001
轟VS常闇の三位決定戦が終了し、フィールドを整え終わり。
『さぁ! 雄英体育祭もいよいよラスト!! 雄英一年生の頂点が今決まる!』
プレゼント・マイクの言葉を背に、黄彩と響香が入場する。
『イカサマ? 卑怯者? 時の運も実力のうちだぜ! 実力未知数の芸術家、有製黄彩! そして耳郎響香! なんとびっくり幼なじみ同士のぶつかり合い! こいつぁシヴィー!!』
黄彩がニッコリと笑えば、響香も不適に笑う。
『準備はいいかぁ!?』
「ちょっと待ってー!!」
『レディ、……ええ??』
始めようとしたプレゼント・マイクを静止させたことで、黄彩に至る所から視線が集まる。
「ウフフ、ボクがしたいのは喧嘩だからね。――傑作No.15《ボク》」
黄彩の手足が光を帯びながら伸び、胸が膨れ、顔つきにも変化が生じる。
「ウフフフ、やぁ、響香ちゃん。久しぶり」
「……マジかお前」
――女体化。
性意識が男である黄彩には、母親に着せ替え人形にされた、傑作は傑作でも皮肉混じりの傑作。
別名、運動形態。小学生の肉体で成長を捨てた男性の肉体と違い、中学生まで適切に暮らしたことを想定して作られた、黄彩のもう一つの肉体。
なお、性格はキャラ作りではなく、これはこれで人生の省略とその後、母親等周囲の人間に影響を受けたことによるものだ。
『え〜と、有製くん? 有製さん?』
「今のボクは黄彩ちゃんだぜ、ミッドナイトちゃん! マイクくん、もういいよっ!」
『あ〜、まぁ、異形型の範疇ってことで、ルール的に問題ない、……のか?』
『……両者同意の上なら構わないだろ。険悪な仲でもないだろうしな』
相澤の面倒臭そうな言葉に皆々呆れつつも、プレゼント・マイクは気を取り直した。
『そんじゃまぁ改めて、スタートォ!!!』
「とりあえずぶん殴られてよっ、響香ちゃん!!」
「調子狂うんだけど!?」
いつもの黄彩からは決して見られない高速移動。と言っても女子中学生の全速力程度だけれど、身長や手足の長さも相まって、それは響香には見にくい(醜いにあらず)ものであった。
「愛してるぜ!」
「ウグッ!!?」
言葉と矛盾した顔面へのストレートパンチ。
「このっ!」
対抗するように目つきを変えた響香は黄彩の二撃目を捕らえ、もう片手を鳩尾にねじ込んだ。
「ゲバッッ、ゲハッゲハッ、っつー、普通女子中学生のお腹をグーで殴るかね」
「……女子中学生は『ゲバ』とは言わないっての」
「言うよ! いまボクが言ったぜ! 痛くて言いたくもないゲバという美の対義語のごとき汚言葉を、このご尊顔の美しき唇から放たれたんだぜ!」
――頭突き。
黄彩の言葉に相当苛ついたのか、響香は掴んだ腕を引き寄せて、顔面に前頭部を叩きつけた。
「長い。あとそもそも、今黄彩は高校生だよ」
「ウフフ、へぇ」
打った鼻をさすりながら、黄彩は微笑む。完成された、美しい微笑み。
苛つきや困惑をしても、心を歪められそうなその美しさに響香は思わず目を逸らす。
「……そういえばボクはこう言っていたか。『喧嘩しよう』と。ここは一つ、ボクが喧嘩を売ってあげよう」
振り払うように響香の手を腕から払い、自分の胸を揉みながら言った。
「全盛期の響香ちゃんのおっぱい、この傑作たるボクより小さかったなっ!」
「死ねっ!」
完成された可愛さ満点の満面の笑みを、拳で砕いた。
「ウフフフフ」
砕けた笑み。朗らかな、親しみやすさの増した笑み。
「いいなぁ。これぞ叩き売りならぬ叩き買い。いい度胸してるよ、大好き!」
「いい度胸してるのはアンタよ。人の心めちゃくちゃにして」
「ウフフ、ボクはボクよりも完成してるんだぜ? 綺麗さ、可愛さ、美しさ。たった三つしか知らないボクとは違うんだ」
殴りかかった響香の拳を躱し、勢いそのままに、唇と唇を重ねた。
「ンッ!?!?」
「んっ、っはぁ」
刹那、観客席が静まりかえったあと盛大な歓声と拍手が轟いた。
「これはボクには無い芸術作法だよ。響香ちゃんはキスというものを知っているかな?」
「っ、知るかバーカ!!」
なんとなく、喧嘩に使うのは反則だと思っていたイヤホンジャックを、黄彩の胸元に突き刺した。
「うにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!?!?」
「ウチのドキドキ、身をもって思い知れ!!」
