仮面ライダーエンド/ピリオド   作:リョウギ

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第1話「エンド:意志を終わらせるモノ」

2050年現代

エネルギー問題が世界中で顕著になる中、人々の未来を照らす新しいエネルギー源が発見された

 

 

『それこそが、このフォースフュール。人類の発展を象徴する革新的なエネルギーでございます』

 

モニターに映る派手な白いスーツを着た男が側にある装置を見せつけながら得意げに告げる

 

装置に備わるカプセルには中央に固定された小さな鉱石状の物体とそれを満たす琥珀のような黄金色の液体が見える

 

『古代生物学者のルビス博士が発明した手法により、高密度高純度のエネルギーを持つ《強化石》の発掘が可能になり、そこよりこのフォースフュールが得られるようになりました。我々アルケオスインダストリーはこの次世代燃料を使い、様々なテクノロジー開発を行なっております』

 

男がカプセルを取り外し、後方のステージにある台座に突き立てる

同時にカプセルが淡く輝き、薄暗かったステージが照明により照らし出される

 

『このように、我々の未来は明るく輝いているのです。この太古よりの力によって、ね』

 

『我々アルケオスインダストリーが約束しましょう。このエデンシティをスタートに、人類を新たなステージへと導くことを!』

 

男の演説の終わりと共に企業ロゴがファンファーレとともに鳴り響く

そんな映像を映す街頭テレビ以外にもその街は煌々と夜闇を照らす光に満ちていた

 

高層ビルにその間を走る道路

そこを走る車のほとんどはアルケオスインダストリーのロゴが付いており、同じくロゴが描かれたリニアトレインがビルの合間を走るレールにぶら下がり運行している

 

ここエデンシティはアルケオスインダストリーが日本に作り上げた新興都市にして試験都市

次世代エネルギーのフォースフュールを運用するテクノロジーに溢れる未来都市であり、フォースフュールの元になりうる《強化石》の中でも純度の高いものが発掘されるホットスポットでもある

 

そんな眠らない街の夜にも闇は存在していた

 

『ぐぅううぅ…ォオオオォォォ!!!』

 

あるビルの屋上

月に向かって吠える怪人の影が一つ

 

まるで恐竜の骨格化石と機械のパーツを無理やり人型に固め、肉の代わりに琥珀をあてがったような歪なソレは周囲のビルを物色するように見渡していた

 

【こんばんは】

 

その時、怪人の背後から声がかけられる

 

誰もいないはずの屋上で響く声に振り返る怪人

そこにはもう一人の怪人が立っていた

 

【依頼通り、か。大方今晩のターゲット探しをしてたんだろ?】

 

現れたマフラーをたなびかせる怪人は先にいた怪人よりもより人間らしい見た目をしていた

恐竜の骨格のような外装はよりプロテクターのように密に構成されており、マットブラックの外装の各所からは黄金色の光が覗いていた

 

『貴様…‼︎ 同類か⁉︎』

【冗談。お前ら化け物と同列に扱われたくなんか無いね】

 

やれやれと肩をすくめながら手を向ける

 

【お前の下らない《意志》は、ここで終わりだ】

 

その言葉を聞いた怪人は驚愕の様子を見せる

 

『お前……⁉︎ まさか《エンド》か⁉︎』

 

怪人の問いに答えることなく、エンドと呼ばれた怪人は跳躍し、拳を打ち込む

突然の一撃に受け身を取ることもできず、怪人はもんどりうって倒れる

 

こちらにゆっくりと近づいてくるエンドにたまらず怪人は逃走、隣のビルに飛び移ろうと跳躍する

が、エンドはそれを逃がさない

 

【ふっ!】

 

鋭く跳躍したエンド

そのベルトのバックルの横から伸びるトリガーを二度引く

 

《ENDing Strike》

 

鳴り響く低い合成音声と共にベルトから両脚に紫電のエネルギーが走り、エデンの脚が変形。足先に鋭い爪を持つ恐竜のような形を見せる

 

