ウマ娘妄想怪文書集   作:そば粉うどん

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うちにセイちゃんが来ないまま逃げの大幅アップデートが来てしまったので初投稿です。
前述のとおりセイちゃんがいない状態で某所の怪文書とかネタとか二次創作からいろいろ吸収して統合したのを書いてるので口調とか『セイちゃんはそんなこと言わない!』ってのがあったら感想でバンバン送ってください、今後の参考にします。


雨降ってなんとやら

『政府は、○○区に大雨洪水警報を…』

 シャワーを浴びて出てくると、つけっぱなしにしていたテレビから外の大雨の情報が流れてくる。

 俺は濡れた頭をハンドタオルで拭きながら、どっかりとソファに腰かけた。

 1週間分の買い出しの帰り道に雨に降られ、這う這うの体で家に転

がり込んだのがつい先刻の事。一過性の夕立で明日までには止むと思っていたが、どうやらあれは序章に過ぎなかったようだ。「このまま行くと明日から明後日まで降り続くかもしれない」とのたまう男性キャスターを恨めしげに眺めていて、ふと思い出した。

 確か、明日は担当バであるセイウンスカイと良バ場のトレーニングをする予定だったはずだ。この大雨でその計画も無に帰したが、報告はしておかねばなるまい。

(それと、今から室内トレーニングの予約しておかなきゃな…。)

 そこまで考えて、ふと今日の練習終わりのやり取りを思い出した。

『この後、クールダウンも兼ねて少し校外をジョギングしてきてもいいですか?』

『珍しいな、もちろん構わないぞ。…ああでも、門限は守るようにな。』

『分かってますよ~。…次の勝負、負けるわけにはいきませんから。』

『なんか言ったか?』

『いえいえ~。それじゃ、いってきまーす』

 そんな会話をしたのだが、それから1時間と立たないうちにこの季節外れの夕立と土砂降りだ。流石にクールダウンと言っていたしそう長い時間走っているなんてことはないだろうが、菊花賞に近づくにつれて変に練習に熱が入っていることを考えると、クールダウンがクールダウンで済んでいない可能性も考えられる。

 そもそも、最近の妙な練習への積極性は何なのだろう。

 今までの彼女はよく言えば要領よく練習する感じだったのだが、夏合宿から帰ってきてからの彼女はどこかおかしい。ダービーで敗れたスペシャルウィークへのリベンジに燃えていると考えることもできるが、それにしては少々燃え上がるのが遅い気もするし、それにそんな感じではないように思える。

 どちらかといえば、何かに急かされて空回りしているような、そんな感じだ。今までの要領の良さが微塵も感じられない。

(やる気を出してくれるのは嬉しいんだが、それで潰れてしまっては元も子もない。どうしたらいいんだか)

 なんて考えていると、壁掛けの時計が6時を打った。そろそろ晩飯を作ろうかとソファを立ってキッチンに向かおうとした、その時だった。

 ピンポーン

 ドアの呼び鈴が鳴った。

 外は警報レベルの大雨、しかも夜の6時だ。こんな時間に訪ねてくる人物に心当たりもないし、今日は宅急便を頼んだ覚えもない。つまりは、

(不審者…?)

 頭の片隅によぎったその考えをかき消しながら、音をたてないように玄関へと向かい、恐る恐るインターホンのカメラを確認する。そこには、

『にゃはは…。まさかここまで大雨になるとは、予想してなかったなぁ…。トレーナーさんのおうち、知っといてよかったよ』

「スカイ!?」

 ずぶ濡れのジャージ姿で、ドアの前で独り言をこぼす我が愛バの姿があった。

 慌てて鍵を開け、手を引いて中に招き入れる。咄嗟に掴んでしまった彼女の手は氷のように冷たかった。

「どうしたんだ、こんな時間に…」

「にゃはは~…、ちょっとランニングで少し長い距離を走ってたら、いきなり土砂降りになっちゃいまして」

「今日はクールダウン程度って言ってたよね?…なんて、詰めても話にならないか。ほら、風邪ひかないようにすぐにシャワー浴びてきて!」

「…トレーナーさん、覗かないでくださいよ~?」

「するかバカたれ。いいからゆっくり暖まってこい」

 は~い、と言いながら風呂場に消えていくスカイ。

 彼女がこんな感じで俺の家に来るのはこれで5回目だ。1回目は丁度今日のように雨に降られて、2回目からは釣りの成果をおすそ分けにだったり、風邪を引いた俺のために物資を届けに来てくれたり。あるときには大きめのタイを丸々1匹私に来たこともあった。

