最強の戦士   作:うちこ

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9話 小ウマ娘の朝駆け

 

 私のジュニア期も、正式に終わりを告げ年が明け、数日が過ぎ、いくつか大きな出来事があった。

 

 

 まず、有馬記念を終えたグレートヨルカ先輩の脚部不安が判明し、長期休養に入ることが正式に発表された。足に違和感があると言っていた。ウメちゃんがそう言っていたが、その危惧が現実になってしまった。

 

 

 次に、私のこと。

 一月の四日、京都レース場で行われたオープンレースに勝利し、私は見事に四勝目、四連勝を飾った。

 

 そして四勝したことで、今年の三月終わりに東京レース場で開催される、皐月賞トライアル。つまりスプリングステークスに出走することが可能となった。

 

 

 

 そして、最後。

 

 それは、今私とトレーナーが、テレビの前にいることに関係がある。

 

 

『さあ今年度のURA賞、最後の発表です』

 

 

 画面に映し出されているのは、去年のトゥインクル・シリーズにおいて輝かしい成績をおさめたウマ娘を称える、URA賞の授賞式だ。

 

 画面中央には、登壇しているウマ娘が四人、映し出されている。

 

 

『皐月賞、そして日本ダービーをレコードで勝利し二冠を達成、年間九勝の圧巻の強さを見せたメイズイさん』

 

 

 司会者はメイズイ先輩の紹介を終え、続いてのウマ娘の紹介にうつる。

 

 

『宝塚記念をはじめ、秋の天皇賞ではレコードでの一着、そして年末の有馬記念を制覇し年間六勝をあげたリユウフオーレルさん。以上の二名が年間代表ウマ娘に選出されました』

 

 

 司会者が発表を終えると、壇前に並んでいる授賞式を見に来ていた、それぞれのチームの関係者や記者達が拍手をする。

 

 

『年度代表ウマ娘が二名選出されたことは史上初ではございますが、続いて最優秀ジュニア級ウマ娘の紹介へうつりたいと思います』

 

 

 司会者の言葉に応えるように、壇上の二人のウマ娘が一歩前へ出た。

 

 

「あ、ウメちゃんだ!」

 

「お前なぁ……仮にもウメノチカラは他チームだぞ」

 

「だってぇ……」

 

 

 最後の大きな出来事。それは。

 

 

『朝日盃ジュニアステークスを始め年間三勝をあげた、チームデネブ所属ウメノチカラさん。そして阪神ジュニアステークスを始め年間七勝と圧倒的な強さを見せたチームアルタイル所属、プリマドンナさん。以上二名が最優秀ジュニア級ウマ娘に選出されました』

 

 

 ウメちゃんが、最優秀ジュニア級ウマ娘に選出されたことだ。

 

 去年はグレートヨルカ先輩。そしてそのもっと前には無敗のティアラ二冠を手にしたミスオンワードさんが受賞した、ジュニア級ウマ娘でもっとも活躍したウマ娘に与えられる称号を、ウメちゃんは手に入れたのだ。

 

 

「ウメちゃんすごいねぇ……」

 

「だが、最優秀ジュニア級ウマ娘を受賞したからといって、来年も活躍できるとは限らない。コダマのように受賞してなくて、クラシックに上がってから力をつけるウマ娘もいるし、メイズイのようにクラシック級からデビューをするウマ娘もいる」

 

「……そうやってすぐ否定するからモテないんだよ」

 

「モテっ……!? あのなあ、俺はもう結婚して嫁さんもいんだよ!」

 

「嘘だあ!?」

 

「お前はこの指輪はなんだと思ってたんだ!?」

 

「雑貨屋さんで試しにつけたら取れなくなったとかじゃなかったの!?」

 

「ちがわい!」

 

 

 ウメちゃんの受賞が、最後の出来事だと言ったあの言葉。

 

 あれは嘘だった。最後に、とんでもない爆弾が落とされた。

 

 

 トレーナー、既婚者。

 

 

 

***

 

 

