「それじゃあ今日は復習から始めていこうか。前提として、クラシック3冠にはある合言葉がある。即ち──
これが、今のレースの世界における常識だ」
「「「なるほどわからん」」」
授業において、開口一番訳の分からんことを言い放った教諭に対して教室にいた生徒全員が頭上に?マークを浮かべて首をひねった。
その様子を見た教諭……青毛のドアホことジーニアスアンサーは『臨時』と書かれた札の着いたストラップをゆらめかせながら、口を尖らせて不満げにしてみせる。
「うーん、これ伝わらないかー。じゃあ言い換えよう、『最も速いウマ娘が勝つのが皐月賞』『最も運のいいウマ娘が勝つのが東京優駿』『最も強いウマ娘が勝つのが菊花賞』だ。さあ、君たちのなかにこの理由を説明できる子はいるかい?」
「ふゥン、『皐月賞は開催時期の早さから足の速さと成長の早さが求められる』『東京優駿は出走人数の多さから内側ゲートを引く運と相手に邪魔されない運が求められる』『菊花賞は2度の坂と3000mの長さからスタミナとスピードを維持したまま走り切る強さが求められる』だろう?」
「その通り、よく答えてくれたタキオンくん、アグネスドールに10点。レドザリンはとりあえず50点差っ引いておこう」
「誰が狡猾な純血主義者だどつきまわすぞクソ親父」
「はっはっは、あんまり細かいことを気にするとハゲるぞ?」
「オイオイオイ殺すわコイツ」
レポート用紙にあることないこと書き込むジーニアスアンサー。
あまりに人をなめ腐った言動に対して努めて噴火しないように取り繕いながら抗議するが、返答はなしのつぶてどころか思いっきり煽り返してきて即座に着火した。
大爆発直前のオレをよそにジーニアスアンサーはポイっと先程まであれこれ書き込んでいたレポート用紙を投げ捨て、チョークを持って黒板にスラスラと何かを書き始める。
「まあこんなことはどうでもよろしい、解説に移ろうか」
奴が描き上げたのは、テレビでよく見かけるようなロゴマーク。真ん中に『G1 皐月賞』と書かれたそれを示しながら、ジーニアスアンサーは続ける。
「皐月賞は最も早いウマ娘が勝つ、それはなぜか。クラシック期における最初の関門、故に出走するウマ娘は肉体的にも精神的にも完成したとは到底言い難い。つまるところ、変に小手先の技術を覚えてる暇があったらその時間を使ってひたすら速力を磨けという事だね。そんな小細工を覚えるのはシニア中盤、まあ早くともクラシック終盤からで十分だ」
そういった直後に、まあワタシは天才だから最初から小細工全開でライバル全員踏みつぶしたけどね! と笑顔でのたまい顰蹙を買う青毛のドアホ。才覚的には腰巾着の一人や二人いてもおかしくないのに、この育ちの良すぎる性格のせいでありとあらゆる方面に敵だけ作って終わるんだよなコイツ。なまじ当人にそれを打破できるだけの力があったのが大問題ってとこだ。
ジーニアスアンサーはさらさらとチョークを持った手を動かし、皐月賞のロゴの隣に今度は東京優駿のロゴマークを描き上げた。絵が上手いとかそういう次元じゃねぇだろどうなってんだあれ。
「さて、次だ。日本ダービー……東京優駿は最も運のいいウマ娘が勝つ、それはなぜか。あー、これに関しては昔のレース形態に起因しているんだ。今でこそ同時に1つのレースに出走できるのは18人までと定められてはいるが、昔はこれといった制限がなくてね。おのずと東京優駿には我こそはというウマ娘が集ったわけさ。いやああの時は賑やかだった、20人同時出走なんてこともザラだったからね──そして、出走人数が増えるという事は当然故意過失にかかわらず進路を妨害したりされたりなんて事例も多くなる。そのため、妨害されにくいとされる内ラチ側のゲートを引き当てる運、そしてレース中に相手からの妨害をやり過ごすないし妨害の対象とされない運が重要とされたんだね」
いやぁスタート直後に左右から延髄斬りが飛んできたときはさすがに焦ったよ、と笑顔で言い放って今度は盛大にドン引きされていた。いくらなんでもアウトローすぎんだろ、想像を絶する。
脳内にアゴの主張が激しいプロレスラーがずらりとゲートに収まったレースの光景が浮かび上がり、そのあまりのおぞましさにかぶりを振ってかき消す。視界のテロだろあんなん。
そして最後、ジーニアスアンサーは東京優駿のロゴの隣に菊花賞のロゴを描き上げた。
「そして最後、菊花賞は最も強いウマ娘が勝つ、それはなぜか。菊花賞はクラシック三冠における最後の壁だ、その分開催時期も遅い。そしてそれはつまり、出走する選手にはそれなりの準備期間が与えられるとも言える。この準備期間を用いてどれだけ自身の体を、技を鍛え上げてきたかがレースにそのまま返ってくるわけだね。皐月賞のようにただ早いだけで勝ち取れるほど3000mのコースは甘くないし、かと言って運が良いだけで勝ち取れるほど菊花賞の名は、クラシック三冠最後の関門は安くない。運も速さも体力も、持てる全てを出し切った結果他の走者よりも高いスコアを叩き出せる者こそが、菊花賞の勝者たりえるのさ」
