芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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職場体験篇
第二十話 芸術家の先立指名と美名永命と


001

 

 

 

 雄英体育祭から二日の休日を経て、登校日。一年A組のクラスでは、登校してきた生徒たちが雑談に花を咲かせていた。

 

「あたし来る途中、話しかけられたよ!」

 

「ウチ、めっちゃ揶揄われた……」

 

「俺なんてトマト貰っちまったぞ。……どうしたらいいんだコレ」

 

 芦戸と響香が話していると、切島はため息まじりにトマトを見せた。

 

「俺なんか小学生にドンマイコール貰っちまったぜ……」

 

「俺もだ……」

 

「私は化粧水もらっちゃった!」

 

 瀬呂と常闇の嘆きを打ち消すように、葉隠が登校中に貰ったらしい化粧水を自慢している。

 

「おはよー……。きょーか、かみ〜」

 

 各々騒いでいると、いつもの男の身体で、いつものツインテールと違って髪を下ろした姿の黄彩が目を擦りながら教室に入った。

 

「おはよう、黄彩。……アンタ大丈夫?」

 

「んんー……、朝から検査、疲れたんだよぅ」

 

 フラフラと席についた黄彩の髪を結いながら響香が尋ねると、黄彩はこう垂れる。

 

「骨の形状は概ね整ったんだけどね、筋肉のアレコレとか、血管の位置とか、毛穴の作り忘れとか、めんどくさいんだよぅ……。毛穴はぶっちゃけどうでもいいんだけどね」

 

「よく見れば有製くん毛穴見えない! いーなー」

 

 と、言ったのは葉隠だった。女子全員のもの言いたげな視線が毛穴どころか毛も見えない顔面に集まる。

 

「おはよう」

 

 そんな話をしていたら、チャイムが鳴ると同時に相澤が現れる。

 

「相澤先生、包帯がとれたのね。よかったわ」

 

「婆さんの処置が大袈裟なんだよ。んなもんより、今日の一限目のヒーロー情報学はちょっと特別だぞ」

 

 体育祭の頃にはまだ、相澤は全身包帯まみれだったのだが、ようやく完治したようで、いつも通りの様子でホームルームを始めた。特別、という言葉に何かしらのテストを警戒するが、それは裏切られることになる。

 

「コードネーム、ヒーロー名の考案だ」

 

「「「夢ふくらむヤツきたあああ!!」」」

 

 諸手を挙げて大喜びする生徒たち。しかし、相澤は個性まで駆使した睨みを利かせてそれを黙らせた。

 

「というのも、先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み、即戦力と判断される二年や三年から。つまり今回来た指名は将来性に対する興味に近い。卒業までにその興味が削がれたら、一方的にキャンセルなんてことはよくある」

 

「頂いた指名がそんまま自身へのハードルになるんですね!」

 

 葉隠が言うと相澤は頷く。

 

「そうだ。……で、その指名結果がこれだ」

 

 相澤が手元のタブレットを操作すると、白いスクリーンが降りてきて、生徒たちの名前と数値が表示される。

 

 A組指名件数

 

 轟   2008

 有製  1503  

 耳郎  1460

 爆豪  1442

 常闇  1200

 

 蛙吹  1127

 飯田  805

 上鳴  703

 八百万 701

 切島  595+2

 

 麗日  532

 葉隠  505+1

 瀬呂  422

 尾白  413

 障子  333

 

 芦戸  216

 佐藤  114

 口田  68

 峰田  39

 青山  25

 緑谷  24

 

 

「普通、全員に来ることなんてないんだが、良くも悪くも有製の仕事が役立ったな」

 

「先生、俺の『+2』ってなんすか?」

 

「私の『+1』も!」

 

「切島のはトマト農家、葉隠のは化粧品メーカーだ」

 

「マジで来たんすか!?」

 

「私のは本当になんで!? ハトムギ!?」

 

「詳しくは知らん。行きたければ行ってもいいが、あと先考えろよ」

 

「「行きません!!」」

 

 二人重なった否定に、相澤は思わずため息をつく。

 

「てか上位三人、思いっきり逆転してんじゃねぇか」

 

「親の話題ありきだろ」

 

「黄彩のも、人間国宝由来だろうね」

 

「ボクはいいのに……」

 

 ザワザワとうるさくなる教室内だったが、相澤が再度睨み付けると、生徒たちは慌てて口に戸を立てた。

 

「これを踏まえ、指名の有無に関係なく職場体験に行ってもらう。プロの活動を身近に体験して、より実りある訓練にしようってことだ。職場体験っつってもヒーロー社会に出ることには違いない。つまり、お前らにもヒーロー名が必要になってくる。まぁ、仮ではあるが適当なもんを付けたら、」

 

「地獄を見ちゃうよ!この時の名が世に認知されてそのままプロ名になってる人は多いからね!」

 

