最強の戦士   作:うちこ

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明日もまだまだ書き溜めが尽きてないので投稿していきます。

ところで、今日のダービーは凄かったですね。2年連続の三冠馬誕生の可能性がなくなったのは少し残念ですが、それ以上に白熱しました。


7話 今はまだ、小さな期待だとしても

「どうしてシンザンを阪神ジュニアステークスに出さないんですか!」

 

 

 十一月も終わりを告げようとしている、三十日の夜。

 

 今日、シンザンはデビュー後二戦目となる阪神レース場でのオープン戦に危なげなく勝利し、見事に二連勝を飾った。

 

 

「チームアルタイルからはプリマドンナ、そしてオンワードセカンドを送り出す。決まったことだ」

 

 

 俺の叫びに、チーム長は淡々と答えた。

 

 

 チームアルタイルのチーム長、梅田文三(うめだぶんぞう)は筋の曲がったことが嫌いで、一度決めたらそれを押し通す、一徹な人物だ。よく言えば一度決めたことを最後までやり切る人物とも言えるが、悪く言えば人の意見を聞かない頑固な人物とも言える。

 

 数年前、二冠を達成し宝塚記念も制覇したコダマ、さらにその数年前、桜花賞、オークスを無敗で勝ち、史上初となる無敗のティアラ二冠を達成したミスオンワードを育てた名トレーナーでもある。

 

 

 シンザンは、二連勝した。

 そして今日、二勝目を飾ったことでシンザンはジュニア級のウマ娘のみが出走できるGⅠレース、阪神ジュニアステークスへの出走資格を手にした。

 

 

 普通のウマ娘なら、ジュニア重賞レースに出場し、そこで結果を出しクラシックトライアルレースへ駒を進め、クラシック路線を取る。

 

 

 かつてミスオンワードがそうしたように、そしてコダマがそうしたように……だ。

 

 

「なぜです! シンザンは二勝しているんですよ!」

 

「アルタイルにはデビュー後二勝しているウマ娘は四人もいる。中でもセカンドは格別だ。それにシンザンは二勝しているとはいえ、ここまでに強豪と言えるウマ娘とは戦っていない」

 

 

 その言葉に、俺は思わずギリッと音がなってしまうほどの歯ぎしりをしてしまう。

 

 そういうローテーションを組んだのはアンタじゃねえか、という言葉を、なんとか飲み込み俺は続ける。

 

 

「……セカンドとシンザンが戦えば、シンザンが勝ちますよ」

 

 

 喉の奥から、怒りを堪えなんとか絞り出したその言葉に、チーム長は目を丸くし、まるで小さな子供をあやしつけるかのような声色で答える。

 

 

「おいおい、謙二郎。シンザンよりセカンドの方が強いって」

 

「そんなことはない! シンザンは……コダマより上です!」

 

 

 俺は怒りを堪えきれず、つい売り言葉に買い言葉というふうに、即座に言い返す。

 

 チーム長はとうとう堪えきれなくなった、という風に吹き出して口を開いた。

 

 

「コダマは二冠ウマ娘だぞ? それより上って……」

 

「シンザンは、三冠を狙えます」

 

「っふ……っく、まあいい。とにかく、シンザンは次ジュニア中距離特別に出走させる」

 

 

 まるで相手にしない、大言壮語、妄言を言う幼い子供を相手にするように、笑いを堪えながらチーム長はそう締めくくった。

 

 

***

 

 

「……と言うわけで、シンザン。三冠とるぞ」

 

「いやいやいやいやいや、なに言っちゃってんの!?」

 

 

 十二月一日。ほぼ冬と化していた秋もとうとう完全に終わりを告げ、季節は冬へ突入する。

 

 トレーニング中、どこか上の空で難しい顔をしていたトレーナーに声をかけたところ、昨夜あったらしいチーム長との諍い、事の顛末を聞かされた私は反射的に否定した。

 

 

「ああ、レースのことなら心配しなくていい。阪神ジュニアステークスには出られないが、このまま勝ち続ければ皐月賞トライアル、つまりスプリングステークスには出られるだろ」

 

「そういうことを言ってるんじゃないよ!? いや、勝ち続けられるかどうかも心配だけどさ!」

 

「じゃあなにを心配してんだ?」

 

「今はトレーナーの頭かな!」

 

 

 売り言葉に買い言葉で、私がコダマ先輩よりも強いと、チーム長に啖呵切っちゃったトレーナーの頭が、割と本気で心配になってきた。

 

 

 しかし、チーム長に啖呵を切るって……一度しか見たことないけど、確かチーム長ってあの、頑固そうで怖そうな、あの人だよね、きっと。

 

 

「だってお前、皐月賞出たいんだろ?」

 

「それと三冠は話が別じゃないかな!」

 

「皐月賞で、ウメノチカラに勝ちたくないのか?」

 

「いや……そりゃ、勝ちたいけどさ」

 

 

 私の目標は、ウメちゃんと走ること。

 

 もちろん、一緒のレースに出るだけじゃなくて、贅沢を言うなら勝ちたいけど、それと三冠は話が違う。

 

 

「トレーナーは、私が勝てると思うの?」

 

「まあ確かに、ウメノチカラは強い。デビュー前から評判になるほどの実力は並大抵じゃないし、才能も本物だ。一級品と言っていい」

 

「なら……」

 

 

 トレーナーは、「でも」と私の言葉を遮った。

 

 

「お前も強い。たしかに今までのレース、二連勝できたのは一流のウマ娘との対戦を避けてきたってのはあるだろうが……実力はウメノチカラに負けないと思ってる」

 

「……ほんと?」

 

「ああ。昨日は売り言葉に買い言葉で、つい大きく出たってことは否定しないが……三冠を狙えると思うってのも本当だ」

 

「……ぇへへ」

 

 

 また、ニヨニヨと口角が上がってしまう。

 

 初対面の時なんてズタボロに私のことを貶してたのに、今こうやってトレーナーは私に期待してくれている。本当に三冠が取れるほどの素質が私にあるかどうかはわからないが、トレーナーがこうやって言ってくれることは、素直に嬉しいし誇らしかった。

 

 

「どした、気持ち悪い顔して」

 

「うーわ、最っ低。セカンドちゃんに言いつけちゃお」

 

「悪かった! 悪かったから、それだけはやめてくれ!」

 

 

 十二月の初日も、面白おかしく過ぎていく。

 

 季節は十二月。ジュニアウマ娘として過ごす、最後の一ヶ月。




阪神ジュニアステークスは当時の阪神3歳ステークスのことです。現在では名称が変わり、阪神ジュベナイルフィーリズという名前になっています。今は牝馬限定の牝馬チャンピオン決定戦として開催されていますが、当時は関西に所属している競走馬のチャンピオン決定戦として開催されていました。
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