芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第三十一話 被救者の女体被災と殺戮君臨

001

 

 

 

 三日目の夕方。

 やはり余力無く疲れ果てた生徒達の面々はキャンプキッチンに来て絶句する。

 

 グラタン、オムレツ、シーザーサラダ、ステーキ、ポテトサラダ、ポタージュ、フライドチキン。他にも名称すらわからないような、キャンプ場には不似合いな料理達が、岩を削り出したようなテーブルに所狭しと並んでいた。

 

「これは……」

 

 まだ料理をしているのか、油の跳ねる音が聞こえてきて見てみれば、黄彩は自作したであろうアイランドキッチンで料理をしていて、相澤が盛り付けられた皿を運んでいた。

 

「おうお前ら、……見ての通りだ。昨日のメシに我慢ならなかったらしい」

 

「援助しないで、どんどん食べていいからね〜」

 

「遠慮、だ」

 

「ん、そうそれ」

 

 待ち受ける料理に覚悟を決めていた生徒達が、雄叫びと歓声をあげた。

 

「ウフフ、栄養バランスは知ったこっちゃないけど、味は保証するよ」

 

 やってきた生徒達を歓迎するように、黄彩が菜箸を降ると、その方向に食べるための椅子とテーブルが作られた。

 

「ケロ。有製ちゃん、実は料理人だったのかしら」

 

「いや、人の注文とかあんま聞かないし、多分向いてないと思うけど」

 

「てか、この食材どっから持ってきたんだろ。テレビでしか見たこと無いソースとかあるんだけど」

 

 ワイワイと、バイキング形式で生徒達は料理を食べ始める。相澤やプッシーキャッツも混ざって食事に参加する中、黄彩だけはまだキッチンに立ち、デザートのフルーツサラダを作り始める。

 

「ねぇ、黄彩は食べないの?」

 

 見かねた響香が、黄彩に尋ねに来た。

 

「うにゃ、なーんかお腹空いてないんだよねぇ。発情期はまだなはずなんだけど」

 

「人間に発情期はないから。……チョコの食べ過ぎじゃないの?」

 

「うにゃ〜、そうかもしれない。はい、あーん」

 

「あむ……。甘い」

 

「いちごだからね。練乳いる?」

 

「いる」

 

 

 

002

 

 

 

「さーて、腹もふくれた! 皿も洗った! お次は、……肝を試す時間だー!」

 

「怖いのマジやだぁ……」

 

「うにゃ……」

 

 夕食後はプッシーキャッツ主催の肝試し。林間合宿が苦痛の鍛錬だけだと思っていた生徒達が湧き上がって喜んでいた。……一部苦手なものは震え上がり、気が滅入っているようだが。その筆頭たる響香は怯えた様子で黄彩を抱きしめて震えていた。

 

「その前に大変心苦しいが、補習連中はこれから俺と補習授業だ」

 

「ウソだろ!?」

 

 補習者である芦戸達は逃げ出そうとするほどに驚いていたが、迅速に相澤の捕縛布によって捕獲された。

 

 

 閑話休題。

 

「はい、という訳で驚かす側先攻はB組。A組は二人一組で三分置きに出発。ルートの真ん中に名前を書いたお札があるから、各自持って帰ること!」

 

 マンダレイの説明に、響香の震えが増す。本当にホラーが苦手らしい。

 

「なんで黄彩は平気なの……」

 

「ホラーゲームとか映画の仕事、たまにあるし」

 

 ゲームや映画の、装飾やクリーチャーのデザインは黄彩の仕事の中でも常連である。

 

「脅かす側は直接接触禁止で個性を使った脅かしネタを披露してくる! 創意工夫でより多くの人数を失禁させたクラスの勝利だ!」

 

「やめて下さい、汚い」

 

「うん、可愛くない」

 

「なるほど! 競争させる事でアイディアを推敲させ、その結果個性に更なる幅が生まれるワケか! さすが雄英!」

 

 誰も得しない勝ち負けの判別方法に、響香は震えも忘れて引いているし、真面目な飯田は前向きな解釈で納得している。

 

「さぁ、クジを引け勇者ども! なお、クジ引きの箱は男女別々だ! 同性同士でペアを組んでもらう!」

 

「ふざけんなぁ! 男同士で肝試しなんかして何が楽しいんだよぉ! 誰がそんなこと考えたんだ! オイラは絶対に認めんぞォ!」

 

