年月が過ぎるのは早いもので、すでに十二月も終わりを告げようとしている。
二十二日。一年の終わりを告げる大晦日がだんだんと近づき、大掃除とかしなきゃなぁと、まだ手をつけていない大仕事に憂鬱を感じ、また新年に期待を寄せ始めてくる特別な季節だが、ウマ娘にとって今日はまた、別の意味で特別な日だ。
今日は、有馬記念の開催日だ。
ファン投票によって選ばれた、今年のトゥインクル・シリーズで大活躍をおさめた、もしくは人気のあるスターウマ娘達が一斉に中山の芝上に出揃い、2600メートルの長距離を走るといったGⅠレース。
そして、トゥインクル・シリーズ一年の締めくくりのレースでもある。
「菊花賞では負けちゃったけど、メイズイ先輩がファン投票もレース前投票も一位だね……しかも約一万八千票って、すごい数」
「そうだな、菊花賞後のクモハタ記念でも難なく勝ってるし、調子を崩してる様子はない。三冠を逃したとはいっても実力は本物だからな」
「……ねえ、どうして私があなた達とレースを見ないといけないのかしら」
「だって、今日セカンドちゃん、阪神レース場でレースだし……応援しに行きたかったけど中山の有馬記念も見たいし……」
テレビの前、私の隣に座っている、ジト目で気だるげな表情のウメちゃんの言葉に答える。
今日、セカンドちゃんは阪神レース場で開催される、関西地区でのチャンピオンウマ娘を決めるレース。阪神ジュニアステークスに出走するため、ここにいない。
気持ちとしては、友達だしチームメイトのセカンドちゃんの勇姿を現地で見たいというのがあるが、中山の有馬記念も見てみたいというのもあった。そしてセカンドちゃんが「有馬も見たいだろうし、無理して応援来なくてもいいからね?」と、見計らったように言ったので、今日はお言葉に甘えてテレビの前で応援することになった。
可愛くて強いだけじゃなくて、気も利くなんて、セカンドちゃん、恐ろしい。やはりいつか鷲になって羽ばたくのだろう。
「それはあなたがここにいる理由で、私がいる理由じゃないでしょ」
「え? だって、ウメちゃんとも一緒にレース見たかったし」
「……あ、そ」
ついに呆れて物も言えなくなったのか、ウメちゃんは私から目を逸らし、頬杖をついてテレビの方を向いてしまった。
本来なら、メイズイ先輩、そしてグレートヨルカ先輩と二人の先輩が出場する有馬記念。ウメちゃんこそ中山レース場で現地応援するのかと思っていたが、ウメちゃんは先週出走したレースの休養ということで、寮の自室にいたところを引っ張り出してきた。
ちなみに、ウメちゃんが先週出走したレースは朝日盃ジュニアステークスという、中山レース場で行われる芝1600メートルのレースで、関東地区でのチャンピオンウマ娘を決めるとても大きなレースだ。
ウメちゃんは四番人気で、八枠十四番での出走だったが、来年のティアラ競走での活躍も期待されている、一番人気のカネケヤキというウマ娘をアタマ差におさえての一着だった。
……ちなみに、私もウメちゃんの前日に阪神レース場で開催していたジュニア中距離特別競走に出走していたのだが、メインはやはり今日の阪神ジュニアステークスで、強いと言われるウマ娘は出走しておらず、あっさりと三勝目、三連勝を挙げた。
テレビ前で雑談していると、実況アナウンサーと解説者の声、そして中山レース場の観客が起こす大歓声がテレビから発せられた。
『二番人気は八枠十一番、リユウフオーレル!』
『前走、秋の天皇賞ではレコードでの圧勝でしたからね。実力はありますよ』
『そして三番人気! メイズイと同チームの同期にして、最後の菊の冠を奪い取ったメイズイの宿敵、グレートヨルカ! 今日は五枠五番での出走です!』
『メイズイきってのライバル。メイズイとの戦績は五戦二勝三敗と負け越していますが、実力は引けを取りませんからね。今日のMG対決にも注目です』
『そして最後に、本日の一番人気の登場です!』
アナウンサーの声に、テレビ越しでも中山レース場が震えているのがわかるような、大観衆の大歓声が響き渡る。
『歴代二位の投票数でファン投票一位に選ばれました! レース前投票でも当然の一番人気、二枠二番はメイズイです!』
『惜しくも三冠を逃してしまいましたが、前走のクモハタ記念で一着を取っているように調子を崩してはいません。今日はどんな走りをするのでしょうか』
『さあ、ファン投票により今年トゥインクル・シリーズを華やかに彩ったオールスターが出揃いゲートインが完了しました! 有馬記念……いまゲートが開きます!』
