とある木偶の英雄学園   作:とある読者

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続いたので連載します。
ただし書きたい時に書きたい事を書くので更新頻度や文才には期待しないでΣd(ゝ∀・)ネッ!!!


第二話

 

 

 

 

 

《終了~~!!!》

 

 

プレゼント・マイクからの試験終了の合図が響き渡る。

しかしそれよりも前からこの会場にいる受験生達の動きは止まっており、全員の目が突如として出現した空高く伸びる巨大な大木へと向けられていた。

 

 

「でっけー木……」

 

「アレ、〝ギミック〟を一瞬で飲みこんでたよな」

 

「それにあいつ、木で(ヴィラン)を倒してたよな」

 

「木を操れる上にあんなでかい木も生やせるって規格外過ぎんだろ、どんな〝個性〟だ……」

 

「取り敢えず、とんでもなくスゲェ奴だって事は間違いねぇよ」

 

 

受験生らは呆然としながらも目の前の現象を成した人物である緑谷出久に注目していた。彼らが緑谷の〝個性〟──実際には〝能力〟だが──を賞賛する中でただ一人、メガネの青年だけは違った。

 

そこじゃないだろう、とメガネ青年は募った。彼は見ていたのだ、緑谷が逃げ遅れていた少女を救おうと飛び出した所を。

先程の巨大敵が現れた時、メガネ青年は逃げた。決して恐れをなして逃げた訳ではない。相手は0Pの〝ギミック〟、相手をするメリットがなかったのだ。戦うよりも逃げて少しでもポイントを稼いだ方が良いと判断したからだ。

 

だが彼は違った。

試験という大事な場で残り時間も少ない中、己の身の安全や合格に必要な要素を天秤にかけた上で、それでも一切の躊躇なく飛び出したのだ。

自分だって試験という場でなかったらそのようにしていた、と内心で言い聞かせるものの、それでも「しかし」と考えてしまう。

仮に自分が彼のように飛び出したとしても、果たしてあのようにできたのだろうかと。瞬く間に敵を倒し、助けた少女に「もう大丈夫」と笑顔で手を差し伸べる事が、今の自分にできただろうかと考えてしまう。

メガネ青年は、自分でも自覚しないまま、緑谷出久に羨望の眼差しを向けていたのだった。

 

 

その一方で、緑谷出久は助けた彼女の容体を診ていた。

 

 

「足、大丈夫?」

 

「う、うん! 平気平気! これくらいなんとも……(いつ)ぅ」

 

 

緑谷にそう聞かれた少女は、何故か慌てたように答えながらワタワタと立ち上がろうとする。しかし直後、右足首に走った刺すような痛みに顔を顰めて再び地面に尻餅をついてしまう。

 

 

「ちょっとごめんね」

 

「へ? わひゃあ!?」

 

 

すると緑谷は彼女の右足を持ち上げて足袖を捲り、そのまま靴と靴下を脱がしてしまう。

 

 

「ちょっ……!!」

 

「痛かったら言ってね。骨は……うん、折れてない。脱臼でもなさそうだから捻挫かな。多分、足が瓦礫に埋もれた状態で無理に動かそうとしたから捻っちゃったんだ。内出血もしてるせいか、少し腫れてるな……この場合は……」

 

「……………」

 

 

流石に文句を言おうとしたが、下心など一切感じない真剣な表情でブツブツと呟きながら足の容体を診てくれている緑谷に、何も言えなくなってしまう。

しかしそれでも男子に自分の素足をまじまじと見られながら触られているこの状況はとても恥ずかしい。なので彼女は顔を真っ赤にして押し黙るしかなかった。

 

 

「……うん、大丈夫。後で医務室で処置をしてもらえれば、すぐに良くなるよ」

 

「あ…ありが……とう……」

 

「?」

 

 

そこで彼女の足を診終わった緑谷が顔を上げると、少女は両手で自身の顔を覆って隠していた。これが彼女のとれる唯一の防衛手段だったのだが、緑谷はそんなこと知る由もない。

どうしたのだろう、と思った瞬間、緑谷はハッと我に返ったように今の自分の状況を確認する。

怪我の具合を診る為とはいえ、同い年の女の子の素足を無遠慮に触っていたのだ。それを自覚した途端、今の今までどこかに行っていた羞恥心が戻ってきてしまい、一瞬で顔を真っ赤に染め上げた緑谷は慌てて彼女から後ずさる。

 

 

「ごごごごごめん!! つい……!!」

 

「え、ええよ! 怪我したとこ診てくれてただけやし!! うん! 全然、気にしてへんし!!」

 

 

片や土下座する勢いで謝罪する緑谷、片や一目で強がりだと分かる態度で気にしていないと主張する少女。お互いが顔を真っ赤にしてそんなやり取りを繰り広げていると、そこへ一人の人物が声をかける。

 

 

「やれやれ、いつからここは青春ラブコメの場になったんだい?」

 

「「うわぁ!?」」

 

 

そこへ現れたのは注射器を模した杖を持ち、白衣を着た小柄な老婆。突然現れた彼女に緑谷と少女が揃って驚きの声を上げると、老婆の姿を見た緑谷が彼女の名前を叫んだ。

 

 

「リ、リカバリーガール!?」

 

 

彼女はリカバリーガール。妙齢ヒロインを自称する雄英高校の看護教諭だ。希少な治癒の〝個性〟を持つ為、雄英の屋台骨という存在で知られている。

 