「あ、おっぱいの人」

 

「黙りなさい黄彩くん。威厳が無くなるでしょうが」

 

 突如扉が開き、ミッドナイトが教室に入ってきた。一方相澤は寝袋に籠り眠る姿勢だ。

 

「その辺のセンスはミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうの出来んからな。将来、自分がどうなるのか。名を付けることでイメージが固まり、そこに近づいていく。それが『名は体を表す』ってことだ。よく考えてヒーロー名を付けろよ」

 

 一人一枚、ホワイトボードとペンが配られた。

 

 ミッドナイトはそれぞれ思案する生徒たちを眺めながら、数分。口を開いた。

 

「じゃあ、そろそろ出来た人から前に出て来て発表してね」

 

 ミッドナイトが発したその言葉に生徒たちがざわめいた。

 

「はーい! アタシ出来ました! リドリーヒーロー、『エイリアンクイーン』!」

 

「血が強酸性のアレを目指してるの!? やめときな!」

 

 自信満々の表情で発表した芦戸だったが、なぜか見慣れた気がするミッドナイトのツッコミと共に再考を言い渡された。

 

「ちぇー」

 

 トップバッターにおかしなものが来たせいで、他のものが一気に出しづらくなってしまった。

 

「じゃーじゃー、次ボク。『シトリング=ラフィ』」

 

 黄色の彫像の絵が添えられたボードに、生徒たちが「おおっ?」っと、ミッドナイトの反応を待った。

 

「……黄色の宝石、シトリンとグラフィックスを合わせた名前。いい名前だとは思うけど、それ、あなたのペンネームでしょう。却下」

 

「ええ〜」

 

 食い下がろうとした黄彩だったが、ミッドナイトが鞭を鳴らすと席へ下がっていった。

 

「ねぇ黄彩。名前っていつもどうやって決めてるの? 作品のタイトルとか」

 

 響香が尋ねると、皆々が耳を傾けた。

 

「んー……、結構テキトーだよ? そのものを表す言葉だったり、思ったことそのままだったり。ペンネームはボクの誕生石、シトリンをそのまま使ったんだし。ああ、黄彩って名前もシトリンが由来ね?」

 

 誕生石。そのワードに、響香はふと、体育祭の時に受け取ったチョーカーに触れた。

 

「黄彩くん、宝石に詳しいの?」

 

 芦戸が尋ねると、黄彩は首を傾けながら答えた。

 

「うーん、パパが作る人形の目に宝石を使うから、触れる機会はあったよ。ボクは滅多に使わないけど」

 

「参考までに聞きたいんだけど、あたしっぽい宝石ってある? 黄彩くんのシトリンみたく」

 

 黄彩は、芦戸に顔を近づけジッと見つめる。桃肌がショッキングピンクになりそうになったところで顔を離した。

 

「ピンクアゲート。ピンクのシマシマな石」

 

「おおっ、ピンク!」

 

「いや黄彩、それ丸く削ると化け物の目みたいになる石でしょ」

 

 アゲート。別名、天眼石。木目のように、複数の色が層になって、目や馬の脳に見える石だ。

 

 響香が言うと、黄彩はキョトンとしながら返す。

 

「ぴったりでしょ? ツノあるし、ピンクだし」

 

「黄彩くんがあたしをどういう風に認識してるか、なんとなくわかった気がするんだよ……」

 

 

 

002

 

 

 

 なんやかんやあれやこれやあれど、梅雨の《フロッピー》、芦戸の《ピンキー》、響香の《イヤホン=ジャック》と、次々と決まっていき、残りは爆豪と黄彩だけだった。

 

 二人はいくつもの名を却下されており、最初のような大喜利ムードになっていた。

 

「ムゥ、やっぱりボクは《シトリング=ラフィ》でいいよ。ヒーローになんてならないし、何個も名前を持つ趣味もないし」

 

「……そういえば、黄彩くん、二つ名ってないわよね」

 

「あのボクは中でも特別だけど、ボクは一つの作品にいくつも呼び名をつけたくないの。《シトリング=ラフィ》はボクの男子中学生の身体の名前ね? あと滅多に使わない幼女の身体もあるよ。名前は《ハニードール》」

 

「あなたはどこの宇宙の帝王なのよ……」

 

「仮面ライダーのフォームチェンジの方が近いと思うけど」

 

「江戸川コナンと工藤新一みたく?」

 

「それはむしろきょーかの方だと思うけどね」

 

「あら、確かにそうね」

 

「ミッドナイト先生、黄彩。ウチを漫才のネタに加えないで」

 

 一部に多大な時間をかけ、なんとか全員ヒーロー名を決めたのだった。




 シトリン(黄水晶)
 11月の誕生石
・明晰性
・目的意識
・人生における満足感

※傷がつきやすく太陽光に弱い。
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