芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第二十三話 殺人鬼の救済夢殺と事件殺戮

001

 

 

 

 響香はプロヒーロー、デステゴロの事務所に職場体験に来ていた。

 することはフィジカルトレーニングと、街のパトロール。

 細身な響香とは対照的に筋骨隆々なヒーローであるデステゴロのトレーニングに弱音をこぼしつつ数日を過ごしていた。

 

「イヤホン=ジャック、俺たちで突入するからお前はここで待機だ」

 

 平凡とまでは行かずとも、そう激的に劇的な職場体験にはならないと思っていたのだが。

 

「ウチも戦えます」

 

「聞き分けろ。お前はまだ見習い、俺たちはお前に安全を保証せねばならない。お前の前からありとあらゆる危険を排除しつつ見せるのが俺の仕事だ」

 

「……はい」

 

 数分後、響香はその返答を後悔する。

 

 デステゴロとサイドキックが、多人数テロが開かれているショッピングモールに突入していった。

 響香は野次馬と共に、警察に敷かれた規制線の先でデステゴロ達の生還を待つ。

 

――銃声。

 抗戦しているのだろう。

――打撃音。

 拮抗しているのだろう。

 

 シャッターの向こうで火薬の爆ぜる音と人が殴り飛ばされる音だけが、イヤホンジャックを通して私に状況を伝えてくる。

 

 時間が経つほどに、銃声も打撃音も頻度が減り、さらに経てば幾つか水風船が割れるような音が聞こえ、音は完全に鳴り止んだ。

 

「大丈夫……、なんだよね?」

 

 コスチュームが私服に近い響香は、警察にはヒーロー達を心配する少女にしか映らない。

 スマホを出し、ここ数ヶ月でやっと二桁に至った電話帳を開く。

 

 響香の心配は、最悪とまではいかずとも極悪な形で裏切られた。

 

「おらどきやがれ。こいつがどうなってもいいのか?」

 

 三十人以上いたテロ集団は二十と数人まで数を減らしながらも、一切の傷も負っていないリーダー格と思わしき男が、傷だらけのデステゴロに銃を突き付けながらショッピングモールから出て来た。

 ショッピングモールを事実上の牢獄としたシャッターも、強大な障害であるヒーローも、何もかもを突き破って。

 

 事前の話からどれだけ巨漢の男なのかと思えば、そのリーダーは影の住人のように暗く細い。嫌に真っ白なハンドガンだけが明るいようで不気味だ。

 仲間達は異形型、筋骨隆々。フィジカルモンスターばかり。

 

「俺たちのことは見なかった、来なかったことにして帰せ。最後の一人がここを去ればこいつは殺さないでやる」

 

 リーダーの男が言えば、警察も野次馬も顔を見合わせる。

 

 もう躊躇う暇はなかった。響香はイヤホンジャックを繋ぎ、電話をかけた。

 

――耳郎響香の新技、音声入力。スピーカーから心音ではなく、声を出力する技。……説明を聞いた誰もが地味だと笑ったこの技が、しかしこの状況から転回する最適解だった。

 

「あんたが一番速い。手っ取り早くウチを助けて」

 

 

 

002

 

 

 

「ギャハハハハハハ!!!!」

 

 聞こえてくる。死神も火車も閻魔も神仏も轢き殺す、邪気に濡れたの無邪気な笑い声。

 

 野次馬を立ち退かせている警察が、その笑い声に警戒を見せる。

 

「ギャハハハハ!!! ギャハハハハハハ!! ギャハハハハハハハハハ!!! 今どきテロだとっ!? チョーウケる!! ――殺さないほうがいいんだよな?」

 

 飛び込んできた使駆はスイッチを入れモーター音を鳴らしながら、響香に目を向けながら呟く。

 響香が警察に察されない程度に目を合わせれば、使駆はスイッチを切りながらテロリスト達に身体を向けた。

 

「ギャハッ!! いいぜいいぜっ! いつかの殺人鬼よりよっぽど気持ちのいいクソ共だ!!」

 

「お前、何者だ? まさかヒーローじゃねぇよな?」

 

 銃を向ける仲間達を抑えながら、リーダーは問う。

 

「……アァン? またそれだ。またそれだ。またそれだ!! 『何者だ』、だぁ!? テメェらそれでもヴィランか!!」

 

「……撃て」

 

――轟音。度重なる銃声。四十近くの穴が使駆へと向けられて、金属の塊が火薬で飛び出す。

 

「他人の所在なんざ気にしてんじゃねえ!! 人の顔色を伺うな!! 自分と他人を隔てるな!! 己が正義を疑うな!! 食いもん粗末にしてることを理解しろ!!!」

 

 身動きすら取らない。びくともしない。まるで鉄の塊でも殴っているかのよう。

 樹脂のような特殊な肉体には、弾丸は通じなかった。反射することもなく、潰れた弾丸がアスファルトに転げ落ちる。

 

「ギャハハッ!! ――スピード違反の意味を教えてやるよ。ライトダッシュモーター」

 

 スイッチを入れた使駆が、テロリスト達に激突する。

 弾丸より速く、硬く、重く、大きく。

 殺すつもりがあるのかないのか、皆々至る所から骨の飛び出る複雑骨折となって地面に這いつくばる。

 

