ロウきゅーぶ 下級生あふたー!   作:赤眼兎

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第九話投稿しました。

だんだん執筆に慣れてきた気がします。
第一話の頃はもっとおっかなびっくりやっていた気がするのに。

ただ第三者的な視点がないので、うまく伝わっていない部分とか表現が足りない部分がある気がするのが悩みです。


■第九話 ガールフレンドカッコカリ

「まあ、なんやかんやで母さんが認めてくれてよかったな……」

 

「ウィ、ホームステイ作戦、大成功デス」

 

 そう言ってミミは満足げな表情で頷いた。

 

 あの後、ミミがホームステイについての諸々を説明するべく親に電話で連絡を取ったところ、今日一度母さんに直接会ってご挨拶をさせて欲しい、とのことだった。

 

 まあ今日でゴールデンウィークも最後なので、明日から学校や仕事など始まることを考えると実質今日しか直接話すタイミングがない。それに加えて、大事なことなのでなるべく早い方が良いだろう、ということで午後ぐらいにミミの両親が竹中家へ訪問する運びとなった。

 

 母さんはミミの電話を借りてミミの両親と会話した後、「お客様を迎える準備をしなきゃ!」と張り切った表情で俺の部屋を慌てて出て行った。そのため部屋には俺とミミの二人だけが取り残されている。

 

 ……まあ、さっきの件についてコイツとは一度話す必要あったし、母さんが出てってくれたのは好都合だな。

 

 俺は頭を掻きながらため息をついて、

 

「……なあ、いくら母さんを説得するためとはいえ、あんなウソまでつく必要あったのか?」

 

「ム、なんのコトデショウカ」

 

 ………コイツ、すっとぼけやがって。

 

「だから、俺とお前がその……こ、恋人だなんてウソ、つく必要あったのかって聞いてんだよ」

 

 そう言って俺はミミから顔を背けた。クソ、正直、恋人、とか口に出すのもこっ恥ずかしいんだが……。

 

 動揺しまくりの俺と対照的にミミはケロッとした表情で、

 

「ム、タケナカが言ったのではないデスか。ただのトモダチを家に泊めるほどオカアサマは甘くナイと。なのでただのトモダチではないとセンゲンしたまでデス」

 

 う………それは確かにそうだけどよ。

 

「で、でも、つまりホームステイしている間ずっと恋人のフリし続けなきゃなんねーってことだろ? ………お、お前は嫌じゃねーのかよ……」

 

 そうだ。このウソは一時のごまかしでは通用しない。後々まで影響を及ぼすウソだ。

 

 ミミがホームステイを認められたのは、あくまで俺のガールフレンドであることが理由だ。実際は違うとばれてしまったら最後、ミミのホームステイは許されなくなってしまう恐れがある。

 

 それに、母さんはウソが大嫌いだ。

 

 そのことを俺は骨身に染みて知っていた。

ウソをついて算数のテストの答案用紙を隠したが最終的にバレ、酷い目にあった回数は一度や二度ではない。

 

 ミミはあくまで他所の子なのでいくら母さんといえどお仕置きはしないだろうが、ホームステイについては認められなくなってしまう可能性が高い。

 

 故にホームステイをしている間は母さんの目を誤魔化すため、恋人のフリをする必要がある。

 

 その上口裏を合わせるため、椿と柊、下手したら女バスの連中にも事情を説明して協力して貰うなりする必要がある。

 やべぇ……そう考えると今から大分気が重いぞ……。

 

 ミミは俺の問いを受けて、黙ったまま俺の顔をじっと眺めていた。

 

 ………と思ったら急に拗ねたようにプイっとそっぽを向いて、

 

「別に、イヤじゃないデス。………………タケナカのバカ」

 

「おい、小声で言っても聞こえてんぞ。つーか昨日から俺に対するそのバカ扱いはなんなんだよ」

 

「バカだからバカって言ったまでデス。それ以上デモ以下でもないデス」

 

