芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第十六話 芸術家の冷血工作と爆音爆音

001

 

 

 

 二回戦第二試合、有製VS飯田。

 前の試合で、発目と共に翻弄した黄彩と対し、飯田の表情には怒りがにじみ出ている。

 

「俺は君が嫌いだ。サボり魔め」

 

「ウフフ、誰かな、君は」

 

『芸術家志望の問題児! 有製黄彩!! ヴァーサス! ヒーロー志望の委員長! 飯田天哉!! 二回戦第二試合スタァートォ!!!』

 

「君相手に先手必勝は愚の骨頂だと上鳴君が教えてくれた!」

 

 エンジンを吹かし、飯田は黄彩に急接近する。

 

「ウフフ、君の口が音速では走れないと語っているよ? その程度は認識の範疇だよ。――冷間加工」

 

 足払いを掛けようとした飯田は、しかし射程範囲に入る前に真横から衝撃に襲われた。

 

「グアッ!?」

 

 飛ばされた方向と真逆にエンジンを吹かすことで踏みとどまったが、ダメージは決して少なくない。

 

「先手必勝はボク相手に勝つならむしろ正攻法だよ。手順を省略するとは言え、思考する分の隙はある。ウェイの人は単純に相性の問題だよ」

 

「だったらもう一度切り替えるまでだ!!」

 

「んー、君の口は正直すぎるね。――作品No.02《石薔薇》」

 

 足元のセメントに、黄彩の個性で薔薇が咲き誇る。

 

「ぬおっ!?」

 

「ウフフ、ボクの作品を大事にしてくれてありがとうね」

 

 走る飯田の前に現れた薔薇を、踏み抜いて走れたにも関わらず、急旋回してバランスを崩した。

 

「っく、俺は君が嫌いだが、君の夢は応援しているつもりだ。……だから俺の良心を利用するんじゃない、卑怯者め!!」

 

「ウフフフ、ボクの持論だけど、芸術家っていうのは誰彼構わず人の心で人の心をねじ曲げる仕事なんだよ。――作品No.58《従順な大英雄》」

 

 セメントの薔薇は一塊になり、黄色く染まりながら人間の骸骨となって立った。

 

「それは……、オールマイト先生とのときの……」

 

「あのときはいいとこ見せられなかったからね」

 

 骸骨は先の飯田に負けず劣らずのスピードで走った。

 

「自分の身で戦えるんだろう、君は!!」

 

 止むを得ず、といった表情で飯田は、骸骨の腕を砕き激昂する。

 

「武道を芸術に含めるのにボクは賛成だけど、ボクは体力がなくてね。――ほら、二つ目」

 

 床を削りながら、もう一体骸骨が現れる。

 すると至る所から、「卑怯だぞ」「正々堂々戦え」「それでも男か」などと声が飛んでくる。

 

「卑怯? 卑劣? 汚い? それでもボクは芸術家だ!!」

 

 観客席から聞こえてくるブーイングの言葉に、黄彩は満面の笑みで答えた。

 

「綺麗に可愛く美しく!! ボクはボクの力で喧嘩してるぞ! ――放電加工!!」

 

「ガァァアアア!!?」

 

 左右から襲いかかった骸骨が砕け散りながら、飯田を挟むように放電し感電させる。

 観客から心配の声が上がるが、飯田は煙を上げながらも倒れず黄彩を見据える。

 

「清く、正しく、規律を重んじる、人を導く愛すべきヒーローになるんだ!! レシプロバースト!!!」

 

 それは、飯田家に伝わる必殺技。トルクの回転数を操作して爆発的な加速を可能にするが、しばらくの間エンジンが動かなくなる。

 

「ウフフ、そういう個性の人とは喧嘩し慣れてるんだよね。だから攻略法も知ってる」

 

 急カーブの動きで黄彩の背後をとった飯田は蹴り技を放つも、振り始めた頃には黄彩は目視するまでもなく回避している。

 飯田の動きが遅いのではなく、黄彩の回避が速いのでもなく、黄彩の行動が早いのだ。

 

「ゆっくり避けると、焦って無理に速度をあげるんだよね!」

 

「ウオォオオオ!!」

 

「ウフフ、速い速い!」

 

「まだまだぁ!!」

 

「うにゃいなぁ、全く全く」

 

 突如として黄彩が動きを止めれば、飯田の身体が加速の勢いで倒れた。

 

「なっ!!?」

 

「さらに向こうへ、PULS ULTRA、だったっけ。加速系の人は常に、新幹線、ジェット機、音、光っていうわかりやすい目標があるから限界を超えやすいの。でもボクは君より速い男をしってるよん。――作品No.07小型版(ミニチュア)《裕福な右手》」

 

 床から伸びた右手が、倒れた飯田を掴んで拘束した。

 

『飯田くん行動不能! 三回戦進出、有製くん!!』

 

 

 

002

 

 

 

 二回戦第三試合、芦戸VS常闇は常闇が勝利した。開始時に黄彩はまたもやその場から去っており、敗北した芦戸にはミッドナイトがアピールタイムと漫才の時間を設けさせた。

 

 そしてその次、耳郎VS爆豪。

 

『爆裂! 爆音! ぶっ壊せ! 爆豪勝己!! ヴァーサスッ! 心音! 爆音! ぶっ壊せ! 耳郎響香!! 耳栓の用意は十分かぁ!!?』

 

『……何言ってんだお前』

 

『スタァートォ!!』

 

 合図と同時に、爆豪は掌の爆発で加速しながら響香に急接近する。

 

「ぶっ殺ぉす!!」

 

「悪いけど、黄彩と喧嘩できるチャンスだからね! 負けられない!」

 

 響香が姿勢を低くし、また地面にイヤホンジャック刺すが……。

 同時に爆豪も姿勢を低くし、両手を地面に伸ばす。

 

――爆音!!