 

「おや、試験の場で誰がイチャついてんのかと思ったら、アンタかい緑谷」

 

「イ、イチャついてないです!! この人が足を怪我してたから診てたんですよ!!」

 

「ほう。で、容体は?」

 

「えっと、症状は軽い捻挫。あと内出血による腫れが少し。リカバリーガールの〝個性〟があれば、すぐに治るかと」

 

「うん、まあ及第点さね」

 

 

緑谷からの報告を聞いたリカバリーガールはそう頷きながら、自身の〝個性〟を使った。唇をニュっと伸ばし、そのまま突き出した唇を少女の体に当てて「チユ~~~」と奇妙な掛け声をあげる。その瞬間、少女の青く腫れ上がっていた足首が、みるみる元の肌の色を取り戻していく。

これが彼女の個性〝癒し〟。対象者の治癒力を活性化させて回復を促す。雄英が今回のような無茶な試験を実行できるのも、彼女の存在があってこそだろう。

 

 

「これで良し。後は医務室で少し休んでいきな」

 

「は、はいぃ……」

 

 

少し顔に疲労感を浮かべながら頷く少女。彼女の治癒は対象の体力を使うのでそのせいだろう。

するとそこへ、担架を持った二体組のロボットがやって来た。怪我等で動けなくなった受験生を運ぶ為に用意されていた救護用のものだろう。『怪我ナンテシヤガッテ』『コレダカラ人間ハメンドーダ』等と少々口が悪いのは雄英の仕様だろうか。

 

 

「あ、ちょっと待……!」

 

『トットト行クゾー!』

 

 

その時少女は何か言いかけたが、救護ロボットの迅速な動きによりさっさと担架に乗せられてあっという間にこの場から離れて行ってしまった。

それを見送ったリカバリーガールは、他に怪我人等がいないのを確認してから、緑谷に向き直った。

 

 

「で? アンタは大丈夫なのかい?」

 

「え? はい、特に怪我とかはしていませんが……」

 

「おバカ、こっちの話だよ」

 

 

そう言うとリカバリーガールは持っていた杖で緑谷の右腕を小突く。すると、小突かれた緑谷の腕からコンッ、と人体からは聞こえるハズのない小気味の良い音が鳴った。

それに対して緑谷は「ああー」と少しバツの悪そうな顔をした後、右腕の袖を捲り上げ、そして《人工の皮膚で造られた手袋》を外した。

 

そうして露わになったのは、肘から先に取り付けられた木製の腕。

誰が見ても分かる〝義手〟だ。

 

中三の夏、とある事件に巻き込まれた末に失ってしまった右腕の代わりだ。

 

 

「大丈夫ですよ、こう見えて頑丈ですし。何より僕の〝能力〟と相性も良いので」

 

「そういう問題じゃないんだけどねぇ」

 

 

カチャカチャと腕を動かして大丈夫だということアピールする緑谷に、呆れたように溜息をつくリカバリーガール。

そんな事は百も承知だ。木製なのは外側の見た目だけで中身は学園都市の最新鋭の技術で造られている事も、彼の〝能力〟と相性が良いという事も、そしてその義手を薦めたのが彼女の知人であるカエル顔が印象的な医者である事も。

 

 

「アンタもあのウニ頭もとんでもない無茶をやらかすからねぇ、医者としては気が気じゃないんだよ」

 

「いや、上条先輩に比べたら僕はまだマシ……」

 

「アタシにとっちゃどっちもどっちだよ!!!」

 

「すいまっせん!!!」

 

 

怒鳴られて反射的に謝罪する緑谷。中三の頃に色々お世話になったが故に、彼女には頭が上がらないのだ。

 

 

「やれやれ……問題ないならとっとと帰りな。合否の知らせは一週間後に届くからね」

 

「わ、わかりました。それじゃあ──とその前に……」

 

「?」

 

帰ろうとした緑谷はその足を止めると、未だに試験会場に高くそびえ立つ自身が生み出した大樹へと目を向ける。

何をする気かとリカバリーガールが疑問符を浮かべた次の瞬間、大樹が崩れ始めた。

 

 

「!?」

 

 

何かしたという訳でもなく、緑谷はただ木を一瞥しただけ。それだけで、大樹がボロボロと塵のように崩れ去っていき、崩れた塵もそのまま空気に溶けるように消えていく。そして最終的にはそこに大樹があった事など嘘のようになくなり、残ったのは巨大敵と崩落したビルの残骸のみとなっていた。

 

 

「アレを片付けるのは大変そうなので。じゃあ失礼します、リカバリーガール」

 

 

そう言って本当に何事もなかったかのようにその場から去っていく緑谷。残されたリカバリーガールはしばらく呆然とした後、「ハァァ~~」とそれはもう深い溜息をつきながら言った。

 

 

「ホントにデタラメだねぇ、学園都市の超能力者(レベル5)ってのは」

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

それから時間は進み、三月八日。

 

 

「……おかしい」

 

 

実家のリビングで、緑谷はポツリと呟いた。

リカバリーガールは約一週間後に合否の通知が届くと言っていた。そして今は試験日からすでに一週間……なんなら一日オーバーしている。にも関わらず、まったく音沙汰がないのだ。

