001
職場体験七日目。
職場体験期間に無個性専用量産型パワードスーツを完成させた黄彩と発目は、市街地を模した演習場にいた。
連れ添ったラストは、アトリエより持ち込んだバックの封を開け、中身を取り出す。
発目は恐る恐る見ていて、黄彩は中身をラストから受け取り、放つ。
「傑作No.03《月夜の光》」
昼間の市街地に、一筋の光が降りた。決して焦さぬ、冷え切った光がランタンへと降りる。
「傑作No.07《不個性》」
言うなればマネキン。見てみれば球体。触れてみれば黄金。嗅いでみれば薔薇。舐めてみれば飴玉。
「傑作No.08《この世で最も不要なもの》」
何ら装飾のない、無骨な刀剣。日本刀のようであり、西洋剣のようであり、東洋剣のようであり。切断という結果が具現化したような鉄の塊。
《月夜の光》を浴びた《不個性》は《この世で最も不要なもの》を握り、無い口で黄彩を嘲笑う。
「ウフフ。さぁ、おいで。傑作No.21《
ラストと発目に見守られながら、黄彩はパワードスーツ、《御供》を纏う。
試作品の、首なしオールマイトとは違う。
ラバースーツのように薄く、全身に肋骨のような骨格が浮かぶ。
「ウフフフフフフ。親だからと躊躇せず、ボクだからと考慮せず、ボクを殺して見せろ」
《不個性》は不格好に《この世で最も不要なもの》を構え、黄彩に斬りかかる。
「と、っとっと。うん、練習が必要かな」
一歩黄彩が踏み出せば、地面に衝撃が走り、アスファルトが砕け散る。歩くつもりが跳躍した黄彩は民家の屋根に着地した。
傾斜にバランスを崩している黄彩に《不個性》が追撃し斬りかかる。
「ちょっとぶっ飛べ」
まともに鍛錬を積んでいない、子供どころか虫も殺せなさそうな下手なパンチ。
しかしそれでも、威力は絶大。
「ウフフ、いや、ギャハハとも笑いたくなるね、これは」
奇跡も黄金比も円周率も美味も魅惑も切断も、全てを押し除ける暴力。
「ウフフフフフフ。ウフフフフフフ。ほらもう一回だよ!」
地面に叩きつけられた《不個性》は身を起こそうとするが、飛び込んできた黄彩に腹部を殴打され地面に身を埋める。
「ギャッハァ!! ……ウフフ、やりすぎちゃったかな」
クレーターに身を埋めた《不個性》を起こすように腕を引く。
「ウフフ、さすがボクの傑作。……負けてられないなぁ」
市街地こそ十秒にも満たない時間で随分とボロボロになったものの、《不個性》も《この世で最も不要なもの》も、傷つくどころか、土汚れ一つとしてついていない。
002
「ま、及第点ってところさね。よくもまぁこんな短い期間でここまでやるよ」
職場体験期間の終了した翌日。毎朝の日課となっていた身体検査を受けた黄彩は、リカバリーガールの診断を聞く。
「筋肉、骨格の形状と配置は命に別状がないくらいに改善されてる。体毛がないけど、まぁ問題はない。汗腺はあるから体温調節も可能。……これ以上は、アンタの好きな芸術の領分だよ」
「んー、……ん、じゃあもう、ここで寝る必要はない?」
「そうだから、さっさと荷物持って出ていきな」
リカバリーガールの指さす方には、保健室を圧迫している黄彩の私物の山があった。スケッチブックにノートパソコン、ボードゲームに持ち込んでから一度も開けていない箱まで。
「うん、うん。ラスト姉さん、ボクの家の部屋までお願い」
いま保健室には二人しかいない、にも関わらず、黄彩が声をかければ、扉を開けることすらなくラストが現れた。
「ええ、お姉ちゃんにお任せください。――
ラストは両腕を巨大化させて私物達を持ち上げ、またどこかに消えていった。
目を丸くしているリカバリーガールに「ありがとね、治癒の人」、と言いながら、黄彩は教室へと向かって行った。
003
「アッハッハッハ! マジか! マジか爆豪!」
黄彩が教室に入る前から、既にうるさいほどに騒ぐ声が聞こえて来た。
「ん〜、はょー」
今日で終わりということもあって、いつも以上に検査に手間がかかって黄彩は疲れていた。
教室に入ってまず目に入った8:2ヘアの爆豪とそれを大爆笑している男子達を無視して、向かうのは梅雨たちと職場体験中のことを話している響香の元。
「きょ〜か〜……」
「え? あ、ちょっと黄彩?」
いつも髪を結うようねだりに来るが、今日はねだるでも無く抱きついて来た。
「えっと、なに?」
響香は困惑しつつ、背に手を回して落ちないようにしながら首を傾げる。
「じゅー、でん、ちゅー。……寂しかった」
「ケロ、有製ちゃん、いつにも増して甘えたなのね」
「あー、もう、ウチ恥ずかしいんだけど」
「うぎゅ〜……」
うなじに鼻を擦り付ける黄彩の頭を撫でながら、響香はふと尋ねる。
「ねえ、黄彩は一週間なにしてたの?」
「うにゃん?」
甘える猫のような声を出しながら、黄彩は思い返しながら言う。
「んー……、作りたかったやつの一つがとりあえず出来て、あとはテストしたり、ゲームしたり、遊んだり……」
指を折って数える黄彩に、梅雨も響香も思わず呆れる。
「ウチの行った先なんてテロにあったっていうのに……」
「私も、隣国からの密航者よ」
「きょーかならそれくらい、余裕でしょ?」
「ウチ、あのバカ呼んだだけだけどね」
「ふぅん、そう」
なにやらつまらなそうに、黄彩は響香を離した。背を見せてヘアゴムを渡せば、響香は黄彩の髪を結う。
