TS転生したらラスボス扱いされた   作:コンソメ

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第5話

十六夜が目を覚ますとそこは病室だった。白を基調とした部屋にメイド服の少女が座っていた。

 

「ここは………。ッ!そうだ!俺たちは襲われて!君!俺以外の人がどうなったか知らないか!?」

 

ベッドから起き上がりメイド服の少女に掴みかからんと距離を詰めた瞬間、ふわりとした浮遊感が十六夜を襲った。

 

目の前の少女に投げられたのだと気が付いたのは、背中から伝わる衝撃と鈍痛からだった。視界がぐるぐると回る。

 

「ここ、一応病院ですよ?」

 

その様子を見て呆れたように病室へ入ってきたのは星垣鈴だった。扉を開けている鈴の後ろには音々がいた。足に包帯を巻いているものの無事である彼女を確認して、十六夜は安どのため息を吐いた。

 

「………元気そうだとは言い難いですが一応状況説明だけ先に済ませてしまいましょう」

 

鈴はそう言うと十六夜を立たせてベッドに座らせた後、質問を投げかけた。

 

「何処まで覚えていますか?」

 

「そこの彼女に助けられたところまでは覚えています」

 

「ああ。先に自己紹介だけしましょうか。彼女の名前はリリアです。中等部の1年生です。仲良くしてあげてください」

 

そう紹介された少女は十六夜たちにスカートの裾をつまんだまま、お辞儀した。

 

「リリア・ブラフィーです。リリアとお呼びください、ご主人様」

 

「ご、ご主人様?」

 

「彼女はバイトでメイドをやっていまして、彼女にはわたくしからしばらくの間あなたの傍にいるように依頼しましたので。呼び方は気にしないで上げてください」

 

「は、はぁ………」

 

困惑する十六夜を放って、彼女は説明を続ける。

 

「まず初めに明立の容態ですが、命に別状はありません」

 

その言葉に再度反応しようとした十六夜を鈴は腕を前に出して止めた。その後、音々と十六夜に最近多発している連続襲撃事件と今回の犯行もそれと同一犯である可能性が高いことを説明した。

 

「つまりあたしたちも目玉を抉られてる可能性があったわけか…」

 

「ええ、自治委員会としてかのような事態を引き起こしてしまったことを申し訳なく思います」

 

「せ、先輩のせいじゃ…」

 

鈴が頭を下げたのを見てぎょっとした十六夜がフォローするが、鈴はそれを認めようとはしなかった。

 

「いえ、我が学院の生徒の快適な生活を守ること。それが自治委員会の務めです。まさか、こんなに早く動くとは思っていなかったという言い訳は通ってはならない」

 

苦虫をかみつぶしたような顔をした鈴はまるで誰かの言葉をなぞる様にしてつぶやいた。その後悔と謝罪は本質的には彼らに向けられたものではないとリリアだけが知っていた。

 

「本来であれば、あなた方にこんなことを頼むことはおろか関わらせてはいけないのですが…」

 

「………」

 

「………ですがもうあなたたちは無関係ではありません」

 

彼女は続ける。

 

「十六夜君、音々さんからも提案されましたが、今回の事件の収束に力を貸していただけませんか?」

 

十六夜は僅かに顔をしかめた。それをこの場にいる全員が見逃さなかったが、音々を除いて露骨な反応はしなかった。十六夜は音々の傷と鈴の顔を交互に見てから、数秒間考え込んだ。そして一つの疑問を投げかけた。

 

「俺なんかじゃなくても、それこそ雨空先輩じゃダメなんですか?そもそも、警察みたいな組織に任せておけば………」

 

自分よりも五芒星である彼女に協力してもらった方がいいのではないか?そもそも、この島の治安維持組織に協力を仰ぐべきではないかと当たり前の疑問を投げる。

 

「《黒猫》にも協力はしてもらっていますが、彼らは確実な情報が出てくるまで動きません。調査は進めてくれていますが、グレーなことを好みません。元々は、島の外からの侵略者を撃退するための組織でしたから」

 

それと――――。

 

「雫のことをあまり信頼しない方がいい」

 

十六夜は怪訝な顔をした。音々は動じなかった。

 

「あまりこのようなことを言いたくないのですが、彼女を信頼しきるのはやめたほうがいい。彼女というより、五芒星を信頼するのはお勧めできません」

 

「何でですか?」

 

「五芒星とは、20万以上いるこの島の学生の頂点に立つ5人の存在です。そこに至るためには才能だけでなく、それを研ぎ澄ます何かが必要となります………彼女は我々には及びもつかない狂気をその腹に飼っています。今回の件は間違いなく彼女の仕業ではないでしょうが、彼女に何もかもを委ねるといつの間にか魔女の手のひらで踊り狂うことになってしまいますよ」

