システムとは、何か? 作:no w here
片や一般高校生、片やファンタジーで出てくるような魔法を使う化け物。どちらが勝つかという条件下でオッズがどれだけ前者に超高倍率だとしても、殆どは後者へと賭けるだろう。
然し賭けが成立しない、なんてことはない。
当事者である自分が一般高校生に命を賭ける。
そして勝利条件は、
片目で奴を見据え、もう片目で再度周囲を見る。自身の周囲にあった岩だった物、それらの輪郭が
自分から見て灰色のトカゲの右足が微かに動いた。それに合わせて右へ小さく跳ぶ。直後トカゲの前脚、その爪が自分がいたところの地面に突き刺さった。地面を突き刺す一撃を貰おうものなら、例え
あの予知夢を思い出し、吐きそうになりながらも奴から距離を取る。
そして先程の挙動を確認する。
あの巨体の割には速い…が、確実に
だが、それは相手も分かっているのだろう。
左足で小さく踏み出し、右足で奴は大きく踏み込んできた。
それに合わせ、
そして狙撃には2つの工程を踏む必要がある。岩を出す、尻尾で打つ。どちらかができないのであれば、岩による狙撃を気にする必要はなくなる。岩を出せなくなるまで摩耗させる事は自分には不可能だろう、相手が一足で飛び掛かる方がよほど早い。跳び出す、此処で攻撃工程が終わる以上
相手の眼圧が強い。足が震えそうになる、何でこんな―――弱音を吐く暇はない、こぶしを強く握りしめる事で痛みによって強引に意識を前に向け直す。
そうなると"尻尾の使用ができない"状態にする事が、勝利条件を満たすための最低条件。幸いにも、瓦礫の中には鋭い石もある。…
必要なのは"負傷を狙えるだけの凶器""相手の尻尾へと向かえるだけの瞬間速度""
故に凶器のある場所―――先程崩された瓦礫と
骨付近を見たのは単純、
―――骨の隙間に
右手で折れた槍の切っ先、その残された柄を握る。短剣程度の長さしかないそれが、
灰色のトカゲはそれを鼻で笑うように動作をした。すると同時に左手を盾にしながら突っ込む。それに不意を打たれたのか、一瞬挙動が遅れて左かぎづめが振り下ろされたすのを踏み込むことで急静止してやり過ごす。
自分ができる事なんて然程ない。
だから、出来る事をして相手の"小さな焦り"を重ね致命的な隙へと持って行く。今回の場合は攻撃直後、体を持ちあげる事は一瞬でも遅れる故に―――此処で大きく、トカゲを飛び越す。
「―――ォァアアア!!!」
咆える。
周りから敵を集めるかもしれない、これは愚行だと冷静な部分が告げる。然して本能は
着地、目の前には尻尾。両手に残された槍の柄を持つ。奴が咄嗟に尻尾を横へ振れようとしたるよりも早く、槍の切っ先を灰色のトカゲへと突き刺した。漸く、奴が悲鳴を上げた。血で滑る其れを握り締めたまま、強引にねじ切ろうとし―――唐突に尻尾から力が無くなった。
「…ぇ?」
目先を奴へと向ける。奴は―――灰色のトカゲは、尻尾を切って此方へ頭を向けていた。自分の体勢は完全に前のめりに崩れ、次の奴の一撃は回避できない事を察する。
怪我させるだけで留めるべきだった、
直後、奴の突進と―――右前足が振りあげられていたのが見えたので血で滑る槍の切っ先で咄嗟に受け―――目測が外れたかのような、
「っか、っふ!?」
肺に詰めていた息が強制的に吐き出させられす暇もなく、叩きつけた右前脚を軸に、左前脚のひっかきが背中を切り裂いた。息がない為、「かひゅ!?」と奇妙な悲鳴を上げ―――体勢を立て直すこともままならず、ゴロゴロと下り坂を転がり堕ちていく。
息ができない。苦しい。
両腕で頭だけは守る。
岩肌が頭、腕、脚―――背中を容赦なく削いでいく。
痛い、痛い、痛い、痛いッ!?