 ミミは半目できっぱりと言い放つ。こ、コイツ……先輩をなんだと思ってんだ。

 

「トニカク、オカアサマに認めてイタダクためには仕方がないことだと思っているノデ別にワタシはイヤじゃないデス。………あくまでホームステイのためデス。不可抗力デス。別にホンニンが何言ってもダメそうだからソトボリから埋めてやろうとかは思ってないのデス。ショウを射んと欲すれば先ずウマを、的な意図は無いのデス」

 

「後半何言ってるか分かんねーんだが………」

 

「ウィ。伝わると思って話してないデス」

 

 ミミは悟ったような表情でコクンと頷いた。なんなんだよ。

 

 ………まあ、イヤじゃねーってことは分かったから別にいいんだけどさ。

 

「とりあえず、午後からお前の両親来るんだろ? となると、こっちはこっちで先にやれることやっといた方が良いだろーな。………………すげー手こずりそうだけど」

 

「やれるコト、デスカ?」

 

 ミミはよくわからない、という風に首を傾げた。

 

「決まってんだろ?」

 

俺はこれからせねばならないことの難易度の高さに思わずため息をついて、

 

「椿と柊の説得だよ」

 

 

 

***

 

 

 

「「意味わかんない!」」

 

 

 ………………まあ、おおむね予想通りの反応だな。

 

 

 俺とミミは既に起床していた椿と柊の部屋に入り、ざっくりとこれまでの事情について説明した。

 

 ミミが父親の仕事の都合でフランスへ帰らなければならなくなったこと。

 ミミ自身はこのまま日本に居たいと思っているということ。

 俺がミミに対し、竹中家へのホームステイを提案し、ミミがそれを受領したこと。

 母さんへの説得のため、俺とミミが恋人のフリをすることになったこと。

 

 うちの妹は二人とも黙って人の話を聞くということができない質であるため、説明には非常に時間を有したが、三十分くらいかけてようやくすべて説明を終えることができた。

 

 ………………が、正直ここからが本番だった。

 単純に説明するだけで済むなら楽なんだが、納得させるとなると非常に骨が折れる。

 

 何年も妹二人の面倒を見続けてきた俺にはわかる。特に今回は厳しそうだ。

 

「ミミがホームステイするってのは別にいいよ。フランスに帰るのを黙ってたってのも、百歩譲って許す。………………ホントだったらもっと怒ってるけど。でも、今はそれより」

 

 椿、柊は二人そろってミミを指さし、

 

 

「「なんでミミがホームステイするのに、にーたんがミミのカレシになる必要があるんだよ!」」

 

 

 そう、口を揃えて言い放った。

 

 二人の抗議を受けてもなお、ミミはシレっとした表情で、

 

「ウィ、それは先ほども説明したトオリ、ホームステイについてオカアサマにナットクいただくため、必要だと判断したからデス」

 

「意味わかんない!」

 

「そーだよ、フツーにボクたちの友達で離れ離れになりたくないからって説明すればよかったじゃん! それがなんでにーたんのカノジョだって話になるんだよ!」

 

 すげーな、一ミリも反論できねえ。

 俺が妹二人の正論ぶりに思わず感心している一方でミミは眉を顰め、

 

「ムゥ………しかし、オカアサマはすでにワタシとタケナカのカンケイを認めてくださっていマス。息子のことをオネガイしたい、とも言って下さいマシタ」

 

「そんな!」

 

「ウソだよねにーたん!」

 

 ミミの言葉を受けて妹二人がガバッ! っと俺の方に向き直った。いけね、感心してる場合じゃなかったわ。

 

「いや、それ自体はウソじゃねーけど、そもそも——」

 

「ウソじゃないだって! ど、どうしようつばっ」

 

「き、緊急事態だよっ、ひー!」

 

 そう言って椿と柊はあわわ、と動揺した様子で互いに向かい合った。お、おい………。

 

