バイオハザード4死亡キャラ転生   作:a1b2c3

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 車が走り続けている。

「……ったく、貧乏くじだぜ」

 カーステレオはどこか愁いを帯びた女性の歌声を響かせている。

「おまえ一体何者なんだ?ん?」

 車窓は代わり映えのない風景を写し続けている。

「アメリカからわざわざご苦労なこったな?カウボーイさんよ」

そして口を衝いて言葉が出る。

……?

……自分は一体何を口走ったんだ?

「ごあいさつだな」

 後部座席の男が答える。よく知る顔だった。

 レオン・スコット・ケネディ。合衆国のエージェント。齢20の新人警官でありながら6年前だったか……のラクーンシティを生き延びた類い稀なサバイバル能力の持ち主。大統領の娘アシュリー・グラハムの捜索で訪れたスペインの片田舎でロス・イルミナドス教団の陰謀に巻き込まれることになる。

 おそらくは……今日、ここで。

「要件は聞いてるだろ。迷子の娘の捜索だ」

「一人でか?」

「男三人でこんな山奥にパーティでもないだろ」

 レオンはかぶりを振って言葉を続ける。

「お前らならやりかねないか……」

 この時期のレオンはクールでニヒルだ。新人警官や後のDSO時代では見られない希少なバージョンである。恐らく素ではないのだろう。境遇を思えば彼の仕草にはある種の危うさ……大切な者や精神のバランスを欠いた者が見せる乾いた笑いのような……が見て取れるような気もする。

 見れば目もそこそこ死んでいる。

「変なヤツだぜ……。まあ署長の命令でしょうがねえけどよ。ちょろい仕事じゃねえな」

自分がまたしても口を開いた。

「頼りにしてるぜ」

 

 車に二人を待たせ、原作通りに立小便をしながら頭を整理する。

ここはどうもバイオハザード4の世界であるらしい。

前世、と呼ぶべきなのかどうかも分からないが……以前の自分が相当にやり込んだゲームの一つである。

 舞台は欧州、おそらくはスペイン。Tウィルスを始めとする生物兵器を開発していた製薬企業アンブレラがラクーン事件を経て崩壊した後の物語。

 今回の事件は全てはロス・イルミナドス教団の教祖、オズムンド・サドラーによる陰謀であった。いや、「である」と言うべきか。

彼は手始めにサラザール家……教団を弾圧し、生物に取り憑いて行動を操る寄生生物プラーガを封じてきた一族の八代目当主、ラモン・サラザールを誑かしこの地に教団とプラーガを復活させた。

 そして大統領の娘を誘拐した。虫の卵を植え付けて返し、彼女を操って国の要人を片端から操り人形に変えてしまう……それが教団の世界征服プランであった。

 原作通りに進めばプランは破綻し、アシュリーは虫を除去された上で救出され、教団は潰されることとなる。主にはレオンが強すぎたことによって。また第三の組織が介入したことによって。

 ここまで思い出してふと我に返る。レオンは二人の警官と共に車で村を訪れる。そして警官は二人とも最序盤で死ぬ。死ぬのだ。

マズい。原作通りに行けば命はない。

「急に冷えてきやがった」

 幸いにも行動の自由はあるらしかった。何も考えなければ原作通りの台詞が口を衝いて出るか……行動を制限されている感覚はない。辺りを見回す。がさがさと草が揺れる音がする。

気のせいか、とは言わなかった。村人がこちらの様子を探っているのであろう。分かっていればなんてことはない。車に戻ろう。

 

「こっから先が例の村だ」

 程なくして車は村に着いた。状況はだいぶ整理できた。ダッシュボードにもポケットにも銃はなかった。自分の装備にホルスターがなかった時点で察するべきだったかもしれない。

「ちょっと行って様子を見てくる」

 レオンが家に入ってから1分以内に全てが決まる。ここからは完全に死角になっていて見えないが……トラックが突っ込んで来てこの車を橋の下に突き落とす。原作では確かトラックも一緒に落ちてたか。カミカゼというやつだ。

「駐禁取られたくねえし……俺らは車を見張っておくぜ」

高さや車の爆発炎上を考えればおそらく突き落とされた時点で死ぬ。死体は村の広場で火炙りになるか湖の巨大サンショウウオ「デルラゴ」の餌にされることになるが今考える必要はない。

