最強の戦士   作:うちこ

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今回でセカンド中心の話が終わりで、次話からシンザン中心の話に戻ると思います。

予定では、あと二話か三話くらい挟んでダービーに入る…‥と思います。


18話 オンワードセカンド③

 シンザンちゃんと仲良くなったのは、ごく自然なことだったと思う。同じクラスで、同じ部屋で暮らすルームメイトで、さらには同じチームに所属するチームメイト。仲良くならない方が不自然とも言い換えられる。

 

 

 そんなシンザンちゃんの走りを見たのは、アルタイルの入部テストの時が初めてだったと思う。合格して入部した十六人の同期の中でも、一際目立つくらいに目立たない、非凡なほど平凡な走りをしていたのを覚えている。

 

 デビューして、勝利を重ねてからも、同期の未勝利ウマ娘にも劣るくらい走らないシンザンちゃんを見て、私はシンザンちゃんは運がいいだけだと思っていた。

 

 実際、トレーニングで走らないだけじゃなく、レースでの勝ち時計や着差も、極めて平凡。レコードも大差勝ちもなく、勝ち星を重ねてるだけで、とても強いウマ娘だとは思えなかった。

 

 

 だから、外尾トレーナー、シンザンちゃんの担当トレーナーが、シンザンちゃんのデビューの時、私を超えるウマ娘になると宣戦布告のようなことをしてきた時も、私はその言葉を真に受けてはいなかったし、むしろ話半分……妄言の類として、聞き流していたと思う。

 

 そしてシンザンちゃんが世間からも一躍注目を集めるきっかけにもなった、皐月賞トライアル……スプリングステークス。

 

 シンザンちゃんが出走すると聞いて、私は最初、勝てるわけがないと思っていた。

 

 実際、シンザンちゃんの人気は六番だったし、朝日盃を勝ったウメノさんや、私が阪神ジュニアステークスで勝てなかったアスカ、弥生賞で結果を出したトキノパレードやブルタカチホもいた。名のある強豪ウマ娘が多数出走する中で、トレーニングでもパッとしないシンザンちゃんが、勝てるわけがないと勝手に決めつけていた。

 

 だからスプリングステークスが終わった後、慰めようと思ってもいた。「惜しかったね」「次は勝てるよ」なんて、そんな言葉をかけて。

 

 

 

 なんて、傲慢だったんだろう。

 

 

 

 シンザンちゃんがスプリングステークスに出走できたのは、運が良かっただけだと。

 

 私がレースで勝ちきれなかったのは、調子が悪いだけ、運が悪かっただけだと。

 

 

 トレーニングで良く走れば、大舞台で結果を残せるなんて、そんな甘い世界なんかじゃないなんてこと、分かっていたはずなのに。

 

 

 レースの勝ち時計も、着差も、トレーニング時のタイムも、平凡な見た目も、シンザンちゃんの能力には一切関係がない。

 

 シンザンちゃんは強いから勝てて、私は弱いから勝てない。

 

 

 なんとも単純で、残酷な話だ。

 

 並み居る強豪ウマ娘を薙ぎ倒し、それでもなお息も切らさず平然としているシンザンちゃんを見て、彼女はつくづく本物のウマ娘なのだと。私はどうしようもなく偽物なのだと、まざまざと見せつけられた気がした。

 

 

 だから、嫉妬した。

 

 

 強い踏み込みが妬ましかった。

 

 丈夫な体が羨ましかった。

 

 

 

 彼女が一番(ファースト)で、私は二番(セカンド)にも満たない。

 

 

 どうしようもなく浮かんだその考えは、無遠慮に突きつけられた刃物のようなその思考は、私を絶望させるのには十分すぎた。

 

 

 いつも一緒にいたはずの、シンザンちゃんの隣にいるのがとても苦しくて、声を聞くのが嫌になって、距離を取ってしまった。

 

 

 はじめは、それで心が軽くなった気がした。

 

 

 でも、それはただの勘違いだった。

 

 

 スプリングステークス以降、少しずつ距離を取りはじめて、なんとなく心が軽くなっていったように感じていた私は、ある日自分の胸にぽっかりと穴が空いているのに気がついた。

 

 

 あの時、距離を取ってはいけなかったんだ。

 

 シンザンちゃんが強豪ウマ娘達の仲間入りをした時、どこか遠くへ行ってしまったと感じたあの時、私は何としてでも食らいついていかなきゃいけなかったんだ。

 

 

 そうしていれば、このレースの結果も、少しは違っていたのだろうか。

 

 

 日本ダービーのトライアルレースである、NHK杯。東京レース場の電光掲示板には、今日のレース結果が映し出されている。

 

 

 今日、私は五枠七番での出走。しかし一番上にはウメノさんの数字、九番が灯っていて、七番は一番下、五着を示す位置で光っていた。

 

 ダービーへの出走権は得られたが、滑り込みの結果。胸を張れるような結果ではない。

 

 

「まあ、そんなすぐにメンタルが戻るなんて甘い話はないわよね」

 

 

 息を整えながら話しかけてきたのはウメノさんだった。

 

 

「でも、五着。どんな形であれダービーへの出走権は得たわね」

 

「……そう、ね」

 

 

 スプリングステークス以降、今日のNHK杯までの一ヶ月少し。身の入らないトレーニングをしてきたであろう私が勝てるほど、重賞レースは甘くなかった。

 

 

「今日のところは勝ったなんて思ってないわ。本番のダービーまでの三週間。あなたなら以前よりも強くなれるでしょ」

 

「ずいぶんと、私のことを高く買ってるのね」

 

「……私は、シンザンからしたらデネブに所属してる敵役だもの。幼い時ならいざ知らず、今シンザンの隣に並ぶとしたら、同じレースに出走する敵としての機会しかない」

 

 

 だから、とウメノさんは続ける。

 

 

「仲間として、ずっと隣にいたとしたら私だってあなたのようになっていたかもしれない。一番近くであの子の凄さを、強さを見せつけられて、結果、確かにあなたは道を踏み外しかけたけど、それでも戻ってこれたあなたは強いわ」

 

 

 私が、強い。

 

 

「って、まるで敵に塩を送る優しいウマ娘みたいね、私」

 

「っふふ……ウメノさんが本当は心優しいウマ娘っていうのは、私もシンザンちゃんもわかってるわ」

 

「んなっ」

 

 

 顔を真っ赤にして「勘違いしないで!」だとか「私はただ万全のあなたに勝ちたいだけ!」なんて言葉を並べるウメノさん。でも口を開けば開くほど、ますます優しいウマ娘にしか見えなくなってくる。

 

 

「ありがとう、ウメノさん」

 

「……私に感謝する前に、伝えるべきことを伝える相手がいるんじゃない?」

 

 

 その言葉に、私は「そうだね」と頷く。

 

 

 後で、シンザンちゃんに謝ろう。

 

 

 そうしたら、今度こそ本当の意味で仲良くなれる気がする。




レースの内容を全く書かなかったんですけど、一応の補足です。

NHK杯は1996年に廃止されるまで、五着までの馬に日本ダービーの優先出走権を与えていたトライアルレースでした。東京競馬場芝2000のレースで、グレード制が導入されてからはGⅡレースとして開催されていました。

以上、補足でした。


いつも感想、評価をありがとうございます!
まだ書いたことがない方もお待ちしてるので、どしどし書いちゃってください!
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