心音を流し込んで対象に攻撃する技は、黄彩に満遍なく炸裂した。内から湧く音から堪えるように耳を押さえるが、当然意味はなく。
「出力増強!」
響香は上着をまくり上げ、臍あたりを露出した。
「うにゃー!!?? ――、キュウ……」
黄彩も響香も、顔どころか首元まで真っ赤に染め、黄彩は気絶した。
『……なんだこのキャットファイト。あ、ああー、有製気絶! 勝者は耳郎響香!! 優勝はA組、耳郎響香!!!』
『……やるならちゃんとやれよ。同情はするが。この場の全員何を見せられてたんだ、いま』
『小説よりも奇妙な告白の一幕、かしら? まぁ黄彩ちゃんはキャパオーバーしちゃったみたいだけど。ウブ過ぎたのかしら』
この瞬間、とてつもなく微妙な空気で響香の優勝が確定した。
倒れた黄彩からイヤホンジャックを引き抜き、いつものように抱き抱えようとするが、黄彩の胸が響香の顔に押しつけられた。
「……むぅ」
「響香ちゃん、ボクなら工作で胸のサイズアップできるぜ?」
気絶が浅かったのか、響香の腕の中、というか上で黄彩がささやく。
「……起きたんだ。前に一回、冗談でウチが言った時は嫌がったでしょ」
頬を膨らませた響香が、黄彩を下ろす。
「それはあくまでボクの話だぜ? ボクは創作意欲と発想力以外はボクの上位互換なんだ。響香ちゃんが巨乳になろうとそれも響香ちゃんだと受け入れた上で傑作にし尽くして見せるさ」
黄彩が抱きつき、耳元で囁くと、響香は顔をそらしながら言う。
「ならやめとく。どっちの黄彩も、……その、好きだから。アンタも今のウチを好きって言ってくれたでしょ」
「ウフフ、それでこそボクとボクの愛した響香だ」
『……アンタ達、さっさと表彰台に乗りなさい。マイク向けるわよ』
地面に下ろしたり抱きしめあったりしている響香と黄彩に、ミッドナイトがナイフで脅すが如く表情でマイクを見せた。
「ウフフ、ミッドナイトちゃんも早く相手見つけないと、後々つらいぜ?」
「黙りなさい。殴るわよ」
「おお、怖い怖い。それじゃあ行こうか、響香」
「……なんでアンタ、女になった方が男らしいの」
つべこべ言いつつ、響香は黄彩に手を引かれながら表彰台へと向かった。
002
『それではこれより、表彰式に移ります!!』
雄英スタジアムの上空に色とりどりの花火(黄彩♂監修)が幾つも打ち上げられる中、巨大な表彰台の前に立ったミッドナイトがそう宣言した。
三位 轟 焦凍
二位 有製 黄彩
優勝 耳郎 響香
表彰台に三人が上がると、各々に盛大な拍手が起きる。
『メダル授与よ! 今年、一年生にメダルを贈呈する人はもちろんこの人!!』
「私が! メダルを持って『我らがヒーロー、オールマイトォ!!』きた……」
天高くから落下して登場してきたオールマイトだが、打ち合わせしなかった弊害かセリフが被ってしまった。
持ち前の明るさですぐに気を取り直したオールマイトは早速メダルの授与に取り移った。
「轟少年、三位おめでとう! 有製少年とはまぁ、残念だったな」
「はい。どうしようもないほど、完敗でした」
「ああ、そうだな。だが、有製少年だって万能ではない。君にでも勝てる方法が絶対に見つかるはずだ。そしてその方法や経験は他でもきっと生かせる。精進したまえ」
「はい」
オールマイトは轟にメダルを首に下げ、ハグして、次に黄彩の前に移った。
「有製少年……、少女?」
生徒達の仲でも、頭ひとつ抜けて関わりの深かった黄彩に、オールマイトは困惑している。
「今のボクは黄彩ちゃんだぜ、オールマイトくん?」
「じゃあ、黄彩少女」
「黄彩ちゃん」
「き、きいろちゃ、ん……」
「「ウブかアンタ!!」」
言い淀むオールマイトに、隣で見ていた響香とミッドナイトが同時にツッコミをいれる。
「うっ、ううん! 黄彩少女! 二位おめでとう!」
((勢いで乗り切る気だ……))
「知っていたが君は強いな! ……ところで君は、いつ黄彩少年に戻るんだい?」
「ボクもボクもどっちもボクなんだぜ? 戻るってのは不適切。成ると言って欲しいのだよオールマイトくん。……まぁ、リカバリーガールちゃんにボクを見てもらってからかな」
「そ、そうか。まあ無事を祈っておくよ。一人の友人としてね」
メダルを首にかけ、轟の時と同じようにハグしようとしたら、「オイオイ、そいつぁセクハラってやつだぜ?」という言葉に顔を青ざめさせながら、握手して響香の前に出た。
