システムとは、何か?   作:no w here

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 大地の脈動する、尊大な何か―――以後狼龍と呼ぶ。何をもって、自分に目をつけたのかは分からない。
 だが、目をつけられた以上ただで逃がしてもらえるとは、到底思えなかった。

 勝利条件を満たす為に使える物は、3本の加工した毒針―――然し、狼龍の鱗を貫くとはとてもではないが思えない。もしも貫けるのであれば、上で戦っていた巨大な蜂たちが既に倒しているだろうから。

 狙いを付ければ、使えなくもないだろう―――それを狼龍が赦してくれるかはともかくとして。


5 無望

 逆手でそれぞれ加工した毒針を構える。左側を前に、右側を後ろに。半身となる事で相手からの攻撃に対する被弾範囲を少しでも減らす。狼龍はそれを見ても特に動く様子はない。…それはそうだろう。

 

 ()()。伝説で語り継がれるそれを相手するのは、同じ伝説の存在であって現代の誰かではない。伝説から見た自分は、其れこそ路傍の石未満の筈なのだ―――だというのに、目をつけられた。泣きたい、いや、既に泣いている。

 

 狼龍が此方を見続ける。特に圧をかけてきている様子もない、ただの自然体にも拘らず自分の足は震えが止まらない。そして思い出すのは、()()()。自分自身の解体ショーという形で見た死は―――不幸にも、自身の震えを止めるだけの材料となってしまった。

 

 それでも、加工した毒針の先端は小さく震えている。掌の痛み、そして静止する先端と狼龍。

 

「…行きます」

 

 震えた声で、小さく呟き―――相手の懐へ21歩飛び込んだ地点で狼龍の爪が無造作に振り下ろされた。小さく屈みつつ、振り下ろした脚の方へ転がるように避ける。腕が岩肌で傷つくが、そんな物はどうでもいい。どうでもならない(狼龍)の前では、小事でしかない。

 

 一瞬間を開け、振り下ろした爪を此方に返すように狼龍は斬りあげた。それを上体を上げた後一歩下がるようにして避け、踏み込ませまいと狼龍のもう一方の前脚が襲い掛かった。振り下ろされる脚の方へ自分を滑り込ませ―――右肩の表皮が()()()と割れた。

 

「ッ"ァア!」

 

 痛みを無視して降ろされた腕目掛けて加工した毒針を振り抜く。対して狼龍は回避することなく、鱗で受け止めた。鈍い音、そしてあっけなく()()()()()()()()。やはりというか、鱗は硬―――体が、無造作に払い除けられる。羽虫を掃うように、だというのにそれだけで小さく吹き飛ばされた。

 

 着地後、自身の悪寒に従って即座に右へ転がる。自分の居た場所の地面を食い破るように()()()()()()()()()が姿を露わにした。続くように自分を3方向から囲むように無数の槍が現れ、徐々に後ろへと追い込まれて行く。此処で狼龍に背を向ける等という真似は出来ず、ただ後退りを土の槍から離れるようにするしかない。―――あともう少しで、自身の背に壁が接するとしても。

 

 あと数歩、槍の高さはだいたい自分の背丈と同じ程度。それを見て―――()()()()()と、苛立ち及び微かな希望と共に察した。それこそ、先程のように吹き飛ばされた地点でブレスを撃ち込めば自分は対処する間もなく死んでいただろう。だがそれをしなかった。

 

