芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第二十八話 被救者の崩壊芸術と黄色無彩

001

 

 

 

「黄彩、ウチちょっとトイレ行ってくるから、待ってて?」

 

「ん、その辺で座って待ってるね」

 

 買い物は一通り終え、荷物を全て郵送で送ったあと。残った時間を潰そうと見て回ったりしていたが、響香が黄彩の元を離れたタイミングで、それはやって来た。

 

「おっ、あんた雄英の体育祭で優勝した奴だよな」

 

 黒いパーカーでフードを被るという暑苦しい格好をした、不健康そうな青年が、ベンチに座って響香を待つ黄彩に声をかけた。

 

「えっと、誰だっけ。……いつだか襲撃して来た人だよね」

 

 黄彩はフードの中の顔を覗き込みながら尋ねる。

 

「……他人の空似じゃねぇか?」

 

「そんなことないもん。ボクにとって知覚と記憶は同義だよ。えっと、ガラガラほこら?」

 

「俺の名前はそんなポケモンの遺跡みてぇな名前じゃねぇよ」

 

「弔い合戦?」

 

「全然ち……がくもねぇ。死柄木弔だ、覚えろ」

 

「んー、それで、崩壊の人、ボクになんか用事? 似顔絵なら五百円でいいよ?」

 

「……はめたな?」

 

 死柄木は黄彩を不機嫌そうに睨みつけながら、五百円を払った。

 受け取ると、黄彩はバックから紙と鉛筆を取り出す。

 

「少しでもおかしな挙動を見せてみろ、絵を描くのに大事な腕から崩れ始めるぞ」

 

「……ウフフ、無駄だよ。ボクは腕がなくても絵がかけるからね。ほら、そっち座って」

 

 微笑む黄彩に促されるままに、死柄木は向かい側に座った。

 

「なんか喋ってよ。じゃないとつまらない絵になる」

 

「……俺は大体なんでも気に入らねぇんだけど、今一番気に入らねぇのはヒーロー殺しだ。雄英襲撃も、保須の時の脳無も、注目が全部奴に喰われた」

 

「ふぅん? ボクはそのヒーロー殺しって人を知らないけど、それは残念だったね。やりがいがなくなって大変だ」

 

「……誰も俺を見ないんだよ。なぜだ? いくら能書き垂れようが、結局奴も気に入らない物を壊してただけだろ。……俺と何が違うと思う?」

 

「んー、その能書きっていうのが、どれだけ知られてるか、どれだけ理解されるかってとこじゃないかな。知名度って奴」

 

「じゃあ何か、チラシでも配れってのか? それとも動画か?」

 

「それより面白くてかっこいい方法があるよ」

 

「……なんだ」

 

「でっかいビルにさ、デカデカと犯行予告でも描いてみたらいいんじゃない? 落ちにくいペンキで街中のビル全部にやったら、みんなヒーロー殺しとかどうでもよくなると思うんだよね」

 

「……いいな、それ。チンピラくさくて地味だが面白そうだ」

 

「まぁ、ボクがやってみたいだけなんだけどね。これよりヴィランっぽい方法はあんま思いつかないよ。せいぜい、ペンキじゃなくて人の血を使うとかかな」

 

「十分怖ぇよ。……さてはいいやつだな、お前」

 

「ボクはヒーローになれても、向いてはいないらしいからね」

 

「お前、俺の仲間にならないか?」

 

「やーだ。きょーかがいないもの」

 

「……そいつも一緒でもか」

 

「きょーかはヒーローになりたいんだって。……邪魔するなら、ヴィランごと絶滅させるよ?」

 

「……悪かった」

 

 顔色一つ変えずに脅す黄彩に冷や汗を流しながら、死柄木はベンチから立った。

 

「次あったときは、多分敵だ」

 

「あれ、もう行っちゃうの? ならほら、絵。大事にしてよね」

 

 黄彩は死柄木に見えるように、絵を手渡した。

 

 青年の姿より幾らか幼い少年が、瞳に闇を流しながら黒に抱きしめられる絵だった。

 

「ウフフ、なかなか会心の出来だよ」

 

「……誰だよ、こいつ」

 

「さぁね。崩壊の人がモデルなのは間違いないよ」

 

「欠片も似てねぇよ。……お前と話せて良かった」

 

「ウフフ、どういたしまして。お金もらったから、まいどあり、かな」

 

