僕はもう、誰も傷付けさせない。
イリヤもクロも美優さんも、みんながもう二度と戦わなくても良いように僕がその縁を断ち切るんだ。
だから、僕の全てを力に変えてもいい。この命尽きるまで……
「もう、いやだ」
△▼△▼
昔のこと。暗い暗い夜のなか、幼き頃から言われていたことが1つ。
決して、夜中に外に出てはいけないと。
さもなければ、夜がお前を攫ってしまうぞと。
自身の住んでいた街がそういう類のものが出るのは何となく知っていた。
なんなら、自分自身の家の隅っことかにたまになんか居たし。
それでも、両親の言うそのことに幼き頃は恐怖で震えて信じ込んでいた。
あれこれ見えていたのもネズミのなにかの1種だと信じて止まなかった。
しかし、成長するに連れてそれが親の脅しだと思い始めてしまった。
そのときのバカな僕は両親の言うことを無視して深夜零時。家を……飛び出した。
そしてすぐに後悔した。
家を出たすぐ先の道路、そこには何かの影のような黒い電柱のような……ナニカが立っていた。
そっと横に目を逸らせば、マンホールから飛び出るいくつもの腕。幾つもの怪異、お化け……そう形容することしか当時の自分には出来なくて思わず夜の街を走って逃げてしまった。
すぐに自宅の扉を開けて中に入れば良かったものの、当時の自身の恐怖心は湧き上がる一方でとどまることを知らずすり減ることもなかった。
ただ無意味に、ナニカ分からない恐怖からひたすら走り続けることだけが救いになると信じて、街を走った。
そうして遂に足を止める。体力の限界だ。
当時1桁の歳の頃。夜の街を回りきれる程の体力なんてなかった。
そうして草むらの木陰にそっと隠れた。
別にそれらに追われているわけでもなかったが、見たことない恐怖の類に冷静さなど皆無であった。
簡単に言えば、見たことないものが見えてしまったので怖くなって走って行ったら力尽きて倒れ込んだ。そんな感じなのが当時のあらまし。
そりゃ仕方ない。小さい子だもの、訳わかんなくなっちゃったんでしょうね。
そういえば。そのときは何故か、お化けたちは追いかけはしてこなかったですが翌日からは追い掛けて来るようになったりしてます。
なんで何でしょうね。
それは兎も角、置いておいて。
何が話したいかと言うと、僕の生まれ故郷であり大事な親友との出会いの場であり、人生の中で1番の最低最悪の場所の話でした。
僕の生まれた街。コンビニも街に1軒ある程度の寂れた田舎。
因みにそのコンビニ、申し訳程度に品揃えが他のコンビニより良かったりする。
これは近くにスーパーも何もないからであるよう。
その街の特筆すべきところは、寂れたところでもコンビニ1件でもなく、よく出るということ。
そう、お化けが。本当に見えていたそれらがお化けなのか、はたまた妖精か妖怪かなにかだったのかは未だに分かりませんが……。
1歩歩けば、お化けが見えるね。くらいのノリでヤツらは急に出てくる。それが恐ろしいのなんの、あぁそうそう先程の草むらの木陰に隠れていたあとどうなったのかを話してませんでした。
「あぁ、でも全部一気に話すと面白みに欠けるってものですね。続きはまた明日に」
「えぇー!気になるよー!聞かせて聞かせてー!」
「ダメですー、というかイリヤ?このあとのお話はハプニング満載色んな意味でドキドキ満載だけど、聞いたら後悔するってレベルで恐いから……夜、寝れなくても知らないよー?」
「ふ、ふぇぇ!?だ、大丈夫だもん……セラもリズも居るしお兄ちゃんだって居るんだもん」
「家族のこと信頼してるんだね。よしよし、感心感心。お兄さんはイリヤが家族思いで嬉しいぞー?」
「お兄さんって!1歳くらいしか歳変わんないでしょー!?もー!」
彼女の絶叫が、人の居ない教室に響いた。
そして夕暮れの空、紅く照らされる教室を見てそろそろ帰らなければいけないことを伝えて、校門前まで一緒に歩いていった。
「じゃあ、僕はもう帰るから。じゃね、イリヤ」
「え、あぁうん。またね、アキくん」
僕達は校門前で、手を振り会い別れイリヤは兄と一緒に帰っていった。