「ウィ、そういうわけナノデ、今後二人にとってワタシはギリの姉になるわけデス。なのでオネエサマと呼んでいただきマス。ネンコウジョレツ、デス」

 

 ミミは偉そうに言ってビシッ! と二人を指さした。

 

 椿と柊は、ガーン! という擬音が聞こえてきそうなぐらいショックを受けた様子で口をあんぐりと開けた。

そして俺の方に向き直ると、目に涙を浮かべて泣きついてきた。

 

「うわあああああん!! ミミににーたん取られたああああ」

 

「ミミがお姉さんなんて絶対やだよおおおお!!」

 

 大声でわんわん泣き叫ぶ椿と柊。俺はそんな妹二人の頭を撫でてあやしつつ、適当なこと言って二人を泣かせた元凶の顔をジロリ、と睨んだ。

 

 俺の視線に気づいたミミはバツが悪そうに目を逸らし、唇を尖らせてヒュー、ヒューと妙ちきりんな音を出し始めた。

 本人的には口笛を吹いているつもりなのだろう。

 吹けてねーから空気音しか鳴ってねーぞ、おい。

 

 俺は嘆息して、

 

「………あのな、さっきから言ってるだろ。あくまで母さんと、後ミミの親の前で付き合ってるフリするだけだって。別にホントに彼氏彼女になるわけじゃねーよ」

 

「うー……でもでも、フリでもなんかイヤだよ」

 

「そうだよ、にーたんがカッコいいからあわよくばホントにカノジョの座を狙ってるに違いないよ。騙されないでにーたん!」

 

 はっ、何言ってんだか。

 

「ばーか、そんなことあるわけねーだろ。おらミミ、お前からもなんか言ってやれよ」

 

 俺はミミの方に振り向いて同意を求める。

 俺に促され、ミミはプイっと顔を背け、視線を合わせないまま言葉を発した。

 

「ソンナコト、アルワケナイジャナイデスカー」

 

「ほら、やっぱ信用できないよ!」

 

「なんかカタコトだったし、嘘ついてる時の顔してるよ、にーたん!」

 

 何言ってんだ、ミミがカタコトなのは元からだろ。

 

「とにかく、ここはひとまず俺に免じて納得してくれねーか? 勝手に話進めたのは悪かったけど、お前らもミミと離れ離れになんのは嫌だろ?」

 

「うー………確かにそうだけど」

 

「まあ、なんだかんだミミは大事な友達だしね……」

 

 そう言って椿と柊は互いに顔を見合わせた。

 

 

 ………大事な友達、か。

 

 

 いっつも俺の後ついてまわってばっかだったこいつらの口から、そんな言葉聞ける日が来るなんてな。なんつーか、感慨深いな。

 

 チラリ、とミミの方を見ると、目を見開き、驚いた表情で固まっているのが見えた。

 昨日、ミミが言っていた言葉がふと、頭に浮かぶ。

 

『ワタシにとってカゲツは、つばひーは、ましゃみは、バスケを通じて手に入れた初めての友達だったんデスから』

 

 ………………ま、そういうこった。

 

 お前にとって椿と柊が初めての友達であるのと同じように、椿と柊にとってもお前は初めてできた大切な友達なんだぜ?

 

 だからまあ、お互い大事にしろよ。お前らが友達でいれるためなら兄ちゃん、いくらでも頑張ってやるからよ。

 

 俺はミミに、椿と柊になにか言葉をかけてやれよ、と視線で促した。

 

 ミミはコクン、と頷くと、椿と柊の側に移動した。

 

 そして、二人を後ろから抱きしめた。

 

 ミミは心から申し訳なさそうに、

 

「ツバキ、ヒイラギ、フランスに行くこと………ずっと言い出せなくてゴメンナサイ。ホントなら二人や、女バスのみんなに真っ先に相談するべきデシタ。報告がこんな形になってしまって、本当にゴメンナサイ」

 

 そう言ってミミは二人の頭を撫でた。

 