 

『マジで速攻ぶっ壊しやがった!! 泣くなよセメントス!!』

 

 浮き上がった地面が爆豪の爆破で叩きつけられ、粉々に砕けちる。

 

「足場悪いとこ、走り慣れてないでしょ!」

 

「うっせぇ! 飛びゃ問題ねぇだろ!!」

 

 爆豪は瓦礫を避けるように爆破で飛ぼうとするが、それも響香の作戦のうちだった。

 

 対人戦なら正攻法。イヤホンジャックを全速力で伸ばし、動きの読みやすい飛び始めに命中、差し込んだ。

 

 響香の心音が爆音で爆豪に響き渡る……、が、爆豪は動じることなく空中で動く続ける。

 

「爆音なんざいつでも聞いてらぁ!」

 

「バケモンか!? あぁ、いやそうだったね!!」

 

 イヤホンジャックが絡まらないように立ち振る舞いながら近接戦闘に応じるポーズを取るが、まともに訓練していない素人芸。

 速攻で懐に潜り込まれ、腹部で爆破を起こされた。

 

「キャァー!! ……っつー、痛ったいし火傷したぁ!!」

 

「まだまだぁ!!」

 

 爆破の勢いでイヤホンジャックは抜け、憑き物が取れたような表情で爆豪は爆破のペースを上げる。

 

 防戦一方。あるいは滅多打ち。場外に出ないようにしながらも、ダメージは一方的に響香に入る。

 

「とっとと、場外でやがれやぁ!!!」

 

「うっさいよ……」

 

「聞こえねぇなぁ!!」

 

 響香の胸ぐらを掴み持ち上げ、爆破ではなく頭突きを喰らわせた。

 気絶狙いの攻撃だったのだろうが、響香は顔を赤くしながらも精一杯の笑顔を見せた。

 

「っつぁ……。バンバンって痛ぶってくれちゃってさぁ。……いい感じに火照ってきたよ。後悔すんなよ、爆豪!! ――形状記憶、耳郎響香!!」

 

 油断の気を見せない爆豪を、響香は踏ん張りの効かない状態で蹴り飛ばした。

 

『……響香、その状態が持つのはせいぜい二十秒、だからね。過ぎたらボクが乱入してでも終わらせるから』

 

 爆破で場内に踏みとどまった爆豪が、響香の姿を見て目を見開く。

 

 ボブカットだった髪は肩まで伸び、背も一回り高くなっていて、体操着の丈が足りず、臍のあたりが露出している。

 成長期が過ぎているからか肉体の変化が少なく、大した痛みもないことを確認して、十歳ほど成長した(全盛期の)響香は熱っぽい顔で不適に笑う。

 

「若いウチが世話になったね、ガキ爆豪!!」

 

「歳とった原理は知らねぇが、関係ねぇ! ぶっ殺す!!」

 

 爆豪はさらに宙高くへ飛び、爆破で錐揉み回転しながら響香に突撃するが……。

 

「まだまだ若いねっ!」

 

「ハウザーインパっがぁ!!?」

 

 個性のこの字もない、シンプルな跳躍と飛び膝蹴り。落下と回転の勢いを乗せた爆発を放とうとした爆豪の顔面を、爆発する前に掴んで膝をめり込ませた。

 思わず鼻を押さえた爆豪の後頭部を掴んで態勢を整え、顔面を地面にめり込ませた。

 

『じ、耳郎さん、なのよね? 彼生きてる?』

 

「そりゃもちろん。ってかミッドナイト若!? 相澤先生も!!」

 

『ちょっとそれどういう意味!?』

 

『おいお前どういう状態だ』

 

 急成長し、妙にはしゃいでいる様子の響香に文句を言いつつ、ミッドナイトは爆豪の意識を確認する。

 

『爆豪くん気絶! 三回戦進出、耳郎さん!』

 

『ヒーローのみんな! 若いウチをよろしく!』

 

 マイクを持っているわけでもないのに何故か放送用スピーカーから言葉を流し、眠るように響香は倒れた。

 

『あっちょ、あっぶなぁ……。傑作No.000《耳郎響香》』

 

 頭を打つ寸前で響香を受け止めた黄彩は、安堵の息を漏らしつつ個性で響香の姿を元に戻した。

 

「……ねぇ黄彩くん、今の耳郎さん、なに」

 

 ミッドナイトはマイクそっちのけで、訝しむ目で眠る響香をなんとか肩で支えている黄彩を見ながら問い詰める。

 応じるように、黄彩はそっと響香を寝かせ、カメラをその顔に向けた。

 

『ウフフ、……見たか、聞いたか、響いたかぁ!! アレがボクの最高傑作、耳郎響香だ! 未来に立つ最強だ!』

 

 笑いながらの黄彩の声に、盛大な歓声がスタジアムいっぱいに響いた。

 

 

 

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