 一応、彼女がふらっと来ることを想定して彼女用のシャンプーやコンディショナーなどもしっかりと用意してある。…流石に彼女の下着やメンコ、お泊りセットなんかは備蓄していないが。

 一つため息をついて、リビングのソファに座って電話をかける。3コールとしないうちに電話は繋がった。目的の相手は…寮長だ。

『もしもし、美浦寮寮長室です』

「もしもし。すいません、セイウンスカイ担当トレーナーです」

『ああ、丁度良かった。外が大雨なのにまだ帰ってきてなかったから、そろそろあんたの方に電話をかけようと思ってたんだ』

「ああ、はい。その件の彼女ですけど、今こちらの家におりまして。後ほどそちらの方に外泊届の方を…」

『ああ、いいよいいよ!この雨じゃ帰ってくる方が危険だろうし、同室の子には伝えておくから!』 

「…すいません。ではまた明日」

 電話を切り、また1つため息をつく。ここまでスムーズに話が付いたことはよかったが、成り行きとはいえいきなりの、しかも俺の家での外泊だ。明日の朝たづなさんに何と言われるか…。

(いや、考えても仕方ないか。)

 始まろうとする思考の落ち込みを強制的に断ち切るべく、ソファを立って厨房へと向かった。

 厨房についた俺は、豪雨の中守り抜いた食材の数々をマイバッグから取り出した…はいいものの。

「さて、どうするか…」

 取り出した食材は大半が海産物と野菜だ。一応それ以外にもある程度レトルトや日持ちする食材も買い込んではいるが、曲がりなりにも彼女はウマ娘だ、成人男性1人分のレトルトで満足してくれるかは怪しいところだろう。

 そう考えるとシーフード、それも大皿料理でボリュームたっぷりの一皿が一番いいのだろうが、生憎と俺にはそこまでシーフードのレパートリーがない。

 唐突に突き当たった壁に頭を悩ましていた俺は、背後から近づいてくる青い影に気づくはずもなく。

「ほうほう、晩御飯はシーフードですか…」

「うわぁ!?」

 いきなりの背後からの声。

 びっくりして振り向くと、ニコニコ顔のスカイの姿があった。いつの間にシャワーを上がっていたのか、まだしっとりとした髪の毛と上気した肌のコントラストがなんとも…。じゃなくて、

「…音もなく背後に立たないでくれ、刃物を持ってたりしたら危ないから。」

「あ…。そ、そうでしたね。ごめんなさい…」

 珍しく、しおらしくうなだれるスカイ。いつも飄々としている彼女にしては珍しい表情に、思わず心臓が跳ねる。

 外の雨に気が沈んでいるのか、それともこの状況にしてしまったことに負い目を感じているのか。どっちにしろ、いつもの彼女とは違う雰囲気に調子が狂ってしまう。

 だからだろうか、いきなりこんなことを言ってしまったのは。

「…スカイ、晩飯一緒に作るか?」

「え?」

 俺の突拍子もない提案に意表を突かれたような顔をするスカイ。俺はそんな彼女を見てさらに続ける。

「ほら、魚料理は得意ってこの前言ってたろ?俺の料理のレパートリー、魚料理はからっきしでさ。できれば教えてほしいんだが」

 意表を突かれたような顔が、いつもの表情に変わる。

「…もう、しょうがないですね~。セイちゃんが腕によりをかけて作ってあげましょう!」

 

 

 

 