 その苛立ちを、狼龍へ立ち向かう蛮勇へと換える。微かにみなぎる四肢、それで()()()()()()()()()()()()事で槍衾を突破する―――踵が、()()()()()()()()()()()()で削られたが、命には代えられない。狼龍は魔法の後に大きく咆え―――悪寒と共に()()()()()()()()()()へ走る。踵から血が溢れるが、それ等構わない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 耳鳴りばかりが響く中、走った勢いを殺さずに無事な脚を軸として体ごと振り向き。()()()()()()()()()()()狼龍へ滑り落ちながらも接近する。狼龍は、飛び跳ねた勢いのまま背中の甲殻を地面へ叩きつけたため起き上がる隙を曝していた。故に、反撃されずどうにか頭にしがみつく。それを振り払おうと狼龍は頭を数度振るが―――ここが、一度目の勝機。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 鱗が硬い以上、狙いは粘膜を直接さらしているように見える目や内部にあたる口、耳等極限られた一部位。流石に異物を突き込まれればたまったものではないらしく、頭を数度振られ―――しがみ付いていた両手の爪が、鱗の隙間に残され振り落とされる。受け身はどうにか取れた、が…3本目の加工した毒針を手に取ろうとして一瞬硬直してしまった。

 その隙を狙うように、奴は肩から突っ込んだ。()()()()を思わせるような一撃で、此方の体が悲鳴を上げる。

 脳が焼ける。痛いと、体が止まってしまいそうになる。

 

―――()()()のあれは、もっと痛かった。

 

 爪があった場所から血が流れ、加工した毒針の取っ手が滑るが。それでも握った手は離さない。まだ、奴はいる。睨むように、目を向ける。狼龍の目が()()()()()()()()()()()()()。刺した毒針は、その肉に潰されて折れた状態で地面に転がった。

 

「…、急所も、超回復…」

 

 体中を痛め、両手の爪と片足の踵を犠牲にして行った一太刀はまさしく無意味。思わず悪態をつきながらも、相手の視線から地表食い破る槍の出現を読んで踏み込む。此処でもブレスを使わない―――即ち目を潰しても再生されてしまえば意味など無い。その舐めプが、自分を生かしていた。

 

 まだ蛮勇はある。

 死んでたまるかという意志もある。

 体は十全とは言えないけれど、灰色のトカゲの時もそれは同じ。寧ろ、休んでた時期がある以上今の方がましだった。

 

 それでも、狼龍を越えるにはあまりにも足りない。再度顔面目掛けて加工した毒針を撃ち込む前に前脚で地面を掬い上げた。飛んでくる砂利の散弾を、腕の付け根に飛び込むようにして躱す。したところを半身で押し潰さんと倒れ掛かってくる。隙間は狭いが、それでもまだ回避の道がある―――そこへ飛び込む。抉られた踵のある方は、微かに遅れたことによって傷口が押し広げられた。一瞬意識が遠のく。無事な脚で地面を踏みしめる事で強引に意識を取り戻す。

 

 1分にも満たない、狼龍にとっては最早お遊び以下の何でもない死闘。強すぎるそれに覚えるのは恐怖と畏怖、そして―――微かな敬意と全てを塗り潰す程の"生き残ってやる"という意思。

 

 踏みしめ、再度飛び込む。周り込もうとしたところで、狼龍の旋回速度に自分が追い付けない。首を振り回された時に分かった事だ―――狼龍は地面を一度見た。土の槍、その一撃。踏み出そうとした足の力を強引に前へ持って行く。その後に一歩後ろに跳びながらも加工した毒針を投げつけ―――阻むように槍が毒針を砕く。残り、1本。砂を狼龍の顔面に振りまき、瞬間的な目潰しにする。その意図を読んで尚、余裕を見せたのか目を閉じた―――閉じる必要もない筈だというのに、閉じる時間は、異様に長かった。

 

 その隙に甘え、アルビノの蜘蛛―――白織の巣跡地に戻る。相手がわざわざ()()()()()()()()()()という以上、甘えるしかない。手に糸を巻き、止血していく―――跡地、瓦礫の下に。

 

「な、ぜ?」

 

 ()()()()()()()()()()()()が、転がっていた。刃は何処か不気味な光を孕み、柄には白織が投擲後に引き戻す為に使っていた糸が巻かれている。…手に取る。白織の意志―――"生きてほしい"という願いを感じたような気がした。…恐怖で流した涙とは違う、微かな温かさを伴う涙は砂利に混じる。