痛みを耐えて、転がり続けて―――
その中に―――彼或いは彼女がいた。
「…ァ」
痛みを忘れ、眼を奪われた。
その姿は予知夢で自分を貪った蜘蛛と同じ。
だが洞窟で初めて見た絹のように透き通った、綺麗な白い体毛。光る紅玉のような、暗い場所でも見える美しい複眼。言葉を尽くそうとしても、その美しさの前に自分の語彙は陳腐に過ぎた。
「…綺、麗…だナぁ…」
最早、満身創痍だ。
トカゲ相手から貰った一撃は折角延命の為に止血した蜘蛛の糸を無残に切り刻んでいる。背中から発する熱はよもや自分の体温を全て奪っているのではと感じてしまうほど。痛い、ではなく
出血が、自身を覆っていく。気紛れでもない限り、蜘蛛の魔物は自分を捕食するだろう。例え運良く見逃されたとしても、この勢いで血を失えば死ぬ―――自分がまきこんだかもしれない、若葉さんを見つけられないまま。
「……ごめ―――」
視界が潤み、周囲が暗くなっていく。
その視界が
蜂の息の根を止めた直後、何かが此方に転がってくる。
既に満身創痍のこの身では何ができるかは分からない。必要最低限の巣を作った直後でスタミナなんて最低限しかないが、それでも最期までモンスターとして生きてやる。そんな気概で巣の前で待ち受ける。
転がってきたのは、黒と赤の塊。手に持っている物は―――何かに突き刺されたエルローバジリスクの尻尾、それも結構な大きさだ。あれも食糧源として見てもいいかもしれない。現状、ある物は全て使わなければいけないのだから。
力が弛緩したのか、塊から腕と足が伸びた。それで漸く、転がってきたものが人間だと分かった。その赤が人の血だと分かり、顔が蒼褪める―――冒険者の襲撃があって以降、人との遭遇が無かったのは幸運だったのかもしれない。何せ今は魔物とは言え前世は文明人、隣人は助ける物―――必死に助けようとしてくれた、
『鑑定』をする。
『迷宮の床』
…うん?
判定しそびれたのかな?もう一度指定して―――
『迷宮の床』
おかしい。とうとう鑑定が壊れてしまったのか?勘弁してほしい、あるものすべて使わなきゃいけないのにあるものに不備とか笑えない。
暗視を用いて、よく見てみる。血が流れている場所は背中、なぜか後ろ前に着ている黒い―――あれ?
そう気付けば、私と同じ転生者に初めて遭遇できたことになる。でも、お互いに死にかけなのは如何なものか。
「…ァ」
―――…ぇ?
聞き覚えがある声。それは転生前の平進高校で、私を含めた皆に挨拶をしていた。そして
…神がいるなら、中指立てる。なぜこんな時に―――
「…綺、麗…だナぁ…」
片言ながらも、そう呟く彼の目は徐々に光を失い、吸いこんでいく。
体は、彼の下へ向かっていた。彼の服装は血に濡れた学ラン―――転生せず、直接此処に飛ばされてきたかのような状態。頭と脚は比較ましだけど…腕は頭を庇い続けた事が原因で打撲だらけだし、
転がってきた方向を見る。
斑に、彼の背中だったものが岩肌にくっついていた。そして転がった後が血ではっきり見え―――彼を中心に血だまりができ始める。背中からの血だった。
助けないと。あの時、助けてくれた分を―――
「……ごめ―――」
謝らないで。声に出せないのがもどかしい。私以上に彼の容態がやばい。どう見ても、瀕死。鑑定が彼を検知しないのもおかしいけど、それどころじゃない。
生きて。
私の腕と運だけじゃ、彼は助からない。先ほど中指を立てようとした神に、柄にもなく祈った。