最強の戦士   作:うちこ

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あと、あと少しで皐月賞……


12話 三冠候補と呼ばれて

「んじゃ、シンザンのスプリングステークス勝利ということで、乾杯!」

 

 

 俺の音頭に、我が家に集まった数人が一斉に「かんぱーい!」と続く。

 

 

 シンザンがスプリングステークスを勝ったので、家にいた俺の彼女というか妻というか細君というか奥さんに急遽連絡を取り、無理言って料理を作ってもらって祝勝会を開くことになった。

 

 

「いやー、まさか本当にトレーナーに奥さんがいたなんて」

 

「お前は俺のことなんだと思ってたんだ」

 

「えっと、その、あー……ッスゥー……残念な人?」

 

「言葉選んでそれか!?」

 

 

 シンザンの言葉に、その場にいた全員が吹き出すように笑い出した。それはもう、台所にいた妻も一緒になって大爆笑している。

 

 

「しかし、ここまでシンザンが強いとは……思わなんだ」

 

 

 空気を取り繕うように口を開いたのは、トレセン学園から飛ぶようにやってきたチーム長だった。

 

 

 スプリングステークスを勝ったという報告を聞くやいなや、今日終える予定の仕事も全てほっぽり出して血相を変えてとび出してきたようで、ウイニングライブが終わり、記者会見も終わったという頃、チーム長は息も絶え絶えで東京レース場に現れた。

 

 

 その後、チーム長はシンザンに「俺は目が見えなかった。お前がここまで大物だとは知らなかった」と言って頭を下げた。それを見たシンザンは、それはもう大慌てしていた。今日の記者会見、大勢の記者達に矢継ぎ早に質問されていた時もあたふたしていたが、それを超える慌てぶりだった。

 

 

「ほんとうにすまなかった、シンザン。見る目のなかった私を許してくれ」

 

「いやいやいやいや、頭上げてくださいよチーム長!?」

 

 

 改めて頭を下げたチーム長に、再びブンブンと手を振って慌てるシンザン。鶏やペンギンより飛ぶ見込みがありそうだ。

 

 

「それに、間違いは誰にでもありますよ。トレーナーなんて私を見た瞬間ため息ついたんですから」

 

「おまっ、俺を売んなよ!」

 

 

 その場の全員がまた吹き出すように笑う。

 

 

 ひとしきり笑ってしばらくすると、またそれぞれ食事を再開したり、談笑したりし始めた。

 

 

「ほんとうに……シンザンはコダマを越えるかもしれんな」

 

「だから言ったじゃないですか」

 

 

 チーム長の言葉に、俺はそう返す。

 

 以前、俺がチーム長にそう啖呵を切った時は、正直カッとなって言い返した部分もあった。才能あるウマ娘を、自分の指導不足や環境で潰すわけにはいかないという、ある意味自分に対して発破をかけるというのもあったかもしれない。

 

 しかし今、シンザンは才能のあるウマ娘だという気持ちに変わりはないが、コダマを超えるという、口をついて出た言葉が少し現実味を帯びてきたのかもしれない。

 

 

「なあシンザン」

 

「んぇ?」

 

 

 レースも済んでお腹が空いたのか、それとも飛ぶためのエネルギー吸収か。パスタやらニンジンやらピザやら。シンザンが持つ取り皿にはさまざまな料理が盛り付けられていて、シンザンの口もまたさまざまな料理が詰め込まれている。俺の話になど聞く耳を持たず、一心不乱に食べていたようだ。

 

 

「……お前そんなに大食いだったの?」

 

「んぐっ!?」

 

 

 まるで心外だとでも言いたげな表情で、シンザンは口に含んだものを素早く咀嚼し飲み込んだ。

 

 

「ちがいますぅ〜、奥さんの料理が美味しいだけですぅ〜」

 

「そんな褒めたっておかわりしか出ないわよ。ほら、セカンドちゃんも遠慮しないで食べて食べて」

 

「あっ、ありがとうございます」

 

 

 大量の料理が盛り付けられた皿をトレーに複数載せて、妻が現れた。

 

 

「ほら、まだまだあるんだからあなたも食べて」

 

「お……う」

 

 

 明らかにこの人数じゃ食べきれないだろうというほどの料理がすでに並んでいるというのに、おかわりときた。

 

 

