第二十五話 惰弱者の成績自慢と怠惰慢性
001
職場体験期間から時が過ぎ経ち、空気が湿り、傘の手離せない季節。
午後の授業を終え、そのままホームルームへと移った。
「期末テストまで残すところ一週間だが、……お前らちゃんと勉強してるだろうな? 当然知ってるだろうが、テストは筆記だけじゃなく演習もある。頭と体、同時に鍛えておけ。……以上だ」
相澤は気怠げな雰囲気で締め、すぐに教室から出て行った。
「「まったく勉強してなーい!!!」」
直後、そう叫んだのは芦戸と上鳴。
「体育祭やら職場体験やらでまったく勉強してねぇ!」
上鳴――中間テスト21位。
「アーッハッハッハッハ!」
芦戸――中間テスト20位。
学力における最底辺二人が真っ先に騒ぎ出し、他の者達もテストについて話し出す。
「確かに、行事続きではあったが……」
常闇――中間テスト15位。
「中間は、まぁ入学したてて範囲狭いし、何とかなったが……」
砂藤――中間テスト13位。
「演習試験があるのが辛ぇとこだよなぁ!」
峰田――中間テスト10位。
「「ちゅ、中間10位!?」」
嫌にドヤ顔で言った峰田に、最底辺二人がツッコミを入れる。
「あんたは同族だと思ってたのにぃ!!」
「お前みたいなやつは馬鹿で初めて愛嬌があるんだろうが!! どこに需要あんだよ!」
「世界、かな? ……同族と言や、あいつがいるだろ? あのサボり魔」
峰田が指さす方には、響香の膝の上で、個性を使ってトランプタワーを作っている黄彩がいた。同類として真っ先に挙げたのは、黄彩は座学の授業のほとんどを欠席しているためだ。
手を使うでもなく、トランプが浮き上がって出来ていくトランプタワーに、女子達の注目が集まっている。
「そーっと、そーっと……。きょーか、揺れないでね?」
黄彩――中間1位。
「「納得いかねぇ!!」」
「うっにゃい!?!?」
黄彩のまさかの好成績に、芦戸と上鳴が叫ぶ。響香が揺れるよりも先に黄彩が肩をビクつかせ、トランプタワーは音もなく崩れ去って逝った。
「え、なに? 三奈に、上鳴まで」
響香――中間7位。
目を白黒させる響香を差し置いて、二人はトランプの散らばった机を叩いた。
「黄彩くんなんで!? 授業受けてないのに!」
「そーだそーだ!!」
「え、……勉強出来ないのにサボるわけないじゃん」
目を丸くしながら、黄彩は答える。
「こっ、言葉には気を付けろ……。今の俺ならペンで突かれても死ぬぞ……」
「この天才っ子めぇ……。恨、めない!? なんで!?」
「アンタ達、何言ってんの?」
翌週。八百万、爆豪、黄彩と成績優秀者達の協力により、全員が無事、筆記試験を終えた。
002
演習試験、当日。梅雨の時期にしては珍しく晴天であった。
「……なんか先生、多くない?」
黄彩以外コスチュームに着替えた皆々は、実技試験会場の中央広場に待機していた。対するは、雄英のプロヒーロー8人と1匹。
「これより、期末演習試験を行う。諸君なら事前に情報を仕入れて何をするか分かっていると思うが……」
「入試みてぇなロボ無双だろぉ!!」
対人戦を苦手とする上鳴が叫んだ。
「んー、あれ、生徒の弱点を突ける教師一人と、二対一で戦うか逃げる試験じゃないの?」
「有製黄彩くん。情報収集能力は認めるけれど、それは私に説明させて欲しかったのさ」
唯一制服姿の黄彩が、上鳴の言葉に首を傾げながら言うと、説明するつもりだった校長がしょんぼりしながらぼやいた。
「まぁ、彼の言った通り。君たちにはこれから、ここにいる先生方と二人一組で戦ってもらうのさっ!」
「ボクは別枠で、一人で戦うんだよね?」
「……うん、そう。参考までに聞かせてもらいたいんだけど、どこで知ったのかな?」
諦めたように校長が、黄彩に問う。
「んぇ、普通に会議室だけど。この学校にボクの耳が届かない場所なんてないんだよ?」
「「「それカンニングじゃん!?」」」
黄彩が当然のことのように言うと、生徒達だけでなく教師達まで叫んだ。
「盗聴は褒められたもんじゃないが、やらなかった奴とやられた我々教師陣が悪い。耳郎や障子なら似たようなことができたはずだぞ」
相澤だけがフォローを入れて、冷たい視線が刺さった。