「ごちそうさまでした。」

「ごちそうさまでした~。美味しかったでしょう?」

「ああ、正直驚いたよ。」

 スカイに手伝ってもらって…というよりはほぼスカイの一人舞台のようなものだったが、作られた料理は見た目も味も完璧と言って申し分ないものだった。

 特に大皿料理の海鮮炒めは瞬く間に二人の手によって食い尽くされてしまうほど美味しかった。味付けのあっさりさからか箸が想像以上に進んでしまい、途中でスカイから「食べすぎですよ~」とジトっとした目で見られてしまったが。

「さて、飯も食ったしそろそろ寝るか。明日も、室内に変更とはいえ朝練があるんだからな。」

「確かに、もうこんな時間ですもんね。」

 夢中で食べて談笑して、現在時刻は午後10時。学生である彼女に夜更かしは勧められたものでないので、早々に床に就くように促そうとした。

「じゃ、向こうが寝室だから。もしもニオイとか気になったら消臭スプレー吹いてくれて…」

 そこまで言ったところで、彼女はピタッと足を止めてこちらを振り返った。

「むむ、それじゃあトレーナーさんはどこで寝るんです?」

「え?いや、リビングのソファで寝るが…」

「え~?一緒に寝ないんですか~?」

「いやいやいや!流石にそれはまずいでしょうよ!」

 流石ここで折れるわけにはいかない。年頃の少女と一緒に寝るという点でも、教え子と教師が同衾するというのも社会的にはまずい。

 しかし、攻めるポイントを見つけて水を得たスカイの猛攻は止まらない。

「いつも昼寝中の私の隣でうっかり寝ちゃったりするくせに?」

「うっ…。そ、それは…」

「あ~あ、慣れないベッドで寝ちゃうと寝付けないかもなー。疲れ取れないかもなー。寝過ごしちゃうかもなー。…ちらっ」

 わざとらしく俺の方をちらっと見るスカイ。…ここで意見を突っぱねるのは今後のやる気にかかわってくるかもしれない。苦渋の選択だが致し方ない。

「…はあ、わかったよ。俺の負けだ。」

「うんうん、素直でよろしい。じゃ、行きましょうか。」

 

 

 

「えへへ…、どうです?セイちゃん枕のご感想は♪」

(近い、いろいろ柔らかい、あとシャンプーとボディソープのいい匂い…。じゃなくて!このままは流石に俺の精神衛生上よくない!)

 まずい。非常にまずい。

 一緒のベッドで寝ることを了承したまではよかった。が、ベッドに上がって彼女に背を向け念仏でも唱えようとした瞬間、想像以上の力でスカイと面と向かうような形にされてしまった。

 寝返りを打とうにも、手をぎゅっと握られているため動けそうにないし、下手に振りほどこうにも彼女を傷つけそうでできない。

 どうしたことか。いつもはこんなに積極的なことなんてしない…というより、こちらからの詰め寄りには逃げを打つ普段の彼女の事を考えると、間違いない異常事態だ。

 今日のスカイは本当にどこかおかしい。どういう心境の変化なのかよくわからないが、ともかく諭してこの状況をどうにかしなければ。そう思って口を開いたその時だった。

 ぽすん。という音とともに彼女が自分の胸に顔をうずめて動かなくなった。思わず声をかけようとしたところで、先にスカイが口を開いた。

「ごめんなさい、トレーナーさん。お話、聞いてもらっていいですか。」

 消え入りそうな声。まるで手を握っていなければ今にも目の前からいなくなってしまいそうな、このまま闇に溶けてしまうように思ってしまう儚さ。聞かないわけには、行かなかった。

「ああ。」

「…本当はね。ちょっと、怖かったんです」

「…」

「どんより曇った空の下。星も見えないし、降ってくるのは冷たい雨ばっかり。通りかかる人もいないし、セイちゃんはひとりぼっち。そんなときに偶然、トレーナーさんのおうちの事を思い出したんです。そこに行けばきっとトレーナーさんが、セイちゃんを一人ぼっちから逃がしてくれる人がいるって。」

「…でも、もしかしたらそこにもトレーナーさんはいないかもって考えちゃったんです。今日に限ってほかの場所にいたらどうしよう、なーんて考えが堂々巡りしちゃって。おかしな話ですよね、こんな大雨の中で外に出る人なんていないのに」

