

 

 まあ俺としてはあいつらは妹と単なるその友達っていう認識なので、練習している間は女子だとかは別に意識しねーんだけどさ。待っててもすることねーから毎回一人でシュート練習してるんだが、なんか落ち着かない。心なしかいつもよりシュート成功率も低い気がする。

 

「クソっ………また外しちまった」

 

 俺が放ったボールはリングに弾かれ、ネットをくぐることなく地面へとバウンドした。苛立ちから思わず舌打ちが出る。ダメだ、ロングシュートは打つ時の精神状態がモロに反映されるからな。もっと集中して心を落ち着かせねーと。

 

 以前長谷川から教わった精神集中法でも試してみるか。数秒かかるから試合中はあんま使えねーけど。

 

 そう思って、俺は肺の中にたまっている空気を一度すべて吐き切る。

 

 そして目を閉じて心臓付近に手を当て、三秒間くらいかけて深く息を吸う。肺に空気が限界まで溜まっていることを意識し、一秒間だけ息を止めた後、ゆっくりと時間をかけて息を吐き出———。

 

 

「スリーポイントシュートの練習デスか?」

 

 

「っ!? ゲホッゲホッ……!!」

 

 驚きで吐き出そうとした息が気管に入り、盛大にむせた。

何事だ!? と思って振り返ると既に制服に着替えたミミがシレっとした表情で真後ろに突っ立っていた。こ、コイツいつの間に………。

 

「お、おう……もうシャワー浴びたのか? 早かったな」

 

「ウィ、ワタシが一番乗りデシタ」

 

 そう言ってミミは誇らしげにピースサインを掲げた。なんでそんなに自慢げなんだ……。

 

 ふてぶてしいその態度に、驚かされたことについて文句を言う気力も失せる。

俺はふう、と息を吐き、呼吸を整えてミミに向き直る。

 

「中学はミニバスと違ってスリーポイントがあるからな。練習しといて損はねーと思って、最近特に重点的に練習してんだよ」 

 

「ホウ、ちゃんと考えて練習しているみたいデスね、感心デス」

 

 何目線だよ………と思ったが一々突っ込んでいるとキリがないのでノーリアクションを貫く。

 

 俺が黙っていると、そのままミミは立ったままじっとこっちを眺めていた。な、なんなんだ……?

 

 特に何か俺に言いたいこともないようなので、転がったボールを再び拾い直して3Pラインの外で再びボールを構える。背中にミミの視線を感じ、集中力がかき乱されるのを感じながら放ったボールは意外なことにきれいな放物線を描き、そのままゴールネットをくぐって軽快な音を立てた。

 

 オオ……という感嘆の声とともに、ミミがパチパチと小さく拍手する音が背後から聞こえてきた。や、やりづれえ………。

 

 この状態で練習しても仕方ねえし、そろそろ他の連中も戻ってくるだろうから今日はこのぐらいにしとくか、と思いボールを片付けようとしたところで、教室で紗季に言われたことが再び脳裏に浮かぶ。

 

 ……………まあ、折角二人きりだし、直接本人に聞いてみるか………。

 

「あー、ミミ。そういやお前に聞きたいことあったんだけどさ」

 

「……? なんでショウ」

 

 ミミはそう言って小さく首を傾げた。

 

 ………………………………。

 

 ………いやいざ声かけたはいいけどこれなんつって切り出したらいいんだ?