空中で体を捻り、体勢を変えたエンドの両脚蹴りが怪人の背中に突き刺さる

 

『ぐぁああああぁあああぁああ!?!?!?』

 

怪人の悲鳴が夜闇に響く

そのまま一体になり、向かいのビルの屋上に着陸したがエンドの勢いは止まらない

そのまま両の脚を交互に何度も叩き込みながら怪人を押しやり、屋上を横断していく

 

【はぁッ!!】

 

捻りを加えたトドメのひと蹴りと共に怪人が屋上から飛ばされ、宙を舞う。地面に激突するよりも早く、空中で全身を琥珀のように結晶化させた怪人はそのまま爆発四散した

 

《You will END》

 

擦過痕の残る屋上にエンドが着地する

粉々に砕け弾けた怪人に目をくれることもなく、マフラーを翻しながら夜の闇へと消えていった

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

エデンシティの外れ

新代化石館と提げられた看板が表返される

 

「ん……今日も頑張るか」

 

看板を表返した青年が伸びをして入り口前の掃除を始めた

最先端の新興都市には似合わないながらも年季を感じる小さな化石館を眺めて青年は満足そうに微笑む

 

「コウくんおはよう!」

「おはよう!気をつけていってらっしゃい」

 

「コウくん朝も早いのに精が出るわね」

「おはようございます。いえいえ、これしかすること無いですし」

 

「コウさんおはようございます!また化石とか恐竜のこと教えてください!」

「おはよう、いいよ。またおいで!」

 

通りがかる様々な人々に青年はにこやかに挨拶をしていく

それが青年ー新代(しんだい) (こう)の日課だった

 

掃除が終わった後は化石館で配布するパンフレットの補充や売店の品出しを済ませ、受付に腰掛けて読書を始める

入館は無料でそもそも入館者もそこまでいないこの化石館での仕事はせいぜいこのくらいしか無い

 

テクノロジーの集積地にありながら慌ただしさや真新しさを感じさせないこの化石館は意外にも入館者はいた。といってもせいぜい一日2、3人ほどだが

 

今日の入館者はフード付きの黒パーカーを着た高校生くらいの少女が一人。何やら興味あるのか無いのかよくわからないような様子で大量絶滅の紹介ブースを眺めている

 

特に不審な様子もなく、館内の確認をしながらも更の業務はいつも通り終わっていった

 

 

「大量絶滅、かぁ……」

 

ブースを眺めていた少女はふと物思いに耽るように呟いた

パンフレットを広げ、紹介されている化石と大量絶滅の一説ー隕石衝突モデルを見比べる

 

「こんな強そうなのも、こんな簡単に壊れちゃうんだねぇ」

 

にまっと笑みを浮かべながら呟いた少女は立ち上がると、そのまま化石館の外へと脚を運んだ

 

「ご来館、ありがとうございました」

 

にこやかに一礼する更に一瞥もくれずに化石館から去った少女はしばらく歩いた先でフードを被ると手にしていたパンフレットにライターで火を点け、近くのゴミ箱に投げ捨てた

ゴミ箱の中のモノに引火したらしく、焦げ臭い煙が昇り始める

 

「ん〜……なんか面白いコトないかなぁ〜」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

エデンシティ中央区

 

アルケオスインダストリーの産業により急速に発展したこの街には日々様々な人々が流入し、様々な交流がなされている

当然その中には、よからぬ考えのものもいる

 

人々が往来する平日の市街地、その道路を猛スピードで駆け抜けてきたのは一台の車だった

そしてその車を追う赤いバイクが一台

 

「そこの車!止まりなさい!!」

 

車を追うバイクに跨る人影が声を上げる

が、車はそれに応じることなく暴走を続ける

その先には多くの人々が驚愕の表情で呆然としていたり、スマホで撮影したりしていた

 