 テロリスト達は阿鼻叫喚。しかし同時に警察も残った野次馬達も口々に非難の叫びを上げる。

 

「人質なんてクセェまねしてんじゃねぇよ。――ハイパーダッシュモーター」

 

「くっ、くるっ、」

 

 目にも映らぬヤクザキック。

 顔面を踏み抜き、デステゴロをその場に放置し吹き飛んでいった。

 

「こんなんにやられてんじゃねぇよ、ヒーロー。――ギャハハハハハハ!! おらおらどうしたヴィランども!! 俺はヒーローじゃねぇが悪の敵!! 殺すべきを殺す執行車!!」

 

 過半数がやられ、戦意が完全に喪失しているヴィラン達に、使駆は激昂する。

 

「かかって来やがれ!! テメェらの敵はここにいるぞ!! 銃を向けろ! 敵を睨め! 仲間を仕留めた俺を憎悪しろ!! 肉を滾らせろ血を踊らせろ!!」

 

 意味なんてない。戦意が喪失してるならわざわざ火をつける必要なんてないはずなのだ。

 

 おかげでリーダーを失ったヴィラン達は銃を手にとり、使駆に無謀にも立ち向かっていく。

 

「……腹減った。ノーマルモーター、キックアクセル」

 

 戦意に火のついた戦士達に水を浴びせるように、襲いかかって来たヴィランの頭を一蹴し気絶させた。

 

 手近なものから財布を抜き取っていき、満足すればその場から去ろうとする。

 

「待て、……お前は、」

 

 ありとあらゆる軽傷を全て負ったのではないかというほどボロボロになったデステゴロが、使駆を呼び止めた。

 

「ギャハッ、俺はテメェの首締めるほど馬鹿じゃねぇ。長生きしろよ、ヒーロー」

 

 有り余るフィジカルで立ち上がり、使駆を追おうとするが、使駆は「スプリントダッシュモーター」と言い残し、今度こそその場から去っていった。

 

 

 

003

 

 

 

 あのあとすぐに警察と救急車が呼ばれ、ヒーローとヴィランはそれぞれ病院へと運ばれた。

 

 ヴィラン総勢37人、全員重症だが命に別状なし。治療が済み次第警察のもとで取り調べだ。

 

 サイドキック総勢8人、全員死亡。皆、惨死と言っていい有様だったらしい。

 

 ヒーロー、デステゴロ。全身に浅い傷。出血多量だが命に別状は無し。

 

 治療の終わったデステゴロの見舞いを終え、既に夕方。響香はさっきから鳴り止まないスマホを開く。

 グループトークには皆々から響香を心配する声、アンチヴィランが向かうことを警告する声が届いていた。

 

『響香ちゃん、無事かしら?』

 

 グループトークとは別で届いた、使駆と面識のある梅雨からのメッセージ。

 

 試しにと通話を掛けてみれば、ワンコールも待たせずに梅雨は出た。

 

『ケロケロ、響香ちゃん無事かしら?』

 

「うん、平気。ウチはあいつ呼んだだけだし」

 

『……響香ちゃんの味方だとしても、彼は犯罪者。あまり関心はできないわ』

 

「そっ。……確かにあいつは百を殺して百を救う、そういうやつだよ。でも、助けられたウチに文句を言う資格はない、と思う」

 

『ケロ……、仕方ないかもしれないけど、感化されちゃダメよ。響香ちゃんはともかく、有製ちゃんはどこかそんな似た感じがする』

 

「黄彩もあいつもヒーロー志望じゃない。それが、ウチらと二人の違いだと思うよ」

 

『…………そういうことにしておくわ。もう一度聞くけど、響香ちゃんは無事なのね?』

 

「ウチはね、うん」

 

『ケロ……。ごめんなさい、職場体験が終わったら、もっと話しましょ。またね』

 

「ありがと、梅雨ちゃん。頑張ってね」

 

 梅雨の職場体験先のヒーローに呼ばれたようで、通話を切り上げた。

 

「ギャハハッ、今のは前あったツユちゃんって子だな?」

 

「……アンタ、病院似合わないね」

 

 銭湯にでも行って来たのか、髪を湿らせた使駆が響香のいる病院に訪れた。

 

「ギャハハハハハ!! 生まれてこの方、怪我も病気もしたことねぇからなっ! ……いや、精神科には一回連れてかれたことがあったっけか」

 

「一回で済むもんじゃないでしょ。……逃げたな」

 

「ギャハッ、俺だぜ?」

 

「はぁ〜。あと一回でも精神科受けてまともになってれば……」

 

「そんときゃそんときで誰か死んでんだ。大して変わらねぇよ」

 

 何も用事もなく、ただ顔を見に来ただけなのか使駆は病院を出て行って、姿を眩ませた。

 

 




必殺技紹介
《キックアクセル》
 モーターの回転を走り以外に、蹴りにも活かした攻撃。

 腰を高速回転させることで、拳や足で連続攻撃する《ウエストアクセル》や、パンチに生かした《パンチアクセル》など、バリエーション豊か。

 共通の弱点として、走る速度は落ちる、全速力でタックルや飛び蹴りしたほうが強い、などがあげられる。

 利点として、幾らか加減が効く。
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