最強の戦士   作:うちこ

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はじめまして、うちこと申します。

好きな競走馬の話を書きたいなーと思いまして、誰がいいかなーって悩んでシンザンにしました。現役時代生まれてないんですけれどもね。




1話 期待されない新参者

 史上最強のウマ娘は誰か。

 

 春の天皇賞を二連覇、最強のステイヤーとの声も多い、絶対の強さを誇るメジロマックイーン。

 

 無敗の二冠、約一年ぶりの復帰戦である有馬記念で勝利し、レースの常識を覆したトウカイテイオー。

 

 菊花賞を七バ身差の衝撃的な記録で勝利した、五人目の三冠ウマ娘にして、シャドーロールの怪物。ナリタブライアン

 

 重賞八連勝、マイル戦において七戦七勝の最強マイラー。雨の中の無敵と謳われたタイキシャトル。

 

 重賞最多勝利数タイの記録を持つ、年間全勝のレジェンド。世紀末覇王テイエムオペラオー

 

 

 他にも、マイルカップやジャパンカップを制し、凱旋門賞では二着に入賞した怪鳥、エルコンドルパサー。最強の逃げウマ娘、最速の機能美と呼ばれたサイレンススズカ。ダービーを制し、春と秋の天皇賞を連覇、そしてジャパンカップを優勝したスペシャルウィーク。

 

 

 例を挙げればきりがないが、この終わりのない論争に結論を出さなければならないとするならば、やはり史上最強のウマ娘は、四人目の三冠ウマ娘にして、史上初無敗の三冠を達成、そして史上初の七冠を達成し、唯一の絶対を持つ皇帝、シンボリルドルフになるのだろう。

 

 

 

 だが、シンボリルドルフが現れるよりも前、確実にこのウマ娘が最強だと、そう言える時代があった。

 

 出場したGⅠレースは全て一着、全レースの成績は十九戦十五勝、二着四回の連続連対数十九の大記録を持ち、ルドルフが現れるまでの間、彼女の前ではすべてのウマ娘が挑戦者であり、そして彼女を超えることこそが悲願の目標だった。

 

 その走りはナタの切れ味と呼ばれ、今をもってなお、歴史にその名を燦然と輝かせる。

 

 

 史上二人目の三冠ウマ娘にして、史上初の五冠ウマ娘。

 

 

 

 シンザン。

 

 かつて最強の戦士と呼ばれた、最強のウマ娘。

 

 

***

 

 

「ほら、シンザンちゃん。起きて。朝ごはん行くよ」

 

「んぇ、もう朝か……って、また動画つけっぱで寝落ちしちゃった」

 

「ほんと、よくイヤホンつけて大音量で動画流しながら寝れるよね」

 

「あはは、お母さんにもよく言われたな〜」

 

 

 イヤホンを頭の上の耳から引っこ抜き、クルクルと巻いてしまいながら、同室のセカンドちゃんこと、オンワードセカンドの声に応える。

 

 私が今通っている学校、日本ウマ娘トレーニングセンター学園。通称トレセン学園はトゥインクル・シリーズでの活躍を目指すウマ娘が通う全寮制の学校で、基本二人で一部屋だ。

 

 

 セカンドちゃんは綺麗な鹿毛の髪を整えて、すでに制服を着て準備を整えていた。タレ目気味のおっとりとした目が今日も可愛い。

 一伸びし、ベッドの上からいそいそと這い出て、鏡の前へ向かう。

 

 なんの特徴もない顔、なんの特徴もない背格好。ウマ娘の中では小柄なのも相まって、一見すればただの人と見間違えられてもおかしくない。前髪の、白色でひし形の流星がなければ、ウマ娘だとも思われないかも。そんな平々凡々なごく普通の女の子が、今日も鏡にうつっている。

 

 急いで髪を整え、制服に袖を通して一緒に部屋を出て食堂へ向かう。セカンドちゃんが起こしてくれたので、時間には多少余裕がありそうだった。

 

 

「もうすっかり秋だね」

 

 

 寮から学校へ向かう通学路の途中、セカンドちゃんがすっかり赤く染まった紅葉を見上げながらそう言った。

 

 

「この前まで暑いのヤダーっ! って騒いでた誰かさんが懐かしいね」

 

「んぇ……そ、それは一体誰のことでございましょうか……?」

 

「梅雨のときは、雨きらーい! って言ってた誰かさん」

 

「んぇぇ……」

 

 

 私の誇張されたモノマネを披露するセカンドちゃん。私は思わずカエルのつぶれたような声を出す。

 

 夏は暑いし、梅雨はジメジメするし、地面が濡れて歩きにくいし、走りにくい。嫌いにならない方がどうにかしてるのだ。うん。秋と春以外の季節は滅べばいい。

 

 

「ま、まあもう明日には十一月に入るし? ようやく私の時代っていうか?」

 

「その割には、デビュー戦もまだだし担当のトレーナーもいないけどね」

 

「んぇぇ……」

 

 

 私はセカンドちゃんと同じチーム、アルタイルに入部した。

 

 チームアルタイルは、ウマ娘が六十〜七十人ほども所属し、チーム長である代表トレーナーの他に、サブトレーナーも大勢所属している大きなチームで、数年前に皐月賞、日本ダービーを制覇した二冠のウマ娘であるコダマ先輩を輩出した、今もっともトレセン学園で勢いのあるチームだ。

