ロウきゅーぶ 下級生あふたー!   作:赤眼兎

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つなぎ的な話なので結構短めです
次回でようやく前置き的な話が終わりそう



■第六話 ほーむ・あうと

「家出ぇ!?」

 

「ウィ、そうです」

 

 時刻は、深夜一時を丁度過ぎた頃。

 

 朝型人間の俺の場合、普段ならとっくに寝ている時間である。

そんな時間に自室でなぜかミミと一緒にいる、という時点ですでに異常な状況なのに、ミミの口から出てきたとんでもない言葉を聞いて、俺の脳味噌は処理の限界を迎えようとしていた。

 

 ………あの後ミミをたたき起こし、ベッドを侵略されたことへの仕返しとして頭に軽いチョップを食らわせ何故ここに居るのか問いただした。話によると、東京への出発日の朝に両親と大喧嘩し、家出も兼ねてそのまま集合場所である慧心学園正門へと向かったとのことだった。……………んなアホな。

 

 そんで椿と柊に事情を説明したところ激しく同情され、「うちに泊まっていけばいいじゃん!」と説得されて今に至るとのことだった。まあ、妹達も母さんと喧嘩してよく家出してたし、恐らくシンパシーを感じたのだろう。………あいつら、このこと母さんになんて説明するつもりなんだか。

 

「………まあ、色々ツッコミ所はあるが、状況は分かった。でもうちに泊まってることってお前の親にちゃんと伝わってんのか? 合宿終わっても娘が家に帰ってこなかったら普通心配するだろ」

 

 俺がそう言うと、ミミは心配ないとばかりにサムズアップして、

 

「ウィ、その辺は抜かりないデス。学校に連絡されたり、ケーサツにソーサク願を出されたりしたら困りマスし。………このように、トモダチの家に泊まるから帰らないって言ってやりマシタ。徹底抗戦デス」

 

 そう言ってミミはケータイを取り出し、SNSの親とのトーク履歴を俺に見せつけてきた。

 ………いや、つってもフランス語で書いてあるから分かんねーけど。

 よく内容を見ると、ミミがフランス語で両親に対し何事か長文で言った後、ミミの両親らしき二人が泣き顔のスタンプを連打しているようだった。

 ………ホントにケンカなのか? ミミが一方的にキレ散らかしているようにしか見えねーんだが………。

 

「………まあいいわ。でもとりあえず今日はうちにいるとして、明日以降はどうすんだ? さすがにいつまでも家出したままってわけにはいかねーだろ」

 

 俺がそう言うと、ミミは今までの堂々とした態度から一転、言葉を詰まらせて俯いた。

 数秒間の沈黙後、ようやく口を開くと、

 

「タケナカや、タケナカのお母様、つばひーたちにゴメイワクをお掛けしてしまっているのは分かっていマス。なるべく早く帰るようにしマス。本当にゴメンナサイ」

 

 そう言ってミミは、言葉の通り申し訳なさそうな様子で項垂れた。

 

………………………。あのなあ………。

 俺は右手で手刀を作ると、先ほど食らわせてやったチョップを再びミミの頭にお見舞いしてやった。

 

「イタっ! な、ナニをするのデス、タケナカ! 暴力ハンタイデス………!」

 

 ミミはそう言うと涙目で頭を抑えて俺をにらみつけてきた。

 うるせー。本当なら竹中家伝統の地獄のお仕置き、「こめかみグリグリ」(その威力は妹で実証済み)をお見舞いしてやってもいいんだからな。弱チョップで済ましてやっただけありがたく思えってんだ。

 

「迷惑だと思ってたら椿も柊もそもそもお前のこと泊めたりなんてしないっつーの。どーせお泊り会出来て楽しいくらいにしか思ってねーよ。友達なんだろ? そんぐらい自分で気付け、バカ」

 

 俺は言い聞かせるようにミミにそう言ってやる。

 ミミは頭を抑えて、黙ったまま上目遣いで俺を見つめていた。

俺は言葉を続ける。

 

「後、俺も別にこのくらい迷惑とも何とも思ってねーよ。言ったろ、先輩として、出来る範囲のことはしてやるって。母さんは………まあなんか色々言うかも知んねーけど別に娘の友達を家に泊めるくらいどうも思わねーよ」

 

ったく、普段はとことんマイペースな癖に、自分が本当に困った時だけ他人に遠慮してんじゃねーよ。

 

