最強の戦士   作:うちこ

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20話 夢の理由

「ねえトレーナー。聞きたいことがあるんだけどさ」

 

「そ、の前に。俺、にも聞かせてくれ」

 

 

 コダマ先輩と話をして、翌日。今はトレーニングの時間だ。

 

 

 私の言葉に、トレーナーは声を絞り出すようにして返事をした。

 

 

「なんで俺はロメロスペシャルかけられてんの!?」

 

「それはあなたが私のトレーナーだからです」

 

「訳わかんねえよ!」

 

「まあ私の体重のこと、コダマ先輩に言ったからね」

 

「随分と重い罰、だな……」

 

「いま重いって言った?」

 

「言ったけどその重いじゃねえ! まてまてまて折れるって!?」

 

「話の腰を折らないでよ」

 

「だからって俺の腰を折ろうとすんな!」

 

 

 ミシミシと音がし始めたので、仕方なくトレーナーを放り捨てて解放する。「イテテ」と言って腰をさすって立ち上がるトレーナーは普段よりも老けて見える。

 

 

「あのなあ、落とすにしてももう少し手加減ってのをな」

 

「命を落とさなかっただけありがたいと思って」

 

「殺す気だったのかよ!?」

 

「まあ、少し……多少、割と? いや、半分くらい?」

 

「なんで殺意が増えてんだよ……」

 

「いま増えたって言った?」

 

「いい加減にしろ!?」

 

 

 このままだと無限ループに入りそうだったので、おふざけモードはここで終わりにする。

 

 トレーナーも咳払いをして、切り替えようとしていた。

 

 

「んで、聞きたいことってなんだ?」

 

「えっと、トレーナーが言ってた自分のチームを持ちたいって話なんだけどさ」

 

 

 それは以前、トレーナーが話していたこと。

 

 まだウメちゃんと走ることを目標にしていた時、トレーナーの目標を聞いた際の答えだ。

 

 

「ああ、言ったな」

 

「それってさ、なんで自分のチームを持ちたいって思ったの?」

 

「あー、理由か」

 

 

 そういや話してなかったか、と言ってトレーナーは続ける。

 

 

「まあ、ミスオンワードとコダマはわかるだろ?」

 

「うん、もちろん」

 

 

 無敗のティアラ二冠を達成したミスオンワード先輩と、クラシック二冠を達成したコダマ先輩。どちらもチームアルタイルの出身で、アルタイルどころかウマ娘を代表すると言ってもいい、二代スターだ。

 

 

「アルタイルがその二人で一躍有名になったみたいに、俺がまだ子供の頃にはクリフジってウマ娘がデネブから現れてな」

 

「あ、名前は知ってる」

 

 

 私が生まれるよりも前に活躍していたというウマ娘だ。ダービー、オークス、菊花賞を勝ち、変則三冠という少し変わった大記録を打ち出したウマ娘だ。

 

 

「それを見て、まあ子供だったからな。ウマ娘ってすげえ、カッコいいって憧れてな。大人になってもずっと憧れてて、ウマ娘に関わる仕事したいって思ってた」

 

「それでサブトレーナーになったんだ」

 

「そういうことだ。んで、サブトレーナーになって五年目。仕事にも慣れて余裕ができ始めて、ミスオンワードが現れた」

 

 

 ミスオンワード先輩がティアラ競走に出走していたのは、確か七年前くらいのこと。今でもティアラ競走の体系はしっかり整備されてはいないが、当時は尚更だろう。クラシックを勝ち抜いた一線級のウマ娘を相手に、一歩も引かなかったミスオンワード先輩の活躍を間近で見たトレーナーの衝撃は、それは凄まじかったに違いない。

 

 

「ミスオンワードが無敗でティアラ二冠を達成した三年後には、コダマが現れた。ウマ娘に関われればそれでいいと思ってたが、それがきっかけで俺もミスオンワードやコダマみたいなウマ娘を育てたい、って思い始めるようになってな」

 

「それで、自分のチームを持ちたいって思ったんだ」

 

「ああ」

 

 

 ひとしきり話し終えたトレーナーは、私の言葉に相槌を打って「ふう」と一息ついた。

 

 

「って、なんか昔話して楽しくなるのっておっさんくさいな」

 

「まあ、実際おじさんでしょもう」

 

「俺はまだ三十一だ!」

 

「……私からしたら、十分おじさんなんだけど」

 

「嘘だろ!?」

 

 

 私の言葉に、「三十超えっておっさんなのか、いやそんなの気の持ちようだろ」などとトレーナーはブツブツと独り言を呟いている。

 

 

「いやでも、思い出話してた時のトレーナーは目がキラキラしてて、若く見えたよ」

 

「……ちなみに、何歳くらいに見えた?」

 

「五歳」

 

「お前、ゼロか百かしかないの?」

 

「いや、五と三十一しかない」

 

「俺、お前が心配になってきた」

 

 

 手のひらで顔を覆って頭を抱えるトレーナー。

 

 どうやっても、私たちの間で真面目な話は長く続かないらしい。

 

 

「まあ、自分なりに目標を探してるんだろうけど、俺からひとつ言えるのは、目標とか夢ってのは目の前にはねえからな」

 

「そう、だね」

 

 

 空気を変えて、真面目なことを言ったトレーナーに私は相槌を打つ。

 

 

 例えば、クラシック三冠を目標にするウマ娘というのは非常に多いが、長いトゥインクル・シリーズの歴史の中でも三冠を達成したウマ娘は一人しかいない。その唯一のウマ娘も、二十年以上も前に活躍していたセントライトというウマ娘であり、逆を言えばもう二十年以上三冠ウマ娘というのは誕生していない。

 

 

 手を伸ばしても、手に入らないかもしれない。そんなはるか彼方にあるからこそ目標といい、夢と呼び、ウマ娘は走るんだ。

 

 




次々話ぐらいに多分ダービーになりますかね。なんとか書き上げていこうと思います。

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