 

 ただ、元々所属しているウマ娘の人数が多いことと、そして今年チームアルタイルには入部試験を合格して選ばれた、選りすぐりの十六人ものウマ娘が入部したということもあり、トレーナーの手が足りていないのだ。

 

 一応私も、その入部試験を合格して選ばれた一人のはずなんだけど、きっと成績は十六番目なんだろう。担当のトレーナーは割り振られず、テキトーに自分でトレーニングに励む日々を過ごしていることからも明らかだ。

 

 

「セカンドちゃんはいいな〜。デビューも済んでるし、今度は京都で淀ジュニア特別競走にでるんでしょ?」

 

「まあ、デビュー戦は負けちゃってるけどね」

 

「でも二着じゃん。その後の未勝利戦で三バ身半差の快勝だし。セカンドちゃんはチームアルタイル期待の星だよ。一等星だよ。きっといつの日かウマ娘から鷲に姿を変えて羽ばたいて行っちゃうんだよ」

 

「ごめん、ちょっとなにいってるのかわからない」

 

 

 期待の星と、一等星のアルタイルを掛けた私の冗談は受け流されていった。

 

 

「はぁ……私、デネブに入ればよかったかなあ」

 

「デネブって……メイズイ先輩のとこの?」

 

「うん。チームアルタイルが今一番勢いがあるって言っても、やっぱり最強はデネブだし」

 

 

 チームデネブは、トレセン学園で最強と言われているチームだ。

 

 デネブに所属している、ひとつ上のメイズイ先輩は、現在皐月賞と日本ダービーを優勝している、現在二冠のウマ娘だ。メイズイ先輩の同期に、同じくデネブに所属し、去年の最優秀ジュニアウマ娘に選ばれ、毎回メイズイ先輩とデッドヒートを繰り広げるグレートヨルカ先輩もいるが、皐月賞での快勝、そして日本ダービーで二着のグレートヨルカ先輩に七馬身の差をつけ、レコードでの圧勝を達成したメイズイ先輩の勝ちぶりから、クラシック三冠確実とも言われている。

 

 最も勢いのあるチームのアルタイル。最も実力のあると言われているチームデネブ。どちらの方が強いかと聞かれたら、やはりデネブに軍配が上がるだろう。

 

 

「それに、私十一月三日に京都でデビュー予定なのにさ、まだ担当のトレーナーが付かないって、酷すぎない?」

 

「……まあ、それは確かにね」

 

 

 明日には十一月になるというのに、そしてメイクデビューも間近だというのに、私には担当のトレーナーがいない。そのため、レースのためのトレーニングもできていない。愚痴りたくもなる。

 

 こんなので京都の芝、1200メートルを走りきれるのだろうか。

 

 

「でも、デネブにも期待の新人が入ったらしいから、あまり変わらなかったかもよ?」

 

「はぁ、世間は辛いねぇ……あてっ」

 

 

 ため息をついて愚痴る私の頭が、パシッと軽くはたかれた。

 

 

「うるさいわよシンザン。大声で愚痴を言い過ぎ。丸聞こえ。」

 

「ご、ごめんウメちゃん……おはよ」

 

「……おはよう。先行ってるわね」

 

 

 私の頭を叩いたのは、セカンドちゃんではなく、幼馴染のウメちゃんこと、ウメノチカラだった。

 ウメちゃんはキリッと釣り上がった凛とした目でこちらを一瞥して挨拶を返すと、綺麗な黒い髪をたなびかせ、まっすぐと伸びた背筋で歩いていった。

 

 

「シ、シンザンちゃん。ウメノチカラさんと知り合いなの?」

 

「うん、幼馴染だけど……ウメちゃんって有名なの?」

 

「有名もなにも……デネブに入った期待の新人ってあの子のことよ?」

 

「ほぇ……やっぱりウメちゃんすごいんだなぁ」

 

 

 すでに小さくなっているウメちゃんの背中を見つめながら、情けない声で息をもらす。

 

 

「確かデビューはまだだったはずだけど……三日にメイクデビューの予定だったけ」

 

 

 セカンドちゃんの言葉に、私は全身の関節が固まったように動きを止めてしまった。

 

 

「……誰が?」

 

「ウメノチカラさん」

 

「……どこで?」

 

「確か……京都の」

 

「芝1200?」

 

「なんだ、知ってるんじゃない……って、まさか」

 

「……うん、その、まさか」

 

 

 ウメちゃんのメイクデビューは、十一月三日、京都レース場の芝1200メートル。

 そして私のメイクデビューも、十一月三日、京都レース場での芝1200メートル。

 

 

「……私、ウメちゃんとレースだ」

 

「あー、そのー、えっとね……」

 

 

 動きを止めた私の肩に、こちらに振り返り、言葉を探しながらセカンドちゃんが手を乗せた。

 

 

 最強のチームの、最強の新人を相手に。

 

 対する私は、担当のトレーナーすら配属されず、最弱の新人。

 

 

「……ご愁傷様」

 

「んぇぇぇ……」




淀ジュニア特別競走は、当時の淀3歳特別競走のことで、芝1400のレースです

皐月賞とかぐらいまではわりとあっさり書いてこうかなーとおもってます。まあ、書くことがあんまりないからなんですけど。

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