狂人歌姫とゆく!SAO攻略の旅!   作:カレー

1 / 1
第1話

SAO、それは完全なる仮想世界を構築する「ナーヴギア」の性能を生かした世界初のVRMMORPGである。浮遊城アインクラッドを舞台とし、各階層にいるモンスターを倒して全100層の攻略を目指すゲームだ。

 

サービス開始当日に、開発者によってクリアしなければログアウト不可能・ゲーム中の死が現実での死に直結するというデスゲームと化してしまったゲームでもある。

 

つまり、このゲームはゲームであると同時に遊びではない奇妙な箱庭となったのだ。だが、そんなことは正直些事だ。別に大した問題ではない。もう受け入れたし、どうにかするしかないのだから。

 

問題は—————————

 

「ねえねえ!やっぱりさ、あの殺人集団を斬りに行こうよ!」

 

そんなバカなこと嬉々として言い放っている目の前の女だ。腰まで届く艶のある黒い髪、吸い込まれそうなほど美しい蒼い瞳。僅かに上気した頬に、整いすぎた容姿。背が低いことも相まって、気が付けば声をかけていたわけだが、それが間違いであった。こいつは、心の内に暴力と破壊衝動そして死への憧れを持つ狂人だったのある。初対面時に嫌というほど思い知ったし、こいつと一緒に半月以上を過ごしていればだんだんと慣れてくる。こいつの内面を知っても嫌いになれない時点で、俺の負けなのかもしれない。

 

「いい加減にしろ、ピト。オレンジプレーヤーになれば、現実に戻った後に面倒なことになるぞ。特にお前みたいに人前に出る奴は」

 

「だから、殺人鬼と戦いに行くわけじゃない?それに私まだデビュー前なのよねー」

 

「…ハァ~。大義名分があればオレンジになっても悲劇のヒロインを気取れると………。まあ、一理ある」

 

こいつは、頭がおかしいが一応の常識や社会性は持ちあわせており、リアルで他人を傷つけるような犯罪者にはなれないタイプなはずであるが、ここでは放っておくとPKかPKKに走りそうなため、目が離せないのだ。

 

「流っ石!話がわかるぅ!」

 

「………相手は快楽殺人者だしなぁ。奴ら以外は殺してくれるなよ?」

 

「わかってるって!」

 

そんなこんなで俺たちはPKを仕掛けてきた集団にリベンジしに行くことになった。

 

 

 

 

浮遊城アインクラッドは先細りの構造を持つため当然ながら、最下部の第一層が一番広いほぼ真円を描くフロアの直径は10 km面積は約80平方キロメートルに及ぶ。その広大さゆえ地形は実にバラエティに富んでいる。最南端に直径1 km の範囲を描く城壁に囲まれたはじまりの街。街の周囲は草原フィールドとなっている。そこを北西に抜けると深い森が広がり、北東に行くと湖沼地帯となる、

 

それらを抜けた先にも山やら何やら遺跡あらがそれぞれにふさわしいモンスター群を住まわせずつプレイヤーを待ち受けそのはるかのフロアの最北端に直径300M高さ100Mのずんぐりした塔、第1層迷宮区がそびえ立つ。

 

ちなみにピトと俺が襲われたのは森の中だ。あのPK集団の5人組はおそらく森の中でPKを行っている。ネズミの情報屋を使いつつ、そう結論付けた俺とピトは無防備な状態で森へ向かった。

 

—————そして案の定襲われた。しかし襲われるのは予測済み。

 

「ピトッ!」

 

俺は叫び思いっきり跳躍した。すぐ隣でピトも全く遅れることなく地面を蹴り飛ばし跳躍する。その跳躍スピードは俺よりも早い。勢いのあまりか顔を隠すためのオールケープのフードが脱げ、黒色のロングヘアが眩く宙に流れる。

 

木の上から強襲を仕掛けた男の一人を俺とピトは同時に切りつけ首を飛ばす。

 

空中にいる俺たちは格好の獲物だろう。着地の瞬間だけはどうしても無防備になる。しかしそんなことは織り込み済みだ。

 

「悪いな」

 

「アハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」

 

