001
全生徒が走り終え、あるいはザ・フォールや黄彩の作品でリタイアして第一種目は終わりを告げた。
予選で落ちた生徒は当然本戦に参加できないが、それ故に全員参加の
『そして次からいよいよ本番よ! ここから取材陣も白熱してくるよ! 気張りなさい!』
『レクもボクが頑張って撮るから楽しくね!』
『さーて、第二種目よ!私はもう知っているけど~~何かしら!? 言ってるそばから
ミッドナイトの背後に現れるスクリーンに映し出される『騎馬戦』の文字。
軽いざわめきが起こる中、飛び抜けて顔を曇らせたのが上鳴。放電する個性のため、味方と触れ合っての共闘に極めて不利であった。
参加者42名が様々な反応を見せる。ミッドナイトは彼等を見渡しつつ、ルール説明を始めようとしたが――
ピー! ピー! ピー!
という、耳につんざくようなアラームが鳴った。
『な、なにかしら!?』
『んあ、ボクのだ』
『ちょっと黄彩くん。こういう時は電話の電源は切って置いて』
『コレ仕事用のやつ。緊急事しかかかってこないの。ちょっと出るから待って』
『緊急事?』
不穏な言葉に、ミッドナイトも眉間にシワを寄せる。
黄彩はインカムを道徳的な龍に預けて、古風を通り越して近未来なガラケーを開いた。
「……ん、…………ん、了解」
会話らしいものはなく、用件が一方的に伝えられて電話は切れた。ガラケーを制服のポケットにしまうと、インカムを装着し直し、放送用スピーカーとの接続を切った。
『消しゴムの人!』
黄彩がスピーカーとの接続を切ったことを理解し、同じく切った相澤が応じる。
『なんだ、どうした!』
『ヴィランがボクの作品とその購入者を傷つけた! ボク外で個性使わなきゃだから、一緒に来て!』
『一応俺、怪我人だぞ』
『ってことはここにいなくても警備上問題ないでしょ! オールマイト並みが複数でもないかぎりボクだけで応戦できる!』
『……わかった。とりあえず正門に集合だ。……オールマイト、俺と有製がしばらく席外すから代理を頼む』
『なんだかわからないが分かった! ここは私に任せたまえ!!』
『お、おいイレイザー? 一体どうしたんだ??』
『ちょっと黄彩くん!?』
『ヴィランが現れたから行ってくる』
『お、おい! ……あー、状況を説明します。相方がヴィラン退治に向かいました。怪我人が行く程度なのでご心配なく。……よろしく頼むぜオールマイト!!』
『私が行くまでもない事案ということだね! ハッハッハ!』
『と、とりあえず続行するわ!』
002
トントン拍子に状況が進み、雄英の正門付近に相澤と黄彩、道徳的な龍が集まった。
大人が二人乗りまでできる道徳的な龍に乗り込み、相澤と黄彩は問答する。
「つまり、俺はお前が対人で個性を使う免罪符になればいいんだな?」
「うん。それと保護者役かな。ボク身体こんなだから、大人の付き添いが居ると居ないとじゃ被害者の反応がかなり違う」
「ああ、実に合理的だ。……だからこそ俺を選んだな?」
「ルールを重んじる程度の合理主義者でしょ。だったらルール違反しない程度に合理的な案なら文句なく来てくれると思った」
「……嫌なくらい優秀な生徒だよお前は」
「ウフフ、ボクだもの」
「昼までには帰るぞ。腹へった」
「ゼリーばっかり食べてるからだよ。たまにはプリンも食べたら?」
「大差ないだろそれ」
003
空を飛ぶこと数分。都会の街並みに着陸した。
ヴィランの被害に遭ったのは、小さな宝石店。強盗か暴行か、黄彩が描いた絵を傷つけたことでセキュリティ機能が起動。絵が黄彩に直接通報したのだ。
どうやら強盗のようで、ガラス戸の向こうでは店主の男性が脅迫されていた。
「おいどうする。店内は狭い。お前、接近は苦手だろ」
「……響香から聞いたよ。イレイザーヘッドが言ったんでしょ、『ヒーローは一芸じゃ務まらない』って。No.13《若者》」
両腕の手刀を構え、ガラス戸を切り刻みながら突入した。
「もう安心して。ボクだよ」
「アァン? もうヒーローがきやがった……、ガキだと?」
「き、君は……?」
黄彩が飛び込んできたことに、ヴィランも店主も目を丸くしていた。
見渡してみれば、壁一面に貼られた大きな絵に銃弾が三発撃ち込まれていた。
「ボクのこのサイズの絵、200億くらいはするんだけどな。……命もお金も、粗末にするなよ。ぶっ殺すぞ!!」
「何言ってやが――」
それは、いつかのヴィラン襲撃事件のときにもあった光景。
一滴の出血もなく、ヴィランの手足が切り落とされた。
「ボクも前で学んだからね。手間もお金もかかるけど、治療すれば手も足もつなげられるよ。……イレイザーヘッド、警察」
「もう呼んである。すぐに来る」
店の外に潜んでいたミイラ男、相澤が店に入って来て店主は身構えた。
「あ、あなた達は……」
「安心してくれ、ヒーローだ」
「ボクはこの絵を描いた芸術家だけどね」
黄彩の言葉を聞いて、店主が目を見開く。
「この絵は先代が買ったものだけど、まさか君が?」
