芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第十八話 体育祭の音響影踏と轢殺殺尽

001

 

 

 

 準決勝第一試合、黄彩と轟の試合前、響香は医務室でリカバリーガールの検査を受けた。

 

「……結論から言うと、前に検査したときと比べて大差はないよ。ただ、やったあのバカから聞いてるだろうけど、負担、まぁ全身隈なく疲労が溜まってるよ」

 

「えっと、それだけですか?」

 

 聞いてたほどのヤバさが無いことが気がかりで尋ねるが、リカバリーガールは呆れたようにため息をつく。

 

「……ハァ。今すぐどうこうなるような症状はないよ。栄養価の高いもの、……ああ、屋台にチョコバナナがあったはずさね。それ、たらふく食べてきな」

 

 火傷を負った腹部や腕に薬を塗って包帯が巻かれ、響香は追い出されるように医務室を出た。

 

「ケロ、響香ちゃん、身体は大丈夫だったのかしら?」

 

「あ、梅雨ちゃん」

 

 心配して見舞いか、偶然通りすがったのか。そのポーカーフェイスからは窺い知れないが、梅雨が響香に声をかけた。

 

「うん。火傷は大したことないけど疲労が溜まってるから、チョコバナナ食べてきなって」

 

「事情はよくわからないけど、無事なら良かったわ」

 

「今、黄彩の試合中? それとももう終わった?」

 

「ケロ? まだ始まってもいないわ。響香ちゃんと爆豪ちゃんの試合の後、セメントス先生が修理してて、その間プレゼント・マイク先生が遊んでいるわ」

 

「遊んでるって、言い方……。まぁ、いっかウチ屋台でなんか買ってくるけど、」

 

「私も付き合うわ。……彼に遭遇して、今度こそ襲われたりしたら笑えないわ」

 

「大丈夫だと思うけど、じゃあお願い」

 

「ケロ、任せて」

 

 

 

002

 

 

 

『ウフフ、ボクだよ? 作品No.74《細雪(ささめゆき)》』

 

 轟が発生させた氷山が一瞬で消え、黄彩の個性で氷山は雪となって降り出した。

 

「ケロ……、寒いわ……」

 

 屋台で買い込んで観客席戻った頃には、黄彩と轟の試合が始まっていた。

 

「二人とも、範囲攻撃が得意だからね……。大丈夫? お好み焼き、まだあったかいけど食べる?」

 

「ごめんなさい、いただくわ」

 

 カエルの個性故に寒さに弱い梅雨に、響香は体を寄せながら屋台で買ったお好み焼きを渡す。

 

『ウフフ、教えてあげるけど、ボクには電気とか氷とか炎とか光とか、放出するような技は大体効かないよ。難しいのは音とか振動くらいかな』

 

「ケロ、……もしかして響香ちゃんって、有製ちゃんの天敵でもあるのかしら?」

 

「まさか。材料にしにくいってだけで、吸音材でも作られたらそれで攻略されちゃうし」

 

「ヒーロー志望じゃないのがもったいない……、とも言えないのかしら。……ケロ」

 

「なろうと思えばヴィランにもヒーローにも、芸術家にも職人にもなれる。天才とは何かって聞かれたら、ウチは黄彩のための言葉だって言えるよ」

 

『変に接戦させる理由もないし、勝つね。――模倣《右腕変形(ライトアームトランス)巨人(ジャイアント)》』

 

「……大きいわ」

 

「ウチ、そろそろ行くね」

 

「ケロ? 最後まで見ていかなくていいの?」

 

「黄彩が形振りを構わないなら、人前で模倣技を使うなら、負けるはずないからね。……これ、みんなで食べちゃっていいよ」

 

 響香はチョコバナナ以外を梅雨に渡して、控室に向かった。

 

 

 

003

 

 

 

 準決勝第二試合、常闇VS響香。

 

『闇より出でし影を従える猛者! 常闇踏影!! ヴァーサスッ! 年齢すらも伸縮自在か!!? 長短自在のイヤホンジャック! 耳郎響香!! スタートォ!!』

 

 クラス随一の実力を誇る爆豪を容易く屠った姿を警戒してか、常闇は黒影(ダークシャドウ)を出して威嚇する。

 

「悪いけど、黄彩との喧嘩のために体力温存しておきたいんだよねっ!」

 

「俺は前座にすらならないというわけか!」

 

「あとお腹いっぱいで動きたく無い!!」

 

 響香の個性、イヤホンジャックの射程は6m。場外狙いや爆音慣れしている爆豪でない限り、十分すぎる。

 

 響香の個性一辺倒の攻撃に、常闇も黒影のみで対応する。

 

『地味!! 本当にこれ準決勝の戦いか!?』

 

 耳郎が伸ばし、黒影がはたき落とす。派手さの欠片もない戦いにプレゼント・マイクが嘆き叫ぶ。

 