本人的には自信はある。筆記など言わずもがな、実技に関しても悪い成績ではなかったように思う。なのにこうも連絡がないと、一抹の不安を感じるのも無理はない。

 

 

「まさか筆記で名前を書き忘れてたいやそんな初歩的なミスをする訳がない同様の理由で回答欄がズレている可能性もないしもしかして実技でみんなより少し早く突入したのがフライング扱いで失格にいやでもちゃんとスタートって言われてから入ったからセーフだよなやっぱり最後の最後に大技でギミックを破壊したのが不味かったのかなぁ見るからにお金かかってそうだもんなアレでもあの時はああしないと女の子がヤバかったしああもう早く通知来いやゴラァ」

 

「い、出久?」

 

 

そんな不安を口に出して呟いている緑谷に声をかけたのは、彼の母である緑谷引子だ。

リビングで一人ブツブツブツブツ呟いているという傍から見たらヤベェ息子を見兼ねての行動である。

 

 

「あの、出久? やっぱり今日のお夕飯はお母さんが作るよ? ここ最近ずっと任せっぱなしだし」

 

「あはは、大丈夫だよそれくらい」

 

「いやさっきまでのアナタを見てたら全然大丈夫に思えないんだけど……」

 

 

正論である。

 

 

「うっ…それはごめん。でもやっぱりそれくらいはさせて欲しい。学園都市に行ってからは年に数回しか帰って来れなかったし、色々心配もかけたから。今まで出来なかった分、親孝行させてよ」

 

 

この一週間、緑谷は学園都市に戻らずに実家で過ごしている。中学に関してはすでに卒業の資格は得ているので、あとは三月中旬に行われる卒業式を残すのみなので問題はない。学園都市からも許可済み。

なのでその間、緑谷はほぼ全ての家事を請け負った。向こうで〝能力〟以外に磨かれた家事スキルを遺憾なく発揮し、親孝行に務めたのだ。

 

 

「い…出久ぅぅう~~~!!」

 

 

結果、涙もろい母は泣いた。家が浸水するのではないかと思える勢いで。

そんな母親に苦笑していると、ピンポーンっと来客を知らせる家のチャイムが鳴った。

 

 

「? 誰だろ?」

 

 

今日は平日で、時間帯は午後三時を過ぎたあたり。恐らく新聞の勧誘かなんかだろうと判断した緑谷は玄関へと移動する。さすがに涙でビッシャビシャの母に応対させる訳にはいくまい。

 

 

「はーい、どちら様で──はぇ?」

 

 

ドアを開けた先に立っていたその人物に、緑谷は素っ頓狂な声を出してしまった。それは無理もないだろう。ここで《彼女》が現れるのなど、予想外以外の何物でもないのだ。

そして緑谷は驚愕をそのままに、彼女の名前を叫んだ。

 

 

「み…美琴ちゃん!!?」

 

「どーも、出久」

 

 

その彼女の名は、御坂美琴。

学園都市において〝超電磁砲(レールガン)〟の異名を持つ超能力者(レベル5)の第三位であり、緑谷にとっては小学校からの幼馴染みにあたる人物である。

学園都市では滅多に見ない私服姿に、傍らには荷物が入っているであろうキャリーケース。まるで旅行にでも来ているかのような装いだが、その顔はどこか少し不機嫌そうだ。

そんな彼女に困惑しながらも、緑谷はなぜ学園都市にいるハズの彼女がここにいるのかを尋ねる。

 

 

「な、なんで美琴ちゃんがウチに……?」

 

「なんでって……引子さんから聞いてないの?」

 

 

緑谷の疑問に対して、首を傾げながら更なる疑問で返す美琴。当然ながら緑谷に心当たりはない。

 

 

「母さんからって、どういう……」

 

「出久ー? どうかしたのー?」

 

 

困惑しながら緑谷が更に聞き返そうとしたその時、ようやく泣き止んだのか引子がひょっこり顔を出す。そして玄関先に立っている美琴の顔を見るや否や、「まぁ!」と明るい声を上げて目を輝かせた。

 

 

「いらっしゃい美琴ちゃん。久しぶりねー!」

 

「引子さん、御無沙汰してます!」

 

 

出久を押し退けて嬉しそうな笑顔で美琴を迎える引子に、釣られて美琴も笑顔で挨拶を交わす。

 

 

「去年の大覇星祭以来かしら? わざわざ遠い所からご苦労様~」

 

「いえいえ、そんな大した距離じゃなかったので」

 

「さぁさ、こんな所で立ち話もなんだから上がってちょうだい!」

 

「はい、お邪魔します。あ、これ詰まらないものですけど、良かったら」

 

「あらあら、ご丁寧にどうもありがとう。美鈴さんはお元気?」

 

「はい、元気ですよ………むしろ元気過ぎるくらいで」

 

「フフ、若々しいお母様ですものね」

 

 

美琴を優しく招き入れる引子と、菓子折りを渡しながら家に上がり込む美琴。二人は楽しそうに会話をしながら家の中へと入っていく。

そしてそのまま当然のような流れで引子が招いたのは、何故か緑谷の部屋。

 

 

「お茶を淹れてくるから寛いで待っててね。美琴ちゃんは紅茶で良かったかしら?」

 

「お構いなくー」

 

 

そう言って鼻歌混じりでキッチンにお茶を淹れに行く引子。

当たり前のように美琴を招き入れ、当たり前のように息子の自室に案内する母親の行動に、途中からほったらかしにされていた緑谷は愕然とその背中を見送る事しかできなかった。