「まあ……そうだな」

なるほど、駐禁ね……とでも言いたかったのだろうが言う気も失せたらしい。これではボケ殺しである。

「頼んだぜ」

 1分だ。生き残るための算段を立てる。並外れた身体能力こそないが知識はある。ゲームではないから手段を選ぶ必要もない。

 レオンが車を降りる。

「まったくこいつらと来たら……なけるぜ」

「なんか言ったか?」

 

 結論から言えば、もう一人の警官を説得することは不可能であった。ただ車を降りておそらくは空振りに終わるであろうエージェントの聞き込みの野次馬をするだけのことを彼は頑迷に拒否し続けた。惜しい命だがこの時ばかりは時間がもっと惜しかった。こちらの命が掛かっているのだ。仕方なく車を降りてレオンの後ろを追った。

 

 そこで聞き慣れない言葉を聞いた。全身が怖気立つ。あいつらの言葉だ。

 咄嗟にウッドデッキの下に滑り込んで身を隠す。

 ガナード。プラーガに寄生された人間。意味は確か家畜だったか。特筆すべきはその知能だ。プラーガに完全に行動を支配されていながら人間としての知能を維持している。言葉を使い、道具を用い、死を恐れず、殺すべき敵を殺す。そして支配種……あるいは支配種を宿した生物は彼らを完全に制御することができる。人の手が(おそらくは)殆ど加わっていないにも関わらず兵器として信じがたい完成度を持ち合わせている。太陽の階段といいハーブといいこの世界はそんなものばかりである。モノを見つけたら上手く使ってやろうと思うのは人間の常だ。であるなら……ともすればアンブレラだって原因ではなく結果でしかなかったのではないのだろうか。スペンサー卿がやらなければ別の誰かがやっていた……

 

 今までよりも若干聞き取れる(警官にとってガナード達の言葉は母国語である可能性が高い。母国語の割に認識がおぼつかないのはこの身に入り込んだ意識のせいであろうか)スペイン語を聞き流しながらつらつら考えていると車両音と叫び声が響いた。見ればトラックが車を押し出して橋の下へ転がり落ちていくところであった。南無三。トラックに乗っていたガナードのことを思った。思ったがダイナマイトの自爆にも頓着しない生物のあれこれを考えても仕方がない。程なくして二階の窓を破って飛び出す音が聞こえた。間違いなく彼だ。身を乗り出して戦いぶりを見る。

 

 斧や鋤を後ずさりで難なく避け迷いなく頭を撃つ。ここぞとばかりに駆け寄り、そして……蹴った。

 それは恐るべき一撃だった。回し蹴りは成人男性のガナード二人を巻き込んで吹き飛ばし、うち片方は肉片の混じった血飛沫を撒き散らした。間違いなく死んだな。

 B.O.Wを見たような気分だった。何だ?あれは。回し蹴りは複数人を薙ぎ払う技でもなければ相手を後方に吹っ飛ばす技でもない。喩えるなら相手の腹に(急所である首にかけるからこそ殺傷力を持つ)ラリアットを掛けるようなものだ。それで複数人を押し倒すくらいの力があるのならもっとダメージを与えられる適切な技があるはずではないか。いや、もしかすると

「ダメージを与えすぎないために?」

あれだけの力で前蹴りを放てば、おそらく相手の胴に足を突き刺してしまう。ウェスカーの貫手、獄突なら引き抜けばそれで終わりだが脚で同じことをやれば大きな隙を生む、おそらくはそのために意図して威力を落としているのではないか。恐るべきは合衆国の特殊訓練ということか。あるいは人間か。

 地に伏したまま悪態をつくガナードを死ぬまでナイフで切りつけたのち、同じ要領で撃って蹴って三人目を血祭りに上げたレオンは落とされた橋を一瞥して、村の中心部へ続く道を走っていった。

 

「やるか」

 ダイナミック退出で二階の窓が壊されたばかりの家に入る。ガナードの死体が倒れており、その手には斧が握られていた。手から斧を引き剥がし、振りかぶる。

 ざくっ、ざくっと音がする。構わず斧を振り続ける。

「ふうっ、ふうっ……」

 まもなくして頭から脚までぐずぐずの死体が出来上がった。より正確に述べるなら死体をぐずぐずにした。たった今、この手で。立ち上る匂いと強烈なビジュアルから来る吐き気をどうにかして堪える。

必要なことだった。

 生き残るためには殺さなければならない。平和な国のゲーマー暮らしで喧嘩の一つもやらないままに育ってきた心と常識的な範疇に収まっている身体を戦いと殺しに慣らさなければならない。レオンは原作通りに行けばこれから一日で何百という数を殺す。少なくとも百は殺すと思ってこの惨劇を乗り切らねば。

