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十一月十日、京都レース場。天気は晴れ、バ場も良い。
今日は、待ちに待った私のメイクデビューだ。
『さあ、本日デビューを迎える十四人のウマ娘、最後のひとりです!』
ターフに立つと、アナウンサーが元気な声で紹介を始める。
『本日の一番人気、三枠三番シンザン! チームアルタイルからの出走です!』
『非常に落ち着いていますね。デビュー戦とは思えないくらいです』
メイクデビューだというのに、私は何故か不気味なくらい落ち着いていた。
もちろん、緊張はしている。勝てるかどうか、不安もある。まさかの一番人気っていう驚きもあるが……まあ、それはチーム名が大きく影響してるんだろう。
「おーい! シンザンちゃーん!」
「あ、セカンドちゃん!」
ホームストレッチ沿いの外ラチの向こう側、立ち見の観客たちのなかにトレーナーとセカンドちゃんの姿があった。ゲートに向かう足を止め、柵をくぐって前に行く。
「応援に来てくれてありがとうセカンドちゃん」
「いいのよ。みんなも来ればよかったのに……チームメイトのデビューなんだし」
「あはは……みんな練習もあるだろうし仕方ないって」
同期のチームメイトは十六人。次のレースもあるし、それぞれのライバルに負けたくない気持ちもある。期待されていない私のデビューを見にくるほど、みんな暇じゃないんだろう。
「トレーナー、作戦とかってある?」
「いや、ない。好きなように走れ」
「好きなようにって……いい加減だなあ」
「コースは先週見た通りだし、特徴も覚えてんだろ。それに……」
「それに?」
一瞬の沈黙ののち、トレーナーは続ける。
「お前なら勝てる。俺はそう思う」
「私なら……勝てる」
「ああ、ほら、時間だぞ早よいけ」
「あ、うん」
トレーナーの言葉を最後に、私はまたコースに戻ってゲートへ向かう。
最近、トレーナーは変わった。
私がボサッと走っていても、あまり何も言わなくなったし……まあ、それはそれでどうかとも思うんだけど。
なんというか、私に文句や愚痴を言うことがめっきり無くなった。トレーニングは真面目に付き添ってくれるし、やる気に満ち溢れている。
一番変わったのは、ウイニングライブの練習を始めたことだった。
勝者のみが立てる、特別なステージ。ウイニングライブ。
その練習を始めさせられたってことは、私もしかして……
「期待、されてるのかな」
ニヨニヨと口角が上がり、頬が緩む。
誰にも期待されない、チームアルタイルの新星。六等星どころか、十六等星であろう私に、はじめトレーナーもつかなかった、そんな私のメイクデビュー勝利を願ってくれる人が、トレーナーとセカンドちゃんと、二人もいる。
「……ぇへへ」
期待されるって、こんなに嬉しいことなんだ。
***
「作戦なしって、本当に大丈夫なんですか?」
「ああ、まあ大丈夫だろ。特に目立つくらい強いウマ娘も他にいないし、それにデビュー戦でいきなり駆け引きしろなんてのは無茶な話だろうしな」
双眼鏡片手に、俺は向正面にいるシンザンを見ながらセカンドの声に応える。
駆け引きなんてのは、経験や生まれ持ったセンスがないと難しい。デビュー戦でいきなりそれを求めるのは酷だろう。
「……本当にシンザンちゃんを皐月賞に連れてく気はあるんですか?」
「ん? ……ああ、俺がまだシンザンに期待してないって思ってんのか、それはちがう。ほれ」
「え?」
セカンドに双眼鏡を差し出すと、なんのこっちゃというふうに首を傾げる。
「シンザンを見てみろ。特にあいつの姿勢」
「姿勢……ですか」
俺が今双眼鏡を渡す直前、シンザンはちょうどゲートに入り、指を組んで伸びをしていたところだった。今はおそらく走る前の構えに入っているところだろう。
「たしかに……姿勢はいいですけど」
「もはや教科書に載せて欲しいくらいなんだよ。あいつの姿勢の良さは」
走る前、伸びをして構えるあいつの、天高くピンと張って伸ばした背筋は、全ウマ娘に見習って欲しいほどの姿勢の良さだ。
『さあスタートしました!』
実況の声と共にゲートが開かれ、各ウマ娘が一斉にスタートを切る。
「わっ……シンザンちゃん、スタート上手!」
シンザンは三枠三番の内枠スタート。ゲートが開くと思い切りのよく、そして力強いスタートであっさりと先頭集団の好位に付いた。
この一週間ほど、シンザンの担当について分かったことがある。
それは、シンザンの腰の強さだ。
足の力が強いだけでは、前へ進めない。腰の力が弱ければ、足の踏み込みの負担に腰が耐えることができず、前への推進力は失われてしまうからだ。
腰の強いシンザンは、前へ進む力が強い。足を踏み込んだ力の全てを推進力に変え、力強く前へと進んでいく。
そしてそれはスタートの良さへつながり、直線最後の末脚にもつながる。
人間でも、筋肉がある人は姿勢が良かったりするように、シンザンも腰が強いから姿勢がいいのかもしれない。
『さあ各ウマ娘三コーナーに差し掛かる……っとここでシンザンが先頭へ躍り出た!』
レースはすでに三コーナーを回り、シンザンは逃げウマ娘を交わし、トップに躍り出ていた。
「なあ、俺がはじめお前を担当する予定だったのは知ってるか?」
「……はい、シンザンちゃんから聞きました」
セカンドの返事に、俺は「そうか」と相槌を打って続ける。
「はじめは、期待の星の担当を外されて落ち込んで、そんで担当することになったシンザンの見た目の平凡さを見て、さらに落ち込んだもんだが……」
「今は違う、とそう言いたいんですか?」
「……ああ、セカンドには悪いが、アルタイルの一番星はシンザンがならせてもらう」
「負けませんよ。こう見えてもチームで一番、実力も期待もあると自負してますから」
事実上の宣戦布告。セカンドは力強く、自信に溢れた笑みで俺に応えた。
『シンザンがそのまま一着でゴール! 一番人気の期待に応え、デビュー戦を見事に制しました!』
ちょうど、シンザンがゴール板を駆け抜けた。勝ち時計は1分13秒9。二着に四バ身の着差をつける快勝だった。
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