 

 

「……えぇー」

 

 

そしてふと美琴の方に視線を向けてみると、思わずそんな声が漏れてしまう。

彼女も彼女で本当に遠慮なくズカズカと緑谷の部屋に入り込み、もの珍しそうに部屋の内装を見渡しながらベッドの上に腰かけて寛いでいるのだ。

何で二人ともこんなに自由なんだろうか、と釈然としない気持ちでそんな事を思いながら緑谷も自室へと入っていった。

 

 

「アンタ、本当にオールマイト好きね。この部屋もそうだけど、学生寮の部屋もオールマイトグッズだらけだったじゃない」

 

 

緑谷の部屋を見渡していた美琴がそんなことを宣う。

緑谷出久は自他共に認めるヒーローオタクで、特にオールマイトの大ファンだ。それ故に部屋はオールマイトのグッズで満たされている。

フィギュア、ポスター、タペストリーは当たり前で、絨毯やベッドシーツ、目覚まし時計や文房具に至るまでオールマイトだらけ。一目見れば分かるオタク部屋である。因みに学園都市にある学生寮の個室も同様。

 

 

「ほっといてよ。っていうか美琴ちゃんにだけは言われたくないよそれ」

 

 

キャスター付の椅子を引っ張ってきてそこに座りながら反論する緑谷。

自分の部屋に女子が居るなど普通ならドキドキものだが、生憎と美琴はしょっちゅう学生寮にある緑谷の部屋に転がり込んでいるので今更である。

 

 

「美琴ちゃんも寮が相部屋じゃなくて個室だったら、きっとゲコ太グッズで埋もれてたハズだよ」

 

「……否定はしないわ」

 

 

少しだけ頬を染めてプイっとそっぽを向く美琴。きっと彼女が愛してやまないカエルのマスコットキャラクター、ゲコ太のグッズに囲まれているという癒し空間でも妄想したのだろう。

 

 

「……で?」

 

「何よ? で、って」

 

「いや、急にこっちに来るなんて一体どうしたの? 学校は?」

 

「常盤台はもう春休みに入ってるから大丈夫よ。あと別に急じゃないわよ、引子さんには昨日の内に連絡してあったから」

 

「母さん……」

 

 

思わず片手で顔を覆う緑谷。思い返してみれば引子は特に疑問を持たずに突然やって来た美琴を歓迎していた。知っていたなら何故教えてくれなかったのだろうという疑問は残るが、とりあえず今はそれをグッと飲み込んだ。

 

 

「今日こっちに来たのはアンタに届け物があったから」

 

「届け物?」

 

「そっ、コレよ」

 

 

そんな会話をしながら美琴がキャリーケースから取り出したのは少々厚みのある封筒。

ヒラヒラとこれ見よがしに掲げられた封筒に書かれている差出人の名前は──雄英高等学校。

直後、緑谷は絶叫した。

 

 

「あぁぁーー!!! そそそ、それ、僕の合否通知!!?」

 

 

美琴が取り出した封筒、それこそが緑谷が待ち望んでいた雄英からの合否通知だった。

 

 

「な、なんで美琴ちゃんがそれを……?」

 

 

本来ウチに届くハズのものが何故美琴の手にあるのか。震える声で緑谷が尋ねると、美琴は呆れながら溜息混じりで答える。

 

 

「アンタ……入学願書に書いた住所、実家じゃなくて向こうの学生寮の方を書いたでしょ」

 

「…………………あ」

 

 

緑谷の口から気の抜けた声が漏れる。

確かに思い返してみれば、入学願書には実家の住所ではなく学園都市のにある学生寮の住所を書いてしまっていた。試験後は実家に戻るという予定を立てていたのにも関わらずだ。

 

 

「っ…………!!」

 

「アンタって昔から変な所で抜けてるわよね」

 

 

両手で頭を抱えて自己嫌悪に陥る緑谷。つまりはただの凡ミス。十年以上暮らして書き慣れている方の住所を思わず書いてしまうのも無理はないが、何とも間の抜けた話である。

 

 

「で…その抜けてる幼馴染みの為に、この私がわ・ざ・わ・ざ・届けに来てあげたって訳」

 

「う、うん、助かったよ美琴ちゃん。本当にありが……」

 

 

少々引っ掛かる物言いだったが、文句を言える緑谷ではない。取り合えずお礼の言葉を述べながら封筒を受け取ろう手を伸ばしたが、何故かヒラリと躱されて空を切った。

 

 

「……あの、美琴ちゃん?」

 

「大変だったのよね~、アンタのお隣さんが私に連絡してきてコレを渡してやってくれって頼まれて、昨日の内に外出の為の面倒な手続きを終わらせて、しつこく縋り付いてくる黒子を振り切って出発して、割と長い時間をかけてここまで来るのは。なのに何の見返りもなしってのはねぇ?」

 

 

意地の悪い笑顔でやたら恩着せがましい美琴の言葉に、緑谷は顔を僅かに引きつらせる。

学園都市の学生は基本的に都市内外へは自由に出入りできず、外出許可を得るには申請書類や発信機付きナノデバイスの注射など様々な条件が必要になる。緑谷の場合は諸々の条件付きで都市外で暮らす許可を得ているのだが今は置いておこう。

