キミの愛馬365   作:なちょす

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因子ガチャ終わらねぇ⋯⋯助けてカレンチャン⋯⋯。

あっ、頭空っぽにして書きました。
徹夜テンションです。
頭空っぽにして読んでください。



夜遅くまで仕事して凄いって⋯皆帰る中偉いって⋯よ、よせよチケゾー、俺はただの社畜で⋯ははっ、おいおい泣くなよ⋯なぁ、泣くなって⋯⋯うっ⋯⋯

 ゴールデンウィークが終われば梅雨の入りなどあっという間なもので、夜の帳が降りた街中の河川敷では蛙達が既に合唱を始めている。

 5月も後半になった今日この頃、私は家へと帰る為に重たい脚を引きずる様にして歩いていた。40後半になっても、営業という物は何がどう変わる訳では無い。朝から夕方まで客先へとハシゴしては自身が受け持つ企画のプレゼン。会社に帰ってきてからも企画会議に配下社員の仕事の進捗管理に自身の業務。

 仕事が大切だと思っていた。

 仕事だけで生きてきた。

 それが「普通」なのだと言い聞かせてきた。

 

 好きな事は何かと聞かれれば、沈黙が回答なのが私だった。

 

 中学生にもなる一人娘の学校行事に参加してやれず、家内の小さな我儘も聞いてやれなかった。どうせ忙しいからと言われ続け、いつの間にか家の中には、えもいえぬ距離感で象られた家族が出来上がっていた。例えそれが、私の自業自得なのだとしても、胸に蟠りが残る。

 

 人は、簡単には変わらない。変えることなど出来ない。私の心は、すっかり諦めがついていた。

 

 今日、この日までは。

 

 

「うぉおおおおお!!もういっぽぉんッ!!」

 

 

 威勢のいい掛け声と共に、川沿いの道をひた走る一人の少女。赤いジャージに身を包みながら掛けるその姿は、不思議と私の目を引いた。

 今となっては知らない人の方が少ない、獣のような耳を生やした少女。

 ───ウマ娘。

 誰が最初に呼んだのか、いつしか彼女らの存在は熱狂的な渦となり、多くの人を虜にしてきた。私は⋯⋯正直、その魅力が分からなかった。娘に何度か映像を見せてもらった。会社の同僚も熱中していた。それでも⋯⋯私には、分からなかったのである。

 

 何故、そんなに人を引きつけるのか。

 何故、愛してやまない人が後を絶たないのか。

 

 練習中だった彼女は、ぼんやりと思考に耽ける私に気付き、声を大にして言った。

 

「こんばんはー!!」

「あ⋯⋯あぁ、こんばんは。すまない、ずっと見ていたようだね。」

「いえ、こっちこそこんな夜に大声出してごめんなさい!!」

 

 謝りながらも、彼女の声は大きいままだった。

 思わずクスリと、笑いが込み上げる。

 

「練習の邪魔をしてしまうから、私はこれで失礼するよ。」

「はい!」

 

 結局、この日はこれ以上彼女と話す事は無かった。あの子は練習に戻り、私はいつもの日常に戻る。

 

 考えてみれば、これが初めてだったのだ。

 走る事に情熱を燃やすウマ娘との出会いは。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 翌日から、同じ時間、同じ河川敷で彼女と遭遇した。

 いつだって、彼女は走っていた。練習とはいえ、鬼気迫る表情で、何かを追い求める夢旅人の様に。

 少しずつ⋯⋯本当に少しずつだが、私と彼女の会話は増えていった。

 

 時には、タイム計測と言うものに付き添ったりもした。間近で見るウマ娘の走りに驚きながらも、どこか「そうだろうな」と1人納得し、練習に戻る。

 

 時には、彼女を知る事になった(とは言っても、一方的に説明されたのだが)。夜にここを走っているのは自主トレーニングの一環で、オーバーワークし過ぎなければ良いと、彼女の担当をしているトレーナーから了承を得ている事。もうすぐ、彼女が目標とする『日本ダービー』が開催されるという事。それが、ウマ娘にとって一生に一度しか訪れない、夢の舞台である事。

 

 時には、私自身の事を話したりもした。この時間まで仕事に明け暮れている事。家族との関係が上手く作れない事。好きな事も無く、夢も無く、そんなままズルズルと今日まで生きてしまった事。

 そんな私の言葉を聞いて、彼女は何度も大泣きをしていた。

 正直こちらが少々どうしたものかと困惑するぐらいには、大声で泣かれた。

 

 

『おじさんは辛かったんだね』

『おじさん、ずっと頑張ってたんだね』

『おじさんは、本当に凄いんだね』

 

 

 彼女の涙と共に溢れた言葉の数々は、私にとっては言われた事の無い新鮮なものだった。

 

 そうして、いよいよダービー本番を明日に控えた今日、彼女は私に贈り物をくれた。

 

「おじさん、これ!!」

「これは⋯⋯?」

「明日のダービーの招待券!トレーナーに、どーーーーしてもお願いって頼んで、今日貰ったんだ!おじさんと、おじさんの奥さんと、おじさんの娘さんの分!」

 

 まるで電車の特急券の様な3枚のチケット。質の良い紙に、光沢のある印刷で『東京優駿』と書かれている。

 

「アタシ、走るよ。トレーナーと、おじさんと、学園の皆と頑張ってきたこと全部出し切って、絶対誰よりも早くゴールしてみせるから!へへっ⋯⋯それだけっ!じゃあ、おやすみなさーい!!」

 

 こちらの返答待たずで、彼女は猛スピードで帰ってしまった。

 

 一生に一度の東京優駿───日本ダービー。

 私は、見に行ってもいいのだろうか?彼女を、応援してもいいのだろうか?

