芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

21 / 87
 今回の黄彩くん、周りの狂気指数度が高いおかげで普通に良い子に見えてしまいます。ご注意ください。


第二十一話 芸術家の機構紹介と初目発明

001

 

 

 

ヒーロー名、命名の時間は終わり、休み時間を挟んだ次の時間。寝袋から相澤が出てくると、教壇に立った。

 

「職場体験は一週間。肝心の職場だが、指名は個別にリストを渡すから、その中から選択しろ。別でオファーした全国の受け入れ可のヒーロー事務所40件。この中から選んでも構わない。それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なるから良く考えてから選べよ」

 

 相澤がそう言って生徒たちにプリントを渡す。

 

「あぁ、有製。言ってた要望だが、通ったぞ「マジで!?」……お、おう」

 

「うわ、黄彩らしからぬ超スピードと超大声」

 

「ケロ、彼だとそういう話なのかしら」

 

 響香が目を見開いて驚いていると、梅雨が冷静にツッコミを入れる。

 

「やったー!! No.76《神風特攻空挺部隊》!!」

 

 黄彩は指名の紙束を個性で紙飛行機にして、窓から外に放った。紙飛行機は天高くまで飛び上がり、突如燃焼しながら落下、灰も残さず消え去った。

 

「……おい」

 

「ボクちょっと帰って色々持ってくるんだよ! 傑作No.10《道徳的な龍》」

 

「キュイー!」

 

 もはやお馴染みな黄色い龍が窓から顔を出す。

 

「またねっ、きょーか!」

 

 黄彩は首元を咥えられてから、背に乗せられて飛び去って行った。

 

「……相澤先生、良いんですか、あれ」

 

「ほっとけ。あいつはこの場の誰よりも先に立って先を見てる。……おかげで見逃してるものも多いけどな」

 

 

 

002

 

 

 

 黄彩は《道徳的な龍》に乗って、アトリエへと帰ってきていた。

 

――アトリエ。黄彩の家とは別に、黄彩が傑作を作っていた頃から使っている巨大な工作施設。今は多くの傑作が収容されていて、美術館どころか物置き状態。

 

「んー、お姉ちゃんいるー? 姉様ー、姉御ー、姉上ー」

 

「はいはい、ラストお姉ちゃんですよー」

 

 搬出用の巨大シャッターの隣にある扉から入り、唯一の住人を呼び出すと、音も影もなく黄彩の目の前に金髪のメイドが現れた。

 

「学校でお泊まりではなかったのですか?」

 

「んー、色々持っていこうと思ってねぇ。手伝ってっ」

 

「ええ、ええ、良いですとも。ラストお姉様にお任せなさい」

 

――ラスト。正式名称《最終技術集結人型自動機構人形》、略称《最終人形(ラストドール)》。黄彩の父方の祖父母の合作にして最終傑作。命と個性と意地と趣味の全てを尽くして生み出された自動人形の完成形である。

 

 黄彩が芸術家を目指し始めた頃に完成したので、年齢的にはラストの方が妹にあたるのだが、身長が響香よりも高く、キャラもあって姉である。呼称は留まることを知らない。

 

「黄彩くーん、何をお求めでしょうか? ここには失敗に始まり、成功、完成、定理まで選り取り見取りですよ?」

 

「そりゃボクのアトリエだからね。今は物置きだけど」

 

「それは酷いってもんですよ黄彩たん。ラストの姉御はここに寝泊まりしてるんだよ?」

 

「でも、ねーね、人形じゃん。ベッドはあるし」

 

「人形はドールハウスで寝るんだよ?」

 

「ボク、建築は専門外」

 

「別におねだりしてるわけじゃないけど、たまに帰ってきてくれないと姉上は寂しさと心配で死んじゃうぞ?」

 

「じゃあ一緒に来て。ボク一人じゃ持てない」

 

「っ! 響香ちゃん以外にデレなかった黄彩くんがついに!」

 

「はいはい。じゃあえっと……」

 

「あ、黄彩ちゃん」

 

「今のボクは黄彩くん」

 

