システムとは、何か?   作:no w here

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 止血は白織の糸で済ませたが、打撲や骨折に迄は対応できない。失った踵の肉及び10枚の爪も狼龍のような再生を持っていない以上、どうしようもない。

 対して狼龍は驚異的な再生能力で唯一とも言っていい目への一撃及び尾の鱗の剥奪をなかったことにした。こうなった以上、狼龍との消耗戦での勝ち目は一切ない。基より狼龍の手にある勝利を自分が奪う事などできないと()()()()()()

 体から発される(激痛)は容赦なく自身を焼いて行く。

―――まだ、やれる。
 そうだ。熱が失われて行くあの感覚になっていないだけ幸運だ。


6 変遷

 振り向き、狼龍の視線と自分の視線が正面からぶつかった。その眼に未だ殺気と呼べるものは存在しない。叫びと共に踏み込む前に、一拍間を空けると既に左前脚が振り下ろされていた。それを見送り、前傾姿勢を取って()()()。―――続いて振り下ろされた右前脚の鱗、その付け根目掛けて左手を振るう。

 

 ガィン!

 

 金属音。短剣は加工した毒針よりも丈夫である。対して鱗の方は薄い線が一瞬にして消えた。鱗にも超回復が付与されているという悲報はあるが、()()()()()()()()()というのは朗報だ。強引に突き込めば、鱗は貫通できる―――尤も、超回復された地点で全てが無に還るが。

 

 両前脚を軸に狼龍が1回転。その巨体で振るわれるそれは広範囲を無差別に薙ぎ払っていく―――それを()()()()()()形で頭上を狼龍の腹が通り過ぎた。前脚の隙間を抜け、右手の加工した毒針をもう一度目に突き込む。く前に両前脚をばねのようにして飛び退いた。直後此方へ一睨した狼龍に合わせ、間合いを詰めていく。背中越しに聞こえる大地を食い破る音は此方の恐怖心を増長してくるが、全身の痛みが恐怖心を塗りつぶした。

 

 前方は狼龍、後方は大地を食い破る槍。狼龍の自然体からですら放たれる圧を食いしばって耐えながら進む。狼龍は、何もしてこない。

 

 突き進み、狼龍の頬に左腕を振り抜く。

 

 ドスリ、という確かな手応え。そのまま振り抜こうとして―――正面に、大口が見えた。

 

 ま、ず―――!?

 


 

 眼前に広がるのは、無骨な岩盤だった。

 

 狼龍の大口を最後に、意識が完全に飛んでいた。叩きつけられたかのような鈍痛に全身が苛まれる。

 

「…ッ」

 

 身を起こそうとしても、動かない。だが―――小さく、安堵の息を吐いた。意識を失った後に、狼龍の気紛れか何かでそのまま離れたらしい。此処から離れたように、足跡が残っていた。

 右手は加工した毒針を握っている感覚がある。左腕へ、意識を向け―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ"!?」

 

 左腕へ眼を向ける。無かった。肩から先が()()()()()()()失われていた。悲鳴を吐き出そうとする口を、噛み締める。折角狼龍から生き残ったというのに、此処で叫んで蜘蛛や蜂、灰色のトカゲ等を呼んでしまえばすべてが水泡と帰る。

 痛みから守るように丸くなる。左腕からの痛みと比べてしまえば、全身の鈍痛等気にも留める必要が無かった。不幸中の幸い、とでもいうべきか。左肩から血は流れていない―――()()()()()

 

>>

 

 痛みに呻いて暫くした後、体をどうにか起こす。

 

 白織が紡いだ糸は、灰色のトカゲの前に居た蜘蛛のものより強度が高かったらしく、背中の傷口と右腕に巻かれたそれは()()()()()()()()()()()()()。自分が直接受けたものは其れこそ交通事故を思わせるようなタックル位―――思い出し、胃の中に何もないにもかかわらず吐き気がした。それを我慢するだけの精神力は既にない、口からごぼりと胃液を吐き出す。

 

 立ち向かう時はよかった。目の前の事だけに、集中できたから。

 

 胃液ですら空となったと錯覚するまで吐いて、漸く思考に戻る。…なんと無しに剥いだ狼龍の鱗を手に取り―――左腕の代わりとは決して言えないが、何も獲得できないよりは。そう思いつつポケットに入れた。

 

 これから、どうするか。

 

 白織の巣跡地を拠点に過ごそうと思ったが、首を横に振る。狼龍の巡回路である可能性が出てきた以上、此処には長居したくない。その上で水源と、贅沢を言うのであれば食べ物が欲しい。此処にない以上遠出する必要がある。

 かといって今まですらまともに戦いが成立しなかった存在が徘徊している環境下、片腕で戦えるかと言われたら当然否。せめて短剣並の丈夫な武器を欲するのは贅沢なのかもしれないが、護身用が加工した毒針だけではあまりにも心許ない。