一歩車が飛び出せば、多くの人が巻き込まれることは容易に想像がついた

 

「まだ本部に着いてないけど、言ってる場合じゃない…‼︎」

 

意を決したライダーはバイクを滑らせ、車へと肉薄しながら腰の拳銃を抜き、タイヤへ向けて放つ

 

見事タイヤに命中し、車はバランスを崩して停車する

 

バイクから降り、ヘルメットを脱ぐ

その正体は黒髪ショートカットの女性だった

 

「クソッ…‼︎」

 

車から男が降りてくる

すかさず女性は男に銃を向ける

 

「観念してください。エデンガードには既に通報しました」

 

追い詰められたことを理解した男は車から小さな女の子を引きずり降ろし、銃を突きつける

 

「ーッ!!」

「動くな!!このガキがどうなってもいいのかぁ!?」

 

興奮した様子の男は周囲の野次馬を見渡し、その足元にも一発発砲する

 

ーキャァァァァァァ!!!!

 

誰のかも知らない悲鳴と共に蜘蛛の子を散らすように野次馬が散っていく

 

「見せ物じゃねぇってのに集まるからだ!!ーッ!?」

 

渇いた発砲音と共に男の手にした拳銃に衝撃が走る

その手から拳銃が溢れ、その一瞬の隙をついて女性が人質の少女を救出する

 

「て、てめッーぐっ!?」

 

吠える男の顎に女性の掌底がめり込む。盛大に口の中を噛んだ男が思わずよろめき、後ずさる

 

その隙に少女を抱えた女性も男から距離を取る

 

「ーもう大丈夫だよ」

 

険しい表情を柔らげ、人懐っこそうな笑みで笑い少女の頭を撫でる

半泣きで放心していた少女は少し落ち着いたようで女性の体にぎゅっと抱きつく

 

「クソが!クソがァァッ!!!」

 

安心したのも束の間、男は怒りのままに吠え、懐から何かを取り出した

 

「……?」

 

警戒を戻し、銃を尽きてけた女性は男が取り出したものを見て疑問符を浮かべる

 

取り出したのは黒い小さなナイフ、それも柄に琥珀のような宝石みたいな装飾がある以外はなんの変哲もないものだった

 

(拳銃を放ってナイフ…?格闘でもわたしの方が動けるのを知ってる中で、なんで…?)

 

一瞬の思考、その間に男は自分の指を柄近くの刃に押し付ける

切れた指先の傷から血が流れ、琥珀に血が伝う

 

《ゴルゴサウルス》

 

何かのスイッチだったのか、ナイフから歪んだ電子音声が流れだす

そして男はーそのナイフを胸に突き立てた

 

「ッ、ごめん!」

 

少女の目を咄嗟に覆う

 

(逃げ切れないと判断して自殺を…⁉︎)

 

その判断が違うことはすぐさま証明された

 

「ゔぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

刺された胸から琥珀色の液体とDNAのようなエネルギーが溢れ、液体が体を包み込む

包まれた男の体が骨になり、固まった液体を内側から砕きながら浮き出し、怪物の姿へと変貌する

 

「なっ、何なの⁉︎」

『さっきは良くもやってくれたな女ァァ…‼︎』

 

ティラノサウルスのような恐竜を無理やり人型にしたような怪物は顎を撫でると左手を振り下ろす

骨格が展開、琥珀色の液体に覆われた後にそれは腕と一体化した大型車のタイヤをヘッドにしたハンマーに変形する

 

『死ねェェェェェ!!』

 

怪物の一撃

あまりのことに驚愕していたが、咄嗟に少女を庇って肩で受ける

 

ーゴシャッ…‼︎

 

「がっ…⁉︎」

 

骨が砕けそうな衝撃

あまりの一撃に空気を吐きそうになりながらも食いしばり、転がって衝撃を殺す

 