「優勝おめでとう、耳郎少女!」
「……ぶっちゃけウチだけ場違いな感じがして、ちょっとアレなんですけど」
「なぁに、誰とて高みとはそういうものさ! 誰からなんと言われようと、君は胸を張っていい!! ……このセリフ、セクハラにならないよね?」
「……張る胸もなくてスイマセン」
「ハッハッハ! 君も大概ネガティブだな! まだまだ成長期なんだ! 希望を持っ、て……。……えっと、ごめんね」
爆豪戦で急成長したことを思い出し、オールマイトは顔を伏せてしまった。
「ウフフ、大丈夫だとも響香ちゃん。ボクはしっかりと君を愛しているよ。胸なんて関係なくね」
「あ、ああ、そうだな。女性の魅力は一点じゃない。君は君の魅力を伸ばせばいいさ! ……ごめん、これ私が何言ってもダメそう」
何かを諦め、オールマイトは何も言わず響香の首にメダルをさげ、黄彩と同じように握手をして、台から降りた。そして両手を広げると、観客席に向けて全生徒たちを示す。
『さァ! 今回は彼等だった! しかし、皆さん! この場の誰にもここに立つ可能性はあった! ご覧頂いた通り、競い! 高め合い! 更に先へと昇っていくその姿! 次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!』
オールマイトが黄彩に手を向けると、黄彩もうなづいて「わかっているとも」と言いながら、手を取りながら飛び降り、マイクを受け取った。
『見苦しい展開になったらボクが無理やり盛り上げると言っていたけれど、最後の一幕は盛り上がってなかったねぇ?』
『あ、ああいや、あれは不可抗力で……』
オールマイトが慌てながら弁明しようとするが、黄彩の笑みはどんどん深まっていく。
『最後は盛り上がらなきゃ、綺麗に可愛く楽しい体育祭だったとはいえないよね! ってことで! ――作品No.75《虹色花火》!!!』
大気や地中から材料をかき集めて作られた追加の花火は、体育祭の最後を彩るのに十分以上であった。
003
体育祭が終わり、夕食とシャワーののち、黄彩はリカバリーガールからの検査を受けることになった。
「……なんだい、その格好は」
「体育祭見てたボクの家族が持ってきてくれたの。似合うだろ?」
泊まるのだから寝巻きを用意してきたのに文句はなかったが、黄彩の格好は、メイド服だった。
「はいはい。なんでもいいから脱ぎんしゃい」
「リカバリーちゃん、ボクの身体はもう響香ちゃんのものなんだぜ」
「検査と称してぶっ殺すぞ」
「リカバリーちゃん、それ医者が言っていいセリフでもしていい顔でもないぜ」
「嫌なら脱ぎなさい。肌着はいいから」
「いやん、汚されるぜ」
「あ?」
「……わかったよリカバリーちゃん。全部脱ぐからその顔やめて」
身長体重座高聴覚視覚etc.一通り検査し、リカバリーガールは専用に作った書類にまとめて黄彩に渡す。
「って、見てもよく分かんないんだけどね。ぶっちゃけどうなの?」
「……驚いたよ。今のアンタの身体の方が、よっぽど健康体だ。どうなってんだい?」
「この身体はボクの身体をベースに、ママと響香っていう二人の女体の情報、それとボクの思い描いた綺麗さ、可愛さ、美しさを組み合わせて出来た身体で記憶、保存してるのさ」
「……仕組みはよくわかんないけど、理屈はなんとなくわかったよ。つまり、その身体になら完全に戻ることができるってわけだね?」
「んー、まあそうなるのかな」
「なら医者としては、一生その身体で生きてもらいたいよ」
「それだけは絶対嫌」
「……芸術家の考えてることは私にゃ一生わからんよ」
「安心しろよリカバリーちゃん。ボクの同業者もボクにゃわけわかんねぇバカばっかりだからよ」
「はいはい。それなら明日から、最低でも及第点まで整うように毎朝検査するからね」
「ボクはリカバリーちゃんのこと、結構頼りにしてるからさ、よろしくお願いね」
「……まぁ、生きてるうちは見捨てたりしないよ」
「ウフフ、ボクもボクも、結構簡単に死ぬから安心してね」
「アンタら、医者に優しくしなさい」
「ウフフ、ボクだぜ?」
リカバリーガールはため息で返すほか無かった。
体育祭篇やっと終わった!!
一話か二話で終わらせるつもりだったのに、イレイザーくん連れ出してそっから終わりまで飛ばすつもりだったのに……。
楽しかったからいいんだけどね!
こっから楽しいぞっ!!