その苦労はよく分かるし、しつこく縋り付いてきたであろうあの後輩を振り切るのも大変だったのだろうと理解もできるし、どうせ学生寮で緑谷の隣の部屋に住んでいる某ツンツン頭の先輩から頼まれてテンパって言われるがままに引き受けてしまったんだろうなという想像も簡単につく。

だからこそ、合否通知を握られている緑谷に反論する術がない。

 

 

「えっと……何がお望みで?」

 

「うーん、そうねぇ……」

 

 

緑谷の問いに対して、美琴は口元に指を当てて考える素振りを見せる。

普段から何だかんだ言って友達想いでお人好しな彼女の性格だ、これも美琴なりの意趣返しのつもりなのだろう。そこまで無理難題な要求はせず、きっと何かしらのスイーツを奢れだとかそういう類のものだろうと、緑谷は想定している。

もしも多少無茶な要求をされたとしても、文句を垂れつつもちゃんと合否通知を届けてくれた彼女の為にある程度の要求を飲むつもりでいる。

 

 

「あ、そうだ」

 

 

そして美琴はニッコリと、男なら誰もが見惚れそうなほど綺麗な満面の笑顔を浮かべながら告げた。

 

 

「出久が持ってるオールマイトコスゲコ太ちょーだい♪」

 

「断る!!!」

 

 

思ったよりガチな要求に、緑谷は声を大にして拒否した。

 

 

「なんでよー!? あれはオールマイトの服を着てるだけで、中身はゲコ太よ!? 出久のオールマイトグッズの趣旨からは外れるハズでしょ!?」

 

「確かに中身はオールマイトじゃないけど、あのコスチューム自体がオールマイト本人が公式に認めたゲコ太風カラーアレンジバージョンで他にはない激レアコスチュームなんだ!! 今はもうプレミアが付いててマイトファンの間でも入手困難なレアマイトとして有名なんだよ!!」

 

「知ってるわよゲコラーの間でもNo.1ヒーローとのコラボグッズとして超有名で発売から七年経った今でもネットオークションにすら滅多に出品されない幻のグッズだって帆風先輩と話してたんだから!! っていうかアンタはそれをどこでどうやって手に入れたのよ!!?」

 

「黙秘します!!!」

 

 

ぎゃいぎゃいとお互いに噛み付かんばかりに口論する緑谷と美琴。

 

必要ないと思うが一応説明しておこう。

オールマイトコスゲコ太とは、言わずと知れたNo.1ヒーローのオールマイトと、小学生向けながらも一部ではコアなファンがついているマスコットキャラクターのゲコ太の公式コラボレーショングッズの事。

今から七年ほど前にメーカー元であるラヴリーミトンより販売されたそれは、内容としてはオールマイトのコスチュームを着たゲコ太フィギュアというシンプルなもの。しかしそのコスチュームは従来のものとは違い、一部にゲコ太のイメージカラーを取り入れてアレンジされたオリジナルバージョン。

当時のオールマイトの相棒(サイドキック)監修の下で製造されたそれは、ディティールにまで拘った精巧な仕上がりになっており、下手なフィギュアなど遥かに凌ぐ完成度を誇る代物。心なしかそれを着ているゲコ太の表情も若干凛々しく感じられる。

期間限定で販売されたそれは、今やオールマイトファンとゲコ太ファンの間ではほぼ入手不可の幻のグッズとされていて、ネットオークション等に出れば必ず百万単位で落札されるほど。

 

それを販売当時はまだ小学生だった緑谷と美琴が手に入れられる訳もなく揃って泣く泣く諦めたのだが、ちょうど一年ほど前ぐらいにこのオールマイトガチ勢はそれをどこからか入手してきたのだ。当然、美琴は出所を吐かせようと胸倉を掴んで締め上げたのだが、緑谷は「ちょっとした縁があって貰った」としか答えず頑なに口を割らなかった。

以降、美琴は何かと条件を付けてそれを譲ってもらおうとしているのだ。因みにその出した条件の八割は決闘。ほぼ強盗である。

 

 

「いくら美琴ちゃんの頼みでもそれだけは譲れないよ!!」

 

「うぅ~~!!」

 

 

強めの口調で断言されて、美琴は悔しそうに緑谷を睨みながら歯噛みする。対して緑谷は態度こそ強気なものの、内心は彼女が手に持っている合否通知を握り潰さないかとハラハラしている。

しかしそんな心配とは裏腹に、やがて美琴は諦めたように大きく溜息をついて睨むのを止めた。

 

 

「あーもう、ホント出久はオールマイトの事になると融通が利かないわね」

 

「美琴ちゃんもゲコ太の事になると見境がなくなるのどうかと思うよ」

 

 

最後にそんな軽口を叩き合って矛を収める二人。どっちもどっちである。

 

 

「仕方ないわね。じゃあ今度こっちで開かれるゲコ太のコラボカフェ、そこの奢りで許してあげるわ」

 

 

美琴が代案として出してきたのはそんな要求。恐らくその奢りというのは食事代だけでなく、そこでしか買えないグッズ等の代金も含まれているのだろう。

先程の要求に比べたら遥かにマシなので、緑谷としてはそれで全然構わないのだが、一つだけ懸念があった。

 

 

「えっと、美琴ちゃんはそれでいいの?」

 

「何? やっぱり譲ってくれる気になった?」

 

「ありえないから。そうじゃなくて、その……」

 