 

鈴は感情を感じさせない声色で忠告をした。それでも理解できるほど、それはひどく実感のこもった言葉だった。これが過去の後悔に基づいた忠告であるとこの場にいない明立なら理解しただろう。

 

「………俺にできることならやりますけど、戦闘面では信用しないでください」

 

「ええ、それで構いません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上が事件の概要とこれからの方針です」

 

「なるほどね」

 

高層マンションの10階。雫の部屋で鈴は今日の出来事の一部を報告していた。雫は鈴をソファーに座らせ、その対面に椅子を持ってきて足を組んで座っている。

 

「私としても動いていたんだけど、どうやら相手の速さを見誤っていたようだ」

 

だけど。そう雫は続ける。

 

「おかげで、尻尾はつかめそうだ。私は勝手にやる。だから君も勝手にやるといい」

 

「………わたくしの選択は間違っているでしょうか?」

 

鈴は雫に向かってそう問いかけた。声色には熱がなく、感情を抑え込んだ問い掛けだった。鈴は何かに気が付いたように顔を上げ、誤魔化そうと口を開く。

 

(彼らに雫を信頼しきってはいけないと忠告したばかりだろうに)

 

そんな後悔はもう遅かった。口を開く前に、雫は目を閉じて言葉を紡ぐ。

 

「竜胆音々や槙原十六夜を巻き込んだことかい?」

 

ひどく優しげな声だった。甘い包み込むような声だった。鈴は友人であり可愛い後輩である明立の負傷で、疲れていたためその優しさを受け取ってしまった。

 

「………明立のこともです。わたくしは傷ついている彼女をまだ使うつもりでいます」

 

だから、鈴は傷を吐露して救いを求めた。

 

「君自身はどう思っているのかな?」

 

「被害者は一人の時を狙われているという共通点がない今回の事件。考えられる可能性は二つ。一つは別の犯人による犯行であること、もしくは夜間の警備を警戒したが故のスタンス変更。もう一つは、2000位外にいる生徒は楽に制圧できると判断した可能性。どちらにせよ、戦い方や実力が割れていない彼らは有用なカードになります」

 

「それに、一度狙われた彼女たちや明立は再び狙われる可能性がある。だから囮としても役割を果たせる、そうすれば新たな被害者が出る前に犯人を捕らえられると判断しました」

 

「でも、犯人は逆に警戒するかもしれない」

 

「いえ、そうはならないでしょう」

 

「どうしてかな?」

 

「わたくしの勘ですが、目玉を抉りだすことに固執している犯人はかなり目立ちたがりたいタイプの人間です。研究目的で目玉を欲しているのであれば、こんなにばれやすいことはしないでしょうから」

 

「一度狙った獲物は逃がさない。そういう評判の方が注目されるって話かい?」

 

確かに狙った獲物は逃がさない凶悪で執拗な犯罪者の方が、恐怖と注目を集めるだろう。雫は前提が正しいのであれば、彼女の理屈には一理があると感じた。

 

「はい、そのために広報部に頼んで今回の事件を噂レベルで島内ネットに流しました」

 

「なるほど。下準備は完璧ってわけかい?それ十六夜君たちに断られたらどうするつもりだったのかな?」

 

「脅すつもりでした」

 

「合理的だね」

 

彼女は合理的である。いっそ哀れなほどに。彼女の…彼女が受け継いだ理想にはあまりにも不釣り合いな合理の思考。彼女は正しく、そして致命的に間違っている。

 

「わたくしは――――」

 

「君は正しいよ。正しすぎるほどに」

 

尊大で傲慢でしかしどこか儚げな少女のような微笑が相貌に浮かんだ。

 

「いいじゃないか、合理的で。君はよくやっているとも。私が断言しよう。君の考えは正しい。君の合理的な判断は多くのものを救うだろう!その果てに何が待っていたとしても先輩たちは許してくれるさ」

 

無邪気な子供のような快活な少女のようなそれでいて恐ろしい女王のような声色で彼女は言葉を歌う。それは罪悪感を取り除いてあげること半分、意味深なことを適当に並べて遊びたいこと半分でロールした結果だった。

 

ただ、最後のセリフは鈴の地雷を踏み抜いてしまった。僅かな怒りと悲しみを宿して鈴は雫を見た。

 

静まり返った室内で二人は僅かな距離を残して眼差しを絡める。少女たちの間で可視化できない魔力が空間を音もなく浸食し始める。

 

「………わかっています。わたくしの後悔をここで吐き出すのはあまりにも都合がよすぎますよね」

 

鈴はそう言うとお邪魔しましたと言い残し、部屋を出ていった。後に残った少女はただただ、事態が呑み込めず困惑し続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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