最強の戦士   作:うちこ

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だいぶ間空いてしまってすみません。多分これからの投稿もだいぶ不定期になってしまうと思います……


24話 夏に向けて

「っし……これで最後だな」

 

 

 大きなタライの上に氷柱を置いたトレーナーは、一息つきながら額の汗を拭う。

 

 

 七月の下旬。重度の夏負けになってしまった私は、寮の空き部屋に移動し療養することになった。

 

 

 私のベッドを取り囲むように設置された、巨大なタライと、その上にそびえ立つ氷柱。そして扇風機の数々。

 

 はじめは元の部屋で安静にするだけでもいいと思っていたが、この氷の数は流石にセカンドちゃんの迷惑になりそうだ。

 

 

「ごめんね、大事な時期に体調崩しちゃって」

 

「だぁから、体調崩すのは仕方ねえって。特に今回は俺の責任だ」

 

 

 私が体調を崩したことに、一番責任を感じているのはトレーナーだった。

 

 ウマ娘が暑さに弱いのも、今年の夏がとりわけ暑いことも、分かっていたはずなのに、もっと気に掛ければ良かったと。車の中で何度も謝られた。

 

 

 お医者さんの話通りなら、十月までは本格的なトレーニングはできず、静養することになるのだろう。菊花賞は十一月の半ば。トレーニング、調整のためのレースに使える期間は一ヶ月と少しほどしかなくなる。

 

 貴重な時間が、まるで氷のように溶けて無くなっていく。

 

 菊花賞には、セカンドちゃんも出る。そしてきっとケヤキちゃんも出てくるだろう。他にも、夏を超え、秋に向けて力をつけてきたウマ娘たちも出てくる。

 

 そしてなにより、ウメちゃんも出走する。

 

 

 彼女たちは三ヶ月と少し、菊花賞に勝つためにトレーニングを積んでやってくる。

 

 数多いる同世代の中でも、クラシック戦線に参戦することを許された、選りすぐりのウマ娘たちがさらに力をつけてやってくる。

 

 

「まあ、なんだ。トレーニングだとかレースだとかは忘れて、今はとりあえず休め」

 

「……うん、そうだね」

 

 

 目を閉じる。氷が効いてきたのか、さっきよりもほんのり部屋が涼しくなっていた。

 

 

***

 

 

「あれ、ウメノさん?」

 

「ん……ああ、セカンドか」

 

 

 昼下がり。トレーニングを終えた私は食堂でウメノさんと出くわした。

 

 

「今からお昼? 良ければ一緒にどう?」

 

「うるさいのがついてくるけど、それでもいい?」

 

「うるさいの?」

 

「私だよ! って誰がうるさいのだ!」

 

「今元気よく返事したじゃない」

 

 

 ウメノさんの陰から元気よく飛び出してきたのは、茶髪で声に違わず活発そうなウマ娘だった。

 

 はじめて会うウマ娘だったが、私はその姿に見覚えがあった。

 

 桜花賞、オークスを勝利し、現在ティアラ競走において頂点に立つ、二冠ウマ娘のカネケヤキさんだ。

 

 

 ツンと受け流しているウメノさんに対して、ワーワーと抗議していたカネケヤキさん。二人を見てポカーンとしている私を見ると、得意げな顔を浮かべ、こちらに向き直って口を開いた。

 

 

「ふふん、もうシンザンの時みたいに間違えないんだから! その顔は、あなただれ? って顔でしょ!」

 

「えっと、なんであなたがここに? って顔」

 

「また間違えた! なんで? ねえなんでよぉウメ!」

 

「知らないわよ……こんなのだけど、大丈夫?」

 

 

 ユサユサと体を揺すられながら、ウメノさんは問いかけてきた。首振り人形のようなペースで頭が揺れているが、表情は依然としてツンとしたまま。多分、もう諦めているんだろう。心なしか諦観の念が見てとれる。

 

 

「うん、大丈夫よ。仲良さそうでいいわね」

 

「……色々と言いたいことあるけど、まあいいわ。ほらケヤキ、お昼食べに行くよ」

 

「お昼! 私お腹すいた!」

 

 

 抗議はもういいのか、カネケヤキさんはウメノさんの体をパッと手放した。そのままカウンターに進んで食事を受け取り、席に着く。

 

 

「そういえばはじめましてねセカンド! この前の毎日杯見てたよ!」

 

「ありがとう。私もカネケヤキさんのオークス見てたわよ」

 

「ケヤキでいいよ!」

 

 

 どうやらケヤキさんも私のことを知ってくれていたらしかった。ダービーの約一ヶ月後に私が出走し、一着をとることができた毎日杯を見てくれていたらしい。

 

 シンザンちゃんは愛想がいいという意味で親しみやすいが、ケヤキちゃんは元気がいいという意味でとても親しみやすそうだ。口ではうるさいのだとか雑に扱っているウメノさんが、なんだかんだで一緒にいることからも、いい子だろうというのも窺える。

 

 

「もう三ヶ月と少しもしたら菊花賞かぁ。みんなと戦えるの楽しみ!」

 

「その前に夏を越えないとでしょ。ケヤキはクイーンステークスもあるんだし」

 

「ウメノさんは夏どうするの?」

 

「私は毎日王冠とセントライト記念に出るつもり。セカンドは?」

 

「私は京阪杯と神戸杯かな」

 

「そう……あ、ねえ今日シンザンは? 一緒じゃないの?」

 

「あー、シンザンちゃんは……」

 

 

 私は二人に、今朝シンザンちゃんの身に起きた事件のことを話した。

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