 

 紗季から気にかけてやってくれとは言われたが、詳細なことは何も聞いてねーんだよな………。まあ、遠回しになんか最近変わったことなかったか聞いてみるか……。

 

「あー……なんだ、その、最近楽しいか? 部活とか、学校とか」

 

「………? どうしたんデスか、タケナカ。そんなヒサビサに会った親戚のオジサンみたいなこと急に言い出すなんて」

 

 俺の問いを受けて、ミミは怪訝そうな表情を浮かべる。

 しまった。流石に唐突過ぎだし、何言ってっか分かんねーよなこりゃ。どうすりゃいいんだ……。

 

「あー……お前も日本に来てしばらく経つじゃん? こっちでの生活とか、慣れたかなって思ってさ」

 

「………? 今更デスね。とっくに慣れまシタ。もう半年以上も前デスよ、ワタシがニホンに来たの」

 

「あ、あはは。そういやもうそんなに経つんだっけか………いやー時間が流れるのはあっという間だなー………………」

 

 ………………………。

 

 だ、ダメだこりゃ………。これじゃただの挙動不審な奴じゃねーか。ミミもなんか微妙な顔してるし。そもそも、具体的な事情も知らないのにこっちから相談とかないか切り出すなんて無理がある。クソ、紗季の奴も厄介な依頼を寄越してくれやがって………。

 

 俺が内心で自分の会話能力の低さに愕然としていると、不意にミミが顔を俯かせた。

 

「………楽しいデスよ。ニホンでのセイカツ」

 

 ミミは小声でそう呟く。

 

「元々暮らしてみたいとは思ってマシタけど、いざ暮らしてみると想像していたよりずっといい所デシタ。ご飯はおいしいし、見たこともないモノも沢山あって面白いデス。一緒にバスケできる大切なトモダチも沢山出来マシタ。凄く、幸せデス」

 

 ミミは俯かせていた顔を上げ、微笑んだ。

 

「でも、たまに故郷が恋しく思う時がありマス」

 

 表情は変わらないものの、そう告げたミミの言葉は何処か寂し気で。その言葉に、嘘偽りがないのだということはなんとなく感じ取れた。

 

 ………なるほど、そういうことか。だんだん話が見えてきたぞ。

 

 要はミミは今、ホームシック、というやつに陥っているのだ。

俺なんかは生まれてからずっと同じ所に住んでいて、地元から遠く離れて暮らしたことなんてねーから故郷を恋しく思う気持ちを実際に味わったことはねーが、なんとなくなら分かる。俺が海外、例えばフランスに住むことになったとしたら、間違いなく1か月も立たずに日本が恋しくなって帰りたくなるであろうことは容易に想像できる。それと同じことだ。

 

 恐らくミミが故郷を恋しく思っている、という話を、何がきっかけかはわからねーが、紗季が耳にした。そして心配に思った紗季が俺にミミの様子がおかしくないか確認するよう依頼を投げた。こういうことだ。

 

 ………………うん、紗季の性格から考えてもしっくりくるな。よしよし。

俺は自分の推理に内心でガッツポーズをし、ミミになんて言ってやるか考える。

ミミは今や女バスのエースだ。フランスに帰られては困る。ミミの故郷を思う気持ちを尊重しつつ、何とかして日本に居てもらう、となると———。

 

「そのうちさ、俺たちをフランスに連れてってくれよ」

 

「え……?」

 

 俺の言葉を聞いて、ミミはよくわからない、といった顔で首を傾げた。

 

「夏休みでも、春でも冬でもいいからさ。俺と、お前と、妹たちと、かげつと、雅美と、美星で、フランス行こうぜ。後輩たちが一緒でもいいな。バスケ部のみんなでさ。お前が好きな店とか、好きな景色とか、案内してくれよ。ぜってー楽しいと思うぜ」

 

 俺がそう言うと、ミミはぱっと表情を明るくした。

 

「ウィ、スバラシイアイディアです! 絶対行きまショウ! ………皆にワタシの故郷、好きになってもらえるよう頑張りマス」

 

 ミミはハイテンションで同意して、実際に案内しているときのことを想像したのか、にこにこと機嫌の良さそうな笑みを浮かべた。

 

 ………つくづく思うけど、昔に比べて表情豊かになったよな、こいつ。

 

「まあ、そんなわけだから、フランスに帰りたくなったとしても勝手に帰ったりするんじゃねーぞ。お前はもう慧心の重要な戦力なんだからな。抜けられっと困るだろ」

 