「だから何なのよ? ハッキリ言いなさいよ」

 

 

何やら言い辛そうに口籠っている緑谷に対して美琴が強めの口調でそう言うと、緑谷は本当にハッキリと告げた。

 

 

「美琴ちゃん的にはそういうの、僕とじゃなくて上条先輩と行きたいんじゃないかなぁって」

 

「んな!?」

 

 

直後、一瞬で美琴の顔全体が赤色に染まる。

 

 

「上条先輩なら美琴ちゃんのゲコ太趣味を知ってるし理解もあるから無下に突っ撥ねたりはしないとハズだよ。というか美琴ちゃん、ここらで一度ちゃんとアプローチしておかないとマズイと思うよ。ただでさえインデックスや食蜂さんみたいなライバルが多いんだから、うかうかしてる場合じゃないって。美琴ちゃんは癇癪でビリビリさえ起こさなければ決して悪印象は持たれないんだからいい加減素直になって上条先輩に──ぶっ!!」

 

「余計なお世話よ!!!」

 

 

堰を切ったように話す緑谷の言葉を、持っていた合否通知を彼の顔面に叩き付けて物理的に阻止する美琴。

緑谷としては一年ほど前から続いている彼女の恋愛を本気で応援しているからこそのアドバイスだったのだが、どうやらお気に召さなかったらしい。

 

 

「とにかく!! コラボカフェが開かれるのは六月だから忘れんじゃないわよ!!!」

 

「はい……」

 

 

合否通知の封筒の中には意外と硬いものが入っていたのか、思ったよりもダメージが大きい緑谷は痛む鼻を押さえながら返事を返す。そしてようやく合否通知が手元に収まったのを確認すると、安心したように頬が緩んだ。

 

 

「届けてくれて本当に助かったよ。ありがとう美琴ちゃん」

 

「……フン」

 

 

緑谷が素直にお礼の言葉を述べると、美琴は少し気恥ずかしそうに鼻を鳴らしながらそっぽを向く。

 

 

「そう言えば、出久は一度こっちに戻ってくるのよね?」

 

「卒業式もあるし、そのつもりだけど……どうして?」

 

「初春さんや佐天さんが、出久の雄英合格祝いをやるって言ってたから、念の為よ」

 

「合格祝いって、気が早くない? 結果を見るの今からなんだけど……」

 

「ハァ? 何言ってんのよ」

 

 

美琴は呆れたような、それでいて確信めいた強い口調で言い放つ。

 

 

「出久が合格してない訳ないじゃない」

 

「!」

 

 

余りにもハッキリと告げられたその言葉に、緑谷は思わず目を丸くする。

 

 

「アンタがどう思ってるかは知らないけど、少なくとも私を含めてみんな、出久の合格を疑ってないわよ」

 

 

そう言いながら美琴は座っていたベッドから立ち上がり、未だ呆然としている緑谷を尻目にそのままドアに向かって歩き出す。

 

 

「引子さんとお茶してくるわ。出久もさっさと結果見てから来なさいよ」

 

 

そう言い残し、パタンとドアを閉めて部屋から出て行く美琴。残された緑谷はそのドアをしばらく見つめてから、ポツリと小さく呟いた。

 

 

「本当に僕は……人に恵まれてる」

 

 

一瞬だけ泣きそうな顔で微笑むと、すぐに顔を引き締め直して真剣な面持ちで手元にある合否通知と向き合う。

 

 

「……………よしっ」

 

 

開封する前に深呼吸を一つ。美琴はああ言ってくれたが、それでも緊張はするものだ。意を決して封筒を破くように開封すると、中から出てきたのは書類等ではなく、小さな装置のようなもの。それがコロンっと机の上に転がった直後、その装置が起動し、空中に映像が映し出される。

 

 

『んっんん~~~!!!』

 

 

そしてそこに映っているのは一人の大男。前髪を角のように二本立てたオールバックの金髪、白黒逆転した力強い眼差し、きらりと光る白い歯、黄色を基調にしたストライプ模様のスーツの上からでも分かる筋骨隆々の肉体。それらを併せ持つその大男を緑谷は……否、日本中は知っている。

 

 

『私が投影された!!!』

 

「オールマイト!!?」

 

 

その名もオールマイト。名実共にNo.1の座に君臨するヒーローであり、緑谷にとってはヒーローを志す原点となった人物だ。

何故そのオールマイトが雄英からの合否通知で出てくるのかと疑問符を浮かべていると、映像の中の彼が緑谷に話しかけるように喋り始めた。

 

 

『HAHAHA!! 久しぶりだ緑谷少年!! こうして会うのは約半年振りになるのかな!? と言ってもこれは録画映像だから私から君の顔は見えないのだがね!!! え? 何故私が投影されたかって? その理由は他でもない!! この私が雄英に教師として勤めることになったからさ!!!』

 

「オールマイトが雄英に……?」

 

 

やたらハイテンションなオールマイトとは対照的に、愕然といった様子で映像を眺めている緑谷。オールマイトガチ勢である普段の彼ならばオールマイトが登場した時点で発狂しているのではないかというほど喜ぶのだが、美琴が訪ねてきた辺りから怒涛の展開続きでもはや感情が追い付いていなかった。

 

 

『ええ何だい!? 巻きで!? 彼には少し話さなきゃいけない事が…後がつかえてる!? あーあーわかったOK……』

 