テレビの中では、ファンファーレが終わりアナウンサーが有馬記念の始まりを高らかに宣言していた。
レースは進み、先頭争いはメイズイ先輩、そして秋の天皇賞をレコード勝ちしているリユウフオーレルが熾烈に争っている。グレートヨルカ先輩は調子が悪いのか、苦しそうな顔で後方集団にとどまっている。
『さあリユウフオーレルが今一着でゴールイン! メイズイは一バ身はなれ二着でのゴール、グレートヨルカは遅れること七着で有馬を終えました!』
実況の言葉通りの着順で、今年の有馬記念は幕を閉じた。
「メイズイ先輩、グレートヨルカ先輩負けちゃったね……」
「そうね。ヨルカ先輩……この前足に違和感あるって言ってたし、ちょっと心配だわ」
「そうなのか? てっきり、ただ調子が悪いだけだと思ったが」
「普段よくしてもらってる先輩ですし、ちょっと悪口気味になるのも気が引けますけど……ヨルカ先輩、たしかに性格には少し難があるし、言葉遣いも荒くて、メイズイ先輩と事あるごとに揉めてるし喧嘩っ早くて暴力的なところがありますけど」
「前置きでカバーできないくらい悪口並び立てたねウメちゃん」
「……でも、レースには誰よりもストイックなんです。デビュー戦とその後の二戦目以降、メイズイ先輩以外には負けてないくらい。そのくらい調子を仕上げるんです」
「そうなのか」
「メイズイ先輩は……結果を出し続けると調子に乗っちゃうことがあるんですけど……ヨルカ先輩はいくら結果を出しても、いつもストイックなんです」
「さらっとメイズイ先輩にも毒づいたね。わたしゃ見逃さないよって、いひゃいよウムェひゃん!?」
茶々を入れる私の頬を、無言でむにーっとつねるウメちゃん。その怒りがつねる手越しに伝わる。
「もうっ、ウメちゃん! 私のモチモチのほっぺが伸びきったらどうするのさ!」
「そういえば、世の中にはこんな言葉があるわ。右の頬をつねったら左の頬もつねりなさい」
「両方伸びきればいいってことじゃないし、そんな暴力的な格言はないと思うな! だからウメひゃん右の頬をひっぱらないれ!」
「お前ら、仲良いな」
トレーナーの言葉に、顔を赤くして「おほん」と咳払いして姿勢を正したウメちゃん。これ以上からかうと今度はまた別のところを引っ張られそうなので私も何も言わずに姿勢を正す。
「ってトレーナー! やばいよ時間時間!」
「もうそんな時間か!?」
有馬記念は、中山レース場の第九レース。阪神ジュニアステークスは阪神レース場の第十レースだったので、まだまだ時間があると思い雑談していたが、時計を見ると阪神ジュニアステークスの出走予定時間をすでに迎えており、少し過ぎてしまっていた。
私の声にトレーナーが慌ててチャンネルをひたすらに回し、放送している局をローラーで探す。
『プリマドンナ先頭! プリマドンナ先頭! 先頭は変わらずプリマドンナ、四番人気のプリマドンナが今一着でゴール! 一番人気のアスカは二着、二番人気のオンワードセカンドは四着という結果になりました!』
『プリマドンナの勝ち時計は……1分39秒0! すごいタイムがでましたね!』
『なんとプリマドンナ、阪神ジュニアステークスをいま、レコードでの圧勝で制しました!』
「んぇえ! ウメちゃんがほっぺ引っ張るから!」
「シンザンが私の毒舌を見逃さないからよ」
「だからレースを見逃したと!?」
テレビをつけると、すでにレースは最後の直線、というか順位確定のところまで進んでおり、阪神ジュニアステークスのほとんどを見逃してしまった。
結果、セカンドちゃんは四着。アルタイルからセカンドちゃんと一緒に出走したプリマドンナがレコードでの一着を取った。チームメイトとは言え、同期が十六人もいるとあまり話したこともないウマ娘も多く、プリマドンナという子もその中の一人だった。
チームとしては勝利を飾ったが、個人的に悲しい決着。それも、ほとんどを見逃すという散々な結果だった。
当時の有馬記念は2600メートルでの開催で、現在の2500メートルのレースとして定着したのは1966年からになります。
朝日盃ジュニアステークスは当時の朝日盃3歳ステークスのことで、現在では朝日杯フューチャリティステークスという名称になっています。昔は関東所属のチャンピオン競走馬決定戦として開催されてました。
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