 

「…」

 

 左手に、そのナイフを巻いて行く。左手に巻く理由は単純、()()()()()()()()()()()()()。いざという時は右手の加工した毒針を捨てて、左を軸に両手持ちすればいい。…これ以上は相手も待たないだろう、地ならしが聞こえた。

 

 左手を前にして構え―――そのまま奇襲を仕掛ける。狼龍は此方の浅慮等読み切っているのだろう、無造作に尻尾で薙ぎ払った。うのをやり過ごし、尻尾の()()()()に短剣と毒針を突き刺し、力尽くで剥ぎ取る。…剥ぐことはできるらしい。剥いだ後の数秒で、新しく鱗が生え始めている事にはなにも驚かない。()()()()()。これ以上は必要ない。

 

「ォオオオァアアアアアアッ!!」

 

 最早泣いているのか叫んでいるのか猛っているのか明確に分からない咆哮が自分の口から出る。相手は無傷で、自分は致命傷までは行かずとも酷く痛めつけられている。

 

 眼はつぶせない。五感をどうにかできる希望が薄すぎる以上、最早()()()に期待するしかない。

 狼龍の気まぐれで勝敗(生きるか死ぬか)を決められる戦いを、無謀ながらに再開した。




 これ以上、彼に出来ることは無い。

 私は弱い。無力ではなく、ただ弱い―――心も、体も。そして1人としての意志も。
 彼は強かった―――否、強い。確かにステータス的な意味合いでは、私よりもはるかに劣っているかもしれない…いや、確実に劣っている。だが―――心と、意志は。尋常に無く強い。

 私はあの龍を見て心が折れてしまった。少なくとも、今まで龍に立ち向かおう等という選択は一度とてしたことがない。私は私の命のほうが余程大事なのだ、が―――彼に短剣を返したことで、私自身の意志に揺らぎが出た。"彼を助けに戻りたい"と今ですら思うのだ。然して戻ろうとしても、私の体は決して引き返そうとしない。理屈ではなく、心が拒絶する。地龍に立ち向かいたくない。

 彼は、立ち向かった。私以上の絶望が、彼を襲っていたにもかかわらず。

 とぼとぼと歩いて行く。やることは既に決まっている。中層への道まで隠密で進んでいく事。隠密のレベルは5、正直言って不安でしかない。ふと、自身のステータスを確認するために鑑定を自身に使用した。

スモールタラテクト Lv3 名前:白織(ハクシキ/シロオリ) 
ステータス
HP:38/38*1.3(緑)
MP:26/38(青)
SP:38/38(黄)
 :23/38*1.5(赤)
平均攻撃能力:21
平均防御能力:21*1.3
平均魔法能力:21
平均抵抗能力:19*1.3
平均速度能力:369*1.5

 …名前がついてる?転生中に出会ったまともな意思疎通ができる相手は彼しかいない。彼が私をこう呼んでいたのかな。名前が付いたおかげで、ステータス―――特に生存と防御に補正が付いている。…生きてほしいと思っているのは、一方方向じゃなかったのかもしれない。

 でも、こんな形で知りたくなかったよ。まるで形見じゃないか。

 私の速度能力が高い以上、既に彼からは遠くに離れてしまった。そして一心不乱に隠密で進み続けた以上、引き返す道も覚えていない。

 いや…引き返す勇気が、ない。

 そして一つ確信を得た事がある―――彼は()()()(()())()()()()()()()()()()。彼が名前をつけて私の能力が上がっているのであれば、アナウンスで連絡されている筈だ。
 然しそれがない。という事は天の声(仮)の規定に彼が含まれていないという事になる。名前を調べる。

白織:博識(ハクシキ)な蜘蛛。及び絹のように"白"い糸を"織"るでシロオリ。

 ひっそりと、隠されていた一文を読む。

―――過ごしているうちに終ぞ言えなかった、名前。
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