痛む肩を押さえ、少女を庇いながら怪物を睨む

ハンマーを引きずりながら怪物はゆっくりとこちらに近づいてくる

 

(なんとかこの子だけでも…)

 

「撃て」

 

と、思考を回す中号令と共に銃声が響き渡る

 

次々と怪物の体に弾丸が着弾し、怪物がよろめく

女性と少女の背後から現れたのは重装備に身を包んだ機動隊、怪物に銃器をむけている。彼らの装備にはアルケオスインダストリーのロゴとエデンガードという名を記した徽章が輝いていた

 

『テメェら…‼︎何をッ』

 

機動隊の中から現れた眼鏡をかけた冷徹な目をした男性が指示を出す

 

「対ネクロマ用フォースフュール鎮静弾、撃て」

「了解ッ!」

 

男性の隣に立つ機動隊員がグレネードを構え、放つ

放たれた弾丸は怪物に命中し、その体からエネルギーを放出させ元の誘拐犯の姿に戻り脱力する

 

「確保ッ!」

 

誘拐犯は即座に取り押さえられ、連行されていく

放心していた女性だが、機動隊員から促され少女を引き渡しながら立ち上がる

 

「着任初日……厳密には着任前から早速鉄火場とは、ついているな。暁巡査部長」

 

眼鏡の男性が抑揚のない声で言葉をかけてくる

 

「キミが着任する予定となるここの警察組織、エデンガードの長官を務めている。白亜(はくあ) 劉牙(りゅうが)だ」

 

突然現れた男が自身の上官となる男であることに気づき、女性は姿勢を正し、敬礼する

 

「し、失礼しました!今日からエデンガードに配属となる(あかつき) 鮮果(あざか)です!」

「知っている。渡された資料は全て把握済みだ。若くして巡査部長にまで至った努力者。同僚からの評判もよく、ホープとも言われていたらしいな」

「いえ、そんな…わたしはただわたしに出来ることをやり続けただけです」

 

劉牙の人物評にとんでもないと鮮果が手を振る

 

「ともかくだ。おかげで説明と信じてもらう手間が省けた」

「信じてもらう手間…?」

 

先程の人間が変身した怪人が頭をよぎる

 

「この楽園都市にエデンガードという特殊警察が必要とされる理由。いちいちそれを新入りに説明して信じてもらうまで説得するのも手間だからな」

 

 

劉牙が手配した車両に航続する形で鮮果は新しい職場であるエデンガードの本部に到着した

 

エデンガード

エデンシティの自治を担う治安維持組織。ようは警察であるがアルケオスインダストリーが警察庁から特殊な人員を募り、長官に任命された劉牙が再編した特殊警察という扱いになっている

特殊な人員編成になっているのはアルケオスインダストリーのフォーステクノロジーを使用した最新機器のデモンストレーションを含むためと鮮果は聞かされていたが…

 

「その実態はそれだけではない。確かにここで使われる機器はアルケオスインダストリーの作り出した最新機器が使われており、それ故の人員も必要であるが…」

 

劉牙の案内でオフィスに到着する

オフィス内には2人の刑事と空席になったデスクがあった

部屋の奥にあるものが劉牙のものであるだろうからもう一つは必然的に鮮果のものということになる

 

部屋にいた刑事の2人が劉牙に敬礼する

 

「紹介しよう。私の部下の石動(いするぎ) 須美(すみ)(いつき) 大牙(たいが)だ」

「新しく配属となりました、暁 鮮果です。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく、鮮果さん」

「よろしくお願いします!」

 

にこやかに敬礼を返し、挨拶は終わったとみるや劉牙は自分のデスクの端末を操作し、部屋の照明を落とすと共にスライドを映し出す

スライドに映し出されたのはいくつかの記録映像

どれにも先程の誘拐犯が変身していたのと同じ、恐竜と機械が混ざった異形の怪物が映っていた

 

「ーネクロマ。我々とアルケオスインダストリーはそう呼称している」

 