 俺がそう言うと、ミミは少し驚いたように目を見開いた後、再び俯いた。

 なんだ……? 上手い感じで収まったと思ったんだが、まだ何かあるのだろうか。

 

 俺が様子をうかがっていると、ミミはふっと顔を上げ、

 

「タケナカは……」

 

「?」

 

 

「タケナカは、ワタシのこと、どう思ってマスか?」

 

 

急に何言ってんだ? と軽い調子で返そうと思ったが、ミミが思ったより真剣な表情を浮かべていたのを見て、思わず口を噤んだ。

 

「一緒にバスケしてて、どう思ってくれてるのかなって」

 

 ミミはやや言いづらそうに言葉を続けた。目を逸らし、所在なさげに組んだ手の指をモゾモゾと動かしている。

 

 なんでそんなこと聞くんだ? と思ったが、聞き返しても仕方ねーし、相談に乗る、といった手前、そう言った誤魔化しは不誠実に思えたので、正直に答えることにする。ミミとのバスケなあ………改めて聞かれるとぱっとは出てこねーが。

 

「まあ、楽しいぞ。お前やっぱ上手いし、負けず嫌いなとこも選手としては嫌いじゃない」

 

「!」

 

 そう言うと、ミミは少し驚いたように目を見開いた。………なんだよ、俺が楽しいっつったのがそんなに意外か?

 

「まあ、たまにコイツめんどくせーなって思うこともあるけど」

 

「ム」

 

「でもまあ、実力が拮抗してる相手と戦うのはやっぱ練習になるしな。それにお前のプレイスタイルは見ていて楽しいから、好きだぞ」

 

「そう、デスか」

 

 そう言うと、ミミは少し安心したような表情を浮かべた。………なんだ? 割と自分のスキルに自信ある方だと思っていたのに、急に自信でも無くしたようなことを言ってくるなんて、意外と謙虚なのか?

 

「まあ、なんだ? 一応俺先輩だし、バスケのことでもほかのことでも、なんか困ったことあったら相談乗ってやれるし、出来る範囲のことはしてやるから遠慮すんなよ。普段妹達が世話になってるしな」

 

「ム、タケナカにバスケのことで相談に乗るほどワタシは落ちぶれちゃいないのデス」

 

「おい」

 

 なんなんだよ。謙虚なのか自信があるのか結局どっちなんだ。一々振り回されるこっちの身にもなって欲しい。ていうかそれなら今俺が女バスのコーチしていることについてはどう思ってんだ。さっきからツッコミきれねーぞ、おい。

 

 俺がげんなりしているとミミは少し悩んで、

 

「でも、そうデスね……。それ以外のことで困ったら遠慮なく頼らせていただきマス。………男にニゴンはないデスよね?」

 

「おう、任せとけ」

 

 俺がそう言って笑って見せると、ミミはようやく心から安心したような笑顔を浮かべた。

 

 そんな話をしているうちに、椿たちがシャワールームの方向から制服姿でぞろぞろとこちらに向かってきているのが見えた。いっけね、話し込み過ぎた。俺もさっさと着替えて帰る準備しねーと待たせちまう。

 

 ………………でもまあひと悶着あったが、無事これで紗季の依頼とやらは達成できたみたいだし、よかったよかった。こうしてみると、俺が去年男バスのキャプテンとして培ったお悩み解決能力もなかなか捨てたもんじゃないのかも知んねーな。うん。

俺は内心で自分にグッジョブを送り、ミミに一言言って体育館を後にし、速足で教室へと向かった。

 

 

………この時、もう少しきちんとミミから事情を聴きだしておくべきだったと、俺は後になって後悔することになる。

 




漫画版を主に読んでたのでミミは割とふてぶてしくめちゃくちゃマイペースなイメージだったんですが、アニメ版とかだとそうでもない感じだったんで驚いた記憶があります。
(拙作は漫画版のイメージに近いですね)

やっぱキャラの掛け合いは書いてて楽しい。
逆に地の文は難しいです。

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