 ………まあ、さっきはなんかサラッと流してたけど、本音いうと多分そっちの方が椿と柊にとっては嫌だったんだろうな。触れなかったのは多分、一人で悩んでいたであろうミミに気を使ったから、なんじゃねーかな。

 

 椿と柊は黙ってされるがままになっていた。きっと、無言で続きを促しているのだろう。

 

 ミミは言葉を続ける。

 

「ワタシ自身、フランスに帰るということを自分の中でジッカンできていませんデシタ。………………イエ、多分ジッカンしたくなかったんデス。ミンナに伝えたら、一気にお別れがワタシのなかでゲンジツのものになる気がして、それが怖かったんデス」

 

 そう言ってミミは何かにおびえるように二人を抱きしめる手をやや強めた。

 

 椿と柊は、そんなミミをまるで慰めるかのように、その手に自分達の手を重ねた。

 

 ミミと、椿と柊の体がゆっくりと離れる。

 

 椿と柊はミミと向き合い、その目を真っ直ぐと見つめ、

 

「………ん、分かったよ。ちゃんと謝ってくれたから、それは許す」

 

「でも、もし次勝手にどっかに行こうとしたら、その時はゼッコーだからね」

 

 そう告げて、椿と柊は恥ずかしそうに視線を逸らし、頬を掻いた。

 

 ミミは少し驚いた後、瞳を感極まったように潤ませ、

 

「ウィ、ゼッコウは嫌デスね。ワカリマシタ、次からは必ずまず女バスのみんなに相談しマス」

 

 そう言って、幸せそうに微笑んだ。

 

 俺はその光景を見て、言いようのない気持ちに駆られていた。

 

 今まで基本的に自己中心的で周囲のことなど考えず好き勝手ばかりしていた、椿と柊。

 

 その二人が、誰かの心を気遣い、そして友達の謝罪を素直に受け入れ、許してやれるようになるなんて、ついこの前までは考えられないくらいの成長だ。

 

 やべえ、俺もなんな目頭が熱くなってきちまった。

 

 そんな風に一人ジーンとなっている俺をよそに、椿と柊とミミは互いに少し恥ずかしそうに、でもどこか嬉しそうに微笑みを交し合っていた。

 

 ………ったく、世話の焼ける奴らだぜ。

 

 まあ、とにかく、これで椿と柊を説得するっていう当初の目標は完了したかな。もっとてこずるかと思ったが、妹二人の思わぬ成長ぶりのおかげで早く片付いたな。

 ま、なんだかんだ三人の中でモヤモヤは解消できたみたいだし、よかったよかった。

 

 よし、これで全部問題は解決したな。

 

 さてと、じゃあ俺はこれにて部屋に退散して———

 

 

 

「あ、それはそれとして、にーたんがミミのカレシのフリをする件についてはちっとも納得できてないからね」

 

「そうそう、にーたんも止めなかったわけだから同罪だよ。もっとちゃんと納得できるまで説明してもらうからね」

 

 

 

 そう、ニヒルな笑みを浮かべてクールに部屋を立ち去ろうとした俺の背中に、椿と柊のやけに平坦な声が突き刺さった。

 

 俺はその声を受けて立ち止まると、無言でUターンし、先ほど母さんの前でした時と同じように再びフローリングの床の上で正座し、二人の妹様のお裁きを待った。

 

 

 ——その後諸々事情を説明し、ミミ共々椿と柊からガチ説教を食らったものの、なんとか納得してもらうことは出来ましたとさ。何気に椿と柊に俺が一方的に説教食らうのは初めてだった気がするぜ……。

 

すっかり立派になっちゃって、兄ちゃん、なんかちょっと悲しい。

 

 




ミミと椿、柊との掛け合い回でした。

この三人は+夏陽は動かしやすくて助かる。

そう言えば雅美とかげつが殆ど登場していないですね……。
第一章はミミメインなので活躍は次章以降になりそうです。
(第一章の中でもこの後ちゃんと出番自体はあります)


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