 

何やら画面外でせっつかれているらしいオールマイトは緑谷に何やら言いたげだったようだが、諦めて合否の発表へと移った。

 

 

『まずは筆記だが、流石は学園都市の学生と言ったところかな? 前代未聞の全教科(オール)満点!!!』

 

 

どうやら名前の書き忘れや解答欄の間違いなどはなかったようだと、どこかズレた所で安心する緑谷。

 

 

『そして実技においてはなんと65P!!! 近年稀に見る好成績だ!!!』

 

 

無意識にグッと拳を握り締める緑谷。しかしオールマイトの話はまだ終わっていない。

 

 

『これだけでも十分合格なのだが、しかァァし!!! 我々が見ていたのは(ヴィラン)Pのみにあらず!!! 我々が見ていたもう一つの基礎能力!! その名も救助活動(レスキュー)P!! しかも審査制!!』

 

「レスキュー……!?」

 

 

愕然とする緑谷の前に映し出されたのは、彼が試験中に周囲の受験生をそれとなくフォローしていた場面と、逃げ遅れた少女を助ける為に巨大ロボ敵の前に飛び出した場面の録画映像だった。

 

 

『試験という場において君はピンチに陥った他の受験者(ライバル)達をフォローし、更には少女を助ける為に巨大敵の前に迷いなく飛び出した!! それこそまさにヒーローとしての姿!!! きれい事だって!? 上等さ!! 命を賭してきれい事を実践するお仕事さ!!! 緑谷出久、60P!!!』

 

「……ハハ、ムチャクチャだよ……」

 

 

力強くそう語るオールマイトの言葉に、思わず笑みを零してしまう。

 

 

『総合点数、125P!!! 雄英史上最高点数だ!!! 当然、主席合格──と、言いたいところなのだが!! なんと君と同点の子が居てね!! その子と君で同率一位だ!!!』

 

 

自分と同点を獲ったを者。その人物に緑谷は心当たりがある、というより間違いなく彼だろうと確信していた。

そんな事を考えていると、映像に映るオールマイトの雰囲気が今までのコミカルなものからガラリと変わる。その表情も、笑顔だかどことなく真剣な面持ちだ。

 

 

『正直、緑谷少年が超能力者(レベル5)に至ったと聞いた時は驚いたよ。元は〝無個性〟だった君が、あの街で手に入れた〝能力〟で最高峰にまで上り詰めた。その努力と苦悩は、我々の想像を絶するものだったろう。そして──君がしてきた経験もね』

 

「ッ……!」

 

 

オールマイトの指摘に、思わず息を飲む緑谷。

 

 

『その事について今は何も言うまい、私も全てを知っている訳ではないからね。しかし、これだけは知っているよ』

 

 

そこで一旦言葉を区切り、オールマイトは映像越しに真っ直ぐと緑谷の眼を見据えながら続ける。

 

 

『その努力も苦悩も経験も、ヒーローになる為に積んできたのだろう!! 生まれながらに平等じゃないこの社会で、抗い続けたのだろう!! 困難や挫折に苛まれながらも、決して諦めなかったのだろう!! そして……数々の脅威に立ち向かってきたのだろう!!!』

 

 

オールマイトのその言葉が、熱意が、迫力が、映像越しだと言うのにビリビリと伝わってくる。それらを受けた緑谷は、今にも決壊しそうなものを堪えるように顔を歪ませる。

 

 

『そんな君に私は敬意を表し、あの日の言葉をもう一度君に送ろう!!!』

 

 

そしてオールマイトは映像の向こうで、そっと緑谷に手を差し伸べながら言い放った。

 

 

『君は──ヒーローになれる』

 

「──────ッ!!!!」

 

 

限界だった。堪えていた涙腺から、ポロポロと涙が溢れ出る。

 

 

『来いよ緑谷少年! 雄英(ここ)が君のヒーローアカデミアだ』

 

「っっはい!!!」

 

 

伝わらないと分かっていながらも、返事を返さずにはいられなかった。

そこで映像が終了し、空間に表示されていたモニターが消える。それから数秒間だけ呆然としていた緑谷は、やがて目元の涙をゴシゴシと拭ってから立ち上がって自室を出る。

 

 

「あ……出久?」

 

 

リビングへと足を運ぶと、美琴から事情を聴いたのだろう、落ち着きのない様子でテーブルの周りをウロウロしていた引子が出迎える。因みに美琴はテーブルで自分が持ってきたお土産をお茶菓子にして紅茶を飲んでいる。何とも正反対な様子の二人である。

そして不安そうな表情を浮かべている引子に対して、緑谷はグッとガッツポーズを見せながら報告した。

 

 

「主席合格!!!」

 

「いずぐぅぅぅ~~~~!!!」

 

「ぶぼっ」

 

 

その瞬間、引子の両目から涙が噴水の如く噴き出した。比喩ではなくそのままの意味で。しかもどういった原理なのか横にではなく前に噴出しているので、緑谷は母の涙を顔面で受け止める事になった。

 

 

「よがっだぁぁ~~!! よかっだねぇ~~~!!!」

 

「がぼっ…があさゲホっ……おちつブクブク……!!」

 

「引子さん、溺れてる。出久が涙で溺れてる」

 

 

