芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第二十九話 被救者の土猫流獣と黄色黄色

001

 

 

 

「……ここで一旦休憩だ。お前ら一旦降りろ」

 

「はーい! ……あれ、B組は?」

 

「つうか、何ここ? パーキングじゃなくね?」

 

 バスが止まったのは、山の中腹の空き地のような場所。なるほど景色はいいが、ただそれだけでトイレも売店もベンチすらもなかった。

 

「なんの目的もなくじゃ、意味が薄いからな」

 

 相澤が何かを説明しようとすると、一台の黒い車がバスの隣に停まった。

 

「よーう、イレイザー!」

 

「ご無沙汰してます」

 

 降りてきたのは、猫っぽい派手な衣装を着た二人の女性と、一人の無愛想な少年。

 

「「煌めく眼でロックオン! キュートにキャットにスティンガー! ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」

 

 子供受けしそうな口上にポーズをとる二人を相澤は冷めた目で見て、緑谷だけは興奮した様子で二人のことを説明する。

 

「今回お世話になるプロヒーロー、プッシーキャッツの皆さんだ。……お前ら、気持ちはわかるが挨拶はしろ」

 

「「「っ、よろしくお願いします!!」」」

 

 慌てて挨拶すれば、マンダレイは片手を振りながら応える。

 

「ここら一帯は私らの所有地なんだけど、あんたらの宿泊施設はあの山の麓ね」

 

「遠ッ!?」

 

 マンダレイが指さしたのは、遥か遠くに見える山だった。

 

「え……? じゃあ、何でこんな半端な所に……」

 

「ハハ、バスに戻ろうか……。な? 早く戻ろうぜ?」

 

 カンの良い生徒は既に嫌な気配を感じ取っていた。

 

「今は午前9時30分。そうね、早ければ12時前後かしらん。私有地につき、個性の使用は自由よ」

 

 マンダレイの言葉に、生徒達の嫌な予感は確信に変わる。

 

「12時30分までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」

 

「悪いね諸君。合宿はもう始まっている」

 

 相澤の言葉を最後に、地面が波のように揺れた。押し出すように膨れ、津波のように崖の下へと流れ込んだ。

 

「今から三時間! 自分の足で施設までおいでませ! この魔獣の森を抜けて!」

 

「さぁて、私の土魔獣ちゃんたちの出番ね」

 

 生徒達の悲鳴が、頂上まで轟いた。

 

 

 

「一人、沖縄から向かってくるやつがいます。そいつがついたときに誰もいなかった場合どうなるか分からないので、我々も急いで向かいましょう」

 

「「え……」」

 

 悲鳴を気にせず、相澤が連絡事項を伝えると二人が固まった。

 

「今日の出発前に連絡が来まして。……女子一名の状況次第じゃこの森が砂漠になりかねます」

 

「もしかして私、早まった?」

 

 ピクシーボブが冷や汗を流しながら相澤を見るが、目をそらしながらバスに戻っていった。

 

 

 

002

 

 

 

 お昼頃。黄彩は予定よりも早く、合宿先の宿泊施設に到着した。

 

「キュイッ!」

 

「んー……、きょーかはまだ着いてないのかな」

 

 道徳的な龍から降りた黄彩はキョロキョロと周囲を見渡していると、バスと車が停まった。

 

「なんとか間に合ったか」

 

「あ、消しゴムの人。きょーかは?」

 

「森だ。今こっちに向かって来ている」

 

「イレイザー、なんて呼ばせ方してるの」

 

「……誤解です。こいつがうちの一番の問題児、有製黄彩です」

 

「ん。お姉さん達、だれ?」

 

 黄彩が首を傾げると、プッシーキャッツの二人が目を輝かせる。

 

「「煌めく眼でロックオン! キュートにキャットに「誰?」……」」

 

「おい有製。やめてさしあげろ」

 

 意図的か天然か、黄彩が途中で口を挟んで二人は涙を浮かべる。

 

「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ、……マンダレイです」

 

「同じくワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ、ピクシーボブです、はい……」

 

 口上を決められなかったのがよっぽど堪えたのか、かなり落ち込んだ様子だった。

 

「あ、お土産の黒糖チョコレート。みんなの分は郵送にしたけど、こっちで食べようと思って何個かは持って来たんだよ。猫の人たちも、はい」

 

「あ、ありがとう。……マジで沖縄からここまで来たの?」

 

 マンダレイが受け取りながら尋ねる。

 

「ボクが作ったシーサーが配送中に壊れちゃってね。あっちで作り直して来たの」

 

「……ねぇ、もしかして芸術家の有製さん、いやシトリング=ラフィ?」

 

 黄彩の言葉を聞いて、ピクシーボブが恐る恐ると言った様子で挙手しながら聞くと、黄彩は頷く。

 

「ん、そうだけど。もしかしてファンの人?」

 

「ハイ! 私の個性で作る土魔獣ちゃんも参考にして作ったんです!」

 

「ふぅん、そっか。ありがとっ! ……ちょっと待ってね」

 

 手を両手で握られた黄彩はお礼を言いながら振り払い、道徳的な龍に括り付けられたバックをあさりに行った。

 

「わ、私なにか失礼を……」

 

「ピクシーボブ、彼が何者か知ってるの? 芸術家って言ったよね」

 