 

 斧を片手に村の中心部へ続く道を行く。ゲームではないのだから大きく迂回して戻ることもできなくはない。ないだろうがしかし立小便の最中にこちらを観察していた誰か、あるいは中心地直前でレオンを見つけるなり逃げた三人組のような例が道外れにいないとも限らない。車で延々走ったあの道を徒歩で戻るには一日か、あるいはそれ以上の時間がかかる。そして半日もすれば夜が来る。ガナードの奇襲を警戒しながらあの道を戻るのは余りにも危険な賭けだった。今の所この選択は間違っていない、と思う。レオンの通った道にはガナードの死体ばかりがある。死体の一つから鋤を拝借する。銃で怯ませて人体粉砕キックする訳にもいかない(できない)のでリーチがあるに越したことはない。一つ気付いたことだがレオンはこの時点で木箱を壊していない。有用なアイテムがあると知らないのだろう。村にある木箱や樽は銃弾やハーブを補給できる重要なオブジェクトである。なぜ村中に銃弾が置かれているのかは余り考えないことにする。銃弾があるなら銃が運用されているはずであるが銃を使う村人はあまりにも少ない。ゲームならエイダ編のムービーに一人いたくらいで、しかも撃っていたのは麻酔弾である。武器商人こそが真の黒幕であり、武器の販売や村、古城、孤島に銃弾を置いていた者の正体であり、それはレオンに教団を壊滅させるための仕込みであった……といった内容のSSがあったことを思い出す。実のところどうなっているのだろう?ありそうな線で考えるなら……村人を皆銃で武装させたかったが生前(?)に経験のなかったガナードは銃を使えず、結果的に弾だけがそこかしこに放置されている……とか?

 とにもかくにも木箱と樽を斧で片端から壊して回収していく。殆どは空で、また銃弾もゲームで取ったより随分少ない数であった。あとはいくらかの緑ハーブである。実験の時間だ。腕をまくり、斧で浅く切りつける。熱さにも似た痛みが走る。

「っ……」

 ハーブを食べる。傷がみるみるうちに治っていく。この目で見た以上は認識を改める他ないが……それでも細胞の入れ替えがこんな短時間でできるはずがない!

 何となく察せてはいたがこの世界を今までの常識で考えてはならないらしい。ウィルスや寄生生物でいとも簡単に恐ろしい化け物と化す人類だがそもそもおかしいのはウィルスでも虫でもなく人類の方だったわけだ。なるほどものの数十秒で変異してしまえるわけである。往時のチェルノブイリ周辺に住んでいた人々もこの調子だと死体じゃなく化け物になってたんじゃないか?

 

 村の中心部へと続く扉のすぐそばで、ふと気配を感じ振り返る。

ついに出会ってしまった。どうもレオンはここの小屋を無視して行ったらしい。溜息を吐いた。

 何の感情も感じさせないガラス玉のような目。掲げられている斧。なんの感情もなく、ただただ侵入者を殺すために歩みを進めている。

ガナード。

 息を整える。斧を握る手に力が入る。そうだ。これから何度も殺し合いをすることになる。一発目からしくじるわけにもいかない。闇雲に逃げて一対一になれている幸運を手放す必要もない。

プランは考えてあった。こちらからも一歩ずつ近付いていく。互いに近付き、そして殴り合いの射程距離に入る。奴が振りかぶった。ここだ。

「ひっ!」

 間抜けな声が漏れるのも構わず真後ろに飛び退いた。斧は空を切った。少し姿勢は崩れたもののすぐに立て直す。額と手に汗を感じた。もう一度だ、もう一度……ここで。

「……!」

 同じように飛び退く。そして同じように奴の斧が空を切った。ゲーム通りだった。多少ブレてはいるが奴らの攻撃はワンパターンだ。警戒はすべきかもしれないが少なくともただの数度でこちらの回避を見切ることもしない。次だ。背後を気にしながら走る。ガナードの数ある行動でも駆け寄ってノータイムで攻撃を行う行動が最も危険性が高く、それだけを用心していたが相手は小走りになることもせずただただ歩いて近づいてくるだけだった。ポイントを定めて、ただ待つ。

トラバサミの音が響いた。奴はぐうっと唸り足元のトラバサミに手を伸ばす。ゲームならばガナードはトラバサミにかかることはないのだが……重さがかかればなんであれ発動する機構になっているのでかからない方がおかしい。奴も奴で戦闘になると他のことは頭から抜けてしまうらしい。こうして見事に踏み抜いてくれた訳だ。