俺と狂ったように嗤うピトは同時に片手剣突進技、『ソニックリープ』を発動。水色と緑色の軌跡を描いて、俺たちは空中から鋭角に近い角度でこちらを狙っていた男たちの胴体を貫く。

 

「ガァ!?」

 

「なんだとッ!!!!?」

 

「クソが!」

 

残りは二人。二人はピトではなく俺の方に攻撃をしかけてきた。殺意のこもった攻撃に思わず、俺も殺気で返す。素早く手首を返して、全身全霊の気勢と共に剣を跳ね上げる。僅かに刃こぼれした刃が先の斬撃と合わせてV字の軌跡を描き、男の両手を切り飛ばした。片手剣2連撃技『バーチカルアーク』だ。男は両腕を失った勢いで後方へとよろめいた。

 

もう一人の男の斬撃が俺を襲う。しかし、俺に当たる心配はないだろう。その予測は当たる。

 

「あはッ!」

 

斬撃が俺に届く瞬間に、男の腕輪切り飛ばされる。やったのはピトだ。ピトはニヤリと獰猛な笑みを浮かべると青い光芒を纏った剣で、男の右肩口から腰まで切り裂いた。男たちの絶叫と共に、ソードスキルの淡い光が薄暗い森を彩る。

 

「もっと!もっと頑張ってよ!さっきまでの殺気はどうしたのよ!!!!」

 

ピトの興奮しきった声が響き、遅れて男たちの残響が広がる。5分後にはオレンジプレイヤーが二人、森の中に立っているだけとなった。

 

俺は戦闘の余韻で頬を上気させている彼女を複雑な表情で見つつ、これからの受難を予想し胃を痛めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルゴの助力を得つつ、何とか宿屋までたどり着いた俺たちは軽く食事をとりしばらくは、オレンジが取れるまではなるべく外に出ないことを決めた。

 

「あーつまんないつまんないつまんないつまんない!!!!!私はもっとハードな殺し合いをしたいの!」

 

真っ暗な室内にピトの声が響き渡る。ベットの上で足をバタバタさせるその姿を見て、彼女を年上と思うのは無理がある。実際、俺よりも5~7歳くらい上のはずだけど。

 

「シオンはさ~あんなに楽しそうに戦ってさ!私なんてちょっとしか戦えなかったのに。それに、あいつら途中から抵抗しなくなっちゃたしさ!なんでなんでなんでなんで~」

 

殴打音が響き俺が激しくむせる声が室内に響く。八つ当たりで殴るのは勘弁してほしい。

 

「でもシオンは私が見込んだ通りいい動きをするわね!それに気が付いてる?シオン、あいつらの攻撃を躱して反撃しようとした時、笑ってたわよ?」

 

ピトの声にうっとりとした感情の熱がこもる。俺は何も言わずピトの独白を聞き続ける。

 

「黙って言うことも聞いてくれたし、頭でも撫でてあげようか?それともこっちがお好み?」

 

俺の頬に、ピトの白い指先が冷たく触れる。ピトは俺の目を見つめたまま身を寄せた。ピトの潤んだ瞳の奥から覗く魔性と甘い吐息が体をくすぐる。

 

訪れたのはやさしくて過激で、そして何処に行くあてもない口づけだった。

 

「なッ………な…何を………!!!!???!!???????」

 

あまりの事態に目を回す俺を見て、彼女はいたずらが成功した幼女のような笑みを浮かべた。

 

「いいじゃない、別に減るもんでもないし?」

 

嫌ダメだろ!減るだろ?っていうかハラスメント防止コードは?仕事してなくない!?

 

それは魔性の笑みだった。こうやって、俺をからかうピトも殺し合いを求めるピトも、全部彼女の一側面なのだろう。全部、本当の彼女なのだろう。

 

「シオン出会った日から一度も笑ってなかったから、どうにかしてその鉄仮面を剥ぎたかったのよね~」

 

そして同時に確信する。これから先、こんな光景やピトの狂った一側面を見ても、俺はピトのことは嫌いになれないだろうと。この半月の付き合いで、それを確信してしまっている自分が少し悔しく少し悲しくそしてちょっとだけ嬉しかった。

 

それにしてもピトのこの容姿で、この性格ってやっぱり詐欺だと思うんだよな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。