劉牙が口を開く

 

「琥珀状の石が埋め込まれたナイフ型の道具、通称ネクロカートリッジを使用することで人間が変貌する怪物だ。このエデンシティにのみ活動が確認され、既に数体の実例が確認されている」

「あんなのが何体も…⁉︎」

 

鮮果が驚愕に目を見開く

 

「こんな異常事件なのに…何故報道に上がらないのですか?」

 

当然の疑問を受け、劉牙が答える

 

「報道規制だよ。我々エデンガードはアルケオスインダストリーと協力してあの怪物たちを秘密裏に処理している」

「秘密裏に?」

「ネクロマというあの怪物について今わかっている数少ないことの一つとして、怪物の体から高純度のフォースフュールが測定されている」

「!?それって…アルケオスインダストリーの関与が一番考えられることじゃないですか!?」

「無論。我々もアルケオスインダストリーは徹底的に調査を行った。だが怪しい証拠品は上がらず、だ」

 

劉牙がため息をつく

 

「フォースフュールの未知の副作用とかが産んでる可能性も考えて研究資料やプロダクトの点検も外部業者とともに行ったけど、これも真っ白で…」

「……CEOのデボンクもさっぱりだと言っている。それどころかこちら側の調査に協力、都度証言も偽りなく協力するという。現状、アルケオスインダストリーは疑うに疑えないということだ」

「なるほど……」

 

スライドを終わらせ、照明を戻す

 

「この街、エデンシティで研究開発が行われているモノは人類の未来に繋がる技術となりうるモノだ。それだけ輝かしいモノが集まるほどに、影もまた色濃く姿を現す」

 

劉牙が鮮果を見据える

 

「この街での事件は、キミがここまで来た時に出会ったモノよりも遥かに曲者で遥かに厄介になる。覚悟が無いなら、今ならまだ戻れるぞ」

 

劉牙の言葉を聞き、鮮果は生唾を飲み込む

そして、姿勢を正し口を開いた

 

「覚悟も意志も、ここに至るまでにもうここにあります。ネクロマの事件も、それ以外も、誤った道に進む人がいるならそれを止めて市民を守る。その意志は曲げません」

 

鮮果が敬礼する

 

「暁 鮮果、全力で職務を全ういたします!」

 

劉牙はそれを見て薄く笑った

 

「いい返事だ」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

新代化石館

近くで起きたボヤ騒ぎの事情聴取を受けて帰ってきた更は疲れた様子で看板を裏返す

 

日が沈みかけ、夕闇が新興都市を染め上げていく

眠らないエデンシティは夜でもある程度明るいが、この時間だけはエデンシティの色味が薄れ、夕暮れの色に染まる

 

更はそんな大好きな景色をしばらく眺めて化石館へと戻っていった

 

ブースや売店を点検し、空調や戸締りを確認すると受付奥の扉から奥へと向かう

更の家はこの化石館に併設しており、受付裏からすぐにアクセスが出来る

 

少し埃の積もった入り口に立つ

 

「ただいま」

 

返ってくる言葉はないとわかっていても、挨拶は欠かせなかった

 

玄関から上がり、リビング隣の扉を開く

その先はそのまま地下深くへと階段が降りていた

 

 

『おかえり〜……なんて言って欲しかったのか?』

「必要ないよ、メガーラ。クセみたいなものだ」

 

たどり着いた地下の空間は何やら研究室のような空間だった

真っ白な壁面に床、そこに鎮座する複雑な機械やデバイスの乗った大型のデスク。そしてその前に停車した大型のバイク

その空間にはそれしかなかった

 

入り口にかかったフード付きのコートを纏い、口元までチャックをあげる

 

「依頼は来てるか?」

『一つだけ。何やら午前中にガードたちは仕事をしたらしいし、こんなものだろうよ』

 

