001
第三戦、有製VS上鳴
『ドラゴンライダー? 天才カメラマン? いやいや! その正体は超一流の芸術家! ヒーロー科、人間国宝、有製黄彩!!』
観客からの歓声を背に、個性把握テスト以来、久しぶりに着る体操服姿で君臨した。
『ヴァーサスッ! スパーキングキリングボーイ! ヒーロー科、上鳴電気!!』
対する上鳴も、不適な笑みを浮かべながら黄彩の前に立ちはだかる。
『ド派手なバトル間違いなしの組み合わせ! スタァートォ!!』
開始の合図がされても、お互い動かない。数秒経って、上鳴が、口を開く。
「やる気ねぇなら安心しろよ」
「ウフフ、それはどういう意味かな、ウェイの人」
「多分この勝負、一瞬でおわっからぁ!!」
宣言とともに、上鳴は全身から放電する。
対する黄彩は、相変わらず一切動かず。
「無差別放電、130万ボルト!!」
「ウフフ、惜しいなぁ」
放たれた電撃は、上鳴より背後に飛んだものも含め、一瞬で消滅した。
「……ウェ?」
『おーっと! 上鳴渾身の一撃、まさかの不発か!?』
「こんなものに名前なんて付けたくないけど、まあ《過ちの光》、とでも名付けようか」
――瞬間。
既に脳がショートしてアホになっている上鳴の目の前に光の玉のようなものが現れ、そこから強烈な光が放たれた。
「ウェ〜〜イ!?!?」
強烈な光により、上鳴はアホな悲鳴とともに気絶した。
『瞬殺! マジで瞬殺!!』
『二回戦出場! 有製くん! ……黄彩くん、何したの?』
ミッドナイトが尋ねながら、近寄ってくる黄彩にマイクを向ける。
『ボクの個性は加工手順の省略。エネルギーの変換も、ある意味、加工と言えるじゃん? だから、ウェイの人の電気を光に変換したんだっ! 電球みたいに。やろうと思えば、レンジでチンしたりもできたよ!』
『怖い怖い怖い怖い! 黄彩くんそれ絶対禁止だから!』
002
幾らか時を進んで、第七戦。耳郎VS切島。
一応、第四戦の飯田VS発目で黄彩が発目と組んで大いに盛り上がった事は言い残しておこう。
『人間国宝のお気に入り! イヤホンジャックのロックンガール!! 個性的に俺めっちゃ応援してる! 耳郎響香!!』
コネで本戦に参加していると思われているからか、響香を応援する歓声は少ない。
「ま、その方がやりやすいかな」
『ヴァーサスッ! 男気一筋ど根性!! 硬化! 切島鋭児郎!! 第七試合、スタートォ!!』
わかりやすい人柄もあってか、対照的に歓声が非常に多く大きい。一部響香への罵倒に近いものがあって黄彩のテンションが下がった。
「地に足、ちゃんと付けててよね。……じゃないとうっかり死ぬから」
「はっ、上等!! 正面から打ち破ってやる!」
響香の挑発に乗っかり、切島は全身を硬化させて地面を踏みしめた。
「先手圧勝! 吹っ飛べハートビートアイランド!!」
響香は姿勢を低くし、両耳のイヤホンジャックを地面に刺した。
『ちょ、きょーかそれ――
黄彩の驚く声が、しかしそれ以上の爆音にかき消される。
スピーカーに挿して心音を爆音で流し攻撃するのが基本の戦闘スタイルだが、今回の攻撃は、爆音が足元から鳴り響いた。
ドォン! ドォン! ドォン!