「そうだよトレーナー。食べないと大きくならないんだよ」

 

「お前が言うと説得力ねえな」

 

「うえーん。セカンドちゃんに奥さんにチーム長。トレーナーがいじめるよう」

 

「おま、最後の二人は卑怯だぞ!」

 

 

 嘘なんじゃないかってくらい下手な嘘泣きでシンザンがこの場の全員を味方につけようとする。妻とチーム長は「やれやれ」みたいな目で俺を見て、茶番に乗る程度だが……若干一名、本気の殺意を感じる。なんか黒いオーラも出てる。

 

 

「トレーナーさん……?」

 

「ま、まてセカンド! 記者会見であたふたしてるシンザンの写真、記者からもらったんだ! これで手を打たないか?」

 

「ふふん、セカンドちゃんがそんなことでなびくわけないじゃん」

 

「仕方ありませんね」

 

「セカンドちゃん!?」

 

 

 黒いオーラをあっさりと引っ込めたセカンド。自信に満ち溢れた表情をしていたシンザンは、コロコロと表情を変えて「なんで、どうして?」とセカンドの肩を揺さぶっている。

 

 しかし、あれだ。

 

 レース中とかレース前はあんだけ集中していて落ち着いてるこいつが、普段は落ち着かない奴ってのは、なんかおもしろい。

 

 

***

 

 

 翌日。

 

 

 私とセカンドちゃんはお昼ご飯を食べようと、食堂に来た。

 

 

「あ、ウメちゃん! おはよぉ」

 

「おはようって……もう昼だけど」

 

 

 そして、食堂にはいつかの日と同じように、ウメちゃんがいた。あの日と違うことといえば、私の隣にセカンドちゃんがいることと、ウメちゃんの隣に先輩達がいないことだ。

 

 

「ねえウメちゃん、もしよかったら一緒にお昼食べない?」

 

「いいけど……いいの?」

 

 

 私の言葉に、ウメちゃんは隣のセカンドちゃんの方を見る。

 

 

「もちろん。実は、前からウメノチカラさんとは話してみたかったの」

 

「……そういえば、こうして話すのは初めてだっけ。長いし、ウメとかでいいよ。私もセカンドって呼ぶから」

 

「じゃあ、えっと……ウメノさん?」

 

「うん、それでいいよセカンド」

 

「じゃ、ご飯食べよっか……って、なんでこんなに見られてるの?」

 

 

 特に大声も、変なこともしていないのに、私たちは周りのウマ娘にちらちらと視線を向けられていた。

 

 

「なんでって……シンザン、あれ」

 

「あれ?」

 

 

 ウメちゃんが指さしたのは、食堂の天井から吊るされるようにして設置されているテレビだった。そこに映っているのは、どこか見覚えのある少女が慌てふためいている姿。

 

 

「あれぇ!?」

 

 

 見覚えがある。それもそのはず。画面の中で記者達に囲まれてあたふたしてるのは、私だった。

 

 

「シンザンちゃん、気づいてなかったの? 昨日の夜からずっと、テレビはシンザンちゃんのことで持ちきりだよ?」

 

「んぇ……」

 

「まあ、スプリングステークスに勝つってことは、三冠候補筆頭ってことだからね」

 

 

 皐月賞への優先出走権が与えられる、トライアルレースのスプリングステークス。

 

 初めての重賞での勝利、そしてウメちゃんと走れて、さらには勝てたということが先行していたせいか、スプリングステークスで勝ったという、その意味までは頭が回っていなかった。

 

 

「ほら、早くお昼にしましょ」

 

「お、落ち着かないなぁ」

 

「あ、あのっ!」

 

 

 ウメちゃんの後に続いてお昼を取りにカウンターへ向かおうとしたところ、見知らぬ子に呼び止められた。

 

 

「ウメノチカラさんとシンザンさんですよねっ! スプリングステークス見てました! 皐月賞も応援してます!」

 

「あ、ありがとう」

 

「やっぱりシンザンさんなんですか!?」

 

「シンザンさんだ!」

 

「あのっ、シンザンさんお話いいですか!?」

 

 

 見ているだけだったウマ娘達が、一番に声をかけてきた子に続くようにワラワラと集まり始め、ウマ娘達に取り囲われてしまい、行き場をなくす。

 

 

 ……ほんとうに、おちつかない。




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