体当たりをして態勢を崩す。奴の右手首を踏みつけ、斧を握る手に力を入れる。

 数回。頭部に斧を叩き込むとまもなくして動かなくなった。ロードサドラーの断末魔もなかった。初めての殺人は随分と呆気ないものであった。終わって初めて全身に汗をかいていることに気付いた。口はカラカラだ。背負っていた鋤の重量感が戻ってきた。コンバットハイというやつだろうか。著しい緊張は余計な感覚を一時的に吹き飛ばしてしまうものらしい。とりあえず一仕事終わった訳だが……

複数人に勝てる気がしない。万が一相対することになったとしてきちんと逃げ果せるだろうか。遠距離武器でもあればと思ったが……。

手元の斧を見た。そういえば奴ら投げてたな。ここいらの住民は割と斧を投げる。城の連中に至っては大鎌を投げることもある。寄生前から嗜んでいたのであろうか。鐘が鳴るまでは大人しく斧を投げる練習でもしておこうか。

 

 結果としてそこそこに斧投げができるようになった。この村の斧はそういった用途で作られているのかと思うほどによく回り、よく飛ぶ。ど忘れしていた結果として数人の村人が来てしまうなどのアクシデントが発生したが斧投げで一人沈め、あとは鋤で殺すことができた。足元を狙って膝立ちになったところを押し倒し、あとは滅多刺しにするだけの簡単な作業だった。いや、正確には……簡単ではなかった。見栄を張ってしまったが、しかし殺せる状況に持ち込んでしまえばやはりただの作業に過ぎないのであった。対象が人体でなければちょっとした農夫体験である。枝を払い、干し草を積み替えるのとどれほどの違いもない。

「気をつけないと」

 今回は本来ならする必要のない戦いであった。村中央で戦闘が始まった後、鐘が鳴るまで扉は封鎖されるのである。施錠されていない扉は村人が押さえつける形で。ミスは最小限に留めなければならない。さもなくば……最悪死ぬことになるだろう。

 

 そろそろだろうか。村中央のイベントは教会の鐘が鳴ることで終了する。招集のサインらしく、村人がそちらに向かってしまうのである。ちなみに鳴らしたのは第三の組織に所属する女スパイ、エイダである。村を走り回って鶏が持ってきた紋章の鍵で教会方面へ行き、チェーンソーを持った女をものともせず教会裏口でパズルを解き、教会の中に入ってようやく鐘は鳴らされる。ゲームでレオン編をやっている時に意識することはなかったが考えれば考えるほどエイダの行動はあまりにも迅速である。

「凄腕、か」

 

 エイダ・ウォン。国籍も年齢も本名も全て不明。アジア系の美女にして凄腕の工作員。彼女もまたラクーンを生き延びた一人である。アンブレラのライバル企業にスパイとして送り込まれ、そしてレオンと共に無数のゾンビとそれ以上の化け物が徘徊する彼の地を戦い抜き、死んだ……とレオンは思い込んでいる。愛を告げ、レオンの前から姿を消した彼女はアンブレラの部隊が用意した運搬用ヘリに忍び込む形でラクーンシティを脱出していた。今日は任務で訪れたこの地でレオンと再開することになる。

程なくして鐘は鳴った。生きてこの惨劇を乗り切らねばならない。レオンとの遭遇はさしたる問題にはならないがエイダの場合は話が異なる。エイダは任務中に於いて「見られてはならないタイミング」が存在し、それに抵触するようならレオンでさえ殺さなければならないらしい。ついでに言えば衛星を通じてここを眺めるウェスカーからエイダに抹殺命令が下る可能性もゼロではない。レオン抹殺の命令をエイダは事実上拒否することになるが……見ず知らずの警官を殺すことに躊躇するタマでもないだろう。あんなものに命を狙われたらそれこそ詰みだ。詰みだがどこで踏む地雷なのかもよくわからない。あの裏切り金髪グラサン怪人の考えだけは読み切れない。5の末路まで見ているから人となりはかなり理解できている方だと自負しているが……奴に興味を持たれない方法……そんなものがあるのだろうか?既に不確定要素だから殺しておけと命令している可能性だってあるのに?ううむ……

「出会わないに越したことはないな」

 

 扉を開けて中心部へ向かう。やはり無人であった。転がるは物言わぬ死体ばかりである。物色させてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

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