どこからか響く女性の声を聞きながら、デスク上の端末を一つ立ち上げ、ネットからあるページにアクセスする

 

黒いページの真ん中に《END》とだけ書かれたページ

そこにIDとパスワードをうちこみ、ログインする

 

女性の声の通り、掲示板上に一つ書き込みがあった

 

《友人を止めて欲しい。怪物になってしまった彼はもう私の言葉も聞いてくれない》

《エンドは怪物をどうにかしてくれると聞いた。頼む、あいつを止めてくれ》

 

「メガーラ、書き込んだ人間のスマホ番号をサーチ。つなげてくれ」

『あいあーい』

 

更はヘッドセットを取り付け、変声機能をオンにする

 

 

男ー足立(あだち)のスマホに着信が入り、手に取る

小さな工場に務める彼は仕事終わりで疲れきっていた。普段なら会社からでも無ければ出ないが、通知にある相手の名前で目の色を変える

 

END

 

普通なら非通知になるはずの見ず知らずの発信者の名前が表示されていた。聞いていた通りのことだった

 

「………もしもし?」

【足立 (とおる)だな?】

 

変声機越しの歪んだ声が響く

 

「…ああ、あなたが《エンド》、なのか…?」

【私自身が私である証明は依頼の完遂によって行おう。悪いが、ここで話したところで私が私である完全な証明にはなり得ない】

 

事務的な言葉に少し気圧されながらも透は彼ないしは彼女の言葉を待つ

 

【依頼主に一つだけ問いたい。お前の、終わらせたい意志は本物か?】

 

声が告げる

 

【例えその結果、ターゲットが命を落とすとしても、お前はターゲットの過ちを終わらせたい。そう言えるか?】

 

透は唾を飲み、答える

 

「……あいつは、あいつは親友だった…でも、変わっちまった…」

 

「あんな、あんな怪物としてあいつが誰かを傷つけることになっちまうかもしれないなら、頼む…あいつが、これ以上誰かを傷つけちまう前に……」

 

「あいつを、止めてくれ…‼︎」

 

透の絞り出すような声を《エンド》はしっかりと聞き届けた

 

【依頼は受領した。その言葉、その意志。努々忘れるな】

 

《エンド》が続ける

 

【ターゲットの名前はなんだ?】

「桜井、桜井(さくらい) 彰人(あきと)だ…」

【承知した】

 

【依頼は速やかに完遂する。私の意志にかけて約束しよう】

 

 

通話を切った更の耳にメガーラの声が響く

 

『ターゲットの情報集まったよ。まぁ特にこれといった人物じゃないから簡単に見つかったけど』

 

更が操作する端末に情報が並ぶ

 

「桜井 彰人……37歳…数ヶ月前に離婚……さらに同時期に務めていた会社が倒産……その会社の製品は、アルケオスインダストリーの製品と市場を争っていた、か……」

 

『気の毒だよねぇ。あんなモンスター企業相手にしたらどんな会社も霞んじゃうよ』

 

「同時期に起こった大きな事故、事件を出せるか?」

『お安い御用で』

 

更に情報が追加表示される

 

「……アルケオスインダストリー系列の精密機器工場が連続で爆破。これでほぼ間違いないだろう」

『犯行は夜、で一週間置きに周期的に繰り返してる。前回の犯行が……ビンゴ、ちょうど一週間前だ』

 

それを聞いて更は立ち上がり、ヘルメットを被るとバイクに跨った

 

『今度のはアタリだといいねぇ』

 

バイクからメガーラの声が響く

 

「関係ない。どのみちあんなヤツらはのさばらせておかない」

 

バイクの前方が開く

化石館近くの高架下道路へと繋がる秘密通路へ、更はエンジンを吹かし走りだした

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

アルケオスインダストリー系列の精密機器工場

 

男ー桜井 彰人はまっすぐと工場を睨んでいた

血走った目は彼が冷静でないことを訴えている

 