爆音はフィールドそのものが浮かび、落下する際になっているもの。音と落下の衝撃が重なり、地面からもろに食らった切島は、硬化が災いしてか全身を芯まで揺るがしながら宙へ浮き上がる。
「ナナナナナ!?」
「地に足つけてないと死ぬって言ったよね! ウチがな!!」
「キキキイイタタナッ」
全身が震えていて、まともに発声できていない。
「どっせい!!」
いわゆる、ヤクザキック。イヤホンジャックを抜きつつ走り、膝を曲げた状態で足裏を当て、そこから勢いよく伸ばすことで切島を弾き飛ばした。
『切島くん場外!』
「なににににいいい!?!?」
硬化が裏目に出たのか、個性を解いてなお切島はまだ全身が震えていて立ち上がることすらできない。
『二回戦出場、耳郎さん!!』
「やったよ、黄彩!!」
『うん! かっこよかったよ、きょーか!!』
『クゥー!! 仲睦まじい少年少女! おじさんちょっと泣きそうだ!!』
『なに言ってんだ……』
『それじゃあ、トマトの人、……喋れる?』
『ジョジョウトウダダッ』
『切島喋れてねぇ! ウケるぅ!!』
『トマト農家の方々、こいつに指名、何卒よろしくお願いします』
『黄彩くん、あなたイレイザーになにしたの』
『それは言いがかりっていう奴なんだよ!?』
セメントスによるフィールドの修復後の第八戦、麗日VS爆豪の試合は壮絶な攻防戦に、延々カウンターを繰り返す爆豪へのブーイング、見かねた相澤の一喝など、黄彩が口を挟む暇のない戦いであった。
002
次の試合まで休憩しようと響香は席へ向かっていると、カメラとマイクをどこかに預けてきたであろう黄彩が追いかけてきて、声を掛ける。
「きょーか、どういうことなの? あの技。……あれは」
黄彩の言っているのは、響香が試合で使用した《ハートビートアイランド》
「黄彩が仕上げた、
「そうだよ! 今のきょーかじゃ使えるはずない! てか覚えてるはずがないんだよ!」
言いながら黄彩が思い出しているのは、《道徳的な龍》をきっかけに響香を響香だと認識しだして間もない頃。
まだ黄彩との距離感に戸惑っている頃に、なにを思ったのか響香は黄彩に自分を使ってみてと、言った。
――絶叫。絶叫。絶叫。
黄彩が自分の身体を作品にするときと同じ、あるいはそれ以上の激痛が響香を襲った。強引に肉体が引き延ばされ、継ぎ足される、圧縮された成長痛。
傑作No.999
言うなれば、それは、最も最適な生活と訓練を毎日し続けた
肉体の急激な変化に耐えられず、すぐに異形へ歪み始めたため黄彩が元に戻したが、それでも響香が試しにと使った技の一つが、ビートハートアイランド。
黄彩の作品の材料にも使える上質な素材でできた床材を、スプーンで掬ったかのようにくりぬき、宙へと浮いてみせた技。
「痛いのを忘れさせるために、記憶はちゃんと封したはずなんだよ?」
「そうみたいなんだけど、ウチが成長して近づいたからかな、まだこの技のことだけなんだけど、思い出した」
「身体は平気? 耳とか頭とか痛くない? あと手とか足とか、あとえっと、」
慌てふためく黄彩の頭を撫でながら、響香は笑顔を見せる。
「心配しすぎだよ、黄彩」
「するよ! だってあのとき、響香死ぬかもしれなかったんだよっ!?」
「平気だってば。痛くも痒くもない。……そんなに心配なら、一応リカバリーガールのとこ行く?」
「……うん、行く」
微かに聞こえてくる次の試合の始まりを背に、黄彩と響香は手を繋いで医務室へと向かった。
003
「……あんたが何をそんなに心配したか、私にゃわからないけどね。至って健康体だよ、よかったね」
響香に、試合に支障をきたさない程度の簡易的な検査を施したリカバリーガールの言葉に、黄彩はホッと息を漏らした。
「ほら、言ったでしょ。ウチは平気だって」
「……うん、よかった」
しかし。
「それよりあんたの方だよ、あんた」
リカバリーガールはキッと黄彩を睨みつけながら腕を掴み、引っ張った。
「検査しなくても見りゃわかっちまうよ。身体のバランスがグチャグチャになってる。……言いづらいけどね、いつ動けなくなってもおかしくないよ。そして医療でどうにかなるものじゃない」
「え……え!?」
「うん、知ってる。身体いじる時に、その辺の勉強は一通りしたからね」
青ざめる響香とは対照的に、黄彩の表情は冷淡。
「あんたの身体は今ね、無個性の人間を手術で無理やり異形型にして、それをさらに手術で元に戻してるようなもんだよ」
「リカバリーガール! どうにかできないの!?」
両方を掴んで激昂する響香に、リカバリーガールは諦めた表情で首を横にふる。
「異形型を手術で普通の見た目にできないように、メスの入れようがないよ。ガタがきたところから応急処置を施すことで延命はできるけど……」
「うん、それならもうやってる。個性で簡単にできるからね」
「……それなら黄彩、個性で治したりはできないの?」
「んー、治してるつもりなんだけどね。毎回どっかしらでミスしてるみたい」
「……なぁあんた、そのミスが分かれば幾らか改善できるかい?」
リカバリーガールの言葉に、黄彩は小さく頷く。
「多分、改善はできるんじゃないかな」
「それなら、これからしばらく
「…………うん、わかった」
渋々と言った様子で、黄彩は応じた。
「わかったならほら、もうじき試合だろ」
しっしっと払いながら、リカバリーガールは黄彩から目を離して机に向いた。
「ありがとうございます、リカバリーガール」
「ありがとねっ、治癒の人!」
「ん、長生きしなさいよ」
医務室を後にし、黄彩は直接待機室へと向かった。
二回戦第二試合、有製VS飯田。