 互い一歩も歩まずの攻防戦に、実況も観客も静まり返る。

 

 

 

 五分も伸ばして叩いてを繰り返した頃、状況は一変する。

 

「実態があるなら、音も通るよね!!」

 

 常闇本人を狙ったと思い込ませて、庇った黒影にイヤホンジャックを突き刺した。

 

「「ギャー――!!??」」

 

 使い方によっては全体攻撃にもなる響香の心音は黒影を挟んで尚破壊的で、常闇は地に伏せた。

 

『常闇くん気絶! 決勝進出、耳郎さん!!』

 

『きょーか、来たね』

 

 常闇の気を確かめに来たミッドナイトと共に黄彩が上がり、らしくも無く握り拳を響香に向けた。

 

「なんか、あれだ。心が踊る!! いや歌う!!!」

 

『綺麗に可愛く、美しく!!』

 

――一触即発!

 

 そんな雰囲気に飲み込まれそうになりながらも、ミッドナイトは鞭を鳴らしながら間に入る。

 

『やる気満々はいいけれど、先に三位決定戦よ。怪我もないなら、ほら行った!』

 

『え〜、先にやっちゃだめ?』

 

『ダメよ』

 

『どうしても?』

 

『何をしても』

 

『ムゥ……』

 

 黄彩は障害物競走で使った《裕福な右手》《苦難の左手》を脅すように向けながら頬を膨らませるが、背後から脇に手を入れられ、抱き上げられた。

 

『わっ、わっ!?』

 

「黄彩、迷惑かけるな」

 

『……はーい』

 

 担架で運ばれる常闇と共に、響香は黄彩と共に控室へ向かった。

 

 

 三位決定戦は常闇が目覚めるまでの三十分ほど、プレゼント・マイクと相澤の漫才を挟んでから行われ、轟の圧勝で終わった。

 

 

 

404

 

 

 

「ギャハハッ! いいなぁ、やっぱあの二人は他と違がう!」

 

 場所は人が離れて長い、廃工場が密集する地帯。

 響香曰く殺人鬼――巻解使駆はネット配信されている雄英体育祭の中継をスマホで見ながら、プロヒーローが体育祭に夢中になっているのを見計らったヴィラン達に囲まれていた。

 

「オイオイ、クソガキィ。テメェ自分の状況わかってんのか、アァ?」

 

「『テメェ自分の』って頭痛が痛いみたいでおもしれぇなっ!! ギャハハハハハハハ!!! おれぁヒーローじゃねぇが悪の敵! 殺すべきを轢き殺す執行車! ――今日は殺しはしないつもりだったんだが、こいつは仕方ないよな? ノーマルモーター」

 

 スイッチを入れた使駆はスマホをポケットにしまい、両腕を広げながら、壁にぶつかるのも気にせず、ヴィランを巻き込みながら走り出した。

 

「クソ! このモーター音に超スピード、間違いねぇアンチヴィランだ! 逃げろ!」

 

 走り出した方向と反対方向にいたおかげで免れた、岩石系の異形型が生き延びたもの達に叫ぶ。

 

「ギャハハハハ!! おっせぇよクソ野郎ども!! ――逃さねぇ、トルクチューンモーター」

 

 スイッチを切り、方向転換してスイッチを入れ直した使駆が岩石男を蹴り砕いた。

 岩の破片と共に、血肉が飛び散る。

 

 それで尚勢い緩めず、一般人のいる居住区への道を駆けるヴィラン達を轢き殺す。

 停止し、居住区を背に躱したヴィランを見据えた。

 

「ち、畜生!! せめて道連れにっ」

 

 この道に逃げ生き残ったヴィランは残り二人、全身からナイフのようなものを生やした男が使駆に向かって刃だらけの腕を振るうが、

 

「馬鹿やめろ!!」

 

「ギャハハハハハハッ!!! いいぜ買うぜその喧嘩!! ――ライトダッシュモーター」

 

 先のものよりずっと速いスピードでのタックルは、刃も血も肉も区別なく木っ端微塵にした。

 

「ギャハハハハハハハ!!! ギャハハハハハハハッ!!! 」

 

「な、何が目的なんだお前は!!」

 

「ギャハッ! なんだテメェヒーローみてぇなこと言いやがるなぁ!!? テメェそれでもヴィランかぁ!!」

 

「う、うっせぇ! おれだってヒーローになりたかったさ! でも、」

 

「テメェの人生なんざ興味ねぇよっ! ――トルクチューンモーター」

 

 何か言いたげだったヴィランも加速された蹴りで身を崩し、完膚なきまでに絶命した。

 

 使駆は中に肉が残った衣服から財布を抜き取り、中身を確認する。

 

「お、こいつヴィランのくせに自動車免許持ってんじゃねぇか。レアだな!! ギャハハハハハハ!!」

 

 

 

 

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