「うん。コレを描いたのは、四年前の六月だね。ボクが小学生の時。……悪いけど、コレ処分して。新しい絵を描くから」
「「……は?」」
相澤と店主の、間抜けた声が被った。
「ボクのスタイルってやつでね。コレみたいに、買った人が不幸な目に合ったときにダメになった作品は処分することにしてるの。呪いの絵画にしないために。ああ、お金はとらないから安心して」
「いえ! 助けていただいたのに、そこまでしていただくわけにはいきません!」
「おじさんの為じゃないよ。今ボクがここで描かないと、ボクの芸術家としての人生が歪むんだ。ここで妥協すると、ボクは傑作を作れなくなる。……ボクのために、描かせろ」
「あー、……俺からも頼みます。こいつの才能はこんなことで終わらせていいものじゃないんです」
「…………そういうことでしたら、わかりました。しかしお礼はさせてください」
店主はジッと、荒らされた店内を見渡しながら言った。
「いえ、我々もヒーロー。そういうわけには……」
「こちらにも助けていただいた人間としての意地があります。お互い、損はないでしょう」
「分かったよ、おじさん。消しゴムの人、ボールペン持ってるよね」
「安物だぞ?」
「ボクは画材を選ばないんだよ」
004
個性の塗装能力も駆使して、一時間たらずで、前のものより達者な絵を書き上げた。
ヴィランは切り落とした手足と共に警察に渡し、店主からお礼を受け取り、黄彩達は再び飛び立った。
「……なあ、あの絵、買ったら幾らになる」
「んー、あの頃の方が全盛期寄りなわけだけど、ブランド力は今の方が高いしなぁ。材料費諸々込みで、1000億くらいはするんじゃないかな」
「……買うやついるのか、それ」
「ボクの絵一枚あれば入館料とか閲覧料とか半永久的に取れるし、お金持ち向けの美術館とかが買ってくれるよ」
「無駄遣いに無駄遣いが重なって、非合理的の極みだな」
「芸術ってそういうものだよ。もちろん全部が全部じゃないけどさ」
「キュ、キュ〜……」
ふと、道徳的な龍は弱々しく鳴いた。
「ん、どうかした? …………ごめん、消しゴムの人。学校の前にボクのアトリエに寄るね」
「構わないが、どうした」
「ボクの作品、傑作でも体力には限りがあってね。流石に障害物競走で頑張りすぎたみたい」
「まあ、あんだけ飛び回ればな。勝手に無制限だと思い込んでいた」
「まさか。すじ肉の人の全盛期だってそうじゃなかったでしょ」
「……全盛期、か」
「道徳的な龍はボクのアトリエで休ませて、別の足で学校に向かうよ」
「分かった、任せる。……そうだ」
「ん、何?」
前に乗っていた黄彩がつい振り向いて後ろを見ると、相澤が包帯まみれの手で頭を掴み、「前見ろ、事故るぞ」といいながら前を向かせる。
「……立派にヒーローしてたぞ、お前」
「ウフフ、お墨付きってやつだね」
「調子に乗るな、芸術家」
「とことん乗るとも。そうでないと芸術を売り物になんてできないからね」
005
「……いつか聞くつもりだったが、お前はヒーローと芸術家、どっちになるんだ」
「んー? まあ、ヒーローの資格は欲しいよね。外で個性をフルで使うために。入試のとき、きょーかのために英雄になるって、前に決めたんだけどさ、それは辞めることにした」
「辞める?」
「英雄はね、作ることにしたんだ。芸術家として」
「人間を作る気か?」
「さあね。犬かもしれないし人かもしれない。……でも、今の平和の象徴はオールマイト。二十歳から、現役なのは長くても六十歳まで。四十年じゃ、短すぎると思わない?」
「それは常々、俺も思ってはいた」
「だから、次の平和の象徴はボクが作る。暴力は暴力でも、拳ではなく言葉の暴力で戦うヒーロー。肉体と違って言葉は衰えない。むしろ重みは増していくからね」
「……理想を語るのは誰にでもできる。お前はそれを作れるのか?」
「全盛期なら、簡単に作れたんだろうけど、今は無理。スランプなのか、創作意欲がてんでわかねーの。だからちょっとお願いがあるんだけど――
「ああ、分かった。掛け合っておこう」
「お願い。ボクのペンネームも使っていいよ」
「了解した」
キャラ紹介
有製
個性:図画工作
代々同じ個性、同じ髪色を受け継いできた家系の、直系の長男。金髪長身で、髪はかなり長い髪をストレートに下ろして切り揃えた、いわゆる今時の姫カット。名前が女っぽいが、顔つきは普通にそこそこの男。黄彩と燈の髪型は蒼の趣味。
黄彩には個性は引き継がれたものの、髪色までは継がれなかった。
黄彩を芸術の世界に引きずり込んだ張本人だが、黄彩が小学生になる頃には何もかもで追い越された。
個性《図画工作》の射程範囲は四畳程度で、手の届く程度の範囲ならば黄彩と同程度の精度で加工できる。
専門は彫像。響香の裸婦像を毎年成長記録として作るくらいには溺愛しているが、ロリコンではない。惚れた女がロリだっただけで。
黄彩の像も作っていたが、黄彩の工作技術が上がるにつれてダメ出しされるようになった。