「おはよう~! あ、なに? 職場体験の話? 私もする! ……って言っても、ほとんどトレーニングだけだったんだけどね」
そう言いながら葉隠が教室に入って来た。
「おお、同士よ!」
葉隠と同じく芦戸も劇的なヒーロー活動と無縁だったらしく、芦戸が葉隠を抱きしめた。
「あ、そうだ響香ちゃん! なんか大変だったみたいだけど大丈夫だった? えっと、あれ、ヴィラン殺し! 動画観たけど、カッコ良かったよねっ。ダークヒーローって感じ!」
「ケロ……。三奈ちゃん、殺された人に不謹慎よ」
「え、でもヴィランしか殺さないんでしょ?」
「殺しがもうダメよ」
キョトンと口に指を当てながら言った芦戸を梅雨が嗜める。
「ウチが見たときは殺しもしなかったけど、でもそもそも無免許だからねぇ。ハァ……」
響香がため息混じりに付け加えた。
「み、みんな難しく考えすぎじゃない? 誰も殺さないで響香ちゃん達を助けてくれた、かっこいい。で、よくない?」
「そーだそーだっ!」
葉隠がフォローして、芦戸も同調する。
アンチヴィランが善人か悪人かもわからない以上、下手に言いがかるわけにも行かず、女子達はやれやれと言った様子だった。
閑話休題。
「はい、私が来た。って感じでやっていくヒーロー基礎学だけどもね。久しぶりだ少年少女たち! 元気か!?」
午後のヒーロー基礎学の時間。場所は運動場γ。担当はオールマイトだった。
「ヌルっと入ったな」
「パターン尽きたのかしら」
「むしろ新しいパターンの開拓じゃない?」
生ける伝説の授業というありがたみは薄れ、揶揄うような言葉が飛び交う。別に嘗めているわけでも侮っているわけでもなく、親しみをもってこそのことだ。
「その通り開拓、無尽蔵だとも。さぁ、職場体験の後で皆の意識にも変化があったのではないかね? そこで、今回は遊びの要素を入れた、救助訓練レースを行う」
複雑に入り組んだ迷路のような密集工業地帯で、四組に別れてレースを行う。どこかにいるオールマイトが救難信号を放ったら一斉スタート。というルールが、質疑応答を交えつつ説明された。
「もちろん、建物の被害は最小限にな」
「ウフフ、ボクだぜ?」
オールマイトが指差したのは、傑作No.15《ボク》で女体化し、例のパワードスーツの女性用のものを纏った黄彩。
「ほんとうに頼むぜ有製少女!?」
「修繕費は出すから安心したまえよ、オールマイトくん」
「黄彩、そこじゃないから」
響香がツッコミを入れると、黄彩はため息を尽きながら頷いた。
「それじゃあ、最初の組は位置についてくれ」
「それじゃ、ボクは行ってくるぜ」
女体化して妙に男前になった黄彩が、スタート位置まで向かって行った。
一組目で走るのは、緑谷、芦戸、飯田、尾白、、瀬呂、黄彩の五人。
「そういえば有製のコスチュームって初めて見たな」
上鳴がそう言うと、他のクラスメイト達も「そういえば」と呟く。
「なんか、ガイコツみたいで不気味な見た目だな。ちょっと意外だぜ」
「もっとフリルとかついた可愛いのだと思ってたのになー」
「いや、黄彩は男だからね? あれ、でも今は女か」
響香は突っ込みながらも混乱した。
「トップ予想しようぜ! 俺、瀬呂が一位!」
切島がそう切り出すと、各々予想を口にする。
「ああー、でも尾白もあるぜ?」
と、上鳴。
「オイラは芦戸。あいつ運動神経スッゲーぞ」
と、峰田。観察眼はさすがという他ないだろう。
「デクが最下位」
と、爆豪。非情な男である。
飯田の怪我や緑谷の未知性の考察がいくつか出た後、黄彩はどうなのかと、響香に注目が集まる。
「あ〜、ぶっちぎりの一位か最下位。ぶっちゃけウチはあいつがテレポートしても驚かない自信がある」
「ケロ……、響香ちゃんの有製ちゃんへの信頼って、意外と厚いわよね」
「え、そう?」
響香の予想は、一言一句その通りとなる。
004
『それではいくぞ! スタート!!』
スピーカー越しにオールマイトの開始の合図が聞こえて来た。
「ウフフ、響香ちゃんにかっこいいところ見せないとね」
黄彩は全盛期のオールマイトの身体能力と同等のパワーを駆使して、空中へと飛び立った。
どの建造物よりも高い位置から、オールマイトのいる方向へと空を蹴り跳んだ。
画面越しに観戦しているクラスメイト達は、関心の声をあげる。
まるで流星。もはや光線。
レーザービームのように飛び、黄彩はオールマイトを蹴り飛ばした。
「ヌオワァ!?!?」
「あ、やっちゃった」
ゴールまでのタイムならぶっちぎりの一位。しかし要救護者を蹴りとばすという行いにより、成績的には最下位というオチだった。オールマイトは高所から落ちた。
「ウフフ、パワーは十分。あとは練習が必要だね」
後日、オールマイトの元に慰謝料と治療費が支払われた。
作品紹介
傑作No.03《月夜の光》
冷たい光を天より下ろすランタン。
細かい装飾が芸術的でレプリカがいくつか売りに出されているが、それ以上の魅力として、歩行が可能なものに限り、その光を浴びると動き出す。例)マネキン、ぬいぐるみ、死体etc.
一応、仕組みの一部は科学者によって解明されているが、オーバーテクノロジーの産物で、今の黄彩にも再現は不可能。この辺は、黄彩の傑作が傑作である由縁でもある。