「ウフフ、できることをやらないのは傲慢ってやつだよ」
黄彩が言うが、やはり頷くのは相澤だけだった。
「それじゃあ、対戦する組み合わせと教師を一気に発表するよ」
一戦目 砂藤、切島VSセメントス
二戦目 蛙吹、常闇VSエクトプラズム
三戦目 飯田、尾白VSパワーローダー
四戦目 八百万、轟VSイレイザー・ヘッド
五戦目 麗日、青山VS13号
六戦目 芦戸、上鳴VS根津校長
七戦目 口田、耳郎VSプレゼント・マイク
八戦目 障子、葉隠VSスナイプ
九戦目 峰田、瀬呂VSミッドナイト
十戦目 緑谷、爆豪VSオールマイト
十一戦目 有製VSイレイザー・ヘッド
「試験の制限時間は三十分。君たちの目的は、このハンドカフスを教師にかける。それか、チームのどちらかがステージから脱出することさ」
「今回、極めて実戦に近い試験、ボク達をヴィランそのものだと考えてください」
「会敵したと仮定して、それで勝てるのならそれでよし。だが、」
「実力差が大きすぎる場合、逃げて応援を呼んだ方が賢明だ」
13号、スナイプ、相澤の言葉を聞き、生徒達の背筋がのびた。
「出番がまだのものは、試験を見学するなり、チームで作戦を相談するなり、好きにしろ。以上だ」
相澤が最後にそう言って、教師達は持ち場へと向かって行った。
003
場所はモニタールーム。
リカバリーガールの他に、話の通じないペアである緑谷と麗日がいて、そこに黄彩もやって来た。
「あ、有製くんも見学?」
気がついた緑谷が、黄彩に声をかけた。
「んー、ボクは一人だし、作戦もいらないからね」
「さ、さすがやわ……」
お菓子まで持ち込んで観戦気分な黄彩の余裕っぷりに、麗日は思わず慄いた。
「なに言ってんだい。アンタの相手だって十分以上に天敵だろうに」
リカバリーガールが呆れたように言った。
「ウフフ、ボクは計画を立てない人間だからね。災い中のありがた迷惑の名は伊達じゃないよ」
「名前は幾つもつけないんだろう?」
「ウフフ、嘘がバレちゃった。ま、作戦がないのはほんとだけどね。負けようが赤点だろうがどうでもいいし」
「出席日数が足りてないんだ、下手な点数取ったら留年になるよ」
「え〜。……めんどくさいなぁ」
黄彩は床材から椅子を作り、ポップコーンを開けて寛ぎ出す。
「……みんな、全力なんだよ」
「うにゃん?」
「デクくん?」
あからさまにやる気のない様子に、緑谷は思わずといった様子で言った。
「みんな全力でヒーローになろうと努力してるんだ」
「ウフフ、ボクは努力が嫌いなの。ボクは生まれてこの方努力というものをしたことがない。苦労はするけどね」
「僕には君が、本当にヒーローになりたがっているようには見えない」
「殺人鬼がみんな殺人鬼になりたくてなったと思う? 人の可能性に夢見過ぎだよ、緑の人」
「で、デクくん、有製くんも。喧嘩はやめよ? な?」
だんだんと険悪な空気になったところに、麗日が間に入って仲介する。
「ウフフフ、ごめんごめん。……確かに、ボクはヒーローに向いてないよ。なにせボクは芸術家だからね」
「っあ、えっと、ごめんねっ。僕こそ、失礼なこと言った……」
「ウフフ、怒ってないってば。ポップコーン食べる?」
「い、いただきます」
「ほら、無重力の人も」
「あ、うん。……いいのかな」
「いいわけないだろうに。ここは飲食禁止だよ」
リカバリーガールの言葉を無視して、黄彩はポップコーンを貪った。
作品紹介
傑作No.07《不個性》
細部まで、ありとあらゆる部分に黄金比を活用された実寸大の人形。指の関節まで稼働するもので、素材にはPAI樹脂と呼ばれる、金属の代用品として使われる、強度と熱耐性に優れたものが使われている。
のっぺらぼうよりも凹凸のないその姿は、五感全てに美的刺激を伝え、常人が認識すると、異世界を覗いたかのような錯覚に苛まれる。
単独では動くはずのないものだが、ラスト曰く深夜に動くことがあるのだとか……。
美しく、しかし同時に不気味であることから子供からの人気が少ない。
黄彩の父、灯の作る人形はこの《不個性》に個性的な要素を与えたものだったりする。
今の黄彩でも量産は可能だがするほどの価値がない傑作。