「……黄彩ちゃんになってくれたりはしない?」

 

「しない」

 

「黄彩さんでもいいんよん?」

 

「……はやく持ってきて。03と07と08」

 

「16はいらない?」

 

「いらない」

 

「わかりました持ってきます!!」

 

「……聞いて、姉さん」

 

「私にっ! ついに癒しが! 4倍速!!」

 

 常人の2倍並の速度でラストは消えて駆け抜けていった。

 

 

傑作No.03《月夜の光》

傑作No.07《不個性》

傑作No.08《この世で最も不要なもの》

 

傑作No.16《ハニードール》

 

 

 

003

 

 

 

 場所は移り、雄英高校美術室。

 

「めーめーさん、もう来てるー?」

 

「めーめーさんとはずばり、この私のことですねっ!? 発目(はつめ)()に、(めい)()でめーめー!」

 

 台車に山盛りの工具や機械やよくわからないものを載せた発目明が、そこにいた。

 

「会いたかったよ!」

 

「ええ、ええ、パワーローダー先生から聞いていますとも! 明日から一週間よろしくお願いします!」

 

 

 黄彩が相澤に頼んでいたことというのは、職場体験期間中の発目明との合作。サポート科はサポート科で職場体験があるのだが、黄彩はヒーロー科の職場体験に行く気がなく、発目の同意の上なら免除し場所を用意するということだった。

 

 その場所とは、今や黄彩のアトリエと化している美術室だった。

 

「で、そちらは……」

 

「私は最終技術集結人型自動機構人形、ラストドール。ラストとお呼びください」

 

「ほほぅ?」

 

 ラストの簡潔な自己紹介を聞いて、発目は目を輝かせながら全身を見渡す。

 

「あの、何か?」

 

 黄彩の作品を収めたバッグを机に置きながらラストは首を傾げる。

 

「あなたもしや、人間ではありませんね!?」

 

「私の名前を聞いて一瞬でも人間だと思ったんですか!? 仕方ありません、私をお姉ちゃんと呼ぶことを許可しましょう!」

 

「ちょっと分解してみていいですか!? あなたの内臓、機構、原動力! 色々見せてください!!」

 

「お姉ちゃんを()らす気ですか!? ネジ穴なんてありませんよ!?」

 

「大丈夫慣れてます!」

 

「わかりましたあなたはあれですね!? 子供の頃にボールペンを分解して戻せなくなってたタイプの子ですね!? 子供の頃の黄彩くんに似た雰囲気を感じます!」

 

「シャーペンでも万年筆でも作りますとも!」

 

「……カオス?」

 

 相澤は黄彩と発目を『混ぜるな危険』扱いしていたが、黄彩の目の前にそれ以上の危険物がいた。

 

 というか、姉だった。

 

 

「では改めて、ちゃんと自己紹介しましょうか。私はサポート科の発目明、個性はズーム、よく見えます!」

 

「ん、ボクは黄彩。個性は図画工作、大体作れる」

 

「私はさっきしましたけど、ラストです。人間ではありませんが、個性にあたるものとして変形と倍速があります。体の形状を変えたり、はやく動いたり出来ます。あとこの服装は私の趣味です」

 

「つまり、メイドロボではないと……?」

 

 発目はプラスドライバー片手に首を傾げた。

 

「そもそもロボではありませんよ。……あー、あくまで私は黄彩くんのおまけというか、鞄持ちなので黄彩くんと……」

 

 オドオドとした様子でラストは黄彩の背後に下がった。

 

「……あの、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

 ふと思ったかのように、発目は作業用の手袋をつけた手で挙手した。

 

「うにゃん? 何でも聞いて良いよ?」

 

「なぜ貴方ほどの、人間国宝ともあろう貴方が、私を誘ってくれたのでしょうか。確かに私は優秀である自覚はありますが、それでも学生の範疇です。貴方ならそれこそ、企業との合作だってできたのではありませんか」

 

 発目と最も長い時間を過ごしたであろうパワーローダーなら、思わず目を見開くことだろう。冷静沈着な問い。

 

