システムとは、何か?   作:no w here

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 相手の挙動を見据え、睨み合う。
 片や一般高校生、片やファンタジーで出てくるような魔法を使う化け物。どちらが勝つかという条件下でオッズがどれだけ前者に超高倍率だとしても、殆どは後者へと賭けるだろう。
 然し賭けが成立しない、なんてことはない。

 当事者である自分が一般高校生に命を賭ける。

 そして勝利条件は、()()()()()()()()()()()だ。


3 蜘蛛の巣

 片目で奴を見据え、もう片目で再度周囲を見る。自身の周囲にあった岩だった物、それらの輪郭が()()()()()()()()()のが見えた。少なくとも岩だった物に脚を取られる危険性はなさそうだ。自分が焦って転ぶなどしなければ、だが。

 

 自分から見て灰色のトカゲの右足が微かに動いた。それに合わせて右へ小さく跳ぶ。直後トカゲの前脚、その爪が自分がいたところの地面に突き刺さった。地面を突き刺す一撃を貰おうものなら、例え()()()()()()()()()()()()、その上から胴体へ負傷を与えるだろう。勿論、盾にした腕はお釈迦になる。

 あの予知夢を思い出し、吐きそうになりながらも奴から距離を取る。

 

 そして先程の挙動を確認する。

 あの巨体の割には速い…が、確実に()()()()()()()()()。蜘蛛より遅いなら()()()()()()()()()、自分の足で十分逃げられる。

 だが、それは相手も分かっているのだろう。()()()()()()()()()()()()()事が、何よりもの証拠だ―――自分が振り向いて逃げると同時に、岩による狙撃。間合いは5mで、自分が()()()に位置する。しかも道幅は()()()()()()()()()から岩による狙撃をされれば自分は岩と岩肌のサンドイッチ、中の具は確実に潰れる。相手が出した岩は何れも直径1mだと考えれば―――次は左足。此方も左に小さく飛ぶ。小さく飛ぶ理由は単純。()()()

 

 左足で小さく踏み出し、右足で奴は大きく踏み込んできた。

 それに合わせ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。相手は狩人で自分は獲物、この状況は一切変わらない。大きく跳ばなければ躱せない状況でもない限り、着地の隙を狙われないよう小さく回避を刻む―――自分が思いつく小細工じみた回避は、少なくともこの灰色のトカゲには通じていた。知性は動物程度、とみるべきか。

 

 そして狙撃には2つの工程を踏む必要がある。岩を出す、尻尾で打つ。どちらかができないのであれば、岩による狙撃を気にする必要はなくなる。岩を出せなくなるまで摩耗させる事は自分には不可能だろう、相手が一足で飛び掛かる方がよほど早い。跳び出す、此処で攻撃工程が終わる以上()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 相手の眼圧が強い。足が震えそうになる、何でこんな―――弱音を吐く暇はない、こぶしを強く握りしめる事で痛みによって強引に意識を前に向け直す。

 

 そうなると"尻尾の使用ができない"状態にする事が、勝利条件を満たすための最低条件。幸いにも、瓦礫の中には鋭い石もある。…()()()()()()()()()()()()()もないわけではないが、なかった時の落胆でトカゲに不意を打たれて死ぬなんて真似はしたくない。メインは瓦礫の鋭い石で()()()()()()()()()()事、その際に必要なのは―――次は両脚同時。奴の後ろに瓦礫及び()()()()()()()()()()()()がある。道幅はだいたい下り坂の方は6m、上り坂の方は10m―――壁へと走り伝うようにして突撃をやり過ごす。

 

 必要なのは"負傷を狙えるだけの凶器""相手の尻尾へと向かえるだけの瞬間速度""()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()"。その機会を狙うためにスタミナを温存し、精神的に不安定な状態にならず、凶器を一度で尻尾にあてられるだけの技術及び運。

 

 故に凶器のある場所―――先程崩された瓦礫と()()()()()()()を片目で注視する。瓦礫―――鋭い物、その中でも両手で用いれば相手の尾を刺し潰す事が出来るかもしれない物が1つ。投げて牽制に使える程度の礫は無数。

 骨付近を見たのは単純、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。先ほどの蜘蛛の死体についていた砂と、石化した骨の色は()()()()()。ならば、最近とみる事もできるかもしれない―――その賭けの結果。

 

―――骨の隙間に()()()()()()()()が隠れていた。

 

 右手で折れた槍の切っ先、その残された柄を握る。短剣程度の長さしかないそれが、()()()()()()()()なのかは分からないが―――少なくとも、丸腰ではなくなった。それが精神的な余裕を作り出す。

 灰色のトカゲはそれを鼻で笑うように動作をした。すると同時に左手を盾にしながら突っ込む。それに不意を打たれたのか、一瞬挙動が遅れて左かぎづめが振り下ろされたすのを踏み込むことで急静止してやり過ごす。

 

 自分ができる事なんて然程ない。

 

 だから、出来る事をして相手の"小さな焦り"を重ね致命的な隙へと持って行く。今回の場合は攻撃直後、体を持ちあげる事は一瞬でも遅れる故に―――此処で大きく、トカゲを飛び越す。

 

「―――ォァアアア!!!」

 

 咆える。

 

 周りから敵を集めるかもしれない、これは愚行だと冷静な部分が告げる。然して本能は()()()()()()()()()と激しく拒否をした。

 着地、目の前には尻尾。両手に残された槍の柄を持つ。奴が咄嗟に尻尾を横へ振れようとしたるよりも早く、槍の切っ先を灰色のトカゲへと突き刺した。漸く、奴が悲鳴を上げた。血で滑る其れを握り締めたまま、強引にねじ切ろうとし―――唐突に尻尾から力が無くなった。

 

「…ぇ?」

 

 目先を奴へと向ける。奴は―――灰色のトカゲは、尻尾を切って此方へ頭を向けていた。自分の体勢は完全に前のめりに崩れ、次の奴の一撃は回避できない事を察する。

 

 怪我させるだけで留めるべきだった、()()()()()()()()()()()()()を恐れて、功を急ぐべきじゃなかった―――!!