学校から下校する帰り道。少し考え事をしていた。
この街に来たときのことだ。
この街、この冬木市はまだ知らないことが沢山ある。
そもそも僕がここに来たのも、たった3ヶ月前だった。
あの町のようにお化けや怪異は見ることはないけれど、来た当初は家もなく頼れる人も居らず寒空の下歩いていたのは記憶に新しい。
何故、こんなところに居るのか自分でさえも把握していなかった。
ここに来たその日は、いつものように夜の町を見回っていた夜のときだった。
普段なら入らないような路地裏が、異様に気になり足を踏み入れた。その瞬間から、ふと違和感を感じて来た道を戻れば、いつも見る町の景観が変わって、この冬木市に居たようだった。
またいつものように、何かしらのお化けの仕業かと原因となるようなお化けを探してみるものの、一向に姿を見せずどこにも見つけることが出来なかった。
おかしいことに、それだけじゃなく他のお化けの姿も見えなかった。
こうも、夜の町のなかで何もわからない状況のまま放り出させるのは久しぶりで当時は知らない場所、知らないことへの不安といつかのような出会いに心を踊らせていた気がする。
そうしてだ。結局何も分からぬまま、夜が明けて人が歩き始めた。
もうこうなると、原因となるお化け探しはほぼほぼ不可能となったと過言ではなかった。
お化け達は明かりを嫌い、陽を嫌う。
いつもお化けは夜の暗闇にしか現れないから。
お化け探しは諦めて、公園のベンチに座ってふと思った。
あれ、これからどうしよう──と。
よくよく思い返せば知らない地に、ロクな手持ちもなく放り出されては何も出来ないなと。
そのとき持っていたものと言えば、小学生にしては大金の千円札1枚と十円玉が10枚が小さながま口財布に入れてある程度。
この程度のお金では何も出来ないことは流石に僕自身もわかっていた。
他にリュックの中にあるものと言えば、こいしが数個。かみひこうきを折るための紙やゴミ袋。あとは百足様の神社から貰っている塩。
夜の探索以外ではあまり使い道のないモノばかりだった。
他に実用性のあるものと言えば、夜の町での探索に必要不可欠な懐中電灯とあかいタチバサミくらい。
懐中電灯の方は、ここに来るまでにだいぶ電池を消費したのか少し調子が悪い。
あかいタチバサミ、これはその立派な大きな刃も持ち手が赤い糸で雁字搦めに固く結ばれているために開くことも出来ない無用の長物と化している……それはいまも変わらずだけど。
本来ならこのハサミは僕が持っていて良いようなものでもないけれど。
公園のベンチで数分休んだら、今度は朝の街を探索する。
近所の人とお話したり、街並みを見回ることで分かったのは、ここが冬木市だということ。
冬木市は、知っていた。というより、来たことがあった。
昔に、先輩と先輩のお姉さんと1度だけ。
でも、僕の知っている冬木市とはだいぶ景観というより、全体的に活気があり平和に見える。
僕の知ってる冬木市は、あの夜の町のようにお化けが沢山いた。
夜の町のお化け達とは違って、害意はなく自分たちがもう生きてはいないことに気付いていない風ではあった。
僕が前を通ると笑顔を返してくるほど。
本来なら朗らかな顔で浮かべていた笑顔は、こちらを小馬鹿にしているような表情にしか見えなかった気がする。
そうしているうちに、また日が暮れ始めて雨が降り始めた。
取り敢えず雨宿りとして、近くの建物の下へと逃げ込むように潜り込む。
雨は一向に止む気配を見せず、そればかりかよりいっそう降る強さが増している。
これは長引きそうだ。
雨が降っていても降っていなくても、特に行く宛もないのでそのまま座り込んでジッと外を眺めていた。
不意にギィーっと、何かが軋むような音がして後ろを振り向くと建物の1番大きな扉が開いたようだった。
中から出てきたのは珍妙なものを見るかのように眉が下がっている銀髪の女性だった。
その後は少しあったものの、その人は僕を建物内に招き入れあまつさえこの街で居場所のない僕を匿ってくれることになった。
これが僕のここでの最初の出来事。
「ただいま、ねえさーん!」