ここは東京。街の中心部から少し離れた住宅街の奥の方。
そこには昔懐かしの、一軒の駄菓子屋があった。
しかしこのご時世、ただの駄菓子屋だけではやっていくことができない。
そのため、駄菓子屋兼カフェとして経営しているのが、ここ『カラフル』だ。
「フンフンフンフフフーンフーン♪」
カラフルの厨房で、自分たちのテーマソングを鼻歌で歌いながら料理を作っているのは、キカイノイドのガオーン。
ガオーンはこのカラフルに宿を借りている
「あら、なにやってんだいガオーンちゃん。まだお昼には早いんじゃないの?」
店の方から顔をのぞかせたのは、カラフルの店主でありガオーンを住まわせてくれている恩人、五色田ヤツデだ。
彼女の言うように、今は午前十一時を回ったあたり。
確かに昼食をとるには、いささか早い時間帯である。
「ヤツデ。これだよ、これ」
そう言って、ガオーンはテーブルの上に置かれていた一枚のチラシを手に取った。
ヤツデはガオーンの持つチラシの文字を目で追う。
「こりゃ、この近所で今度開かれる、料理大会の参加者を募集するための広告じゃないか」
「ソソソソ。実は僕、ちょっとこの大会に出場してみようと思ってさ」
「なるほどねぇ。それでガオーンちゃんは今、料理の練習中って訳かい」
「ソーナノ、ソーナノ。なんといってもこの大会には、あの『不死鳥料理人の中野くん』が出場するからね。こっちも気を抜けないのさ」
中野くんとは、この近辺を中心に活動している出張料理人である。
過去に関西に出張した際、招かれた素敵なお誕生日会で料理をふるまった中野くん。
が、そこで出したのがボロクズのようなステーキだったり、ゴミのような正体不明のデザートだったりで、依頼主から大クレームを受けた。
そのことが広まり、中野くんは出張料理界から「クビだクビだクビだ」と、解雇を言い渡されてしまう。
料理人として再起不能と思われた中野くんだったが、必死の努力により再び出張料理人としての地位を取り戻した。
そういったことがあり、いつしか周囲は彼を『不死鳥料理人』と呼び、他の料理人たちからは一目置かれる存在になったのである。
「ちょうど料理が完成した所さん!? だから、試食してみてよ」
ガオーンは皿に盛りつけた料理を、ヤツデに差し出しながら言った。
「この料理名前付いてるんですよ」
「な、なんて言うの?」
「カレーピラフっつーんですよ」
ガオーンの作ったそれはなんの変哲もない、雑誌で見たレシピを忠実になぞっただけの、普通のカレーピラフ。
ヤツデはスプーンを手に、カレーピラフを一口食べた。
「……うーん」
うん、美味しい、と言ってくれるはず。期待のこもった目を向けるガオーン。
しかしガオーンの期待とは裏腹に、カレーピラフを口にしたヤツデは微妙な表情を浮かべる。
ガオーンは不安げに、味の具合を尋ねた。
「どう、男の手(料理)を食べさせられたけど。食事が進、あまり進んでいないようなんですが、それは……大丈夫なんですかね?」
「いや、美味しくない訳じゃないんだよ。訳じゃないんだけど……」
「遠慮しないで感想を教えて、どうぞ」
「なんて言うのかねぇ。……そう、例えるなら『おふざけが足りない』って感じかしらね」
「おふざけ?」
ヤツデの抽象的な批評に対し、彼女の言いたいことが分からずガオーンは首をかしげた。
不意に、表の通りから聞き知った者たちの声が響いてくる。
「おや、介人たちが買い物から帰って来たみたいだよ」
「たっだいまー!」
ヤツデが迎え入れたのは、彼女の孫である五色田介人。
そして、ガオーンと同様にカラフルのお世話になっている居候仲間のキカイノイド、ジュラン、ブルーン、マジーヌ。
介人を加えた四人は、それぞれが手に買い物袋を
厨房に入った四人は、買い物袋をテーブルの上に置く。
ドサリ、と重たい音が響いた。
「ガオーン、頼まれてた料理に使う材料、買って来たよ」
「お帰り、介人。お使いに行ってくれてありがとうね」
介人を労うガオーン。
その背後には、介人同様に労働を終えた三人のキカイノイドがいるのだが、ガオーンはスルー。
そのことに対し、無駄だとわかっていてもジュランは口を開くことを止められなかった。
「ちょ待てよ、俺らも一緒にしてきたんですけど、お使い」
「ガオーンが私たちキカイノイドに冷たいのは、もうしょうが、しょうがないです」
「ぬわああああん疲れたもおおおおん」
ブルーンは慣れたもので、ガオーンの自分たちに対するスタンスをすっかり受け入れていた。
マジーヌはただ疲労を口にする。
「(キカイノイドの心配は)ん~、あんましないです」
とガオーン。
そんなやり取りの中で、介人はテーブルに置かれたカレーピラフに気づいた。
「あっ、これかぁ、ガオーンが料理大会用に作ったメニューって。俺も一口食べてみていい?」
「あ、いいっすよ(快諾)」
ガオーンの了承を受けてカレーピラフを口にする介人。
今度こそ好評を期待するガオーンだが、介人もヤツデ同様に微妙な表情を浮かべた。
「どう、介人?」
「んまぁ、そう……。美味しいんだけど、『なんか足んねぇよなぁ』って感じ、かなぁ」
「足りない……一体なにが……」
お世話になっている人を満足させられる料理を作れないことに、ガオーンは歯噛みした。
このままでは、料理大会に出たとしても中野くんに負けてしまう。
ヤツデと介人が言う、打開策の『足りないなにか』について思い悩むガオーン。
その思索を打ち破るように、お店の方から叫び声が聞こえてきた。
「みんな、大変だチュン! 街でトジテンドが暴れてるチュン!!」
声の主は、カラフルのマスコットである機械鳥のセっちゃんだ。
「! すぐに行きますよ~、行く行く」
「ちょ、待てよー介人!」
「帰って来たばっかなのに、まーた出かけるんすか……」
「イッテキーマウス」
セっちゃんの言葉を聞いた介人は、即座にカラフルを飛び出していった。
後に続け、とジュラン、マジーヌ、ブルーンも店を出ていく。
最後に、考え事でワンテンポ遅れたガオーンも、慌ててエプロンを外すと四人を追いかけて行った。
「気を付けるんだよ~!」
一人カラフルに残されたヤツデは五人の無事を願い、遠ざかっていく孫たちの背にそう声を送るのだった。