「ウフフ、それならもう言った気がするよ。言っていた気がするよ」

 

 黄彩は美術室の備品である白紙のキャンバスを一枚引き抜いた。

 

「ボクは君たちが大好きなんだよ。自分の作品をベイビーと呼び至高と愛する君が、君に愛された作品、君のベイビー達が大好きなんだ。……誇って良いよ。発目明さん、君はボクを釣り上げた」

 

「海老で鯛を釣ったって感じですね!」

 

「……姉様、黙って」

 

「なるほど、……わかりました! ご期待に添えるか分かりませんが、この発目明! 全身全霊を尽くして見せましょう!!」

 

「ウフフ、そこまでじゃなくていいんだよ? 加工は全部ボクの個性でなんとかなるから、めーめーさんには発想力を補って欲しいの」

 

 そう言いながら、発目明の肖像画を渡した。

 

「……失礼かもしれませんが、なんでサポート科に来なかったんですか!? その個性で絵も描けるなら即座に図面を起こしたり、3Dモデルの印刷も可能でしょう!?」

 

「だってきょーかがいないもん。ヒーローにもヴィランにも、企業にも人類にも、ボクは大して興味ないの。せいぜいテーマかな。――平和の象徴の制作」

 

「きょーか、あぁ、あの優勝者の。……平和の象徴、……つまり、オールマイトの後継者を作る、と?」

 

 一目瞭然。頬は緩んで釣り上がり、体が火照って白い肌が赤みを帯びていた。

 詰まるところ、発目明はワクワクしていた。

 スケールの大きすぎる話と、そのスケールに似合う肩書きを持つ人間と合作できるという状況に。

 

「プランとコンセプトはもう幾つかあるんだけど、この一週間ではその一つ。最低でもオールマイトの全盛期並の戦闘力まで引き上げる、無個性専用量産型パワードスーツ、名称未定。……あれはそのプロトタイプ、作品No.72《すじ肉》だよ」

 

 美術室の隅にしばらく放置されている、オールマイトを蹴飛ばすのにしか使われなかったものを黄彩が指差すと、発目が飛びついた。

 

「斬新な着ぐるみかと思っていましたが、なんとこれが!! ……ちなみにこれ、どの程度のパワーが出るんですか?」

 

「今のパワーだけならオールマイトと同等程度。あ、気をつけてね。無個性以外の人が着たりすると、最悪筋肉に圧縮されて果汁100%ジュースになるから」

 

「え……」

 

 失敗して大爆発を正面から受けることの多い発目でも、流石にそんな危険物に考えなしに飛びつく勇気はなかった。

 

「もしもの時はこのラストお姉ちゃんがお二人をお守りしますね」

 

 部屋の隅で、黄彩の作品の列に並んで見守るラストの目は、優しい姉のものだった。

 

 

 




キャラ紹介
最終技術集結人型自動機構人形(最終人形(ラストドール)

 金髪の肩口あたりまでのポニーテールで、目は紫色で、瞳がカメラのレンズのような構造になっている。が、めーめーさんのようにズームができるわけではない。

 黄彩の父方の祖父母が命と個性と意地と趣味の全てを尽くして生み出した合作にして最終傑作。黄彩が七歳のときに完成し、同時に祖父母は衰弱で死亡した。

 生まれてからずっと黄彩のアトリエに住み着いていて、黄彩と響香を見守り続ける存在。ただ、全く外出しないわけではなく、趣味で衣服を作ったりしている。メイド服もその一つで、日によって巫女服だったり、ゴスロリだったりする。過去、スク水で響香の授業参観に参加し注目と警察を集めた。
 姉であるが呼称が安定しないのはキャラが整っていないから、かもしれない。ただのノリかもしれない。

 名称に最終技術とあるように、最新技術を遥かに超える技術でその身が構成されており、その一つが《倍速》
 頭脳にあたるパーツの処理速度がせいぜい人間の半分であるため、常に2倍速で動いている。早口になっていないのは喋るのが遅いから。最高速は本人も不明。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。