 直後、奴の突進と―――右前足が振りあげられていたのが見えたので血で滑る槍の切っ先で咄嗟に受け―――目測が外れたかのような、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っか、っふ!?」

 

 肺に詰めていた息が強制的に吐き出させられす暇もなく、叩きつけた右前脚を軸に、左前脚のひっかきが背中を切り裂いた。息がない為、「かひゅ!?」と奇妙な悲鳴を上げ―――体勢を立て直すこともままならず、ゴロゴロと下り坂を転がり堕ちていく。

 

 息ができない。苦しい。

 

 両腕で頭だけは守る。

 

 岩肌が頭、腕、脚―――背中を容赦なく削いでいく。

 

 痛い、痛い、痛い、痛いッ!?

 

 痛みを耐えて、転がり続けて―――()()()()が途中で聞こえ、()()()()()()()()()()()()()()()()の傍を転がり―――微かに見える、白い糸の巣。

 

 その中に―――彼或いは彼女がいた。

 

「…ァ」

 

 痛みを忘れ、眼を奪われた。

 その姿は予知夢で自分を貪った蜘蛛と同じ。

 だが洞窟で初めて見た絹のように透き通った、綺麗な白い体毛。光る紅玉のような、暗い場所でも見える美しい複眼。言葉を尽くそうとしても、その美しさの前に自分の語彙は陳腐に過ぎた。

 

「…綺、麗…だナぁ…」

 

 最早、満身創痍だ。

 トカゲ相手から貰った一撃は折角延命の為に止血した蜘蛛の糸を無残に切り刻んでいる。背中から発する熱はよもや自分の体温を全て奪っているのではと感じてしまうほど。痛い、ではなく()()。それも鋭いのではなく()()()()()()()()()()()()()()()()()、全面的な(痛み)

 出血が、自身を覆っていく。気紛れでもない限り、蜘蛛の魔物は自分を捕食するだろう。例え運良く見逃されたとしても、この勢いで血を失えば死ぬ―――自分がまきこんだかもしれない、若葉さんを見つけられないまま。

 

「……ごめ―――」

 

 視界が潤み、周囲が暗くなっていく。

 その視界が()()()()()()()に埋まっていった。




 蜂の息の根を止めた直後、何かが此方に転がってくる。
 既に満身創痍のこの身では何ができるかは分からない。必要最低限の巣を作った直後でスタミナなんて最低限しかないが、それでも最期までモンスターとして生きてやる。そんな気概で巣の前で待ち受ける。

 転がってきたのは、黒と赤の塊。手に持っている物は―――何かに突き刺されたエルローバジリスクの尻尾、それも結構な大きさだ。あれも食糧源として見てもいいかもしれない。現状、ある物は全て使わなければいけないのだから。

 力が弛緩したのか、塊から腕と足が伸びた。それで漸く、転がってきたものが人間だと分かった。その赤が人の血だと分かり、顔が蒼褪める―――冒険者の襲撃があって以降、人との遭遇が無かったのは幸運だったのかもしれない。何せ今は魔物とは言え前世は文明人、隣人は助ける物―――必死に助けようとしてくれた、()の努力もむなしく此処に転生しちゃっているんだけどね…はぁ。

 『鑑定』をする。

『迷宮の床』

 …うん?
 判定しそびれたのかな?もう一度指定して―――

『迷宮の床』

 おかしい。とうとう鑑定が壊れてしまったのか?勘弁してほしい、あるものすべて使わなきゃいけないのにあるものに不備とか笑えない。
 暗視を用いて、よく見てみる。血が流れている場所は背中、なぜか後ろ前に着ている黒い―――あれ?()()()()()()

 そう気付けば、私と同じ転生者に初めて遭遇できたことになる。でも、お互いに死にかけなのは如何なものか。

「…ァ」

―――…ぇ?
 聞き覚えがある声。それは転生前の平進高校で、私を含めた皆に挨拶をしていた。そして()()()。その黒と赤の人の姿が、脳裏に浮かぶ。

 …神がいるなら、中指立てる。なぜこんな時に―――

「…綺、麗…だナぁ…」

 片言ながらも、そう呟く彼の目は徐々に光を失い、吸いこんでいく。
 体は、彼の下へ向かっていた。彼の服装は血に濡れた学ラン―――転生せず、直接此処に飛ばされてきたかのような状態。頭と脚は比較ましだけど…腕は頭を庇い続けた事が原因で打撲だらけだし、()()はさらにひどい。

 転がってきた方向を見る。

 斑に、彼の背中だったものが岩肌にくっついていた。そして転がった後が血ではっきり見え―――彼を中心に血だまりができ始める。背中からの血だった。
 助けないと。あの時、助けてくれた分を―――

「……ごめ―――」

 謝らないで。声に出せないのがもどかしい。私以上に彼の容態がやばい。どう見ても、瀕死。鑑定が彼を検知しないのもおかしいけど、それどころじゃない。

 生きて。
 私の腕と運だけじゃ、彼は助からない。先ほど中指を立てようとした神に、柄にもなく祈った。
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