「とにかく、お前は自分の心配だけしてろよ。他のことなんて考える必要ねー。親御さんとさっさと仲直りする方法だけ考えろ。向こうも心配してくれてるんだろ」

 

 俺がそう締めくくると、ミミはコクン、と小さく頷いた。

 

 ………まあ、納得したんならいい。こめかみグリグリは勘弁しておいてやろう。

 

「………とにかく、もう今日はさっさと寝よーぜ。いい加減疲れただろ。あ、つーか今更だけどお前、なんで椿と柊の部屋じゃなくて俺のベッドで寝てたわけ?」

 

 俺がそう尋ねると、ミミは若干気まずそうに視線を逸らし、

 

「………ウィ、ワタシ、ベッドじゃないと寝られないので。タケナカの部屋にベッドがあると耳にしたので、コッソリつばひーの部屋を抜け出しマシタ」

 

 なんだその理由………。

 

 つーか、いくらベッドで眠れないからっつったって、人が寝てるとこに普通潜り込むかぁ? 

 まあ父さんも母さんも布団派だから家にあるベッドは確かに俺のしかねーけど、だからって自由過ぎるだろ。一日ぐらい布団で妥協しろよ………。

 

「フランスに居た頃はオフトンで眠る、というニホンのブンカにとてもキョウミがあったのデスが、実際に寝てみたら翌日セナカを激しく痛めてしまいマシタ………。今思い出してもゾッとシマス。寝ている間ですらあのような辛いシュギョウに取り組むニホンジン、オソロシヤ………」

 

 そう言ってミミは恐怖の表情を浮かべ、身を縮めて全身をブルブル震わせた。いや別に日本人も修行のために布団で寝てるわけじゃねーけどな。

 まあ、外国人が慣れない布団で寝て背中を痛める、という話はテレビかなんかで見たことある気がするので、納得ではあった。バスケ選手にとって背中痛めるのは致命的だしな。

 

 俺は頭を乱雑に掻きながらため息をつき、

「じゃあお前、ベッド使えよ。俺はベッド買う前に使ってた布団があるから、そっちで寝るわ。それでいいだろ」

 

 そう言って俺は立ち上がり、自室の押し入れへと向かう。押し入れの扉を開き、中から敷布団、掛布団、枕の三点セットを取り出した。合宿の宿泊施設はベッドだったので、布団で寝るのはおよそ一か月ぶりだが、捨てなくて正解だったな。

 そのまま敷布団を床の空いたスペースに敷き、掛布団を広げて枕を置く。これで就寝準備は完了だ。

 

「………? なんだよ」

 

 視線を感じて目を向けると、ミミが無言でこっちを見ていたことに気付く。布団を敷く動作がフランス人的に珍しかったのか? とも思ったが、よく見ると何か思い詰めたような表情をしていることに気付いた。まだ何か心配事があるのか?

 

 俺が無言でいると、ミミは意を決した様子で口を開いた。

 

「タケナカは……さっき、ワタシに余計な遠慮はするなと言ってくれマシタ。困ったことがあったら相談に乗る、とも言ってくれマシタ。………ミンナに心配を掛けてしまうのが嫌で、ずっと言い出せなかったのデスが、一つ聞いてほしい話がありマス」

 

「………なんだよ」

 

 いつになく真剣な表情だった。

………そんな表情もできるんだな、と場違いな茶化し文句が頭に浮かぶ。

 

 何故だかミミの目を直視できない。俺は視線を逸らしたまま、ミミの言葉を待った。

 

 ———脳裏に、直近あったミミにまつわる様々な出来事が浮かぶ。

 

 妙に意味深だった紗季の様子。

 故郷が恋しい、というらしくもない弱音。

 家出をしてしまうほどの両親との大喧嘩。

 そして、目の前のミミの改まった態度。

 

 ………嫌な予感がした。

 

 ミミはゆっくりと深呼吸した後、真っ直ぐに俺を見て、その言葉を口にした。

 

 

 

「ワタシ、パパのオシゴトの都合で、フランスに帰ることになりマシタ。………バスケ部のみんなとは、お別れデス」

 

 

 

———そう言ってミミは、俺に深々とお辞儀をして、

 

 

 

「今までワタシと一緒に遊んでくれて、ありがとうございマシタ」

 

 

 




話切るほどでもないと思ったのですが、次回が長めなのでいったん切りました。
なるはやで次投稿します。

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