工場へと向かおうとする桜井の頭上をバイクが跳躍

前方に着地したバイクに跨るヘルメットの人物が彰人を睨む

 

【桜井 彰人だな?】

 

変声機越しの歪んだ声で尋ねられ、彰人は一瞬たじろぐ

 

「だ、だったらなんだ!?お前はなんなんだ!!」

【足立 透の依頼でここにきた。お前の暴走を終わらせるために】

「透の…依頼だと…?」

 

彰人は逡巡する

が、彰人は再び目を血走らせ、乾いた笑いを溢す

 

「これを止めろってか…冗談じゃねぇ!!」

 

彰人の怒号が夜闇に響く

 

「あのクソ会社が……あのクソ会社のせいで俺は何もかも失ったんだ!!そんな俺にコイツが巡ってきた…‼︎」

 

彰人が懐から取り出したのは琥珀が埋め込まれたナイフ

人間をネクロマに変じさせるあのナイフだ

 

「意志を、願いを形にする力だとよ…‼︎ 最初はビビったが、これが有ればあのクソ会社の工場もぶち壊せる…俺から、俺らの仕事を奪ったあのクソ会社を壊してやれるんだ…‼︎ この俺の望みで…意志で…‼︎」

 

《ズニケラトプス》

 

彰人が胸にナイフを突き立てる

即座にその体は変貌を始め、胸にフリルと角を持つ角竜らしい頭部骨格型鎧を持ち、両腕に物々しい杭打ち機を備えた重厚なネクロマへと姿を変える

 

更はそれを臆することなく見つめると、バイクの後部座席からベルト型のデバイスを取り出し、腰に装着する

 

【下らないな】

『…なんだと…⁉︎』

【紛い物の意志の力、そいつに騙されて飲み込まれて。それがお前の意志だなんて下らない】

 

懐からナイフの柄を取り出し、先端部のグリップにあるスイッチを親指で押し込む

親指が切れ、グリップにはめられた琥珀部分に血が滴る

 

《ディノニクス》

 

ナイフの柄から刃が伸びる

更はその刃を左掌に押し付ける

 

『そのナイフ……まさか、お前も!?』

 

彰人だったネクロマが更に突撃する

更はナイフを前方に払い、血を払い飛ばす

 

滴った一滴が大きく地面に広がり、中から小型恐竜の骨格状のエネルギーが現れ、彰人に飛びかかり蹴り飛ばす

 

【変身】

 

ナイフをベルトのバックル左端に装填、バックルを切り落とすように横に倒してセットする

 

《Cut the Fire》

 

更の姿が光に包まれ、黒いアンダースーツに包まれる

ベルトから滲み出した黄金色の液体がスーツの溝へ満たされ、骨格状エネルギーがその体に爪を立て、分解される

 

《will Come END》

《will Slash you》

 

分解された骨格状エネルギーがアーマーに変化し、更を包み込む

形成されたマスクのゴーグルが金に発光する

 

《Bone to be RIDER》

 

変身が完了した更ーエンドは手首をこきこきと鳴らすと静かに告げる

 

【お前の意志は、ここで終わりだ】

 

『黙れェェェェ!!!』

 

ズニケラトネクロが叫びエンドに突進する

腕の杭打ち機を使った突きを避け、それを払いながらガラ空きになった胴に拳が、蹴りが打ち込まれる

 

【ーッふ!】

『ガッ…⁉︎』

 

力を込めた正拳突きがズニケラトネクロを大きく後退させる

 

『ゔ、ゔぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

ズニケラトネクロは杭打ち機を突き出し、先端を射出

杭のひと突きがエンドの肩を打ち据え、その体がよろめく

追撃のもうひと突きが伸びるが、エンドはそれをかわし、ベルトのトリガーを引く

 

《Ability Excavation》

《Slash》

 

体を掠めた杭を掴み、そこに右脚の踵を乗せる

踵から展開されたブレードがその杭を難なく斬り落とす

 

