最強の戦士   作:うちこ

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今話から、予定では3話くらいオンワードセカンドにスポットを当てた話を投稿していきます。


16話 オンワードセカンド①

「それじゃあシンザンちゃん、先行ってるね」

 

「んぇ、あー、うん」

 

 

 皐月賞がおわり、五月に入った。桜も梅も、ピンクの花弁をとっくの昔に散らしてしまい、今では青々とした緑を携えている。朝や夜も、少し肌寒かった頃もそろそろ終わりを告げ、夏に向かって助走を始めている。

 

 

 私も、五月終わりに開催される日本ダービーに向けて、大きな助走を始めるという頃。

 

 

 私とセカンドちゃんは、なぜか一緒に過ごすことが少なくなっていた。

 

 

「……私、なんかしちゃったかな」

 

 

 鏡の前でヘアアイロンをしながら、回想する。

 

 

 思い返してみると……スプリングステークスが終わったあたり、祝勝会の翌日くらいから、セカンドちゃんと一緒にいることは減った気がする。

 

 

 いや、もちろん全く顔も合わせていないわけじゃない。同級生で、クラスメイトで、同じチームに所属している。そしてなによりルームメイトだ。顔を合わせない方が難しいし、さっきも顔を合わせたといったら合わせたと言っていい。

 

 でも、顔を合わせるだけで、面と向かわない……もしくは膝を突き合わせない、とでも言えばいいのだろうか。

 めっきり、一緒にご飯を食べたり、一緒に登校することは少なくなってしまった。

 

 というか、ここ最近は全くないのかもしれない。

 

 

「……さみしいなぁ」

 

 

 ポツンと、誰もいなくなった部屋でひとりごちる。うなだれるように垂れた私の頭上の耳だけが、相槌を打っているようだった。

 

 

***

 

 

「よし、今日のトレーニングはこれで終わりだ」

 

「んえぇ、疲れたぁ」

 

 

 放課後のトレーニングが終わり、タオルを受け取り汗を拭きながら、そのままトレーナーの座るベンチの横に腰掛ける。

 

 

「なあシンザン」

 

「んぇ? あ、ごめんもしかして汗くさかった?」

 

「いや、お前別に汗かいても変なにおいしねえし」

 

「嗅いでたのっ!? 変態さんだ!?」

 

「いいから」

 

 

 ひとりでコミカルに、オーバーな動きをする私をよそに、トレーナーは真剣な表情で私のことをじっと見つめている。

 

 それを見て、私も真剣になってしまう。漫画みたいなポーズをやめて、きちんと姿勢を正してベンチに居直る。

 

 

「なに、改まって」

 

 

 そう返したが、なんとなく、何を聞かれるか、何を言われるか。予想はついていた。

 

 

「何があった」

 

 

 その予想は、的中してしまった。

 

 

「……すごいね、トレーナー。私の心読めるの?」

 

「おう。お前のトレーナーだからな」

 

 

 その言葉を聞いた私は、思わず吹き出して「なにそれっ」と、声をあげて笑ってしまった。

 

 

「はぁ、笑った笑った」

 

 

 ひとしきり笑い、区切るように言った後、私は続ける。

 

 

「……セカンドちゃんのことなんだけどさ」

 

 

 トレーナーに朝のこと、そしてスプリングステークス後からセカンドちゃんと疎遠になって、最近あまり一緒に過ごせていないこと。

 

 話していくごとに、まるで背負っていた重荷を一つずつ下ろしていって肩が軽くなるような気分になっていった。

 

 

 自然と、俯いて靴を見ていた私の視線はやがて膝に、膝から胸に、そしてトレーナーの顔に移る頃にはすでに話は終わりそうになっていて、トレーナーの表情が目に入る。

 

 

「……えっ」

 

 

 トレーナーは、それはもう形容し難い表情をしていた。

 

 

「なに、その顔」

 

 

 目なんかもう、梅雨よりもジメッているんじゃないかというほどのジト目で、口なんか歪な台形のような、三角形のような、よくわからない形に変形していた。

 

 

「いや、だってよ。なんか深刻な問題でも起きたのかと思いきや、友達と喧嘩したなんて些細な悩みを聞かされた俺の気にもなれよ。今どき小学生でもそんなお悩み相談しねえわ」

 

「しょっ……!?」

 

「あと、俺の貴重なシリアス顔を返せ」

 

「それってトレーナーの勝手だよね!?」

 

 

 まあおふざけはこのぐらいにして、とトレーナーは仕切り直した。やっぱりふざけていたらしい。

 

 

「まあ……あんまり所属ウマ娘にする話でもないんだが、アルタイルは今お前以外あまり勝ち星をあげてない」

 

「……うん」

 

「それはプリマドンナしかり、セカンドしかりだ。プリマドンナは桜花賞でカネケヤキに負けてから精彩を欠いているし、セカンドも淀ジュニア特別から勝ちきっていない」

 

 

 思い返せば、そうかもしれない。

 

 私が皐月賞に出走していた日、セカンドちゃんは場所を同じくして開催していたレースに出走し、二着の結果に終わっていた。

 

 

「だからまあ、精神的に不安定なんだろ。こういうのはまあ、他人が関わってもややこしい事になるだけだし……特にお前が関わった時には尚、ってことだ。利口なお前ならわかるだろ」

 

「そう、だね」

 

 

 もしもトレーナーの言うことが正しかったとしたら。セカンドちゃんが今、私と距離をとっている理由というのが正しいとするならば、私からセカンドちゃんにできることは何もない、ということになる。

 

 私は今まで、デビューから今日に至るまで、一回も負けたことがない。私にその気がなくても「次は勝てる」だとか「切り替えていこう」なんて、嫌味に捉えられたとしても仕方がない。

 

 

「ま、こういうのは時間が解決するしかないからな。苦しいかもしれないけど、気長にな」

 

「……うん」

 




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