本当にありがとう御座います。
出来る限り早く投稿しますので宜しくです。
姫柊雪菜は混乱していた。
いつもの様に体質の所為なのか朝が弱い先輩を起こしに来た雪菜。だが、そこで思わぬハプニングに見舞われた。
涙目で雪菜に助けを求めてきた凪沙に只事ではないと判断した。
もしや吸血衝動を凪沙に向けられたのではないかと最悪の状況が脳裏に走る。獅子王機関として止めなければならない。
そして。古城の部屋に入り現状を確認して驚いてしまう。
「凪沙ちゃん。これって本当に先輩なんですか?」
「多分。小さい頃に写真で撮った古城君と今のこの子と瓜二つだもん」
「そうですか……」
再度、確認して返ってきた答えに雪菜は唖然としてしまう。
確かに古城を幼くすれば今のこの子になるのではと思うほどに似ている。
すると、その幼き古城?は悶えるながら起き上がった。
少し困惑と違和感を抱きながら雪菜は古城に話しかけた。
「えっと……私が誰か分かりますか先輩?」
「ふぇ……ヒメラギ?」
「はい。なら、こちらのお姉ちゃんも分かりますか?」
「……ナギサ? でも、ナギサはもっと小さいし……」
雪菜はその古城の受け答えを見て推測をしていた。
意識が幼児化しているも最近出会ったばかりの雪菜の事を知っている。だが、凪沙の事は小さい頃しか覚えていない。幼い古城の記憶と大人の古城の記憶が混同して所持して混乱しているのだろう。
「なら、私と何処で出会いました?」
「えっと……アレ? ボク、どこでヒメラギと出合ったっけ?」
「……分かりました。少し待ってて下さいね」
「えっ? うん」
「凪沙ちゃん、少しこちらに……」
「うん」
雪菜は凪沙を連れて部屋から出る。
「多分ですけど今の先輩、色々とちぐはく状態で記憶を保持してる状態ですね」
「どうゆこと雪菜ちゃん?」
雪菜は分かりやすく説明した。
今の古城の記憶は子供と大人の入れ混じり、覚えている事や忘れている事が多々ある。もし、記憶すらも子供まで退化しているなら雪菜の事を覚えているなどありえない。雪菜と出合ったのは古城が高校一年の8月下旬から9月上旬の頃なのだから。
「相手が誰なのかは理解しています。でも、その相手を何処で出会って何があったのか。その肝心な部分が抜けた状態で記憶しているんです」
「じゃ私の事は……」
「幼い頃の事しか覚えていないと思います。今の幼い先輩の妹として……」
「そっか……でもでも相手が誰だとかは分かってるだけ大助かりだね。もし、私の事や雪菜ちゃんの事、他にも浅葱ちゃんや基樹君、夏音ちゃんたちも忘れてたら皆悲しむよね」
「そうですね。でも、何で急に子供に……」
一昨日もいつもの様に先輩と一緒に下校して、夕飯もご一緒して別れた後は特に何かが起きた訳もない。
ならば何故?
色々と推測していると扉から小さい影が現れた。幼い古城だ。
「アレ? どうしたの古城君?」
「……お腹すいた」
お腹を押さえながら恥ずかしそうに顔を半分扉で隠して照れ隠ししていた。その余りにも弱々しくモジモジした態度に2人の女子中学生の母性……もとい保護欲に駆られた。
「そうだよねお腹空いてるよね古城君! 直ぐ食べよ!」
「こっちですよ先輩!」
高校から着ていた白いパーカーを引き摺りながら右手に凪沙が、左手に雪菜が手を繋いでリビングに向った。懸命にトコトコと付いてくる古城の姿に更に2人の心を鷲掴みにした。
小さくとも古城のフラグは立つのだった。
「雪菜ちゃん、古城君の食事手伝ってくれる? 私、今の古城君に合う服探してみるね?」
「あっはい。分かりました」
椅子に古城を座らせた後、凪沙は今の古城の背格好に合う服を探しに自身の部屋に戻る。雪菜は用意された朝食を古城が食べられる様に小さくカットして口元に持っていく。
朝食のメニューはスクランブルエッグにサラダ、ロールパンが数個だ。
「口を開けて下さい先輩」
「あ~」
開かれた小さな口の中に小分けしたスクランブルエッグを入れる。口をパクッと閉じ何度も間でゴクッと飲み込む古城。