『ぐうっ!?』

 

残る杭を打ち出すが、それも蹴り斬られる

武器を失ったズニケラトネクロに肉薄、斬撃を纏う回し蹴りが連続で打ち込まれる

 

『がはぁッ…‼︎ クソ、クソがぁぁぁ!!』

 

吹き飛ばされ、膝をつくネクロマ

 

それを冷徹に見下ろし、エンドはベルトのトリガーを三度引く

 

《ENDing Break》

《Will Over》

 

右脚にエネルギーが収束すると共にエンドが疾走。ズニケラトネクロの胸に重い蹴りを放ち、その体を地面に沈ませる

 

その反動を以って跳躍。翻しながら右脚を引き絞る

 

【はぁッ!!】

 

踵から伸びた刃にエネルギーが迸り、ズニケラトネクロの肩に突き刺さる。そのまま回し蹴りの要領でエンドが回転。ズニケラトネクロを袈裟に蹴り捨てる

 

『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?』

 

回転しながら着地したエンドの右脚が地面と火花を散らす

 

【ーこれがお前の終わりだ】

《You will END》

 

ズニケラトネクロの体からエネルギーがスパークし、琥珀化して弾け飛ぶ

 

後にはエンドがただ一人夜闇に立っていた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

>なぁなぁ、これ見てみろよ

 

どこかのネットコミュニティのチャットルーム

スマイルマークを凶悪にしたようなアイコンのユーザーが動画を共有する

 

>……何これ?

>映画かなんかのPVか?

>ちげぇよ。眠れなくて夜ぶらついてたら見ちまったんだよ

 

そこに映っていたのはエンドがズニケラトネクロマと戦う一部始終だった。スマホで写したのか画質は悪く、よく見えない部分も多い

 

>は?マ???

>いやいやナイナイ。こんなの映画じゃん

>マジなんだよ!すげぇバトってた

>これ特撮なら毎週見てるわ

>釣りだろ?合成乙

 

チャットルームが色めきだつ

嘘か、真か、疑いつつもそこにいるユーザーたちは熱狂していた

 

そこに新たにハートマークをツギハギにしたようなアイコンのユーザーが現れる

 

>何、これ?

 

>バンガード!!

>久々に見た気する

>最近入ったから初めて見た…やべぇ感動…

 

>これ撮ったのスマイル?

 

>ああ、偶然撮った。手振れが酷いのはすまない

 

バンガードと呼ばれたユーザーはしばらく沈黙していたがすぐに返答が上がる

 

>いいじゃん。超面白そう

>これの名前何?

 

>わかんね

>そもそも実在するかも分からん

>ねー

 

>じゃあ、名前決めよう

>ヘルメット…?仮面で顔隠してバイクに乗って…

>……きーめた♪

 

バンガードがその《名前》を打ち込む

 

>《仮面ライダー》

>これでいいんじゃない?

 

>なんか安直w

>だがそれがいい

>シンプルで呼びやすいが不思議とカッコいい

>さすバン

>仮面ライダー!なんか強そう!!ww

 

チャットが色めきだつ

 

>そうだ。次はこれで遊ぼう

 

バンガードの言葉を待ちチャットが一旦静まる

 

>ウワサの怪人、仮面ライダーを探せ!

>どうよ?みんな

 

>面白そう!

>賛成賛成!!

>最近のゲームとは毛色が違うがいいな

>ペットキルゲームよりも楽しそう。俺やるわ

 

どこか危険な熱狂に包まれるチャットルーム

それを画面越しに眺めながら、薄暗い室内で《バンガード》は愉快そうに笑った




『識別名、エンド』

『ネクロマを殺す存在…』

『あんたの復讐はいつ終わるのかしら』

『下らない意志がある限り終わりはしない』

『エンドもまた、ネクロマと同じ悪徳だ』

第2話
「新代 更:意志を憎むモノ」

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