 

 暫く考え、出した結論は―――()()()()()()()()だった。時間がどれほど経ったのかは分からないが、少なくとも気を失った自分は奴らからしてみれば簡単に命を奪い食料とできるだろう。それが為されてないとなると、恐らくだが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()可能性が出てくる。動物の縄張り主張と似たような物だと見れば、強い同族に弱い同族が近づかないのは当たり前だろう。余程その立地が良い、そこにしかない何かを渡したくないというような特殊な条件下でもなければ。

 

 ならば見た限り()()()と思った狼龍の通り道を阻むような奴らもいるとは思えない。そこを自分が通る。一番のリスクは狼龍に再度目をつけられる可能性が高い事。然し他の奴らからの襲撃を気にしなくてもいいというのは大きい。

 

 なら、行かなければ。

 

 立ち上がる。左腕を失った為か、体重移動がうまく行かない。ふらつくが、周りは決して待ってくれない。

 そう言い聞かせて足を踏み出す―――狼龍が向かったと思われる道へ。

 

「探さないと…生存すら、怪しいかもしれないけど…」

 

>>

 

 結論を言うのであれば、この策は成功した。

 

 先ずは水源の確保。狼龍も水を飲む必要があるのか、足跡の先に鍾乳洞のような天蓋となった湖があった。岩壁に大量のタニシのような何かが居たのが少しばかり気持ち悪いが、水源を見つけられたのは大きい。…濾過する道具も、蒸留する道具もない以上生水を飲むことになる。お腹に合えばいいのだが。

 

 引き続き護身具の確保。此れも水源に向かう途中に存在した人の死体から長剣を手に入れる事が出来た。その死体は盾も持っていたが、隻腕となった自分には不要の長物だ―――鞘付きの長剣と、背負っていた鞄を取る。鞄の中に食料などあるかと思ったが何一つなかった。()()()()()()()()()所を見ると、恐らく餓死ではなかろうか。

 そして壁についているタニシを食べた様子がない。近くにいたにも関わらず。そうなると、恐らくは()()()()()()だろうと予想を付け―――ひらめく。

 

―――相手の傷口にあれを突っ込めば、優位に立てるのでは?

 

 …それは後々試そう。

 水を飲む。…乾いた喉に冷たい感覚が流れ込む。潤いを取り戻した口から「ぷは」と息を吐いた。ただの水が、とてもおいしい。

 

 水を飲んだ後、片腕で長剣を振るう為の訓練をする。片手で2kの鉄の棒を振るうのは辛いが、剣道で竹刀を振っていた経験が此処で生きた。時間間隔はすっかり失ってしまったが、護身具としては問題ない程度に扱えるようになった時間は短かったと思う。

 

 食料は、残念ながら蛇や蜂等から()()()を狙い、此処まで誘導して殺す事で確保する必要がある。狼龍との戦いのお蔭で、他の奴らに怖気つく事が無くなったのが大きい*1。油断は一切できないが。

 

>>

 

―――ドォン…

 

 上から、大きな音が聞こえた。

 …白織は。若葉さんは、無事なのだろうか。

 

「…此処を拠点として、探し始めますか」

 

 死体からもらい受けた鞄から、水袋を取り出す。湖から水を汲み、だいたい半分で入れるのをやめる。長剣を構えた状態で戦闘に支障をきたさないのがそれ位の重さだったから。その隙間にタニシを詰めていく―――初めは気色悪い感覚があったが、今ではすっかり慣れた。慣れとは恐るべきものである。

 

 加工した毒針は鞄の横に括りつけ、長剣は腰の鞘に納める。そして―――かなりな枚数の羊皮紙と、インク付き羽ペンを鞄から引っ張り出す。余裕がある時は、地形を覚える為にマッピングをするようにしていた。そのおかげでこの付近は比較情報がまとまっている。

 

 …何かに集中していなければ、不安で心が圧し潰されそうだから。

*1
道中で単独活動する蛇や蜂、蜘蛛等と遭遇したが、撃退出来ていたから。狼龍に比べれば余裕がある。




時系列について
変遷の最終地点ではマザーの気まぐれで中層に存在するマグマの湖が拡大されたころ。web版の93が該当時間軸となります。

独自設定
腐蝕属性について
此方は[生命]を殺すことに特化した属性。
無機物や道具などを壊すことに特化した属性は[酸属性]となる。

タニシ虫アタック
タニシ虫を相手の傷口に捻じ込んだ後にタニシ虫を殺す事で腐蝕属性を体内で暴発させる攻撃

主人公の精神状態
白織及び若葉姫色の安否確認への逃避。
逃避対象:予知夢で見た自身の死
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