 クジを引かされるのだが、二人組は男女別で引くという誰得な状態となり、遠慮なく抱きしめられる黄彩と組めない響香は絶望したが、そこは黄彩。女体化することで解決した。

 

「ウフフ、ボクに遠慮せず抱き枕にしてくれていいんだぜ?」

 

「……うん」

 

 同じ枠にさえ入れてしまえばもう黄彩の独壇場。先に響香に引かせることで、ゴミ箱の底すら見えると豪語する黄彩の眼にはクジのランダム性なんて意味をなさず、選択問題だった。

 

 トップバッターから順に出発し、4ペア目で黄彩と響香の番となった。

 

「き、黄彩、絶対手ぇ離しちゃ駄目だかんねっ!」

 

「ウフフ、ボクだぜ?」

 

「だってアンタ脅かす側じゃん! ビビるウチ見て可愛いって言うタイプじゃん!」

 

「ウフフフフフ、よくわかってるじゃないか響香ちゃん。ところで、足元注意だぜ」

 

「ハァ? 騙されキャアッッ!!!?」

 

 足元に、B組生徒四名の生首が落ちていた。

 

「可愛いなぁまったく。サービスしたくなるじゃん」

 

 黄彩はそう言いながら、地面を加工し、ひとつひとつ顔が違う生首の群れをB組生徒の生首の周囲に作り出した。

 

「「「「――!?!?」」」」

 

「うわっ、気持ちわる……」

 

 不意な反撃に、B組達は声にならない悲鳴を上げ、響香は恐怖を忘れて気味悪がった。

 

 その先も次々襲いかかる恐怖の尽くに響香が怯え、黄彩は抱きしめられながら、ルートの後半に差し掛かった。

 

「ウフフ、嗚呼、楽しくないなぁ」

 

「……え、ウチなんかした?」

 

「響香ちゃんじゃ無くてね」

 

 何かB組に仕掛けられたでも無く、黄彩は立ち止まった。

 

「アッハァ! カァイイなぁカァイイなぁ!」

 

 それは亡霊でも怪異でも悪魔でも無く、それは鬼だった。

 

――殺人鬼。両手にナイフを携えた、美少女の皮を被った殺人鬼。

 

「まっ、まさか、ヴィラン!?」

 

「ウフフ、見た感じ、使駆くん寄りに見えるけどね。――熱間加工」

 

「黄彩くんカァイイなっ――

 

 ジュッ、っという肉の焼けるような音が鳴り、巨大なハンマーで殴られる衝撃が殺人鬼に響いた。

 

――泥だった。泥人形が水をかぶったように、殺人鬼は泥になった。

 

「え、……なに、なんだったの?」

 

「響香ちゃん、やばいよ。山火事に毒ガス、殺人鬼にヴィランと選り取り見取りの大惨事だぜ」

 

「……は」

 

 茶目っけ無しの黄彩に、響香の脳は黄彩の言葉に嘘偽りがないことを察する。

 

「……ほら来た。ガスはボクにもどうしようもないぜ」

 

「え、ちょっとどうするの!?」

 

 瞬く間に周囲が薄紫色のガスに覆われる。

 

「ウフフ、……定石としては息を荒立てさせないこと。身体がガスに侵されるのを少しでも遅らせるためにね」

 

「う、うん……」

 

「室内みたく都合よく蔓延してる。空気より重いっていうより、誰かが操ってる感じ、……、かなぁ……」

 

 口元を押さえながら考察を始めた黄彩が、すぐに倒れた。

 

「ちょ、ちょっと黄彩!? ぅあ……」

 

 倒れた黄彩を起こそうとした響香も、すぐにガスに侵された。

 

 

 

003

 

 

 

「ギャハハ、マジかよ」

 

 その頃。

 巻解使駆はとある者の連絡を受け、雄英ヒーロー科一年生の合宿地に訪れていた。

 

 いつかA組が土流で流された崖上から、山がガスと火に侵される様子を見下ろしていた。

 

「ヒーロー科生徒41人、ヒーロー6人、ガキ1人。……ったく、まぁた殺し無しかよ、めんどくせぇ。ギャハハハハハハ!!」

 

 使駆は不愉快そうに顔を歪めながら、器用に笑う。

 

「ギャッハハハハハハハ!! おぅけいオゥケイ! イイ度胸してんじゃねぇかヴィラン連合!! ――ハイパーダッシュモーター」

 

 襲撃地帯に、一人の殺人鬼が飛び込んだ。

 

 

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