「まあ、オープン戦やらなんやら色々あったが……ひと段落ついて今年に入って初めての練習だ。小ウマ娘の朝駆けって言葉があるように、年初めだからって気合い入れ過ぎて疲れすぎないようにな」

 

「合点承知の助!」

 

 

 ウメちゃんが最優秀賞をとったことで、なんとなくトレーニングの意欲が上がった、あくる日。珍しく真面目なことを言ったトレーナーの言葉を胸に、今年最初のトレーニングをこなしていたそんな矢先。

 

 

 事件は起こった。

 

 

 ベンチに腰掛け私のトレーニングを見守るトレーナーの前で、私は派手にすっ転んだ。

 

 

「うべっ!」

 

「お、おい! 大丈夫か!?」

 

「あてて……うげっ、ぺっぺっ! 草が口にはいったぁ、ぅぇぇえ」

 

 

 派手に顔面から行き、ターフにそれはもう熱烈で情熱的なキッスをしたので、私の口の中は芝まみれになっていた。

 

 

「見せてみろ……って、なんじゃこりゃ!?」

 

「なんじゃこりゃって、おおげさだなあ。痛みもないし、なんともなってないって……なんじゃこりゃあ!?」

 

 

 私の足、正確には私が履いていたトレーニング用の靴。もっと正確に言えば、その先端。

 

 トレーナー以上の会心の「なんじゃこりゃ」が出るほどの事件が起きていた。

 

 

「靴が、裂けてる?」

 

「これ、まだ新しいよな……不良品ってわけでもなさそうだし」

 

 

 トレーニング用の靴が、派手に裂けていた。土踏まずのあたりから、靴をぐるりと一周するように裂けていて、私のつま先があらわになっている。

 

 破けた靴は、それはもうビリビリになっていて、とてももう使えるような状態じゃない。

 

 

「あー……踏み込みが強いウマ娘に稀にあるって話は聞いたけどなあ……」

 

「どうすんの、これ」

 

「チーム長に相談してみる。解決するまでは……そうだな、裸足で走るわけにもいかないし、俺も案を練る。しばらくはそれで我慢してくれ」

 

「うん……」

 

 

 その日のトレーニングはまだ途中だったが、練習を続けられる状況でもなかったので、早めに切り上げて寮に帰り。

 

 

 翌日。

 

 

 

「シンザン、プラスとマイナスをかけ算したら答えはどうなる」

 

「マイナスになるけど……どしたの急に」

 

 

 トレーニング場に行くと、トレーナーは急にそんな質問をしてきた。

 

 

「そこでプラスのニュースとマイナスのニュースがある」

 

「マイナスになる前提で話聞かなきゃいけないの!?」

 

「まあ聞け。プラスとマイナス、どっちから聞きたい」

 

「もうどっちでもいいよ……じゃあプラス」

 

 

 マイナスになると、暗に言われた私はもう、少しやけになっていた。

 

 

「三月終わりのスプリングステークスへの出走が正式に決まった!」

 

「おぉ……で、マイナスは?」

 

「チーム長に相談して、お前の靴を特注で作ってもらうことになった……が、草案から完成まで二ヶ月はかかるとのことだ」

 

「あー、なるほど。二ヶ月かぁ……ん、二ヶ月?」

 

 

 スプリングステークスへの出走が決まったというプラス。

 

 靴の完成に時間がかかるというマイナス。

 

 個別に聞くとなんてことない、いいニュースと悪いニュースだが、大事なのはそれらを掛け合わせること。

 

 

 今、一月は中盤に入ろうとしている。

 

 スプリングステークスは、三月の終わり。

 

 そして靴が出来上がるのは、二ヶ月後。

 

 つまり、プラスとマイナスをかけた結果というのは……

 

 

「ちょっとまって、もしかして?」

 

「……スプリングステークスの直前まで、まともなトレーニングはできない……かも」

 

「嘘だあ!?」

 

 

 一月。ジュニア級からクラシック級へと駒を進める、新たな門出。

 

 

 すこし、幸先は不安だ。




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