 この短い期間で、ほんの少しだけトレーニングに付き合って、知り合いになっただけなのに。

 ウマ娘という少女達のことを、まだ何も分かっていないというのに。

 

 ポケットの中で震えた携帯電話。

 明日は日曜日だと言うのに、営業先から急遽会えないかという話であった。

 

 私は、どうすればいいのか───帰路についても、その答えは雲のように掴むことは出来なかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「本日は、どうもありがとうございました!それでは失礼致します。」

 

 客先の会社から出て、空を見上げる。結局、私はここに居る。ここにしか、居られなかった。

 

 どんよりとした曇り空。

 

 15時を回り、あの子が出ると言っていたダービーが始まるまであと30分と言ったところだ。

 

 家に帰り、貰ったチケットを娘と家内に渡した所、大喜びであった。余程大きな大会のようで、1度は生で見てみたかったのだと言う。もう何年も見ていなかった家族の笑顔と温かい空気に包まれながらも、私の心はここに在らずだった。

 

『これ、誰に貰ったの?関係者のウマ娘って事は、多分出る子だよね!』

 

 喜ぶ娘に問いかけられて、私は初めて自分が大切な事を忘れていたと思い知らされた。

 

『すまん⋯名前を聞いていなかった⋯⋯。』

 

 私の言葉に呆れながらも、娘は部屋に戻る直前、私に言った。

 

 

『もう⋯⋯仕事で忙しいなんて、言っちゃダメだよ。その子は、お父さんに見てもらいたいんだと思うから。その子は、悲しませちゃいけないと思う。』

 

 

 あの時の娘の顔は、悲しげだった。あの子の思い出のどこにも居られなかった私には、何も言えなかった。そうして、今私はここに居る。仕事に生きて⋯⋯そうする事でしか、自分を保てなくて。

 

 

『アタシ、走るよ。トレーナーと、おじさんと、学園の皆と頑張ってきたこと全部出し切って、絶対誰よりも早くゴールしてみせるから!』

 

 

 ⋯⋯本当に、そうか?

 また、繰り返してしまうのか?私は、変われないのか?

 

 私の為に泣いてくれた彼女に、声援のひとつも送らずに生きていられるのか?

 

「15分。電車もバスも乗ってる暇は───無い!」

 

 気付けば脚が動いていた。東京競馬場ならば走れば間に合う距離の筈だ。

 私は、見に行かなければならない。彼女を応援しなければならない。

 

 

 一生に一度の大舞台を駆ける彼女を見られるのは、一生に一度だけなのだから!

 

 

「はぁっ⋯⋯はぁっ⋯⋯!!」

 

 運動不足と年齢が相まって、走り始めてすぐ苦しくなった。営業で歩き回ってるとはいえ、走るのとはわけが違う。だが⋯⋯同時に、楽しかった。

 子供の頃の、怖いものなんて何も無い、自分が無敵なのだと思っていたあの幼い日々を思い出す。ネクタイを外し、鞄を小脇に抱えながらただ走る。

 

 15時28分───東京競馬場が見えてきた頃には、場内の歓声が僅かに耳に入ってきた。彼女の夢が、始まってしまう。見たい。絶対に見たい。彼女の姿を。あの努力家で、感動屋で、夢追い人の彼女の姿を。

 

 15時31分───東京競馬場に入った頃には、既にレースは始まっていた。

 

「お父さん!?」

「はぁっ⋯!はぁっ⋯!!遅くなった⋯⋯レース、レースは⋯⋯!?」

「最後の───」

 

 

『さぁ、第4コーナーカーブした直線に入ってくる!先頭はアンバーライオン!!』

 

 

 娘の声をかき消すように、実況と場内の怒号にも聞き間違えられそうな爆発的な歓声が響き渡る。

 

 残り400m───先頭集団を駆け抜けるウマ娘の中に、彼女は居た。

 

 別人だった。

 あの天真爛漫な笑顔は無く。

 私の話に大泣きしていた泣き顔でも無く。

 

 必死の形相で歯を食いしばり、流れる汗を拭うこと無く、それでもゴール目指して夢を駆ける一人のウマ娘。

 

 目頭が熱くなった。

 胸の内に何かが滾った。

 実況の声なんて耳にも入らない。

 

 ───走れ。

 

 少しでも⋯⋯ほんの少しでもいい。前へ。彼女の側へ。

 

 ───走れっ。

 

 夢を、見せてくれ。

 

 

「行けぇぇええええっ!!走れぇぇぇぇええッ!!!!」

 

 

 一瞬だった。

 初めからではなかった。

 それでも、私は確かに見たんだ。

 

 

 一人のウマ娘が、夢を叶えたその瞬間を。

 

 

「あの子なんだ⋯⋯。」

「えっ?」

「お父さんにチケットをくれたのは、あの1着の子なんだ。名前⋯⋯分かるかな?」

 

 

 下を向き、そう言った私に対して、娘はクスリと笑いながら言った。

 

 

「ウイニングチケット、だよ。」

「そうか⋯⋯そう、か⋯⋯。」

 

 

 勝者を称える大歓声。

 手を振るあの子と、空を舞う沢山のチケット。

 

『チケゾー』と誰もが称えるその会場で、夢の特急券を握りしめながら、私は涙を流し続けた。

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