まさかの母の涙で溺れかけるという珍事がありつつ、何とか引子を落ち着かせる事に成功。

その後はお祝いだと言って引子が張り切って夕飯を作り、緑谷の好物であるカツ丼をはじめとした数々の料理を食卓に並べたのだった。

もちろんそれは美琴の分も含まれていたので彼女もご相伴に預かる事となり、そのまま緑谷家に泊まる流れになった。本人は適当なホテルに行くつもりだったようだが、女子中学生が一人でホテルに宿泊など言語道断と引子に叱られてそういう事になったのだ。

 

因みに美琴が緑谷家に泊まると決まった直後、緑谷のスマホにとある後輩女子からの文字数制限いっぱいまで『お姉さま』『お泊り』『許さん』『コロス』等の殺意の籠った言葉が呪詛のように羅列しているメッセージが送られて来て緑谷が色んな意味で恐怖したのは余談である。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

「実技総合成績出ました」

 

 

場所は変わって雄英高校にある会議室。教師達が集まる照明が落ちた暗い部屋に、モニターから発せられる光のみが照らされている。そしてそのモニターには、実技試験における総合結果と試験で奮闘する学生達の静止画が映し出されていた。

 

 

「まさか一位が同率で二人も出るとなはぁ。しかも両者共に雄英史上初の百点越え」

 

 

まず最初に教師達が注目したのは、まったくの同点で主席合格した二人……緑谷出久と爆豪勝己だ。

 

 

「爆豪勝己、敵Pが77で救助P48。試験が後半になるに連れ他が鈍っていく中、派手な〝個性〟で敵を寄せ付けて迎撃し続けたタフネスの賜物。ピンチになった他の受験生を〝個性〟を応用した抜群の機動力で助ける場面も何度かあった。……足蹴にしながらだが」

 

 

モニターに映るのは手のひらから爆破を起こす〝個性〟を利用して空中を縦横無尽に駆け回りながら仮想敵を破壊する爆豪の姿。その中には仮想敵に追い詰められている受験生を蹴飛ばしながら庇う様子もあった。

 

 

「緑谷出久、敵Pが65で救助P60。敵Pでは爆豪に一歩及ばないものの、試験での行動は素晴らしいの一言に尽きる。木を操る〝個性〟……いや〝能力〟か……で、仮想敵の索敵・捕縛・撃破をほぼ同時に行っている。常に周囲の状況に気を配っていて、他の受験生が危ない時は即座にフォローをいれるなど視野も広い。正直、そこらのヒーローより動けてますよ」

 

「しかも木を操るだけじゃなくて、その場に生やす事もできるのよね。それも、アレをあっさりと飲み込んでしまうほどの大樹を」

 

「思わずYEAH!! って言っちゃったからなー」

 

 

次に映し出されたのは右袖から伸びた三本の触手のような木を使い、仮想敵を索敵しながら次々と撃破していく緑谷の姿。その中で教師達が目を引いたのは、彼が〝能力〟で生み出した見上げるほど巨大な大樹だ。

 

 

「資料によると緑谷は個性届けでは〝無個性〟で登録されているが、学園都市での能力開発を受けた〝能力者〟であり、しかもその学園都市の中でもたった八人しかいない超能力者(レベル5)の一人だ」

 

超能力者(レベル5)……タッタ一人デ軍隊ト戦エル程ノ戦闘力ヲ持ツトサレテイル、学園都市ニオケル最高峰ノ能力者カ」

 

「これを見たら納得ですね。リカバリーガールの話では、この時の大樹を消しちゃったのも緑谷君みたいですよ。彼、その気になったら荒野をも一瞬で樹海に変えられるんじゃないですかね。恐らくその逆も」

 

「能力名は〝森羅万象(グリーンルーラー)〟。あらゆる植物を生み出して支配する能力……シンリンカムイの上位互換どころじゃないわね」

 

「細けえことはいんだよ! 俺はあいつ気に入ったよ!!」

 

「YEAH!! って言っちゃったしなー」

 

 

ワイワイガヤガヤと、緑谷について論じている教師達。

そんな彼らを遠巻きに冷めた眼差しで眺めている全身黒づくめの教師が一人。楽しげに受験生を評価している他の教師達とは違い、彼はただただ冷静に緑谷を分析していた。

 

実力は申し分無し、先も言われていた通り下手なヒーローよりも動けている。〝能力〟の使い方も他の受験生の〝個性〟より一つ頭抜け出ている。そして彼の資料に記載されている学園都市の治安維持組織で疑似的なヒーロー活動をしていたという経験。ヒーローとしての素質は十二分にあると言えるだろう。それが黒づくめ教師の評価だ。

 

 

「だが……〝素質〟があっても〝見込み〟があるかはまた別だ。見極めさせてもらうぞ、超能力者(レベル5)

 

 

誰に言うでもなく呟かれたその言葉は、他の教師達の喧騒に掻き消されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




追加設定

【緑谷出久】
・柵川中学三年生。色んな名門中学への転入を勧められたが、学業に関してはどこに行っても変わらないので学生寮と支部から近いという理由で断っている。

・学生寮は某不幸パイセンの隣の部屋。たまに暴食シスターがメシを集りに来る。

・右腕は義手。中三の夏に失った右腕の代わりに、とあるカエル医者が考案した最新鋭の義手。メッチャ頑丈。緑谷の能力との相性を考えて、表面は木材で覆っている。


【爆豪勝己】
・マイルドかっちゃん


多分これからも設定が増える。
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