「美味しいですか?」
「うん!」
「ッ!」
その素直で愛らしい笑顔を雪菜に向ける古城。その純粋無垢な笑顔をモロに受けた雪菜は一瞬ときめき頬を赤く染める。
「はっ破壊力が……破壊力が……」
「ヒメラギ?」
「えっ、あっ何でもないですよ。次はサラダを食べましょうね」
古城の呼び掛けに意識を取り戻した雪菜は戸惑いながらも食事の続けた。
サラダのフォークで刺して古城の口元に持っていく。だが――
「う~……きらい」
「好き嫌いはダメですよ。ほら口を開けて下さい」
外見から見れば好き嫌いしている子供を躾ける母親そのものに見えてしまうのは不思議ではならない。
とにかく、古城を嫌がりながらも口を開いてサラダを食べる。
「う~」
「偉いですよ」
苦手なサラダを食べて飲み込んだ古城の頭を撫でて褒める雪菜。完全に母親である。
そうしている内に朝食を終えると、凪沙がリビングに戻っていた。その両手には子供用の衣服を抱えている。
「私が幼い頃に来ていた服だけど。見た目は男用女用が分かりにくい中間的な服を選んできたよ」
リビングのソファーに選んできた服を並べる。
凪沙の言うとおりに男女が分からない中間的な衣服が並べられている。
「じゃっ古城君、お着替えだよ!」
「お着替え?」
「はい。流石にブカブカの衣服を着させるのは変ですからね」
その後、2人は古城を着せ替え人形のように色々と着せてみていく。
アレでもコレでもと色々と着せ替えた結果、見た目は普通の子供の格好になった。何故か子供用のパーカーを着て。
「ねぇ雪菜ちゃん。これから古城君、どうしよう?」
「そうですね。流石に今の先輩を家に1人にさせるのは不安ですね……仕方ありません、学校に連れて行きましょう」
「えっ連れて行くの!?」
「はい」
その提案に凪沙は驚く。
無論、雪菜も突拍子に考えてるわけではない。雪菜たちが通う学園《彩海学園》高等部に国家攻魔官の資格を持つ“空隙の魔女”南宮那月が居るからだ。
今の古城を何処から調べればいいのか判らない状態、協力者は1人でも多いほうが良い。そう判断したのだ。
「そうだよね。南宮先生にも説明しないと色々と困るよね」
「はい。では、先輩行きますよ」
「どこいくのヒメラギ?」
「学校ですよ」
その他愛のない2人のやり取りを見た凪沙は違和感を覚えた。
「ねぇ雪菜ちゃん」
「はい。何ですか凪沙ちゃん?」
「その先輩呼びって変じゃないかな?」
「えっ……変、ですか?」
「うん。古城君は古城君だけど今は小さくて、その呼び方だと周囲から変に見られない?」
「それは……そうですね」
指摘された雪菜は確かにそう思った。
普段から先輩と呼び慣れていた雪菜はどう呼べばいいのか判らず困っていると、凪沙が何かを思ったのかニヤッと笑みを見せた。
「思い切って名前で呼んでみたら雪菜ちゃん!」
「えっ、えぇ!?」
急な提案に困惑を禁じえない雪菜。
何故、そのような提案をしてくるのだと思って凪沙を見て気付いた。今の凪沙は楽しんでいるっと。
「さあさあ、雪菜ちゃんどうぞ!」
「楽しんでいますね……でも」
悪ふざけの提案。だが、雪菜は色々と思うことがあった。
いつか名前で呼んでみたい、呼ばれたい。そんな邪な思いが雪菜の心の中に自覚する前から芽生えていた。
いつしかその芽がどんどん大きくなり、自覚した頃には芽が膨れていた。呼ばれたいと、呼んでみたいと。
そして雪菜は意を決して古城に視線を向けた。
「こっ……古城」
「ヒメラギ?」
「……私の事は雪菜と呼んで下さい」
「……ユキナ?」
「ッ! はい、そうですよ古城」
名前で呼び、呼ばれた。
そんな小さな一歩に雪菜は頬を更に赤くするのを自覚する。っで、そんな雪菜を見た凪沙は驚く。
あの真面目な雪菜が悪ふざけに使ってくれた。でも、名前で呼ばれた雪菜の表情は誰から見ても分かるように嬉しそうだ。
嬉しそうな雪菜を見て自分の悪ふざけも役に立ったかなと思う凪沙だった。