「……」

「当然、トレーナーさんはちゃんとここにいたし、暖かいシャワーとご飯に、セイちゃんのわがまままで聞いてもらっちゃって。幸せな気分と一緒に、ふと思っちゃったんです。『いつまでこうしていられるんだろう』って。『いつか、トレーナーさんがどこかに行く日も来るんじゃないか』って。」

 ここまで聞いて、思い当たる節があった。彼女の空回りが始まるタイミングで、一人のトレーナーが担当ウマ娘の契約解除を、あろうことか昼時のカフェテリアで通知書を叩きつけた事件があった。解除理由は人づてに聞いた話では『担当バのサボり癖』。叩きつけたトレーナーは一連の事件の責任を負われて依願退職したと聞いているが…。もし、彼女の変化の要因にこの事件があるとしたら。もし、彼女にとって『俺』という存在が大きなものになっているとしたら。それですべての辻褄が合う。

 しかし、あの事件のウマ娘は確かにスケジュール管理がよくなかった点もあり、結果的にサボり癖とみられていただけだ。スカイの『要領よく練習を行い、休息をとれる時に取るスタイル』とは一緒にできるものじゃない。彼女が心配する必要なんてないのだ。

「ねえ、トレーナーさん。」

 一人語りがこちらへの問いかけに変わる、そのタイミングで彼女が顔を上げた。闇の中で彼女のうるんだ瞳がじっとこちらを見据えてくる。

「『セイちゃんと、いつまで一緒にいてくれますか』?」

「…それは、」

 『ずっと一緒だ』と言いかけて、口をつぐんだ。多分、今の彼女が求めている返答は、それとは違うはずだから。

 代わりに、いつの間にか解放されていた両手で力いっぱいに抱きしめた。

「わぷっ!?…き、今日のトレーナーさんは、随分と情熱的で…」

「スカイ。」

 抱きしめたことで、彼女の早鐘を打つような心臓の鼓動が聞こえる。いつもより赤い顔も、うるんだ瞳も、至近距離で見つめられる。その言葉の先に逃げることなんて、許さない。

 そのまま、夜の魔力に充てられたままに彼女にささやく。

「…俺はどこにもいかないよ。」

「ッ—―!」

 声にならない声とともに、彼女は再び胸元に顔をうずめた。胸元が少し湿っていたのと、嗚咽が混じっていたのには、気がつかないふりをした。

 

 

 

 

「…さん、…レーナーさん!朝ですよ~」

 間延びした彼女の声に、少しずつぼやけた意識が覚醒していく。

「ううん…。すかい、いまなんじだ…?」

「5時半です。朝ごはん食べてからのんびり登校するのに丁度いいくらいですね~」

 彼女がそう言いながらカーテンを開く。差し込んだ朝日に照らされた彼女の顔が、真っ赤な目元が目に映る。そこで、昨日の夜までの出来事がくっきりと脳裏に浮かんできた。

 昨晩の行動が、教師と生徒の間柄として『いいこと』だったのかはわからない。ただ、きっと『俺とスカイ』の間には必要だった。彼女の心にかかる雲を少しでも払えたなら、それでいい。

「うーん、今日はしっかり晴れそうですね。昨日の雨が嘘みたいですよ~」

 窓の外を眺めてそんなことをつぶやく彼女。見れば雲一つない朝焼けが空を染めていた。

「…綺麗だ。」

「え?」

 思わず、そんな声が漏れていた。それが、朝焼けに対してなのかそれを眺めるスカイに対してなのかは考えないようにして、

「コホン。空が綺麗だし、今日もいい日になりそうだな。」

「ですね。さ、朝ごはんでも食べましょうか。」

 新しい青空への期待とともに、まずは二人だけの朝食を楽しむことにした。




初期プロットから二転三転したものの何とか書き上げました。難産です。
キャラが把握できそうでできない感じだったのでいつも以上に慎重にセイちゃんを描こうとはしてみました。けど書きあがった今でも把握できませんでした、流石トリックスター。
誤字脱字、改善要望などどしどし送ってきてください(こちらも完璧に駆けてるとは思わないので)
次回は…聖なる1歩半が書ければいいなぁ。
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