ちなみにワタシは勝てなかった、と彼女は苦笑いで言う。確かアイツが出た年の菊花賞の一位は……
「いやあ侮っていたと言わざるを得なかったね。おそらく君たちの大先輩に当たるんだが、ハートビートエクスはそれはもう強かった。このワタシが最終直線に入る前に『これは無理か』と悟ったのは後にも先にもあれだけさ」
──ざっと50年は前になるか。ハートビートエクスとジーニアスアンサー、この2人は菊の舞台でかち合った。
片やここまで無敗でトリプルティアラにリーチをかけ、エリザベス女王杯の前座として戯れに出走を表明した『禁断征覇』ハートビートエクス。片やクラシック三冠の座の最後の一冠を賭け、持てる才気の全てを以て完璧な方程式を立てて見せた『天災なる天才』ジーニアスアンサー。
世間からはこの2人の1騎打ちと見られていたが、誰もが夢にも思っていなかった。
──まさか、今まで奴が一回も本気を出していなかったなどと。
『ハートビートエクス駆ける! ハートビートエクス駆ける! なんという事だ、後続を大きく引き離して最終コーナーにトップスピードで差し掛かった! これが出遅れたウマ娘の叩き出す順位差なのか!! ジーニアスアンサー必死に追いすがるが──これは、まさか! ハートビートエクス減速しません! 最終コーナーの下り坂、減速どころか加速しています! これが禁断を踏破してきたウマ娘の本領か、ゆっくり降りる走りが定石とされた菊の坂を直滑降も同然の走りで下っていく! 彼女にはこのコースがダウンヒルの舞台にでも見えているのか!?』
そうして、禁断の赤い影はクラシック三冠を目前にした大天才の手元からいともたやすく菊花賞の冠を搔っ攫っていった。
他のウマ娘が疲労困憊でターフの上に転がる中で、ハートビートエクスは同じく限界までへばって地に伏していたジーニアスアンサーの首根っこをひっつかんで持ち上げる。
『よお。テメェがアタシの後ろをツケたっつー奴か?』
『ぜえ、ぜえ……ツケるも何も、レースなんだから君の後ろに誰かがいるのは至極道理だろうよ、禁断征覇……!』
息も絶え絶えにそう言い返したジーニアスアンサーに、ハートビートエクスは一瞬きょとんとした顔をした後、獰猛な笑顔を浮かべてこう言ったとされる。
『いいねぇ、久しく見てない骨のあるヤツだ。気に入ったぜ、オマエ』
「……思えば、あの時から腐れ縁になってしまったんだろうねぇ」
どこか遠い場所を見ながらしみじみというクソ親父。
それを見た生徒の一人が、ハートビートエクスさんはその後どうなったのかと奴に聞いた。
「うん? ああ、それはね──」
と、その言葉を口にしようとしたその瞬間、授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
「──っと。もうこんな時間か。すまないね、ワタシは時間はしっかり守ると決めているんだ──また次の機会に話そう。赤いアイツとの因縁をね」
そういった矢先、ドアがスパンと開いたかと思うと赤い影が目にもとまらぬ速さで教室に入り込み、ジーニアスアンサーの首根っこをひっつかんで猛スピードでどこかへと連れ去っていった。
突然の事態に呆然とする生徒たちをよそに、本当に珍しいことに授業を受けていたタキオンはポツリと呟く。
「……どうやら、禁断と名高い彼女も元気であることには間違いないようだねぇ……」
本当にな。
オレは自宅で割と高頻度で繰り広げられていたどったんばったん大騒ぎを思い浮かべながら、心の中でその言葉に頷いた。
レッドゾーン
固有スキル『Top of the SPEED』
最後の直線で差をつけて先頭にいると、音速の侵略によって後続の体力を奪いながら速度を上げる
ジーニアスアンサー
固有スキル『天才のビッグアンサー』
最終コーナーで後ろの方から3回追い抜くと天才的な頭脳で勝利への最適解を叩き出し、最終直線での速度と加速度をかなり上げる
ハートビートエクス
固有スキル『ドキンダム・アポカリプス』
レースを自分好みに運ぶことができると残り200mで禁断の力を解き放ち、速度がすごく上がる
本筋関係ない閑話で見たいもの
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キングマスターズ、トレセン学園にて
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ハルウララとデュエマ七英雄