 楽しそうに微笑む黄彩に答えず、死柄木は絵を片手にその場から去っていった。

 

 

「黄彩くん、なにもされませんでしたか?」

 

「うにゃ? ラスト姉様。なんでいるの?」

 

「黄彩くんがヴィランと一緒にいましたから。心配でして」

 

 いつからいたのか、黄彩たちを見守っていたらしい。さっきまで死柄木が座っていた位置に、ラストが座った。

 

「どこか怪我はありませんか?」

 

「ん、へーき。指一本も触られてないよ」

 

「それならいいのですが……」

 

 ホッと、ラストは胸を撫で下ろした。

 

「お待たせ黄彩……、なんでいるの、姉さん」

 

 トイレから戻って来た響香はすぐにラストに気がついた。

 

「寂しくなって遊びに来ちゃいました。もう帰りますので、心配いりませんよ」

 

「黄彩、大丈夫だった?」

 

「ん、別に何にもなかったよ。あ、ガラガラほこらって人と話してたかな」

 

「……誰? そのポケモンの遺跡みたいな名前の人」

 

「んー、えっとねぇ、ゲームだったら闇属性っぽい人」

 

「本当になにもなかったの? 怒って怒鳴られたりしなかった?」

 

「ウフフ、きっと楽しいよー」

 

「ではでは響香たん、黄彩くん。私はこれで」

 

 

 

 数分後、ヴィランが現れたと通報があったらしく、黄彩達雄英生も即刻帰宅となった。

 

 

 

002

 

 

 

 ショッピングモールでの通報の件もあり、翌週のホームルームで合宿先が変更されたりとそんなこんなあって合宿当日。

 

 目的地へと向かうバスの前にはA組の生徒とB組の生徒、計40人が集合していた。

 

 40人。一人少ないのだが、その一人は当然のように黄彩であった。

 

「ねぇ響香ちゃん、黄彩くんは?」

 

「あー、なんかの仕事でトラブって一緒に行けないってメールきた。今日のお昼過ぎくらいには追い着くって」

 

「そういえば黄彩くん、働いてる、……んだっけ?」

 

「さぁね」

 

 ため息まじりに、響香は目を逸らした。

 

 

 

 バスが発進してから、合宿先についての説明がされた。もともとの合宿先は海の近くで海水浴ができたそうだが、変更先は山の近くらしく、海水浴はなくなった。

 水着はなしか、川ならワンチャン、などと会話は大いに盛り上がっていた。

 

「荷物、下ろしたら?」

 

「……うん」

 

「あ、お菓子食べる?」

 

「……うん」

 

 バスに乗り込んでから、響香は荷物のリュックサックを膝の上に乗せたままボーっとしていた。隣に座っている葉隠が心配しながら響香の頬を突いたりしている。

 

「黄彩くんいなくて寂しい?」

 

「……うん、うん? あっ、いやそのちがっ、これはなんか、最近ずっと一緒だったから調子が狂うっていうか、その、」

 

「きょ、響香ちゃんがいまさら恋する乙女してるっ! 超かわいい!」

 

「待って。いろいろ言いたいけどとりあえず、いまさらってなに」

 

「え、だっていつもは見てて恥ずかしい通り越して微笑ましい感じなのに、今は見ててキュンキュンするもん。日常ものから少女漫画にジョブチェンジした感じ?」

 

「……ごめん、なに言ってんの?」

 

「あーあ、私も黄彩くんみたいな彼氏欲しいなー」

 

「え……もしかしてショタコン?」

 

「響香ちゃんがそれを言うの!?」

 

「……ぶっちゃけ、黄彩は恋人にすると面倒な奴だと思うよ?」

 

「それ絶対本人に言っちゃダメだからね!? 黄彩くん泣くよ!?」

 

「大丈夫、……多分」

 

「……いつか聞こうと思ってたんだけどさ、響香ちゃんってショタコンなの?」

 

「黄彩のことを言ってるなら違うから。ウチがロリの頃からの付き合いだし。小学生同士が付き合ってもそいつロリコンとはならないでしょ」

 

「響香ちゃん、目がマジすぎるよ?」

 

「あはは……、ウチがどれだけショタコン疑惑を掛けられてきたと思う?」

 

「うん、……なんか、ごめんね」

 

 

 

 

 

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