「知らないの!? 人間国宝の万能芸術家、シトリング=ラフィよ!?」

 

 マンダレイは知らなかったようで、興奮した様子のピクシーボブを訝しむ。

 

「え、ええ? でも彼、……彼? ヒーロー科なのよね?」

 

「う、うん。あれ、確かになんで……」

 

 プッシーキャッツ二人揃って首を傾げていると、黄彩が戻って来た。

 

「サインはあんまり描き慣れてないからね。代わりにこれあげる」

 

 そう言って渡したのは、無数の猫に集られているワイルド・ワイルド・プッシーキャッツの四人、フルメンバーの絵だった。

 

「……これ、私たち?」

 

「え、貰っちゃっていいの? というかどうやって……」

 

「ボクの個性ならこれくらい簡単だからね。……もしかして他にメンバーの人いた? それなら描き直すけど」

 

「ううん、四人です! 大切にします!」

 

「うん、ありがとう。これからもボクの作品を見てくれると嬉しいな」

 

 三人がワイワイと話しているうちに、相澤と無愛想な少年は姿を消していた。

 

 

 

003

 

 

 

「うめぇ! うめぇ!」

 

「本当に、絶品ですわ」

 

 時はすぎ、夕飯時。A組の生徒達はようやっと到着してすぐに夕食となった。

 

「これ、もしかして黄彩の……?」

 

 そこらのレストランに負けぬ美味な料理であったが、響香だけはその味に覚えがあった。

 

「ウフフ、そだよー」

 

 そう言いながら現れたのは、お盆に追加の料理を載せて運んできた黄彩だった。

 

「シトリング=ラフィに料理をさせてしまった……」

 

「黄彩、あの人になにしたの」

 

 料理は黄彩が全てやったようで、プッシーキャッツの四人も生徒達と共に食べていた。そのうち一人、ピクシーボブだけは罪悪感や涙を流しながら食事を噛み締めていた。

 

「ん〜、ボクのファンだったみたい。あぁ、土魔獣? ってのを作るのにボクの作品を参考にしたんだって」

 

「妙に強いししぶといと思ったらアンタのせい!?」

 

「ウフフ。ご飯、美味しい?」

 

「美味しいけど一発はたかせて」

 

「やーだ。おかわり作ってくるねー」

 

 その場の大勢が拳を握り、振るう先を見失っていた。

 

 

 

004

 

 

 

「ウチ、いま逃げてった黄彩も入れなきゃだから後で入るつもりなんだけど……」

 

 夕食を終え、入浴の時間。当然男湯と女湯で分かれているので同時に入ることになるのだが、相澤に入浴を言い渡された途端に黄彩は逃げ出した。

 

「それなら黄彩くんも一緒に入っちゃえばいいんじゃない?」

 

 妙案閃いた! と言わんばかりに葉隠が提案する。

 

「は、葉隠さんなにをおっしゃっていますの!?」

 

 コスチュームが一番露出しているはずの八百万が、なぜか最も顔を赤くしていた。

 

「そうよ、透ちゃん。彼だって男の子なのよ」

 

 梅雨は一見いつものポーカーフェイスだが、頬が赤らんでいる。

 

「でも、黄彩くんには見えてるんでしょ?」

 

「あの、……せやったら、有製くんに女の子になってもらえばいいんじゃない?」

 

「「「それだ!!」」」

 

 麗日の発言に、響香以外が食いついた。

 

「いや、ウチはいいけどそれでいいの?」

 

 

 入浴前に、女子六名VS黄彩の完膚なき鬼ごっこが催された。

 

 

 

「うぅ……、髪が濡れると寒いからお風呂は嫌いなんだよ……」

 

 疲弊した女子達と体力貧弱な黄彩の鬼ごっこは思いのほか接戦し、最終的に相澤に捕獲され響香に明け渡された。

 

「じゃあ切ればいいじゃん」

 

「それは可愛くないからやーなの」

 

「ケロ、有製ちゃん。気持ちは分かるけれど、可愛くありたいならお風呂には入らなきゃダメよ」

 

 響香に髪を洗われる隣で梅雨が言った。髪型で気づきにくいが、実は黄彩と梅雨はA組屈指の長髪であった。

 

「見ちゃったっ! 黄彩くんの黄色くん見ちゃったっ!」

 

「あわわわわわっ、初めて男の子の見てしもうたっ」

 

 黄彩の拒否と女子達の妥協により、黄彩は女体化することなく女湯に入ることになっていた。

 

「ケロ、響香ちゃん手慣れてるわね。もしかして毎日?」

 

「昔は黄彩のお母さんにウチも一緒に洗われてたけど、……最近はずっとこれ」

 

「つまりラブラブなのね」

 

「違うってば……」

 

「きょーかは好きだけど、お風呂は嫌い〜」

 

「男子なら夢のような状況なのに、こいつは……」

 

「安心するべきなのに、なんだか複雑な気持ちですわ」

 

「黄彩、ヤオモモの身体見てもなにも思ったりしないの?」

 

「んぅ、精通前のボクになにを期待してるのさ」

 

「「「は?」」」

 

 

 男湯の変態の断末魔をバックに、全身くまなく洗われた黄彩は湯船に沈んだ。

 

 

 

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